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ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019

観戦記事

決勝:Autumn Burchett(イングランド) vs. 井川 良彦(日本)

Corbin Hosler
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2019年2月24日

 

(編訳注:埋め込み動画は英語実況のものとなります。)

オータム・バーチェット/Autumn Burchett (青単テンポ) vs. 井川 良彦 (エスパー・コントロール)

 ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019では、500人に迫るプレイヤーたちがスタンダード10回戦とブースタードラフト6回戦を戦い抜き、8人が決勝ラウンドの枠を埋めた。そして今、オータム・バーチェットと井川 良彦による優勝トロフィーを懸けた最後の戦いが始まろうとしている。

 両者がここまでたどってきた道は、この上なく過酷なものだった。ミシックチャンピオンシップという最高峰の舞台でトップ8へ進出すること(ましてや決勝まで駒を進めること)は、世界に名だたるプレイヤーでさえも簡単に実現できるものではない。ここで対峙する両者は、どちらも準決勝でこのゲームの巨人を――リード・デューク/Reid Dukeとルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasというマジックを代表するプレイヤーたちを打ち破ってきているのだ。

 だが「王者」になれるのは1人だけだ。バーチェットはこの週末を通して、話題の「青単テンポ」デッキの達人としてその腕前を見せつけてきた。小型の回避持ちクリーチャーを打ち消し呪文や《執着的探訪》でサポートするこのデッキを、バーチェットは正確無比なプレイで使いこなし、決勝の舞台へ上がってきたのだ。一方の井川は、今大会での使用者数は控えめな「エスパー・コントロール」を信じて手に取った。デッキはその期待に完璧に応え、彼をこの場所へ導いた。「《ドミナリアの英雄、テフェリー》はもう終わりだ」という噂は、杞憂に過ぎなかったのだ。

ゲーム展開

 バーチェットが操る「青単テンポ」デッキは、爆発的なスタートを切ることが可能だ。しかし第1ゲームのバーチェットは、初動で出遅れることになった。苦渋のすえに1ターン目《選択》でゲームを始めて3ターン目に《大嵐のジン》を繰り出したが、それはすぐに《喪心》を受けてしまう。

 長期戦は井川のデッキに分があることは疑う余地もないが、何はともあれ長期戦へ持ち込まなければならない。バーチェットの初動が遅いということは、大量の打ち消し呪文を抱えているということだ。つまりクリーチャーが戦場に残りさえすれば、それを守れるのだ。そして、その機会はすぐに訪れた。《プテラマンダー》を繰り出したバーチェットはそこへ《執着的探訪》をつけ、《呪文貫き》と《否認》で守る体勢を築き上げたのだ。

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「青単テンポ」とともに決勝までの道を突き進んできたオータム・バーチェット
 

 井川は《思考消去》で反撃の糸口を掴もうとしたが、バーチェットの手札に《大嵐のジン》と《呪文貫き》、そして2枚の《魔術師の反駁》があることを確認すると、自身の敗北が近いことを悟り笑うしかなかった。

 《アズカンタの探索》が「変身」したものの、それまでの間にバーチェットは《執着的探訪》で毎ターン手札を増やしていた。そして井川が放った《ヴラスカの侮辱》が《潜水》で防がれると、彼の置かれた状況はさらに深刻になった。井川は最後のドローを確認するとカードを片付け、第2ゲームへ意識を切り替えたのだった。

 またたく間に1ゲーム目を落とした井川だが、先手となる第2ゲームに落ち着いて挑み、《思考消去》で見たバーチェットの手札から《執着的探訪》を慌てて抜き去らず、じっくり吟味してから墓地へ送った。《執着的探訪》を失った「青単テンポ」は速度を落とすことになったものの、それでも《セイレーンの嵐鎮め》と瞬速で繰り出した《マーフォークのペテン師》で着実にプレッシャーをかけていく。

 しかし井川はそれに備えていた。バーチェットの《魔術師の反駁》を《否認》で打ち消して通した《肉儀場の叫び》が盤面を一掃し、続けて繰り出された《大嵐のジン》2体という脅威にも単体除去で対処に成功。バーチェットは後続を用意できず、井川は《水没遺跡、アズカンタ》でカード・アドバンテージを得ていく。そして数ターン後、イングランド選手権2連覇を誇るバーチェットもこのゲームは諦め、カードを片付けた。こうして両者1ゲームずつ取り合ったところで、試合はサイドボードを含めた総力戦に移行した。

