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マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2018

インタビュー

初日ドラフト全勝者たち

Marc Calderaro
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2018年9月21日

 

 世界選手権2018の最初のリミテッド・ラウンド3回戦が決着した! 刺激的なゲームが繰り広げられた果てに(オーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwaldの戦闘中《ミラーリ予想》やベン・スターク/Ben Starkの《黎明をもたらす者ライラ》再利用は凄まじかったね)、初日の『ドミナリア』ドラフトを無傷の3連勝で終えたプレイヤーは3人――グジェゴジェ・コワルスキ/Grzegorz Kowalski、マイク・シグリスト/Mike Sigrist、そしてベン・スタークだ。そこで私はラウンドの合間に彼らに話を聞いた。ドラフトについて、世界選手権について、そして――人生について。

グジェゴジェ・コワルスキ

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 グジェゴジェ・コワルスキは、今シーズン最高の1年を過ごした。昨年のワールド・マジック・カップでは、ポーランド代表キャプテンとしてチームを準優勝に導いた。今年は自身初のプラチナ・レベルを達成し、グランプリ・リヨン2018では自身初の優勝トロフィーを獲得。グランプリ・トップ8入賞7回を記録した。

 今回のドラフトは「かなりうまくいった」と彼は言う。「白が明らかに空いていたんだ」

 それは、卓内で白をドラフトしているのが彼だけだとわかるくらい明らかだったという。「私は基本的に白ウィニーを基軸にドラフトしている。2色目は何でも使えるよ」

 だがその自由度の高さからくるミスもあったとコワルスキは認めた。第2パックで《ランプのジン、ザヒード》を引き当てた彼だが、2色目は黒にすべきだと判断した彼はそれを見逃した。そして第3パックで《ボーラスの手中》も転がり込んで来たときには、すでに色を変えられるほど青のカードがなく、ただ頭を振るだけになったという。

 それでもなお、彼のウィニー・デッキは全勝という結果をもたらした。行弘 賢とのアグロ同系対決は(特に最終ゲームを後手で迎え)紙一重の戦いだったが、世界選手権での生涯成績を3勝0敗にできたことには大いに満足した様子だ。

 そう、コワルスキは自身初の世界選手権で完璧なスタートを切ることができた。「もっと緊張するんじゃないかと思っていたが……『プロツアー』とあまり変わらなかったよ」と笑うコワルスキだが、この結果を見れば納得だろう。今大会でのさらなる活躍を目指す彼は、しかし今の自分の限界を冷静に見極める。「友人には話したんだが、トップ8に入賞できるだけでも十分だ。もちろんベストは尽くすつもりだが、なんと言っても今回が初挑戦だからね」

 だがたとえうまくいかなくても、彼の友人たちは英雄が凱旋帰国したように彼を迎え入れるだろう。「故郷では、私が帰ると(特に良い結果を持って帰ると)パーティーを開いてもてなしてくれるんだ。それが楽しくてね」

 そういったことはポーランドのマジック・コミュニティでは珍しいことだったが、最近になってお祝いごとが増えてきたという。

「ポーランドのマジック・コミュニティが変わったのは……まだ変化の最中だから『変わった』とは言いにくいんだが、(ワールド・マジック・カップで)決勝まで行ったあのときからだと思う。あの大会前は私が唯一のゴールド・レベル・プロだった。その後プラチナ・レベルが2人ともう少しでプラチナのゴールド・レベルが1人に増えた」

 ポーランドはかつてない勢いで競技シーンに影響を与えている。「ポーランドでこの流れが続くといいね」と語るコワルスキは、ポーランドのゲーム店にいる多くの常連に、もっとグランプリへ参加してほしいという願いを口にした。

 その後は、比較的知られていなかったコミュニティが一気に名を上げたという点でポーランドのマジック事情が黎明期のチェコに似ているという話になった。「チェコのプレイヤーたちはうまくやったよ」とコワルスキは言う。「しかも彼らは小さな国でそれを成し遂げた。マジック・プレイヤーの数はポーランドの方が絶対多いはずだ。私たちもきっと盛り上げられる」

 そして再び『ドミナリア』ドラフトの話に戻ると、コワルスキはとても楽しそうに話を続けた。「最高だよ……ここ最近では間違いなくね。この環境ではアーキタイプが10個に留まらないんだ。でも実は今大会に向けての(『ドミナリア』)ドラフトはMagic Onlineでしかやっていない……練習のためではなく、どんな環境だったか思い出すためにね。2/1の白のクリーチャーがいるのは覚えていたんだが、それに飛行を与えるペガサスがいたかどうか思い出せなかったよ」

