EVENT COVERAGE

グランプリ・シンガポール2015

観戦記事

決勝:Steven Tan(シンガポール) vs. 人見 将亮(東京)

by 伊藤 敦

 北緯1度17分。東経103度51分。

 赤道直下の国、シンガポール。

 齋藤 友晴行弘 賢も戴冠したこの地で、決勝戦まで勝ち残った日本人プレイヤーがいた。

 人見 将亮。

 彼の名を知っている、という人はそう多くはないだろう。

 プロプレイヤーというわけではなく、かといってカジュアルプレイヤーというわけでもない。

 プロツアーはもちろんグランプリでのトップ8経験もなく、ゆえにカバレージで取り上げられたこともほとんどないはずだ。

 かつて人見はグランプリ・京都2007準優勝の岩崎 裕輔とともに、各地のプロツアー予選(PTQ)をよく遠征していた。

 だが、その後「The Finals 2008」などで岩崎が大きな結果を残すのに対し、人見はいつもあと一歩止まりだった。

 そして人見はいつしか競技マジックに全力を傾けるのをやめ、勝つことよりもマジックの大会会場で旧交を温めることを大事にするようになっていった。

 情に厚く、面白おかしい話のネタが尽きない人見は、関東のマジックコミュニティでも人気者となった。

 けれどもそれだけに、以前は同じPTQに遠征していた戦友たちがより高い舞台で結果を残すのを、一番多く、一番近くで見てきたのが人見だった。


 このグランプリ・シンガポールへの参加を決めたとき、人見が何を思ったのかは知らない。

 けれど想像はつく。

 たぶん人見は、真剣になれない自分が嫌だったのだ。

 立ち止まって息をしているだけでも現実は続く。擦り減った情熱は、燃え尽きる前の最後の輝きを放って人見を突き動かした。

 仕事から帰るとすぐMagic Onlineを起動した。寝る間を惜しんで8人構築に参加した。

 同じ「親和」デッキを使う友人たちとLINEのグループを作り、昼夜を問わず議論を交わした。

 毎週のモダングランプリや大型イベントの結果を逐一チェックし、メタゲームの模様を観測した。

 マリガン判断、展開の順番、土地の置き方、サイドインアウト......1か月の経験の全てが、このたった75枚の「親和」デッキに込められていた。

 だから、人見は今ここにいる。

 ここに。

 決勝に。

fn_tan_hitomi.jpg
グランプリ・シンガポール2015決勝戦、スティーヴン・タン vs. 人見 将亮

 対戦相手、スティーヴン・タン/Steven Tanのデッキは「親和」同型。しかも後手番。確率だけで言えば、圧倒的不利と言っていいだろう。

 それでも、負ける気はしなかったに違いない。

 「俺の方が、絶対練習してるから。」


ゲーム1

 先手で6枚スタートのタンは《羽ばたき飛行機械》《メムナイト》《大霊堂のスカージ》と手札を一気にダンプするが、人見は1ターン目に《オパールのモックス》2枚を駆使して《刻まれた勇者》を送り出し、続くターンには《頭蓋囲い》を設置する。

 一方タンは《ちらつき蛾の生息地》と《大霊堂のスカージ》を並べるばかりで、脅威となるようなパーマネントを展開することができない。
 ようやく《鋼の監視者》を引き込むが、これは即座に《感電破》で処理され、《頭蓋囲い》をまとった《刻まれた勇者》をチャンプブロックせざるをえなくなってしまう。

 対し、ブロック後の能力起動で《刻まれた勇者》と相打ちがとれる《ちらつき蛾の生息地》2枚はしっかり《感電破》で処理しつつ、2枚目の《頭蓋囲い》を設置し、攻勢を緩めない人見。

 何せ《頭蓋囲い》が2枚ある以上、すべてのクリーチャーが有効牌となるのだ。

 もはやタンに許されているドローは少ない。

 やがて引き込んだ《バネ葉の太鼓》から、手札にずっと溜まっていた《物読み》をプレイすることに成功するものの、既にこの圧倒的な盤面をまくるカードは親和というデッキには残されていないのだった。

タン 0-1 人見


 タンのリストと人見のリストとは異なる構築思想で作られており、違いは何箇所か挙げることができるが、その中でもこの局面において最も運命を左右するであろう違いは、何といってもサイドボードの《古えの遺恨》の枚数だ。

