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エターナル・ウィークエンド・アジア2019

観戦記事

レガシー準々決勝:オクノ アツヤ(富山) vs. 安藤 正人(茨城)~1ターン差の攻防戦!走れマリッド・レイジ、駆けろ召使い~

森安 元希

 今年の8月は暑い。この日の横浜の気温も早朝から30度を越えていて、表の道を少し歩くだけで汗ばむほどだ。「横浜産貿ホール」で開催されているエナータル・ウィークエンド・アジア2019の大会会場にもその外気は流れ込んできていた。

 午前8時ちょうどに開場し、大会参加者たちが続々と会場入りすることでさらに熱気はつのり増していく。会場を占めるプレイヤーは主に「ヴィンテージ選手権」と「ミシックチャンピオンシップ予選(モダン)」の参加者たちだが、集まったなか、8人だけが参加している大会があった。

 「レガシー選手権」だ。昨日、10回戦のスイスラウンドを終えたレガシー選手権は、翌朝となる今からシングル・エリミネーションによる決勝トーナメントが開催されるスケジュールで進行している。

 レガシー選手権・決勝トーナメントに参加する、ここまでを勝ち抜いてきた8人のプレイヤーも予定通り8時過ぎには全員が姿を見せていた。

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 安藤 正人、中村 雄気、窪田 けい、石川 賢哉、越智 隆宏、高鳥 航平、福井 翔太、オクノ アツヤ(スイスラウンド順位順)。

 ここに今回、いわゆるグランプリ上位入賞の常連と呼ばれるプレイヤーやプロプレイヤーたちの姿はない。

 しかしながら大会に参加していたプロプレイヤーたちの姿がなかったわけではなかったのだ。一例を挙げればMPLプレイヤー・佐藤 レイ、2度のグランプリ優勝を誇る松本 友樹、グランプリ・千葉2019王者・中道 大輔(中道からは「話題の副賞」のお裾分けもあった)。彼らを打ち破り、8人は決勝トーナメントの頂きにまで登ってきている。

 今回のレガシー選手権に照準を合わせ、しっかりと練習を積み重ねきた「レガシー・プレイヤー」たちの真価が存分に発揮されたトーナメントとなった。

 集合が確認できた後には、準々決勝の組み合わせごとにジャッジのアナウンスに応じて卓につくプレイヤーたち。安藤対オクノ、中村対福井、窪田対高鳥、石川対越智の4卓のうち、中村対福井の試合の様子が生放送で公開され、安藤対オクノの試合が観戦記事の形として記録に残ることとなった。

 席についた安藤は眠気と詰まった緊張感をほぐすように「ぐぐぐっ」と大きく両腕を天に伸ばし、体をほぐしていた。オクノもゲームの準備をすすめながら笑顔で軽く安藤と雑談を交わし、普段の調子でゲームに挑もうとしている。

 「普段通りのプレイをする」。それは単純なようでいて勝ち進むごとに難しくなっていく課題だが、2人の様子を見るに心配なさそうだ。

 8人8つのデッキリストはすでにウェブで公開されており、試合の前にもあらためて互いのデッキリストシートが交換されていた。

 安藤は「スロー・デプス」、オクノは「赤ペインター」ということが既に明らかになっている。特に安藤の「スロー・デプス」は類型の「ホガーク・デプス」も合わせて4人が決勝トーナメントに勝ち上がってきた「今回の勝ち組デッキ」であり、そこに別軸のコンボ・デッキとして「赤ペインター」としてオクノがどう立ち回り、挑戦していくことになるのか。

 コンボ・デッキ対決として先に「キメる」のは、どっちだ。

 ヘッドジャッジによる決勝トーナメントについてのアナウンスもひと段落すると、安藤とオクノは握手を交わしてマッチが始まった。

安藤、オクノ「よろしくお願いします!」

 二人同時の明るい掛け声が、高温多湿の会場にさわやかに響いた。


オクノ アツヤ vs. 安藤 正人
ゲーム1

 スイスラウンド、堂々の1位抜けの安藤が「先手をもらいます」と宣言する。

 《新緑の地下墓地》で《Bayou》を探してから、《エルフの開墾者》をプレイ。《暗黒の深部》+《演劇の舞台》コンボ成立が(ターンとマナさえあれば)1枚で達成できる新戦力だが、能力が不特定マナのみで起動できることから、先置きできていれば《血染めの月》などへの耐性もつく。このマッチアップで大切な戦力の1枚だ。

