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MAGIC STORY
イニストラード:真夜中の狩り
サイドストーリー第4話:不死の舞踏
2021年9月24日
最愛の弟へ
(それというのも、両親が私にもっと良い別の弟を作ろうと決心して下さらなかったためなのですが。真にわがままな方々でした。もっとじっくりと作って頂きたかったものです。とはいえあなたはただひとりの弟であり、私の頭脳を理解できるほどに賢い唯一の人物ですので、思うにあなたが、残念ですが、私が最も愛する弟ということになるのでしょう)
ここスレイベンでは、何もかもがひどく退屈になりつつあります。あなたがここにいてくれたらと思い始めたほどです。幼き日々のように私に歯向かわせるためにではなく――あの日々は完全に過ぎ去り、埋もれさせておくべきものであり、多くを言及しようとは思いません――愛しい相手が立ち向かう新たな驚きを作り上げるために。かつては雄々しかったこの地は今や荒れ果て、生ける資源はほぼ尽きてしまいました。一体、人々は何処へ行ってしまったというのでしょう! 確かに、多くが亡くなりました。それでも私の所に、以前よりも少々素敵な姿で留まっている者もいます。他の人たちも逃げ出すのではなく残れば良かったのです。滑稽な仕草と松明持ちさえしていて下されば十分ですから。
《素晴らしき復活術師、ギサ》 アート:Yongjae Choi |
ああゲラルフ、素晴らしい遊戯が面白いのは、予測できないものがあるからだということを失念してしまっていました。死者の軍勢というのはひとつの美であり永遠の喜びですが、あらゆる命令を申し分なく、躊躇なくこなすだけの軍隊に予測できないものは多くありません。何か私が立ち向かうべきものを夢見るほどです!
そう、愛しの弟よ、あなたの全てを夢に見ます。丸く白い瞳で見つめるたるんだ顎の化け物を。私のお眼鏡にかなうという栄誉にあずかるあらゆる敵の中でも、あなたを。素晴らしく誠実なゾンビたちの肉で作られた、腱と皮膚の醜く鈍いがらくたであっても。
私は実に沢山のネズミを墓から呼び起こしました。彼らはスレイベンの屋根を、最高のバレエ団のように踊っております。爪先と尾がもげて、絶え間ない輝きの中に腐り果てようとも決して止まりません。ですが私の努力を誰も賞賛しないのであれば、そのどこに意味がありましょう? 私は最高の夢を、究極の征服を成し遂げました。だというのに、想像だにしなかった空しさがあるだけです。
あなたを愛する姉、ギサより
ギサへ
スレイベンが不満ならば、責めるべきは誰でもない姉上自身であり、姉上自身の酷い性格だろう。だからこそ姉上は幼い頃から友達がいなかったのだ。我々が子供の頃からずっと、姉上と友達関係を続けるのを我慢できた者はいなかった、息をしている間は。私は常々理解していた。姉上が真に幸せでいられるのは死者たちに囲まれている時だけだ。そう、姉上の願いは叶っているではないか。
そこに喜びを見出せないのであれば、それは姉上自身の責任だ。もう私に手紙など寄越さないで頂きたい。
ゲラルフより
皿が壁に叩きつけられ、途方もなく高価な骨董品の陶器の欠片がそこかしこに砕け散った。ギサが上げた金切り声は、生きた人間の女性の喉から発せられたバンシーの悲嘆だった。続いて彼女はその皿と対になる杯を取り上げた。
