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グランプリ・京都2015

観戦記事

決勝:高橋 優太(東京) vs. 村上 和弥(愛媛)

By 小山 和志

 古の都、京都。日本の歴史が詰まったこの地で、マジックの歴史が詰まったレガシーのグランプリ王者を決める戦いが始まる。

 「legacy(遺産)」という名が示すとおり、レガシーはマジックの過去の歴史と宝物を集めたようなフォーマットだ。そしてそれだけではなく、このグランプリにはレガシープレイヤーたちの歴史と想いが詰まっている。

 2人のプレイヤーが名を残すべく、ともに奇跡コントロールを手にこの決勝まで登りつめてきた。

 高橋優太。2度のグランプリ王者、エターナルフェスティバル2013優勝など、過去の栄光は十分すぎるほどに積み上げてきた。そしてまた、プロツアー・サンディエゴ2007の決勝に代表されるように、数々の栄光と同等、もしかするとそれ以上の悔しさも重ねてきた。今、決勝戦を前にして談笑する高橋には円熟味すら感じられる。さあ、3度目の戴冠は目の前だ。

 一方の村上和弥はトーナメントシーンでは新鋭と言えるプレイヤーだ。だが、マジックを本格的に始めたのは『ローウィン』が発売された頃からで、それから8年近くもプレイを続けてきた。このグランプリ・京都に向けて2ヶ月の時間をかけてオリジナル性の強いデッキを作り上げてきた。相対する対戦相手は確かに、強い。だが彼にはここまで共に戦ってきた相棒のデッキがある。臆することは何もない。

 今、決勝戦の幕が開き、古のカードを操る2人が新たな王者として名を残す戦いを始める。


決勝戦、いざ開幕

ゲーム1

 後手高橋が1マリガンし、お互いに《師範の占い独楽》を通す立ち上がり。村上の《相殺》に対し思わず高橋が「強いよー、どうせ《Force of Will》持ってるんでしょ」とぼやく。高橋はしぶしぶ《Force of Will》を唱えてみるも、予想通り《Force of Will》が飛び出して、いきなり村上が独楽相殺を完成させる。

 さらに村上が《石鍛冶の神秘家》を召喚する完璧な動きを見せ、高橋が「完璧じゃん!強いー!」と思わず叫ぶ。ここまで非常に厳しいゲームを強いられている高橋、《師範の占い独楽》を駆使してここから巻き返すプランを構築する他ない。

 《石鍛冶の神秘家》に対しては《終末》で対処し、《相殺》があることを除けばひとまず平穏が訪れる。

 だが、一方的に《相殺》を設置されている以上、高橋の不利は明白だ。やがて、村上の場に再度《石鍛冶の神秘家》から《殴打頭蓋》が降り立つと、高橋の残り時間が見る見るうちに少なくなっていき、 高橋の《ヴェンディリオン三人衆》は《相殺》で《僧院の導師》が公開されたことで打ち消され、高橋の勝ち筋がさらに厳しくなる。

 《石鍛冶の神秘家》と細菌・トークンが攻撃したところで、《造物の学者、ヴェンセール》が着地、これは《剣を鍬に》で除去されるが、続く高橋のプランは《精神を刻む者、ジェイス》!

 だが、村上はどこまでも完璧だった。《師範の占い独楽》を起動すると、山札の上には2枚目の《Force of Will》が。

 そして、村上が《僧院の導師》を追加し、《師範の占い独楽》を再プレイした返しに高橋は《師範の占い独楽》から《渦まく知識》をプレイ。村上が《師範の占い独楽》をライブラリーに戻そうとしたところで《剣を鍬に》で《僧院の導師》を葬り、細いながらも道を繋げていく。

 なおも高橋は逆転への模索を続けるが、いかんせん《僧院の導師》の忘れ形見であるモンク・トークンが止まらない。

 高橋が再度キャストした《ヴェンディリオン三人衆》に対し《目くらまし》が2回放たれて、すでに唱えていた《思案》と合わせて5/5まで巨大化する。このターンこそチャンプブロックで即死は回避するものの、今さら《相殺》を唱えたところで手遅れなのだった。