オクノ「ちょっと、ごめんなさい」

 後手1ターン目から慎重にプレイをすすめるオクノ。「赤ペインター」は「カードを消費して瞬間的なマナ加速を行う」役割のカードでかなりの枚数が占められており、その都合上、最初のアクションからすでにゲーム終了までの流れを想定して動き出さないといけないことが多い。

 悩んだ末、今回オクノが選んだルートの始まりは「《裏切り者の都》と《猿人の指導霊》から{2}{R}を生んで《月の大魔術師》をプレイ」。

 《エルフの開墾者》があることから機能不全を望むことは難しいが、ひとまず直接「《暗黒の深部》+《演劇の舞台》」コンボが揃ってマリット・レイジ・トークンが生み出されるパターンは防いでいることは大きそうだ。

 続く安藤の2ターン目は《》セットから、《思考囲い》プレイ。

 5枚のカードが公開され、《絵描きの召使い》とシナジーを形成する2枚を見ながら、単体で著しいアドバンテージソースとなりやすい《反逆の先導者、チャンドラ》を選んで捨てさせた。

オクノ「一番対処しづらいの、これですもんね」

 その選択には実際捨てられた側であるオクノも共感している。返しのターンでオクノは《丸砥石》を設置して、相方である《絵描きの召使い》を待つこととした。

 オクノは《大いなる創造者、カーン》のために「ウィッシュボード(呪文・能力によって探されるためのサイドボード)」を用意しており、《絵描きの召使い》と《丸砥石》はそれぞれ1枚ずつサイドボードに置かれている。《絵描きの召使い》を手にいれるためには《絵描きの召使い》自身か《大いなる創造者、カーン》か、または(他のアーティファクトも1枚必要になるが)《ゴブリンの技師》のいずれかが必要だ。逆に言えば、これらのうちいずれかで良い。「受け」の広さでいえば、決して狭いとはいえない総枚数だろう。

 リストを確認してそれを理解している安藤も、時間的な猶予がないことを悟っている。《闇の腹心》をプレイして安藤自身のコンボ完成に向けて走り出す。

 その上で、ここからオクノが《血染めの月》2枚を引いてしまい「何もできない」ターンが続いてしまうと、展開の内容に差がつきはじめた。安藤は《エルフの開墾者》の能力起動で《》による緑マナを確保しつつ、《エルフの開墾者》2体目を追加。さらに《》と《モックス・ダイアモンド》から{B}{B}を確保し、《吸血鬼の呪詛術士》も戦場に送りこんで、「ビートダウン」の構えだ。

 コンボパーツはもちろん、この劣勢を1枚で跳ねのけられる《罠の橋》も引けないことが続いたオクノ。残ったハンドは撃ちどころのない《赤霊破》2枚だ。

 さらに安藤は《赤霊破》2枚を、《思考囲い》2枚で叩き落とし、徹底的に逆転の芽を摘むことを選んだ。《絵描きの召使い》との組み合わせによって《赤霊破》という本来「局地的なサイドカード」は、一転して「あらゆるパーマネントを破壊し、あらゆる呪文を打ち消す万能カード」に成長する。その危険性を重視した。

 そして、オクノにとって最後の分水嶺となるドロー・フェイズが訪れた。これまで欲しかった「《絵描きの召使い》を含めたそれを探すカード群」ではコンボ成立のためのマナが足りずに、次のターンにはライフがなくなる。

 ひとまずは《罠の橋》を引いて相手の猛攻撃の戦線を止めないといけない。メインに採用されている枚数は、2枚。

 先までと違って、「受けが広い枚数」とは言えない。しかし、引けない枚数でも決してないはずだ。オクノは力強くドローし……そして、力なく公開した。《冠雪の山》。

オクノ 0-1 安藤

ゲーム2

 ゲーム2開始前の準備中、勝った安藤から「ふう」と少しの吐息がもれた。

 優勢に見えても「特定のカードが引かれたら戦況が一気にひっくり返る」という状況では、安藤も気が楽にゲームを進められてはいなかっただろう。ひとまずを乗り切り、気持ちを切り替えて次戦に挑む。

 もちろんそれはオクノも同様だ。《活性の力》という最大効率を誇る「帰化」系の新カードをサイドに積む安藤に対し、《血染めの月》が実際にはどのくらい有効かを測りかねているようであった。もちろん先のゲーム1のように重ね引くリスクは元々あるカードであるものの、その上で相手を封殺できることを期待しての採用であるはずだが、「スロー・デプス」はコンボパーツを含め基本でない土地を多数採用するデッキでありながら、《エルフの開墾者》や《モックス・ダイアモンド》など《血染めの月》封鎖網をすり抜けてくるカードも多い。

 オクノは手にした《血染めの月》のカードをじっくり見つめたあと決心してうなづき、サイドボーディングを終えた。オクノは果たしてどのようなゲームプランを選択したのか。

 ゲーム2が始まる。

オクノ「では、先攻もらいます」

 後手の安藤が初手を見るなりマリガンを宣言した。通常のマナ・ソースばかりで全く展開するもののない手札だ。先手のオクノはまだ悩んでいて、手順の都合上、安藤のシャッフルは待ってもらうよう声をかけていた。(マリガンは本来、先手が宣言したあとに後手が宣言する。)

安藤「あ、そうかそうか。どちらにせよ、マリガンなんで。」

 大一番の勝負にあたって、普段通りに挑めるか。というテーマに関しては、ゲーム前の「伸び」など安藤は楽しそうにこのゲームに挑んでいることが行動の端々から見えてくる。

 やがてオクノがキープを宣言すると、安藤はシャッフル後新たな7枚を見る。

 「今度は色がない(笑)」と、無色土地ばかりの手札をあらためてマリガンの宣言。三度目の正直として見たハンドも、明らかに動きが悪くトリプル・マリガンだ。

 マリガンの最中、オクノと安藤は「スロー・デプス」の話で盛り上がっていた。

 「これしか使っていない」と話す安藤に、「良いですね! でも形(リスト)はめっちゃ変わっていきますよね」と返すオクノ。安藤だけでなく、オクノもまたこの試合を楽しみつつ挑んでいることが分かる笑顔を浮かべていた。勝ち気が勇んで安藤のマリガンに対しては、喜ぶような仕草を一瞬とってしまったことを自ら「良くないですね」とも反省していた。

 話もひと段落すると、安藤はここで「キープ」を宣言した。4枚。しかしその中には《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》、《暗黒の深部》、《吸血鬼の呪詛術士》の「2ターン目マリッド・レイジ降臨セット」が含まれている。

 対するオクノも今回はロケット・スタートだ。《裏切り者の都》から《絵描きの召使い》を着地させ、青を指定。さらに2ターン目には《丸砥石》を設置する。

 「コンボ完成!」……と喜びたいところだが、むしろここまでで一番悩ましい表情を浮かべている。マナの用意方法だ。ここで《裏切り者の都》を生け贄に捧げてでも、ここで《冠雪の山》を置いて《紅蓮破》を構えるべきか。あるいは除去呪文は飛んでこないと踏んでセットランドを次ターンに持ち越し、必殺となる《丸砥石》能力起動のためのマナを確保できるようにしておくべきか。

 コンボ・デッキ同士の戦いは短いターンの間に連続して選択が迫られる。オクノは《冠雪の山》をセットして、鉄壁を打ち立てた。


オクノ アツヤ

 安藤は予定通り《吸血鬼の呪詛術士》を2ターン目にプレイするが、これが《紅蓮破》され、さらにそのまま《外科的摘出》で《吸血鬼の呪詛術士》がライブラリーからも追放されると、すでに戦場で整っているペインター・コンボの起動を止める手立てが用意できないことが明かされた。