既に山と積み上がった破片を見る者がいれば、それは何度も繰り返されてきたことだとわかるだろう。だが見る者は残っていなかった。いつの日か生者が、墓所と化したこの都市をこの不必要で新たな君主から取り戻したなら、彼女の癇癪の残骸は歴史学者にとってスレイベン包囲の遺物となるだろう。
「よくもその完璧で最高の骸骨を、汚らわしい、無能で、無価値の屑にして!」 ギサは叫び、その杯に相方の後を追わせた。陶器が砕けた音は、彼女を幾らか落ち着かせたようだった。ギサは次の皿を手にした際に一旦動きを止め、手の中で注意深く重さを試した、まるで投げる角度を考えているかのように。事情を知らない傍観者がそれを見たなら、この隙に割り込むべきだろうかと考えるかもしれない。もっと落ち着くための何かをしたらどうか、杯を割るのを止めてハーブの茶を飲んで気を落ち着かせたらどうかと提案したかもしれない。
悲しいことに、スレイベンの大聖堂であったこの建物に残る者は、ギサ本人を除いては、そのような提案に思い当たるわけもなかった――全員が、疑いの余地もなく死んでいた。リリアナのゾンビが都市を占拠し、リリアナ自身が去ると、このグール呼びは理にかなった行動に出た。それを手に入れたのだ。それは生き残った人口の大半を可能な限り滅することを意味した。そういった者たちは凄まじいほどに利己的で、噛みつかれるのを断固として拒否した。
殺される、捕まる、もしくは更に悪い目に遭う気のないギサは、自らの愛する死者が自分の命令よりも早く土へ戻る様子を見て、それらの脅威を自分で対処した。
だがその脅威は同時に、自らの軍勢を拡大させるための生きた資源だった。あの酷い弟のような縫い師とは異なり――生きた肉の腫れものと重みに食い尽くされて、死という慈悲深い抱擁に身を委ねてしまえばいいのだ――ゾンビの損傷が一定に達すると、ギサはそれらを修復することはできなかった。彼女の活力で維持されているため、それらの肉は土の中よりも遥かに長持ちしたが、それでも腐敗した。四肢は外れ、顎は緩み、歯は歯茎から落ちた。自分は今この都市を手にしており、軍団は強力で支配は疑いないものの、それを永遠に保持してはおけなかった。
空っぽの墓の女帝、スレイベンの不敗の女王ギサは玉座たる柔らかな椅子に崩れ落ち、拳に顎を乗せ、ふて腐れた。
スレイベンの城壁の外には、長く無人の街道が伸びている。その先にはギサの不明瞭な領土における最後の人間の街があるが、それは抵抗を放棄し、今や幽霊と死者がゆっくりと集まる、くすぶった抜け殻と化していた。その街道を、ひとつの軍勢が行進していた。
それらは空腹も疲労もなく、休息のために立ち止まることもなく行進していた。ひとりが斃れると、それは泥の中に取り残され、仲間の足で跡形もなくなるまで踏み潰された。一人として異議も不平も上げなかった。弱い者は置いていくのだ。
列の先頭に騎乗する男は、頬はこけ、腐敗と血が頭蓋骨に貼り付いていながらも、輝かしいたてがみのような髪を残していた。その乗騎はかつて力強い軍馬だったが、皮膚はほぼ腐敗してはがれ落ち、歩く筋肉と骨格の標本と化していた。一歩ごとに脇腹が歪み、肉片が落ち、やせ細っていった。
生けるものにはありえない死者のひたむきさによって、それは乗り手を前に進めていた。乗り手は斧を手に地平線を見つめ、スレイベンの城壁近くに動くものがないかと探っていた。
《腐敗の大鉈、ウィルヘルト》 アート:Chris Rahn |
