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EVENT COVERAGE
エターナル・ウィークエンド・アジア2019
レガシー決勝:高鳥 航平(東京) vs. 安藤 正人(茨城)~デプスの夏、真っ盛り!デプス・ミラーの決勝戦~
「《Bayou》トロフィー」と称される大判のカード。
「エターナル・ウィーク・エンド・アジア2019 レガシー選手権」の優勝者に、優勝の名誉とともに贈られる賞品の1つだ。
「2018」では《Plateau》であり、大会ごとにイラスト・モチーフは変更されている。今回《Bayou》というデュアルランドが選ばれたことは、決勝戦に残った2人のデッキのことを考えると「シンクロニシティ(意訳:素晴らしい偶然の一致)」ではないだろうか。
決勝戦に進んだ安藤 正人の「スロー・デプス」、高鳥 航平の「ホガーク・デプス」はともに類型の緑黒カラーのコンボデッキであり、それぞれ《Bayou》複数枚の採用を中心にしたマナ基盤で構築されている。
さらに言えば今回《暗黒の深部》+《演劇の舞台》の「デプス・コンボ」はトップ8のうち4人が採用している。「ネクロの夏」ならぬ「デプスの夏」の訪れだ。
このデプス・ミラーを勝利した方に、《Bayou》トロフィーが贈呈される。この夏、誰よりも《Bayou》を愛し《Bayou》に愛されたプレイヤーがいよいよ決まろうとしていた。
高鳥は準々決勝ではトップ8中唯一の「青いデッキ」であった「スニーク・ショー」の窪田けいに快勝し、準決勝では「ホガーク・ヴァイン」の福井翔太を相手に、トリプル・マリガンから逆転劇を成し遂げている。
コンボ・パーツが土地であるという要素も含めて、ゲームスタート時の手札枚数が差ほど気になりにくいという要素も、「デプス」人気の理由の1つのようだ。特に「ロンドン・マリガン」との相性の良さから、以前よりも安定した試合運びができるようになっている。
安藤も準々決勝では「赤ペインター」オクノ アツヤに接戦での勝利を収め、準決勝での石川 賢哉との「スロー・デプス」の激戦が生放送で配信されたばかりだ。安藤にしてみれば連続となるデプス・ミラーとなる。先の経験を活かすことができるだろうか。
また2人ともデッキタイプだけでなく、マジック歴20年を超えていることも共通項だ。その中で2人ともが「緑黒カラー」というデッキを使い続けてきたと口にしていた。
高鳥は5年前の「第2期レガシー神決定戦」に挑戦した際には緑黒軸の「ジャンド(緑黒赤)」を使うほどであり、安藤も「アグロDD(ビートダウン型のデプスデッキ)」を長らく使い続けてきた経歴がある。
20年という長きに渡ってマジックを楽しみ遊び、「緑黒」というデッキに惹かれ使い続け、「レガシー」というフォーマットを主な舞台に選んだ2人。「好きだから使う」という気持ちを持ちながらも「今、強い」と信じてきたデッキへの想いが、トップ8入賞そして決勝進出という形で今回花開いた。
ここまでの経歴が似通う2人。しかしもう少しすれば、どちらかの経歴に1つだけ明確な違いが記録されることになる。「エターナル・ウィーク・エンド・アジア2019 レガシー選手権優勝」をかけて、最後の戦いがはじまった。
ゲーム1
互いに《エルフの開墾者》と豊潤なマナ・ソースを含むキープしている。安藤は《新緑の地下墓地》から《Bayou》そして《エルフの開墾者》をプレイする。墓地に土地を置きつつ色マナを確保し、多方面に活躍できるクリーチャーを展開する。「デプス」にとってベスト・ムーヴの1つだろう。
対する高鳥も全くの鏡打ちとなった。《新緑の地下墓地》から《Bayou》、《エルフの開墾者》をプレイする。
同じ動きであれば、先手がその分だけできることは多い。安藤が《強迫》で覗いた高鳥の手札は《輪作》《演劇の舞台》《エルフの開墾者》《セジーリのステップ》《新緑の地下墓地》と揃っており、安藤が「ミラーマッチでは一番警戒するカード」と評する《輪作》を抜いた。ここまでのなめらかな動きと選択は、明らかに熟練者のものだ。