 第3ゲームは、井川のサイドボード・プランが完璧に噛み合った。《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》が最高のタイミングで現れ、バーチェットの1マナ域を追放すると、《ドミナリアの英雄、テフェリー》もそれに続いた。クリーチャーを失ったバーチェットが取れる選択肢は限られ、打ち消し呪文もドロー呪文もあまりに効果が小さく、遅すぎた。

 

 こうして、第1ゲームを落とした井川が盛り返し、ミシックチャンピオンシップ優勝のタイトル獲得まであと1勝のところに来た。

 だが最高レベルの戦いは決して容易なものではない。続くゲームはバーチェットがやり返す番だ。バーチェットは井川のターン終了時に《マーフォークのペテン師》を繰り出すと、そこへ差し向けられる除去を何度も防いでみせた。《肉儀場の叫び》は《潜水》で無力化し、《人質取り》には《本質の把捉》。《屈辱》は《セイレーンの嵐鎮め》で阻み、さらに2枚目の《屈辱》にも《否認》を当てたのだ。

 可能な限りすべての干渉を退けてきたバーチェットだが、それにも関わらず井川が《思考消去》でその手札を明らかにすると、まだ打ち消し呪文が握られていた。しかし不運にもその打ち消しは《本質の把捉》であり、バーチェットは3枚目の《屈辱》を前に《マーフォークのペテン師》を守りきれなかった。

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1勝1敗でさらなる激戦に挑む井川 良彦
 

 両者ともに盤面に何もなくなり、戦いは先に脅威を繰り出せるかどうかが焦点になった――そして実際に、それが勝敗を分けた。バーチェットの立て直しは早かった。攻撃力が低いとはいえ《霧まといの川守り》が生き残り、攻撃手段と《航路の作成》の効果を高める手段として役に立った。井川の残りライフは6点。今すぐに決め手が必要だった。彼はおとりとなる呪文を唱え、バーチェットの打ち消しを誘った。バーチェットは井川の思惑通りに打ち消し呪文を切った。そして井川は続けて本当に通したかったものを――《最古再誕》をタップ・アウトで唱え、これが通るかと思われた。

 だがこの《最古再誕》は《呪文貫き》を受けたのだ。

 

 あまりに強烈な打ち消しだった。おそらくこの瞬間は、バーチェットにとってキャリアを通して忘れられない出来事になるだろう。ゲームの天秤は一気にバーチェット側へ傾き、数ターン後に両者は最終第5ゲームを迎えることになった。

 最終ゲームを前に、バーチェットは帽子をかぶった。

「アーロン・バリック/Aaron Barichと約束したんです。5ゲーム目までいったらこの帽子をかぶるって」と、バーチェットは気さくに話しかける井川へ伝えた。

 第5ゲーム最初の分岐点は4ターン目に訪れる。バーチェットのターン終了時に、井川は《執着的探訪》付きの《プテラマンダー》に除去を撃ち込むのではなく、《薬術師の眼識》を唱える決断を下したのだ。リソースを補充してターンを迎えた井川は改めて除去を放ったが、それはバーチェットの打ち消しに阻まれた。そしてその後、同じ展開が続いた。バーチェットは攻撃とドローを続け、井川は《プテラマンダー》を除去しようと試みる。バーチェットがそれを打ち消す。仕切り直して、もう一度。

 井川のライフは着実に削られていき、ついに壁際まで追い込まれた。だがまだ終わりじゃない。井川は《ケイヤの怒り》を放つ。打ち消し。そして井川は第3ゲームの勝利を彼にもたらした1枚を、タップ・アウトで唱えた。ミシックチャンピオンシップ優勝の可能性を残すそのカードの名は――《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》!

 だがしかし、オータム・バーチェットはもう1枚《呪文貫き》を持っていた。ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019王者決定の瞬間だ。

 

 こうして、観戦者たちにとってのミシックチャンピオンシップは閉幕を迎えた。しかし優勝者にはもうひとつ、15年間にわたって続いてきたことが残っている――今大会をもってカバレージを引退するブライアン・デヴィッド=マーシャル/Brian David-Marshallによる、優勝者インタビューだ。これはバーチェットにとって、(そして私たち全員にとっても)忘れられない出来事になるだろう。

 

 オータム・バーチェット、ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019優勝おめでとう!

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ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019王者、オータム・バーチェット
 

(Tr. Tetsuya Yabuki)

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RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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