呼び声を今なお彼は感じていた。途切れることのない呼び声を。彼はあの女性の心なき下僕の一体ではなかった。彼自身に次ぐ、ふさわしい存在としてあの女性を指名するのだ。あのように不当に追い払われなかったなら、彼は求婚した女性と、成した仕事とともに、自分の人生に満足して死んだことだろう。自分とギサは一緒になる運命だった。何よりも証拠はここにある。彼は死んだが、彼女の呼び声の記憶とともに蘇ったのだ。生前と同じ姿で、今も強壮で美形であり、求婚もできて受け入れてもらえる。彼女を探そう。見つけよう。そして彼女の隣という正当な居場所を得るのだ。息をのむウィルヘルトと輝かしきギサ。その名にふさわしい伝説を育み、その根を愛という肥沃土に伸ばそう。
自分が死んで帰還する以前なら、グールには魂が残っていないと言ったかもしれない。それらを動かしている何かは人の感情を超えたものだと。そしてその通り、彼が生者の間を歩く時も、それらは感情など持たないように見えた。彼らは夜に潜む怪物であり、無辜の者を恐れさせた。だが今や彼は真実を知った。こうして墓から出て、死者の動かぬ心臓の内にまどろむ美しき複雑さを遂に見たのだ。毎日、彼の軍勢が最悪の太陽から身を隠す時には――陽光にさらされて腐敗してしまったら何にもならない――彼は目を閉じ、死者なりにギサの夢をみるのだった。
目的はギサ。愛するギサ。この真の愛と偽りざる心を受け入れ、僕の女王になってもらうのだ。
死者の列の先頭でウィルヘルトはスレイベンへと行進し、沈黙が後に続いた。人の悲鳴や腐肉喰らいの鳥の鳴き声は続かなかった。彼の軍勢が行進する所、生ける者は残らなかった。
愛しの肉切りさんへ
あなたが私より劣っているのはわかっています。あなたがそこまで冷酷だなんて全く思いませんでした。あなたの馬鹿げた遊戯に付き合っていたなんて。あなたの長々とした、無意味な、我慢ならない決め事に従っていたなんて。私は最高の姉です、ありとあらゆる姉の中でも最高の、あなたには勿体ないとしか言いようがないほどの――だというのにあなたは私を退屈と塵の中に見捨てるというのですか? 時間を持て余す私のために、沢山の汚らわしい鳥から組み上げたあのおぞましくて無意味なものを送ってくることすらしないなんて。愛しい弟よ、私はここで嘆き、朽ちようとしています。時には、スレイベンの人々が――あなたの傲慢な女友達リリアナさんの前に逃げ出した、弱く臆病な者たちですが――松明と剣を掲げて私に立ち向かって来てほしいと思うほどです、そう昔日のように。
ですが悲しいかな、スレイベンの人々の居場所は存じております。既に私の傍にいて、全員が私に奉仕を誓っております。胸壁を包囲し、同輩を攻撃しろと命じることも可能です。ですがそれは影絵芝居と大差なく、私の手で操り人形を動かしているだけです。数体を私の支配から解放し、狂ったままに暴れさせてみましたが、それらも速やかに他の者たちに壊されました。そうでなくとも私の作品は素晴らしく、従順で、最も重要なことに、私のものなのです。軽薄にそれらを犠牲にするのは極めて不親切というものでしょう。そのようなことはできません。いかに魅惑的であろうとも、それは不公平というものです。
おわかりですか、私は自分の支配下の死者すら公平に扱えますのに、あなたはかつて愛した姉にそれができないなんて! たまたま弟になっただけのあなたが。
敬具(敬いなんてしませんが!)