 それでも最初の錆落としが済むと、コワルスキは愛するドラフトにすっかり夢中になったという――そしてその愛は、全勝という成績に表れたのだった。

マイク・シグリスト

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 『ドミナリア』のリミテッド環境における選択肢の多さを好むコワルスキだが、2人目のドラフト全勝者マイク・シグリストはその意見にやや懐疑的だった。2014-2015年シーズンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤーである(プロツアー『イクサラン』にて自身3度目のプロツアー・トップ8入賞を果たした)シグリストもこの環境を大いに好むが、よく言われる「深い」という評価についてはあまり大きな声で言いたくないようだ。

「『ドミナリア』のリミテッド環境の深さについては評価されすぎだと思う」とシグリストは意見を述べた。「限られたアーキタイプにしか入らない狭いカードがあり、大失敗するパターンがとても多い」

 他の舞台でなら、そこまで問題にならないのかもしれない。だがシグリストが念頭に置いているのは世界選手権のドラフト卓――つまり世界で最も厳しい卓だ。

 そんな彼が言うには、この環境では組みたいデッキを目指すのではなく、「道を空けておくべきだ。『ドミナリア』環境にはたくさんの道があるからね」とのこと。「深さ」は確かにあるが、勝つためには深く潜るべきところを潜れということだろう。

「でも最高に面白い環境だよ」とシグリストは続ける。「除去呪文をすぐ撃たずに数ターン待つことが良い結果になる場合があるんだ」

 超高速のリミテッド環境では2マナ域に除去を撃たざるを得ないことがよくあるが、『ドミナリア』環境ではゲームが長引き複雑になりやすい。「第1試合、除去呪文を抱えているマルシオ(・カルヴァリョ/Márcio Carvalho)に対して、3ターン目に唱えられた《大嵐のジン》をプレイしなかった。守れるようになるまで待ったんだ」

 どの環境でも通用するようなプレイではないが、「そういうのが活きる環境は大好きだよ」と締めくくるシグリストだった。

 シグリストにとって、世界選手権の舞台は初めてではない。今回は以前と少し異なる姿勢で臨んでいるという。

「今回は優勝だけを狙っているよ」

 以前の彼は、世界選手権を「次のシーズンに向けて大量にプロ・ポイントを稼げるイベント(次の1年を有利に進められるチャンス)」と見ており、優勝よりも次の1年のための種まきに精を出していた。だがプロ・シーズンの制度が変わった今、勝利を目指してベストを尽くすというわけだ。

ベン・スターク

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 そして「ベストを尽くす」という姿勢は、3人目のドラフト全勝者にしてプロツアー殿堂顕彰者であるベン・スタークの肌には合わないようだ。だがそう思えるのは、自身も「ベスト」・プレイヤーのひとりであるからこそではないだろうか。プロツアー・パリ2011で優勝し、複数のグランプリで優勝し、今大会の出場選手の中で誰よりも多くプロツアーの舞台に立ち、殿堂入りを果たしたスタークは、確かにそう思えるだけのプレイヤーだ。

 だが彼に世界王者になればマジックで達成できる実績をほぼすべて達成できることについて尋ねると、彼はしばし言いよどんだ。「タイトルなんて本当に時の運さ。俺には優勝者と準優勝者の間に違いなんて見つけられないし、2位と3位の差もわからない」

 ではスタークは何のためにマジックを?

「そりゃマジックが大好きだからだよ」と、こともなげに言う。「もらえるものとか期待値とかを気にしてプレイしちゃいない……最高の相手と最高のマジックを楽しみたいだけだ」

 なるほどそういうことなら、世界選手権以上の舞台はないだろう。では『ドミナリア』のリミテッドはスタークのお眼鏡に適ったのだろうか? それについて尋ねると、彼は至福の笑みに包まれた。

 スタークがこの環境を好きな理由は、火を見るより明らかだ。ゲームが長引き、考えることが多く、「消耗戦」になりやすいことが(彼が最も愛する)『神河物語』の環境のごとく彼の心を惹きつけたのだ。第3回戦、ルイス・サルヴァット/Luis Salvattoとの対戦で、ロープ際まで追い詰められたスタークはトップ・デッキした《黎明をもたらす者ライラ》を繰り出し、一命を取り留めた。しかもその後、《血の儀式司、ウィスパー》を用いて何度も戦場に戻し、残りライフ3点から20点以上を持つサルヴァットを打ち倒したのだ。

「久しぶりに味わう素晴らしい環境だね」と、スタークは話を締めくくるのだった。

 

 コワルスキ、シグリスト、スタークの3名は、それぞれ異なる立場で今大会に臨んでいた――初参加の者、名を上げようと奮闘する者、そして最高のマジックを楽しみに来た者。だが最初の3回戦を終えた今、全員が初日ドラフト全勝という同じ立場に立った。戦いはまだまだ続く。彼らがこのまま連勝を続け、それぞれの望む結果が出せるかどうか注目していこう……あ、スターク以外ね。

(Tr. Tetsuya Yabuki)

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RESULTS

対戦結果 順位
最終
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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