ただ昨日から合わせてすでに12回戦を戦い抜いており、疲れからかカードの取り違いをしてしまう。
安藤はプレイした《強迫》を戦場のあたりに置きつつ、代わりに《エルフの開墾者》を墓地へ送ってしまった。ジャッジに指摘され、すいません、と笑いながら《エルフの開墾者》を戻した。
高鳥が《Bayou》を置いたターンを終えると、そのまま安藤が攻勢を仕掛けていく。《モックス・ダイアモンド》で《森》を捨てつつ、《暗黒の深部》をセット。《輪作》で《演劇の舞台》を探した。これで「デプス・コンボ」のセットは揃ったが、能力は起動しない。
高鳥のデッキには《幽霊街》が採用されており、《エルフの開墾者》と2マナが立っているために《演劇の舞台》コピー解決後のレジェンド・ルールで《暗黒の深部》を墓地に送ったあとに《幽霊街》で《演劇の舞台》(《暗黒の深部》コピー)を割られてしまうと、一気に手を失ってしまうという可能性があるからだ。
高鳥は手札から《演劇の舞台》をセットしてターン・エンドを宣言する。この終了ステップに安藤は《演劇の舞台》を起動して《暗黒の深部》対象にした。対応で高鳥は《演劇の舞台》を起動して(安藤の)《暗黒の深部》対象にし、コピーする。結果として「互いにマリット・レイジ・トークンを生成する」という戦いを選んだ。
返しの安藤は《エルフの開墾者》から《セジーリのステップ》を探し、自らのマリット・レイジ・トークンにプロテクション(黒)をつけることを宣言する。
マリット・レイジ・トークンによってブロックされないマリット・レイジ・トークンがパンチを決める!
高鳥 0-1 安藤
終始鏡打ちのような展開が続いたゲーム1だったが、先手の利をしっかりと活かす道を選びゲーム・スピードをコントロールできた安藤に軍配が上がる形となった。
ゲーム2
互いに7枚で始めたゲーム1と打って変わり、高鳥は6枚スタート、安藤は5枚スタートとなった。
高鳥が《カルニの庭》《演劇の舞台》と続けると安藤は《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》から《暗黒の深部》、そして《吸血鬼の呪詛術士》の最速コンボを決める!
これに対して高鳥は《暗黒の深部》の氷・カウンターが取り除かれ生け贄が誘発したところで、(《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》によって《演劇の舞台》から黒マナを生成できるため)打てるようになった《暗殺者の戦利品》を《暗黒の深部》に打ち込んだ。
安藤は《暗殺者の戦利品》を解決しながら「土地、アンタップイン、ですよね」と確認して《森》を探し出す。一連の動きはメイン・フェイズ中のため、安藤に再びソーサリー・タイミングが訪れる。この《森》から《思考囲い》をプレイした。
少し考えたあと、最終的に土地勝負に繋がったときに危険だと判断して、安藤はここで《森を護る者》を捨てさせた。
高鳥の《サテュロスの道探し》が《育成泥炭地》《エルフの開墾者》《甦る死滅都市、ホガーク》《新緑の地下墓地》をめくる。《育成泥炭地》を手札に加えつつ、ひとまず《演劇の舞台》をセットして《真髄の針》から《カラカス》を指定した。
《カラカス》は《甦る死滅都市、ホガーク》とマリット・レイジ・トークン両方に刺さる伝説対策であり、明確に「ホガーク・デプス」にとって「ガン」となるカードの1枚だ。
マリガンの上、コンボに対応されて手札に乏しい安藤は《新緑の地下墓地》セットから《闇の腹心》をプレイしターンを終える。
高鳥は《育成泥炭地》のドロー能力起動で墓地を肥やしつつ、植物・トークンと《サテュロスの道探し》を召集コストに充てて 《甦る死滅都市、ホガーク》をプレイする。これはこの決勝において高鳥のデッキだけが持つ、「ホガーク・デッキ」としての側面の本領発揮だ。