ギサより
ギサへ
私には私の技という才能があり、貴女には貴女自身のそれがあると認めている。我らが両親は良き骨と血を残してくれた。その両方を無駄にするのは愚かというものだろう。私の知る限り、姉上は私の再三の反論に耳を貸すことなく、父上と母上の骨を自分のために用いた。つまり貴女がスレイベンを継続的に支配するにあたっても、彼らの血を役立てているに違いないのだろうな。
あの街とリリアナが捨てていった下僕を手に入れた素早い手腕には感服する、それは認めよう。私が姉上の立場であり、姉上のような才能を持っていればそうしただろう。だが妬んではいない。私は自らの仕事で手一杯なのだ。貴女から送られてくるわめき声に応える時間を取れるかどうかも、正直わからない。
いや、断る。私が姉上自身の策略の成果から姉上を救うことはないだろう。姉上自身が作り出した災害に介入もしない。姉上が望んだのだから。わかりやすく言うなら、姉上は自ら墓穴を掘り、自らその中で腐りゆくのだ。
ゲラルフより
ギサは大聖堂のバルコニーに出て、その尖塔を何周もした。風が彼女の髪を乱して衣服をはためかせたが、気にはしなかった。ギサが通り過ぎると蝙蝠の死体が崇敬を叫び、彼女は指を振ってその奉仕に応えた。だがその被膜の翼の忠節に楽しみを覚えることもできなかった。小型齧歯類を呼ぶのは、飛行する種であっても、子供の遊びに等しい技だった。ゲラルフが見たら、間違いなくあざ笑うだろう。そんな幼稚なお遊びをまだ卒業していなかったのかと、気取ってお高くとまった声色で尋ねるのだろう。
嫌なことに、あの弟ののらりくらりと傲慢な声が恋しかった。それだけで弟のものとわかる伸ばした母音が。どんな話題であろうと、誰よりも自分は物知りだと考えているような様子が。面と向かってそれを認めるのは御免被るが、墓に向かってそうするのも絶対に嫌だが、それでも弟が恋しかった。
こんなにも長く弟と離れているのは奇妙で、これまでにないことだった。自分か弟のどちらか、あるいは両方が、セカーニ家の才と力を理解しない狭量な愚か者に捕まったわけでもないというのに。自分たちの家名に尽くして死ぬのは特権であり、権利ではない。そして人々はその栄誉に対して、あのような悪い反応をすべきではない。特に、そう長い間死んでいることにはならない場合には。
ギサは曇った夜空を睨みつけた。弟から最近来た手紙よりも私を怒らせてみなさい、そう言おうとするように。そしてはっとした。
スレイベンに至る街道を何かが馬でやって来ていた。
《戦慄の光景》 アート:Andrew Mar |
この数か月、馬でこの道を来た者はいなかった。この街はリリアナの死者が、今やギサの死者が占拠してからずっと見捨てられており、生きてあえてその境界を越えようという者はいなかったのに! だが今、何者かが近づいてきていた。手にした武器に光がきらめいていた。そしてその者の背後には、人間の大軍団が行進しているように見えた。道を動く姿を、ギサは目をこらして見た。
違う、人間ではない。彼らはひとつとなって動き、奇妙なほど統制されていたが、生者の滑らかさはなかった。上げて降ろされるその足の動きは、痙攣するような死者の律動だった。起こされた死者たち、つまり先頭の人物はそれらのグール呼びに違いない。どういうことだろう。自分の領土を奪おうとする者はいなかった。そのために挑戦しようという者すらいなかった。
そしてやるべき事ができた、それは言葉では言い表せないほどありがたかった。彼女は踵を返して階段を駆け下り、大聖堂の奥深くへ降りていった。彼女を追うようにアンデッドの蝙蝠が羽ばたき、ほとんどの死者にすら聞こえない喜びを鳴いた。
ウィルヘルトはスレイベンの門に到着した。それは閉じられて錆び、とても長いこと人の手が触れていないのがわかった。そしてギサが既にそこで待っていた。美しい髪を下ろし、上質なガウンを最も芸術的かつ優雅に裂いて。自分の到着を祝してくれているに違いない。そうでないなら、何故彼女はあんなにも美しいのだろう?
