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チャンピオンズカップファイナル シーズン3ラウンド3

インタビュー

斉田 逸寛インタビュー:デッキ調整の思考

Hiroshi Okubo


 「デッキの調整」という作業は、マジックをプレイする者であればカジュアルプレイヤーでも競技プレイヤーでも誰もが行っていることだ。75枚のデッキにどういったカードを加え、逆にどういったカードを抜くのか。特定のデッキを調整するためのアプローチについて語った記事や動画は数あれど、しかしそれを俯瞰的に語る方法論についてはあまり掘り下げられてこなかった。

 今回は、マジック:ザ・ギャザリング日本公式生放送で実況・解説者としておなじみの斉田 逸寛に、競技マジックにおける「デッキ調整」という行為の思考プロセスについて話を聞いた。関東の草の根コミュニティであるPWCで叩き上げられ、日頃から環境分析やデッキを練習する過程を配信する斉田は、果たしてどのようにデッキを調整しているのか?

斉田 逸寛

 
コピーリストから始める調整

──「さっそくではありますが、特に"コピーした75枚"を変えていく際のアプローチについて伺いたいです。自分などはなんとなく『コピー元は正しい』と思ってしまいがちで、カードを入れたり抜いたりするのに少し抵抗があったりするのですが、デッキのカードを入れ替える際の出発点となるのはどういったタイミングでしょうか?」

斉田「『コピーしたリストは結果を残しているから強いリストなはずで、それを使って負けてしまうのは自分がポテンシャルを引き出せていない』から、みたいなことですよね。気持ちは分かります。そのうえでデッキ調整のスタート地点とは?という話ですと、環境の情報が集まってきたときがそのタイミングだと思います」

 

斉田「たとえば今回のチャンピオンズカップファイナルの直前に、ヨーロッパで地域チャンピオンシップがあり、そこで『イゼット果敢』が結果を残しました。その結果を受けて、今大会でも『イゼット果敢』がトップメタでしたね。ただ、先週結果を残したデッキリストをそのまま持ち込むと全員の仮想敵そのままのリストになってしまうので、仮に『イゼット果敢』を調整するのであれば“対策の対策”まで踏み込んで構成を変えていく必要があります。先週最強だったリストが今週も最強とは限らないので、最新の情報を追いかけることが調整のスタートです」

──「ありがとうございます。そうした環境の情報が集まってきたとき、必要なカードは思いつきやすいのですが、デッキから抜くべきカードがなかなか分かりません。どうすれば浮いたカードを見つけられるのでしょうか?」

斉田「まずはデッキのカードを役割ごとに分解していくことです。除去、クリーチャー、アドバンテージ源……ざっくりした役割で分類して、その役割のカードはその枚数必要なのか?と考えます。極端な例ですが、仮にコントロールデッキが非常に強い、というような環境であればクリーチャー除去カードの枠は減らしてもよさそう、というのは分かりますね」

──「逆にアグロ環境であればアドバンテージ源を削って除去を増やす、といった感じですね。なんとなく分かりますが、中でも特に抜きやすいカードなどはあるのでしょうか?」

斉田「どんなデッキにも核になるカードがあり、逆に核になるカード以外はわりと自由に変えていいと思っています。たとえば『イゼット果敢』の核は《嵐追いの才能》と《コーリ鋼の短刀》で、これらを抜いたら別のデッキになってしまうでしょう。黒系ミッドレンジなら《分派の説教者》と除去、ドメイン系デッキなら《豆の木をのぼれ》と《ホーントウッドの大主》など……極論、それら以外のカードは自由です。僕自身はそうしたカードは増やしたり減らしたり、いろいろ試す方です」

環境に合わせた再設計

──「環境の情報を集めて仮想的が定まってきたとき、色対策や墓地対策のようなわかりやすいキラーカードが効く相手であれば調整は比較的簡単です。しかし、いわゆる丸いデッキというか、『このカードで封殺できる』みたいなカードが存在しないデッキの弱点を意識した調整というのはどのように考えていけばいいのでしょうか?」

斉田「いわゆるフェアデッキ、コントロールとかミッドレンジみたいなデッキのことですね。こういう相手に対しては、“速度帯”を意識した調整をすることが大事だと思っています。たとえばクリーチャーを増やしてもっとアグレッシブにライフを攻める形にするとか、あるいは後ろにゲームを倒してプレインズウォーカーを採用するなどアドバンテージ戦略に寄せるとか。そうした丸いデッキは往々にしてサイドボードも強いので、何枚か有効なカードを増やして有利になるということはあまりありません。そこで、ゲームプランそのものを変えて対策していくとうまく行きやすいです」

──「なるほど。また別の話ですが、"最後まで採用を悩むカード"というのもあります。こうしたカードはどのように入れる、入れないを判断しますか?」

 

斉田「これもよくある話ですね。自分はちょっと泥臭いやり方なんですけど、勝っているリストを5〜6個くらいExcelにまとめて、それらのデッキから《手練》が何枚、《洪水の大口へ》が何枚……みたいな枚数の平均値を出し、それと自分の構築を比べて差がある部分を増やしたり減らしたりしています(※)。このやり方、手間がかかる割に1枚2枚カードが変わるだけだし、そもそも平均的なリストが強いという根拠もないので人にはあんまりオススメしませんが(笑) 僕自身、プレイングやフィーリングに自信がないので、数字に頼るようにしています。こういうやり方もあるという一例です」

※斉田自身は知らなかったそうだが、実はこの「統計を使ったデッキ調整方法」はオランダのプロプレイヤーであるフランク・カーステン/Frank Karstenも実際に行っている方法である(参考)。斉田の言うとおり時間も手間もかかりそうな方法ではあるが、大会前にどうしても最後の1~2枚に自信が持てない人は試してみる価値はあるかもしれない。

──「最後に、苦手なマッチアップに対して、どの程度カロリーを割くべきでしょうか?」

斉田「前提として、全部のデッキに勝とうとするのは無理です。なので、ある程度は割り切りも大事ですね。たとえば今大会だと『イゼット果敢』がトップメタで、このデッキはほとんどのマッチアップで五分か有利に戦えますが、『オルゾフ・ピクシー』との相性はよくありません。とはいえ『オルゾフ・ピクシー』はそこまで多くありませんし、『イゼット果敢』を持ち込むのであれば『オルゾフ・ピクシー』対策に枠を割くより同型対決のためのカードを採用したほうが全体的な勝率は上がるでしょう。ごく当たり前のことではありますが、フィールドの使用率を予測して、使用者が多そうなデッキに照準を合わせる。そのうえで、ある程度苦手なマッチアップも想定しなければならないと読んだならささやかでも抵抗する、といった感じで調整するとうまく行きやすいと思います」

 

 全てのマッチに勝つのは無理だとしても、自らの調整に納得を求めるために。カードの採用・不採用、想定する対戦相手、速度のチューニング、そして最後の1枚まで──調整とは、常に「何を信じるか」を問い続ける作業である。斉田の話に、トーナメントに臨む上でのごく普遍的な、しかし極意とも言えるメソッドを垣間見た。

 この記事が、大会前夜に75枚目を迷っていたり、自分の判断に確信が持てない全ての人たちへと少しでも指針を与えられるものとなれば幸いである。

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