《闇の腹心》によって《演劇の舞台》を公開しつつこれをセットし、《森の知恵》もプレイして一気に手札の補充を図る安藤。《甦る死滅都市、ホガーク》というタイムリミットこそ用意されているが、明確にあと1ターンは残されているのは救いどころだろう。
高鳥が《サテュロスの道探し》と《甦る死滅都市、ホガーク》でアタックを仕掛け、9点入って安藤のライフはこれで残り8。
《闇の腹心》は《新緑の地下墓地》を公開して、ライフの損失なく手札を補充していってくれる。
《森の知恵》を誘発させカードを合わせて3枚引いたところで、安藤が高鳥に尋ねた。
安藤「トランプルありませんよね」
それは質問というより確認というようなニュアンスであった。分かってはいるけれど。という様子だったが、高鳥が「あり、ます」と答えると安藤の顔色がにわかに変わった。
安藤「え、あります!?」
高鳥「あります!」
(※プレイに関する能力→戦場で機能する能力という記載順番のため、プレイに関する能力の多い《甦る死滅都市、ホガーク》のトランプルは一番下に記載されている)
計算が変わった。という表情で安藤は手札を眺めながらライブラリーに2枚を戻し、《演劇の舞台》をセットした。《演劇の舞台》の起動コストを残しつつ、2枚目の《闇の腹心》も追加して、ターン終了した。
これでマリット・レイジ・トークンを高鳥の戦闘中に生成することで、《セジーリのステップ》のようなカードで《甦る死滅都市、ホガーク》の攻撃が通っても(用意したブロッカーが全て黒い!)隣の《サテュロスの道探し》のアタックは止めることができて、ひとまずライフを1以上残せるという算段をつけていた。
これに対し高鳥はまず《闇の腹心》1体に《暗殺者の戦利品》を当てる。そのまま予定通り《甦る死滅都市、ホガーク》《サテュロスの道探し》2体でアタックに向かったことろで安藤は《演劇の舞台》を起動し、《暗黒の深部》を対象にする。
コピーが解決され「レジェンド・ルール」で《暗黒の深部》が落ち、氷・カウンターのない《演劇の舞台》が生け贄能力を誘発させたところで、高鳥は《輪作》をプレイした。《幽霊街》を探して、生け贄に捧げられる前の《演劇の舞台》を破壊して能力は解決されず、結果としてマリット・レイジ・トークンは生成されない。
この動きの中に安藤が「《輪作》はミラーマッチで一番警戒するカード」と形容した理由の一端が見えた。コンボの「途中」で介入してくる土地破壊は「デプス」にとって天敵の1つのようだ。
土地とブロッカーを同時に失い、ライフもじきに枯れる安藤は、次のゲームへ高鳥を誘った。
高鳥 1-1 安藤
ゲーム3
高鳥はゲームが進んでいくにつれ、額や口に手をあてるしぐさが増えてきた。決勝戦、1勝1敗。泣いても笑っても最後の一戦だ。疲労も溜まりつつあるであろう体力と意識のなかで、集中力をさらに高めていっていた。
その最終戦が、安藤の再びの「ベスト・ムーヴ」からはじまる。《新緑の地下墓地》起動から《Bayou》を探し、《エルフの開墾者》をプレイ。
ゲーム1と異なり高鳥はここでは鏡打ちをとらなかった。「ニードル!」とプレイしたカードを伝え、《真髄の針》が《エルフの開墾者》の起動型能力を止める。
対する安藤の2手目は《思考囲い》だ。《突然の衰微》《サテュロスの道探し》《暗黒の深部》《カルニの庭》が公開されると、眉をはっきりとひそめて落とすカードの選択を悩んでいた。
結果的には《突然の衰微》を選んだが、先ほどはここで見逃した《サテュロスの道探し》から《甦る死滅都市、ホガーク》に繋げられてしまっていることも懸念点だろう。そのまま《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》をセットし、《真髄の針》で《カラカス》を指定するが、ここの宣言も悩ましかった様子だ。