「美しきギサよ」 ウィルヘルトが上げた声は、墓場の闇から蘇ったにもかかわらず、今も強くはっきりとしていた。これだけでも、自分はただのグールではないと間違いなく彼女に示してくれるだろう! 蘇った死者の一体どれほどが、こんなにも明瞭に話し、生前に愛した女性の名を覚えていられるだろうか? そのような離れ業を成し遂げる者は、この中には一人もいない! 「君の孤独は遂に終わりを告げる、僕がこうして君のもとにやって来たのだから!」
ギサは彼を見た。完璧な形の唇がゆっくりと笑みに歪み、素晴らしいな形の眉が寄せられた、どう見ても困惑らしきものに。やがて、首をかしげて彼女は尋ねた。「お会いしたことはありました?」
ウィルヘルトは彼女を見つめた。「勿論だとも。僕は息をのむウィルヘルト。君の息を止めにやって来た」
「私はまだ息をしておりますけれど」
ウィルヘルトの視線は怒ったものに変わった。「あの森で出会ったではないか! あれは輝かしい日だった。そして僕たちの存在の輝きが合わさって、ますます輝いた!」
「ああ」 不意に思い出し、ギサは答えた。「ウィルハムね。覚えておりますわよ。あの素敵な、素敵な木こりさんでしたわね。新しいお友達を作るために古い手押し車を探していた時にお会いした。死人よりも興味深く思えるお方ではありませんでしたので、そのままお別れしましたよね。私の生き方に虚栄は必要ありません。ゲラルフのように、自らの才に浸って焼き尽くされる必要などないのです」 彼は動かず、そのためギサは物憂げに手を振って退散させようとした。
そうはならなかった。彼は死した目を唖然と見開き、信じられないという様子で見つめていた。「はるばるやって来たというのに……君はまたも僕を拒むのかい、君のためにここまでしたのに! 君のために死んだのに!」 それは正確ではない。だが彼を圧し潰した倒木には明らかに、夢見るような雰囲気を保持していた。
「動けないわけではない。そして見たところ、あなたはグール呼びの恩恵なしに蘇ってきたようですわね」 ギサの声色には失望があり、ウィルヘルトは衝撃を受けた。「可笑しいですわね。私に言わせるなら、杜撰な仕事です。木を植えるだけなら誰でもできますが、その木を象の形に剪定するには熟達の腕が必要です」
ウィルヘルトが見つめ続ける中、ギサは両手を挙げ、口笛を吹いた。長く低いその音は彼の背骨の根元に引っかかり、まるで釣り針が魚をとらえたかのようだった。不意に彼は、抗えそうにない欲求に襲われた。斧を置いて彼女に従いたい。墓場から蘇って自分の軍隊を起こしてここにやって来た、強烈な意志を放棄したい。指揮官ではなく、彼女の気まぐれな欲求を執行する下僕になりたい。
腕が震え、重い武器を高く掲げる筋肉が不意に疲労し、彼もまた抵抗して震えた。同等な存在として彼女の隣に並ぶために来たのであり、下僕になるためではない。だがギサ・セカーニにとって、死者は決して自分と同等の存在ではない。同輩ではない。愛する者とはならない。愛玩動物のように扱うが、帰る場所にも快適さをくれるものにもなりえない。
自分は持ち物ではない。ウィルヘルト、自分を見つめた女性はひとり残らず息をのんだ――ひとり残らず、いや、ひとりを残して。そしてそれは自分にふさわしい唯一の女性だった。生前にグール呼びだったことはなかったが、自らの軍勢を立ち上げ、ここに連れてきた。だから屈しなかった。ギサが引き、ウィルヘルトは引き返した。ギサは力を込めた。ウィルヘルトはよろめきかけ、意志が屈しかけ、だがその直前に精神の掌握を取り戻して応えるように引き返し、ギサの息が切れて口笛が途切れると、自分たちの繋がりを断ち切った。
彼女は耳障りな咳を数度発し、そして疑いの目で彼を見た。「つまり、何がお望みなのかしら?」
彼はうなった。「僕は君の遊戯に引き寄せられた人形なんかじゃない! 美しきギサよ、僕に機会を与えてくれ。そうすれば素晴らしき死者として、君の同輩にふさわしいと証明してみせる!」
ギサは彼を睨みつけた。「ならいいでしょう。どのみち退屈していたのです」 そして彼女はスレイベンの門を抜け、断固として背後でその扉を閉じた。ウィルヘルトは街の前に軍勢とともに残された。勢いを削がれ、だが心は完全に自らのものだった。
ギサは音を立てて扉を閉め、身体をそれに押し付けた。まるで自分の細い身体が、あの男とその軍勢が自分の街の壁を破るのを防ぐ最後の一枚であるかのように。何てこと、ウィルハムが、ここに! スレイベンに、招かれてもいないのに、ここが自分のものであるかのように軽快に入ってきた! そして、何の助力もなしに蘇ってきたなんて。全くの能無しでもなかったかのように!