村上 1-0 高橋

村上和弥がまず1本を先取

 サイドボードの間、高橋は「勝ち目はあった。勝ち目があったよね」としきりに第1ゲームの反省を行う。高橋がどのような勝ち筋を描いていたのか筆者にはわかりかねるが、彼にとって過去のミスは未来に活かすための「遺産」なのだ。そしてそれを積み重ねて来た結果、高橋はここに座っている。

ゲーム2

 今度は村上がマリガン。そしてまた両者ともに《師範の占い独楽》スタートだ。一度高橋が村上の《Tundra》を《不毛の大地》で壊すやりとりがあったが、まずはお互い淡々と《師範の占い独楽》を起動していく。

 先に仕掛けたのは「実」の多い村上から。《石鍛冶の神秘家》と《僧院の導師》をキャストするが、これは高橋が《対抗呪文》で連続でカウンターする。

 土地が3枚で止まっている高橋は《思案》で土地を探すが、《相殺》を見つけたことにより、ひとまずそのライブラリーをキープする。

 村上は再び《石鍛冶の神秘家》で、これが通り先ほど高橋を苦しめた《殴打頭蓋》をサーチ。高橋はそのターン終了時に《渦まく知識》、さらに自身のターンに《渦まく知識》を重ねるが、4枚目の土地は見つからない。

 《石鍛冶の神秘家》がアンタップし、起動の準備ができたところでようやく高橋が《霧深い雨林》を見つけ《相殺》をキャストすると、これを巡ってカウンター合戦が勃発する。

 まず村上の《紅蓮破》。そして高橋が《Force of Will》(コストは《精神を刻む者、ジェイス》)、そして村上が溜息をついて《相殺》を切っての《Force of Will》。そしてそれに対し高橋の《紅蓮破》。

 高橋が打ち消し合いを制し「独楽相殺」を揃え、後は盤面の《殴打頭蓋》と《石鍛冶の神秘家》さえ処理できれば、という状況を作り上げる。

 これで押し切るしかなくなった村上は「全ブッパだなあ」と呟きながら《僧院の導師》の召喚を試みるが、高橋は《Force of Will》で打ち消し、着々と逆転の布石を整えていく。

 だが、盤面を捌くための肝心な《終末》が見つからない。《精神を刻む者、ジェイス》を使い捨ててまでライブラリーを掘り進め、高橋は黙々と考える。それに不安を覚えてか、村上は攻撃時に少考する。だが、ここで《石鍛冶の神秘家》が攻撃しなければ、高橋の残りターンは1ターン伸びることになる。結局「《造物の学者、ヴェンセール》があったらどっちみち面倒くさいしな、行け!」と全力で攻撃を敢行する。

 高橋はここで《ヴェンディリオン三人衆》をキャスト。自分の余分な《師範の占い独楽》を入れ替えながら《Karakas》とのコンボで、細菌・トークンの攻撃を防ぎにかかる。

 この循環を許すとクロックが一気に減少する村上がこれを許容できるはずもなく、《師範の占い独楽》を囮にキャストし、これに高橋が《師範の占い独楽》をライブラリートップに戻そうとしたところで《ヴェンディリオン三人衆》を対象に《剣を鍬に》をキャスト。

 だが、高橋はまず《ヴェンディリオン三人衆》を手札に戻し、さらに再度《師範の占い独楽》を起動しライブラリートップの順番を調整する。そして《終末》引きこむことで、《師範の占い独楽》を打ち消しながら盤面を捌いてみせるビッグプレイ!

