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エターナル・ウィークエンド・アジア2019

観戦記事

第10回戦:石川 賢哉(愛知) vs. 浅海 大貴(群馬)~女神は三度降り立った~

森安 元希
プレイヤー紹介
石川 賢哉 vs. 浅海 大貴

 8勝1敗同士の戦い。

 この一番に勝てば間違いなくトップ8入賞、明日の決勝トーナメント進出が決まる正真正銘のバブル・マッチが何卓か発生していた。

 そのうちの一卓、浅海 大貴は1つ前の第9回戦で同郷の前大会優勝者、髙橋 勝貴を倒してここに立っていた。

 その髙橋が「群馬最強」と呼ぶ男が今大会、トップメタの1つ「4色デルバー」を握っている。《レンと六番》というハイパワーなプレインズウォーカーを得て進化したデルバー・デッキだ。

 浅海は過去、今日と同じ会場で開催された「BIG MAGIC Open Vol.9」でのトップ8入賞経験があり、なかばオカルト的な表現だが、もし「プレイヤーと場所との相性」というものがあれば、今回は浅海に利するものだろう。

 BIG MAGIC Openはスタンダードの大会であり、そのときの使用デッキは「マルドゥ機体」であったようだ。「4色デルバー」同様にかなり色マナの管理がシビアなデッキタイプであり、浅海にとってみれば多色デッキの運用はすでに感覚を掴んでいるのだろうか。

 対する石川 賢哉は愛知から始発で来たという。「今朝は午前4:30の出発だった」と話し、ヘッドジャッジの「長丁場ですが、いよいよ最終ラウンドです」というアナウンスが沁みている様子だ。

 石川のデッキはいわゆる「緑黒デプス」だ。「《暗黒の深部》+《吸血鬼の呪詛術士》」によって速やかにマリット・レイジ・トークンを生成する。

 そしてデルバー・デッキが《レンと六番》を新戦力として迎え入れているように、デプス・デッキも新カードによって強化されている。『基本セット2020』から参入の、《エルフの開墾者》だ。

 追加の《輪作》としてキーパーツである《暗黒の深部》や《演劇の舞台》を探せるだけでなく、《血染めの月》への耐性や《稲妻》に耐えられるクロックであったりと、八面六臂の活躍を見せているようだ。

 石川は元々《エルフの開墾者》が登場する前から「ターボ・デプス」(《Elvish Spirit Guide》や《水蓮の花びら》でマナ加速して高速でコンボを完成させる「デプス・デッキ」)を使っていたと話し、今回も他のデッキも回してみた結果として手に馴染んだという理由で「緑黒デプス」を選んだようだ。

 「記事になるのは嬉しい」とフィーチャー・テーブルについて揚々な意欲を見せる石川。浅海と握手を交わし、ゲームが始まった。

試合展開

 先手の浅海が1ターン目《沸騰する小湖》起動、《Tropical Island》を探してからの《思案》でゲームを始める。これに対する後手の石川は前傾姿勢の攻勢をとる。まず《新緑の地下墓地》をセットしてそのまま起動、《》を探す。《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》を捨てつつ、《モックス・ダイアモンド》をプレイする。


浅海 大貴

 これにより1ターン目・2マナから《闇の腹心》をプレイした石川。これに浅海は《Volcanic Island》をセットして、《レンと六番》プレイから[-1]能力で《闇の腹心》を倒す返しだ。今日何体のタフネス1のクリーチャーが《レンと六番》によって撃ち落とされたことだろうか。

 しかし《闇の腹心》を失った石川の所作に淀みはない。《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》セットから《輪作》で《》を生け贄に捧げ、《暗黒の深部》を探し、そのまま《吸血鬼の呪詛術士》をプレイする。即座に能力を起動して《暗黒の深部》の氷・カウンターを全て取り除く。本来であればその深奥に到着するためには多大なマナを注がなければならない冒険譚の大胆不敵なショートカットだ。海底に眠る異形の女神が目覚めると、浅海は深海に引きずり込まれる前にゲームからの撤退を決めた。

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 ゲームを落とした浅海が、「つええ」と簡潔かつ明瞭に一言つぶやいた。「4色デルバー」の仮想敵としては「デプス」は大きいものではなかった様子で、生成されたマリット・レイジ・トークンに対処する手段はサイドボードまで見ても大分限られている様子だ。ここも基本的には《レンと六番》+《不毛の大地》パッケージで相性を補う形のようだ。