オクノ 1-1 安藤

ゲーム3

 安藤の《Bayou》、《強迫》が最終ゲーム開始の合図だ。

 公開は《魔術遠眼鏡》《水蓮の花びら》《赤霊破》《歴戦の紅蓮術士》《絵描きの召使い》《古えの墳墓》《冠雪の山》。

 安藤は一瞥して「レブゥ…?」と一回少し語尾を悩ませたが、「REBで」と言い直して《赤霊破》を選んだ。

 返しのオクノも《古えの墳墓》から《魔術遠眼鏡》と動いていく。1回マリガンしている安藤の手札は4枚。《》《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》《モックス・ダイアモンド》《輪作》。

 《暗黒の深部》コンボを止めるためにはここでの指定は《演劇の舞台》か《吸血鬼の呪詛術士》の二択だが、今引いたのが《大いなる創造者、カーン》ということもあり、このプレインズウォーカーへの除去としても機能する《吸血鬼の呪詛術士》をより嫌い、選んだ。

 安藤はトップした《エルフの開墾者》をプレイしてターン・エンド。手札の《輪作》と合わせて《暗黒の深部》コンボ完成が一気に近づいた1枚だが、オクノも負けていない。《水蓮の花びら》と《冠雪の山》セットから4マナを捻出し、《大いなる創造者、カーン》をプレイする。[-2]能力で《丸砥石》をサイドボードから探した。

 《エルフの開墾者》による1点の攻撃を受けても、もう1回[-2]能力が起動できる。フェッチランドはなく《輪作》も1枚なので、《大いなる創造者、カーン》を落とせる「3/4へ成長しつつ攻撃してくるパターン」はごくごく限られたものだと判断していた。


安藤 正人

 そのパターンは具体的には、安藤が《輪作》の2枚目を引くことから始まる。

 という手順だ。

 実際に安藤は2枚目の《輪作》を引き、この手順を実践してみせた。こうして《大いなる創造者、カーン》を失ったオクノは《絵描きの召使い》をプレイしてペインター・コンボ2枚を盤面に完成させるが……即座に起動するためにはマナがほんの少しだけ足りない。

 それよりもマリッド・レイジ・トークンの召喚酔いが明ける方が1ターンだけ、早かった。

オクノ「ありがとうございました!」

 負けたオクノの一言がさわやかに会場に響いたあと、オクノは安藤に握手を求めた。

 短くも長い、楽しくも熱い準々決勝は締めくくられた。

オクノ 1-2 安藤

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試合後

オクノ「1ターン足りなかったー! (《魔術遠眼鏡》の)指定、どうでした? ステージ(《演劇の舞台》)かヘックスメージ(《吸血鬼の呪詛術士》)か、どっちかですよね」

 結果論として《演劇の舞台》を指定していれば、オクノからしてみれば少なくともこうした負け方にはなっていなかったはずだ。だが結果論は結果論であり、あのとき《吸血鬼の呪詛術士》を宣言したことにも理由は裏付けられている。

安藤「ヘックス(《吸血鬼の呪詛術士》)だとカーン(《大いなる創造者、カーン》)やれるので。ヘックスで良かったと思いますよ」

 感想戦はゲーム2開始時に悩んでいた《血染めの月》にも及んだ。

オクノ「《血染めの月》は、全部抜いたんですよね。それよりも《罠の橋》を《ゴブリンの溶接工》などで守る(戦場に維持し続ける)プランの方が良いかなと」

安藤「そうなんですね! 《血染めの月》くらいしかこちらのコンボに触ってこないので、残すと思ってました」

 今戦のようにメインデッキ60枚、サイドボード15枚の全75枚が公開される「デッキリスト交換制の試合」でも「サイドボーディング」の情報だけは公開されることはない。そして個人個人で思うところが大きく違うため、感想戦でテーマになりやすい話題の1つだ。ここで「オクノが負けたから《血染めの月》を抜くのは間違っている」と結論づけるのは、それこそ結果論でしかないだろう。

 勝っても負けても、つらく吐息する。全ゲームを通して、勝敗の分かれ目は互いに「1ターン差」と言えるほどの差しかなかった。安藤はドローがもたらしたそのわずかなタイミングを確かな実力でしっかりと自分のものにした。

 最後に互いが互いの健闘を称えつつ、「頑張ってください!」とオクノが安藤を準決勝に送り出した。

 時間はまだ午前9時前。安藤と日差しが会場を最高潮に熱くさせるのは、これからだ。

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