 人見は3枚。一方タンは、何と0枚。ただ代わりに《摩耗+損耗》を3枚とっている。

 だが、《古えの遺恨》は1枚で《摩耗》2枚分の働きをする。それはほとんど、人見が「親和」同型戦のサイドボードを倍の枚数採用しているのと等しい。

 この差が、タンに重くのしかかる。


ゲーム2

 今度は人見がマリガン。「親和」のパワーカードは全て2マナに集中しており、「後手2ターン目までに《古えの遺恨》が撃てる手札」がキープできればほぼ有利と言える。

 あるいは、そもそもタンが7枚でキープした以上、先手2ターン目までの《鋼の監視者》はほぼ確定として、せめて後手で《感電破》が撃てる手札はキープしたい。

 だがその手札が、来ない。5枚にまで手札を減らす人見。

 《オパールのモックス》、《バネ葉の太鼓》、《大霊堂のスカージ》、《感電破》......土地なし。これを人見は鉄の意思でマリガンし、トリプルマリガンを選択する。

 4枚でキープした人見に対して、タンの動きは《バネ葉の太鼓》《羽ばたき飛行機械》《大霊堂のスカージ》という1ターン目から、やはり2ターン目に《鋼の監視者》。

 それを除去することが、人見にはできなかった。


地元シンガポールのスティーヴン・タン/Steven Tan

 代わりに、返しで人見がプレイした《電結の荒廃者》をそのまま《バネ葉の太鼓》でタップしようとした瞬間に、タンが《鋼の監視者》を墓地に置こうと手をかけたのが、これらの思考を2人が極めて高いレベルで共有していることを物語っていた。

 《電結の荒廃者》の返し、1ターン遅れで人見は《古えの遺恨》を引き込むのだが、それで処理できたのは《鋼の監視者》と《電結の荒廃者》だけで「接合」先は健在。

 そしてタンは「接合」した《羽ばたき飛行機械》と《大霊堂のスカージ》で攻めつつ《呪文滑り》を送り出すと、緩やかに人見を殴りきった。

タン 1-1 人見


ゲーム3

「親和」同型戦のサイドボード後の勘所は3つのフェイズに分かれる。

  1. 鋼の監視者》という、絶対唯一の最強カードをコントロールする/起動させる前に除去すること。
  2. 電結の荒廃者》《頭蓋囲い》という圧倒的なパワーカードを、甚大なライフ損失を被る前に破壊すること。
  3. クソ飛行ビート。時々《感電破》本体。

 1と2の要請が強すぎるため、1ゲーム目と2ゲーム目ではタンも人見もマリガンを強いられた。

 だが。

 この3ゲーム目に至って、人見の手札はほとんどすべての要請を満たしている7枚だった。

 対して、タンはマリガンを繰り返す。《急送》か《摩耗+損耗》がなければ、先手7枚キープの同型に勝てるわけがないと知っているからだ。

 だがその果てに、タンの手札は4枚。

 そして裏向きのままキープを宣言する。

fn_hitomi.jpg

人見 「ノールック?」

 すぐさま《頭蓋囲い》装備アタックでタンを介錯しようとする人見に対し、タンもどうにか《摩耗》で《頭蓋囲い》を割るところまでいくが、勝負になっているように見えてなっていない。

 何せ、人見はまだ《古えの遺恨》をプレイしてすらいないのだ。

 そして人見は、《鋼の監視者》を出してターンを返すタンに対して「《感電破》で」これをエンド前に処理すると。

 タンのクリーチャーを《古えの遺恨》の表裏で完全に粉砕し、機械の兵隊たちで突撃を開始する。

 もはやマナも出ない《オパールのモックス》を見つめたタンは、やがて敗北の証として自ら手を差し出した。

タン 1-2 人見


 長い戦いが決着した瞬間、決勝戦を見守っていた観衆たちの大きな拍手が鳴り響いた。

 その中には当然、このグランプリ・シンガポール2015でともに戦い、散っていった多くの日本人プレイヤーたちのものも含まれていた。

 彼らはやがて達成感に包まれた表情の人見に駆け寄ると、口々に祝いの言葉を述べ、背中を叩きながらこう言った。

「ようやくまわってきたな」と。

winner_with_friends.jpg

 グランプリ・シンガポール15、優勝は人見 将亮(東京)!おめでとう!!

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST