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マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2018

インタビュー

世界選手権への道:ワイアット・ダービー編

Corbin Hosler
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2018年9月21日

 

 ワイアット・ダービー/Wyatt Darbyはすべてを手に入れた。アイオワ州出身の若者はプロツアー『ドミナリア』を制し、ラスベガスで行われる世界選手権への参加権利を得た。大会へ足を運べばサインを求められ、故郷アイオワシティのマジック・コミュニティではレジェンドとして一目置かれる存在になった。そして今週末に100,000ドルの優勝賞金と世界選手権優勝トロフィーも獲得し、炉棚に飾られたプロツアー優勝トロフィーの隣に据えることができるかもしれない……誰の目から見ても、彼がすべてを手に入れたことは疑いない。

 これは、そう遠くない昔、マジックですべてを手に入れることになるとは思っていなかったひとりの男の話だ。

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 ダービーがマジックを始めたのは6年ほど前のことだった。彼はすぐに競技シーンへ移り、プロツアー『ラヴニカへの回帰』予選などに出場し、友人たちとともにプロツアー出場の夢を追って旅を繰り返した。マジックの記事や大会カバレージを読み漁り、プロツアーや世界選手権の模様を観戦し、自分もこの舞台に必ず立てるはずだと自信を持って取り組んだ。着実に力をつけた彼はプロツアー出場にあと一歩のところまで近づいたものの、それでも大学卒業と始めたばかりの仕事に注力した数年間は、プロツアーの舞台に立つ夢を果たせなかった。

 そしてついに、彼は開花のときを迎えた――プロツアー『アモンケット』への出場が叶ったのだ。次はプロツアーを確実に自分のものにし、自分こそが最高のプレイヤーであることを世界に知らしめる番だ。初日のドラフトでは、《栄光をもたらすもの》という爆弾レアを引き込んだ。幸先の良いスタートだ。勢いそのままに勝ち抜く後押しを受けた気分だった。

 だが、そううまくはいかなかった。

 ドラフトでダービーの右隣に座ったプレイヤーもまた初手で《栄光をもたらすもの》を引き当てており、赤の濃いドラフトを進めた結果、赤のカードはダービーに回ってこなかったのだ。だがダービーは初手でピックしたあまりに魅力的な1枚に固執し、色を決め打ってしまった。普段からドラフトを楽しむ皆さんなら、この状況で何が起きるかおわかりだろう――ダービーのデッキは残り物を詰め合わせたような平凡なものになり、結果もそれを示した。

 0勝2敗1分。

 ダービーが想像していた夢の始まりと真逆の結果だった。彼は2日目進出を果たせず、わずか数時間で彼のプロツアー・デビュー戦は終わった。

 ダービーがプロツアーのデビュー戦で苦い思いをしたのは、驚くことではない。歴史に名を残すようなプレイヤーでも、そもそもプロツアーの舞台に立つまで何年もかかったという話はよくあることだ。一からプロツアーへの参加権利を手にするのは、決して簡単なことではないのだ。しかしそれでも、24歳の若者にとってそれは耐え難い経験だった。その出来事で士気が削がれたと、彼自身も認めている。

「もう諦めようかと思いましたよ。少なくともマジックとは少し距離を置きました」と、ダービーは悲しみを口にした。「何かに熱中するときは徹底的にやりたいんですが、当時は新しい仕事に就いていて、土曜日が休みじゃありませんでした。マジックをプレイするのが難しくなり、プロツアー予選に挑戦する日々から身を引くときが来たのかもしれないと思いました」

 だがマジックでは、気持ちが乗らないときに結果が付いてくることもある。それはダービーがすでに招待されていたプロツアー『ドミナリア』地域予選に、最後の記念に出場したときのことだった。シールドデッキは一切プレイしておらず、カードもよく知らない状態での参戦となるが、彼自身は「それでいい」と思っていた。必要なのはデッキと夢だけだ、と。会場への道中、6時間のドライブでダービーの仲間たちが彼に『イクサラン』『イクサランの相克』環境のリミテッドの基本を叩き込んだ。

 何はともあれ、ダービーは成功を収めた。決勝ラウンドで初めて『イクサランの相克』ドラフトをプレイしたが、すべてが懸かった試合を勝ち切った――こうしてごく短い休止期間は終わりを告げ、ダービーはプロツアーの舞台へ戻ることになった。そして今度こそ結果を出すことを彼は決意した。


「初めてのプロツアーからは多くのことを学びました」と、ダービーは大舞台への最初の旅を思い起こし、語る。「《栄光をもたらすもの》のような最高のカードを手にしても、他のすべてを犠牲にしてはならないという教訓を得た僕は、まぐれ当たり以外でプロツアーに出るにはもっと強くならなければいけないことに気づいたんです。だから僕より強いプレイヤーを求め、まだ知らないことを負けて覚えるようにしました」

 そこでダービーが出会ったのは、同じく今大会に出場しているジョン・ロルフ/John Rolfとマシュー・セヴェラ/Matthew Severaだった。彼らは当時からアメリカ中西部の競技シーンでよく知られたプレイヤーだった。ダービーは彼らに声をかけ、かの有名な「Madison MTG」の一員となり、定期的に開催されるドラフト・キャンプにも参加するようになった。濃密な練習を重ねたダービーは、初めてのプロツアーで彼が見落としていたものに気づくようになった。

「ドラフトはまあいいとして、あのときサム・ブラック/Sam Blackと対戦する機会があったんです。当時の彼のプレイが、僕とは比べ物にならないほど高いレベルだったことがようやくわかりました。チームでの練習からは本当に多くのことを学びました。実験的な戦略が大いに歓迎され、何でも試すことが推奨される中、みんなの創造力が僕にたくさんのことを教えてくれました」

 ダービーの歩みは止まらなかった。Magic Onlineでの練習にも身を捧げ、ひたすらに練習に打ち込んだ。そして迎えたプロツアー『ドミナリア』。初日ドラフトの席についたとき、彼は「自信を持って」というより、もっと強い――その戦いが「すでに経験済み」であるかのような感覚になった。

「徹底的に準備したおかげか、そのプロツアーが初めてではないような感じでした」

 ここからは言うまでもないだろう。ダービーは頂点への道を切り開き、そして決勝の舞台では勝利のために完璧なトップ・デッキが求められたが、ライブラリーにはこの上なくふさわしい1枚が彼を待ち受けていた。

 そう、《栄光をもたらすもの》だ。


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 ダービーの人生が変わった瞬間だった。彼はマジックというゲームの頂点にいることを世界に(そして自分にも)知らしめたのだ。カードにサインを求めるファンができた。グランプリでダービーに勝った対戦相手が、結果記入用紙の写真を撮るという場面もあった(これについては「僕がグランプリでどれだけ負けてるか知ってくれるといいけど」とプロツアー王者は笑う)。続くプロ・シーズンでは仕事を辞め、プロ・チームに所属するという彼は今、世界に(自分にも)世界選手権出場者の一員であることを知らしめている。

「『プロツアー王者』の肩書きが恥ずかしいくらいですよ」と、世界最高のプレイヤーに囲まれて戦うダービーは正直な気持ちを打ち明けた。「実績ゼロから急に世界最高の舞台に立って不思議な気分ですが、ここにいる華々しい実績を持つプレイヤーたちでさえ多くがこの舞台を初めて経験していることを考えると、本当に貴重な体験をさせてもらっています」

 有名プレイヤーに囲まれた世界選手権の舞台で、ダービーは大方の予想に反して再び歴史に名を残すチャンスを得ている。かつては、誰も彼がプロツアーで優勝するとは予想していなかった。だが今、ドラフト・ラウンドを2勝1敗で終えたダービーに話を聞くと、その成績は多くの人が予想した通りだったと彼は満面の笑みを見せた。

「自分より強いプレイヤーと戦うのが好きな僕にとって、これ以上ない環境ですよ」と、ダービーは言う。「この舞台にまた上がれるかはまったくわからないので、心ゆくまで味わいたいと思います。結果にはこだわりません。ここまで来れたことに感謝しなきゃ」

 ダービーの戦いは続く。全14回戦にわたるトップ4入賞への道には、最高のプレイヤーたちが立ちはだかっている。この新たな競技プレイヤーは、今はその歩みを緩めるつもりはないようだ。

「初めて高レベルのマジックを見たのは、世界選手権2013の決勝で戦うリード・デューク/Reid Dukeの姿でした」と、憧れの選手とともに世界王者のタイトルを懸けた戦いに挑んでいることに気づいたダービーは、そう言い添えた。「彼のプレイとマジックに対する姿勢を本当に尊敬しています。同じ舞台に立てるなんて、信じられない。この愛すべき場所に、これからも可能な限り行きたいと思っています。ここは、僕がプロツアー予選を回り始めた2012年から追い求めた夢の舞台です。これからも続けられる限りマジックを続けますよ」

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(Tr. Tetsuya Yabuki)

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RESULTS

対戦結果 順位
最終
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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