 これで村上の盤面が土地と《殴打頭蓋》のみになると、後は高橋のウインコンディションだ。《時を越えた探索》でアドバンテージを得るとともに、29まで膨れ上がった村上のライフを削るためのロジックを積み上げていく。

 そして村上の《殴打頭蓋》を高橋が《造物の学者、ヴェンセール》で戻す展開が続く。ライフに余裕のある村上は3回《ヴェンディリオン三人衆》に攻撃された後で、《時を越えた探索》を引き込み再逆転のチャンスをうかがっていく。

 もはや何度目か、高橋が《造物の学者、ヴェンセール》で《殴打頭蓋》のバウンスを試みると、村上はこれに《時を越えた探索》で引き込んだ《Force of Will》。しかし高橋は《赤霊破》。盤石のロジックは崩れない。

 ドローが限定されている村上はひたすら苦しい戦いが続く。度重なる《ヴェンディリオン三人衆》の攻撃で、大量にあったライフはもはや13だ。この枷を取り除くべく、村上は《終末》を唱えるが、これが高橋の《相殺》による《終末》で打ち消されると、村上はついに土地を畳んだのだった。


ロングゲームを制した高橋優太
高橋 1-1 村上

 ここまで既に1時間20分が経過している。村上がポツリと漏らす。「みんなにやさしい手札が来てくれへんかな」

 高橋が応じる。「俺に優しい手札がいいよ」

「いやいやいやいや」

 ここまで17ラウンドもの長丁場を積み重ねてきた村上の疲労は明らかだ。だがその眼光はいささかも衰えていない。調整の成果が最高の形で出ようとしている、そんな場面で目に入るのはグランプリ優勝トロフィーのみだ。

 高橋と村上、そしてグランプリ・京都2015の結末やいかに。

ゲーム3

 先手村上が《平地》からスタート。これに高橋が「《相殺》出てこないじゃん! やった!」と冗談を飛ばす。そして村上の《石鍛冶の神秘家》。高橋にカウンターはなく、これが通るが村上はライブラリーに手をかけない。これで手札に《殴打頭蓋》を抱えていることが判明する。

 村上は高橋が繰り出した2枚連続での《相殺》をそれぞれ《目くらまし》《Force of Will》でかわし、《僧院の導師》を追加して全力で高橋を潰しにかかる。

 これで《終末》が必須となった高橋。《思案》を2枚重ねて、何とか目の前の脅威を捌くべくライブラリーを掘り進める。そして、2枚目の《思案》でシャッフルした後、ついに高橋は《終末》を見つけ出す。

 そして盤面を一掃すると、ここで「レガシーの青い悪魔」《精神を刻む者、ジェイス》を呼び出し、これが高橋に無尽蔵のアドバンテージをもたらしていく。

 後がない村上は《僧院の導師》を引き込むが、この《精神を刻む者、ジェイス》という凶悪なプレインズウォーカーによりバウンスされて《Force of Will》で対処され、再逆転の道筋を見つけることができない。

 そして高橋の《ヴェンディリオン三人衆》だけがが淡々と3点ずつのクロックを刻んでいく。加速する高橋のプレイングとは対照的に、もはや村上の手つきに力強さはない。このマッチ、そしてグランプリ・京都の行方を悟っているのだろう。

 それでも最後まで諦めずプレイを続けるが、《師範の占い独楽》で確認した3枚に逆転の術が無いことで、ついに高橋に手を差し伸べたのだった。

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 そして、高橋のライブラリートップには、彼を祝福するかのように《天使への願い》が。

高橋 2-1 村上

 高橋優太、3度目のグランプリ王者戴冠。ここまでは長い道のりだったに違いない。グランプリ・神戸2008で国内グランプリ連覇を果たした後、プロツアーで結果を残すことができず挫折も味わった。だが、彼が過去に積み重ねてきた努力が今ここに結実し、日本初のレガシーグランプリのチャンピオンとしてトロフィーを掲げることができた。

 惜しくも準優勝に終わった村上和弥。悔しくないはずがない。それでも彼のマジックは続いていく。この敗戦を過去の糧とし、新たに羽ばたく日がきっと訪れる。

 そして、盛況を持って幕を閉じたこのグランプリ・京都2015の熱戦を振り返る日がいつか来るだろう。この盛り上がりが実績として積み重なり、レガシーの、マジックの未来へと繋がっていく。そして、また新たな歴史が5月に行われるグランプリ・千葉でも刻まれることになるだろう。

 でもその前に、新たな王者に祝福を。

 おめでとう!グランプリ・京都2015チャンピオン、高橋優太!

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