高鳥は《暗黒の深部》セットから《サテュロスの道探し》をプレイする。公開は《エルフの開墾者》《Bayou》《森を護る者》《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》。ここから《Bayou》を回収してターンを終えた。
安藤は《不毛の大地》をセットするとそれから黒マナを浮かせた後、《輪作》のコストに充てた。《演劇の舞台》を探し出し、そのまま《演劇の舞台》を起動して高鳥の《暗黒の深部》を対象にとりコピーする。支払える限りピッタリのコスト支払いで、これが解決される。氷・カウンターのない《演劇の舞台》が墓地に置かれ、マリット・レイジ・トークンが生成された。
昨日から今日にかけて、何度目となる光景なのだろうか。深海に封印された女神をモチーフにしたこの女神の戦場への降臨も、そろそろ終わりの時間を迎えようとしていた。
高鳥は《カルニの庭》をセットしてから《吸血鬼の呪詛術士》をプレイし、自らの《暗黒の深部》を対象にとって能力を起動する。
マリット・レイジ・トークン、生成。今大会、いよいよ最後となるマリット・レイジ・トークンが登場した。どちらのマリット・レイジが相手を「すり抜けて」攻撃を決めるのか。勝負の決着はいよいよだ。
女神の睨み合いのなか、安藤が最初のドローで引いたカードは《輪作》。安藤の想いはいよいよ弾け、ガッツポーズを取った。
《輪作》から《セジーリのステップ》が戦場に登場し、自らのマリット・レイジ・トークンにプロテクション(黒)をつけることを宣言する。
マリット・レイジ・トークンによってブロックされないマリット・レイジ・トークンがパンチを決める!
高鳥 1-2 安藤
試合後
全く異なる始動であったゲーム1とゲーム3であったが、決着の仕方は全く同じであった。
高鳥「《暗黒の深部》置いたのミスでしたね」
ゲーム3、早々にセットした《暗黒の深部》が自分よりむしろ安藤に活用されたことを重点的に振り返り、高鳥はハッキリとくやしがっていた。
安藤「《強迫》で見て、他は《カルニの庭》だったので、あそこは出してくれるだろうと思った」
高鳥は安藤の共感に頷きながらも「ゆっくりでよかったんだけどな」とつぶやいた。
ヘッドジャッジによる安藤優勝のアナウンスが会場に流れ、安藤へと惜しみない拍手を送る高鳥の姿があった。プレイを反省し、勝者を称えるという「敗者」として美しい姿勢であった。
高鳥「あ、でもまだ終わってないんだよ」
この締めくくりの言葉は後悔や意志の表明ではなく、高鳥のスケジュールを意味していた。
実は高鳥は本日開催されているヴィンテージ選手権にもエントリーしており、2不戦勝を持っていたため棄権などをせず、両方に参加することを選んでいた。実際、レガシー選手権の決勝戦が終わったころには、ヴィンテージ選手権3回戦の開始のアナウンスが流れ始めて、高鳥はヴィンテージ選手権のエリアへと向かっていった。
《Bayou》を愛し、そして今日誰よりも《Bayou》に愛された安藤が優勝した。
決勝トーナメントでは度々のマリガンに悩まされた姿を見ていたが、ダブルマリガン、トリプルマリガンの中でも決して一方的な防戦をとることはなかった。攻め続ける安藤の姿勢に、デッキが応えてくれた。
もしかしたら、ゲーム中にガッツポーズをとったことに対しては気を悪くしてしまう人もいるかもしれない。
もしそれが対戦相手への「煽り」の類であったなら、それは諫められてしかるべきだ。しかし、そうではなかった。一瞬たりとも気を抜けないミラーマッチの中、勝ちを求め続け、そしてようやく掴んだチャンスを手にした瞬間の「熱い気持ち」の爆発であった。
対戦相手として、当事者として、目の前でそれを見た高鳥が、安藤に対して握手を交わし大きい拍手を送っていたことが、なによりの証だろう。
「緑黒」を愛する男、安藤 正人の経歴に新たな一行が刻まれた。
「エターナル・ウィーク・エンド・アジア2019 レガシー選手権」優勝おめでとう!
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