 ゲーム2は後手の石川が《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》から《強迫》をプレイしてスタートした。浅海が対応して、セットした《沸騰する小湖》を起動し《Tropical Island》から《渦まく知識》をプレイする。これは対策カードを探すというよりも、ライブラリーに「いま手札にある必要なカード」を置いて、ハンデスから「守る」という動きだ。具体的には、初手で引いている《暴君の嘲笑》をライブラリー・トップに置いた。

 《吸血鬼の呪詛術士》のようなクリーチャーは破壊し、破壊不能を持つマリット・レイジ・トークンはバウンスという形で完全に対処可能で、対「緑黒デプス」戦において撃ちどころに困らない数少ないカードだ。

 石川は浅海の残された手札から《思考囲い》を落としつつ、《エルフの開墾者》を展開する。石川の《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》によって自身も黒マナを生み出せるようになった《汚染された三角州》を寝かしつつ、浅海は《突然の衰微》を唱え、この《エルフの開墾者》は即座に退場させる。

 しかし石川の攻勢は止まらない。《暗黒の深部》セットから《輪作》で《演劇の舞台》を探し、そのままコピー能力を起動して《暗黒の深部》にする。まずレジェンド・ルールにより元の《暗黒の深部》を墓地に落とし、その後、氷・カウンターを持たない《暗黒の深部》(《演劇の舞台》によるコピー)が能力の誘発によって生け贄に捧げられると、再びマリット・レイジ・トークンが戦場に姿を現した。


石川 賢哉

 しかし、ここまで予測を立てていた浅海は《暴君の嘲笑》で荒ぶる女神を再び深海へと追いやった。これでコンボの鍵となる2枚の土地と、マナ基盤を同時に失った石川。浅海は好機と見て《レンと六番》をプレイし、[+1]能力で《汚染された三角州》を回収しつつ、セットする。

 しかし石川の攻め気は高く保たれたままで、加えて「緑黒デプス」は使用者の熱い気持ちに応える手札をもたらしていた。石川は2枚目の《暗黒の深部》をプレイ。他の土地をコストに《輪作》をプレイし、再び女神降臨の儀式を取り行おうとする。

 《暴君の嘲笑》をすでに失っている浅海は、今度こそ降臨を簡単に許すわけにもいかず対応で《渦まく知識》を唱えるが、手札の中にも、引いた3枚のなかにも「解答」は……なかった。

石川 2-0 浅海

試合後

 ハンデスに対して《暴君の嘲笑》を隠す《渦まく知識》の使いどころなど、浅海にプレイング的な瑕疵はなかったようにみえる。「デプス・デッキ」を相手にどういったカードで対応し、勝ち筋にするかをしっかりと想定していた浅海が、客観的に卓越したプレイヤーであることは明白だ。

石川「(ゲーム2は)《暗黒の深部》2枚、《輪作》2枚というハンドで。緑マナの土地を引ければ勝てそうというところで、引けました」

 その浅海を打ち破った石川は嬉しそうに、自らの期待に応えたデッキとドローを褒めていた。しかし、いわゆる「引きの強さ」のような点が石川の特徴なのではない。事前にメタゲームもしっかりと腑分けし、「カナスレ(青緑赤を含む3~4色デルバー・デッキ)」や「ストーンフォージ(石鍛冶デッキ)」の数は多いと予測し、構築も合わせたものにしていた。事実、メタゲームブレイクダウンを読むにその2種類のデッキは多く、「正解」に近い構成でデッキを組めたようだ。強いデッキを組めたからこそ、強いハンドと強いドローは訪れるのだ。

「《レンと六番》相手にはカウンターも気にせず果敢に攻めるしかない」と決めていた石川。事実ゲーム1もゲーム2も迂回したゲームプランを採用することなく、一直線に《暗黒の深部》コンボを決めに行っている。そのためロング・ゲームに強くするための別筋である《壌土からの生命》も《トーラックへの賛歌》も今大会ではほとんど撃たなかったという。

石川「いやあ、嬉しい!」

 トップ8入賞を決めスタッフといくばくかのやりとりを終え、浅海が席を外した後には改めて石川が満面の笑顔を浮かべつつ、全身をふるわせて叫んだ。フィーチャー・エリアから少し離れて観ていた友人2人ともハイタッチをかわし、「勝利」の余韻を今一度十分に味わっていた。

 今夜はその勝利の喜びにたっぷりと味わいつつも、次第に思いは次なる戦いである決勝ラウンドへと向いていくことになるだろう。大会において最大の勝利である優勝まで「残り3戦」。石川はあと何度、マリット・レイジ・トークンを生成することになるだろうか。

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