人は死んで、屍となる。グール呼びは彼らをグールに変え、世界に呼び戻す。もしくは弟のような肉屋は科学を用いて、見るも忌まわしい、誠意のない生の紛い物をそれらに吹き込む。まるで電気と化学的接続が古き良き屍術の代わりになるとでも言うように! 死んだ者が、自発的に蘇ってくるなんてありえない! いや、そう、ありうる、その通り。けれどこんなことはありえない! こんなのは違う! 要らない! こんなのは……
だらしない。そう、ふさわしい表現が見つかった。
だらしない、それでもどのみち歓迎だった、やるべき事ができたのだから。ゲラルフは自分こそが姉の唯一の敵だと考えているかもしれない。だが彼女はそれほど馬鹿ではなく、そしてあの……ウィルハムは思いもよらなかったものになってのけた。そして十分に厄介であり、まともな挑戦をくれるかもしれない。自分自身と最愛の玩具を対抗勢力に試す機会のようなものはこれまでなかった! そう、こんな日を待っていたのだ。
扉の反対側で何かが甲高く鳴り、ギサははっと背筋を伸ばして下僕を呼び、逃げ出した。あの死んだ男を怖れたのではない、そう、少しも怖れてなどいない。だが彼が全戦力とともにこの街の前に立っている一方、自分は離れた場所に護衛として数体を同行させていただけだった。彼が全戦力で入ってきたなら、こちらも全力で対峙してやろう。そしてどちらがこの不死の舞踏で優れているかを知るだろう。彼は学ぶだろう、それ以前の誰もが学んできたように、ギサ・セカーニを見くびった者は破滅するのだと。
そうして破滅した者は、そこで終わるのだ。自分が命令しない限りは。
ウィルヘルトが馬を急かすと、蹄がスレイベンの錆びた扉を叩き、深いこだまが響いた。やがて扉は一撃とその次の間に砕け、彼らの目の前に街が広がった。開いた突破口にウィルヘルトは軍勢を急がせ、自らはその先頭ではなく隊列の中央を進んだ。彼らは指揮者として自分を必要としており、そのためには向かう方向を把握する必要があった。
そう。それが絶対的な理由だった。怒れるグール呼びが自分の棲家に侵入されたらどうするかという曖昧な恐怖からではない。彼は軍勢を促すと、それらは自らの意志を持たずに進んだ。腐りかけた仲間の死体に上手く隠れる彼は、暗くなり始める空には気付いていなかった。
彼らは石造りの橋を通過し、渡り切ったところで、自分たちの進行に合わせて空の影が移動していると気づいた。ウィルヘルトは見上げた。
蝙蝠と鴉、大鴉とハゲワシが、うねるヴェールのように群がっていた。それらは腐敗した口を開け、腐敗した喉で叫び、襲いかかってきた。
最も力のあるグール呼びだけが口笛で獣をその穴から呼び、巣から出すことができる。そしてそういった群れを成すのを非常に好む傾向があるもの、鼠や蝙蝠の群れをグール呼びが手にしたらどうなるか。自由に操れる都市人口を手にしたギサも、例外ではなかった。アンデッドとなり、腐敗した鳥が空から降下してウィルヘルトとその軍勢に鉤爪で襲いかかった。彼らは敵を叩いて払ったが無益だった。ウィルヘルトは腕で顔を覆い、そして憤怒に吠えて斧を大きく振るい、鳥の破片が雨のように降り注いだ。彼は斧を振るい続け、そして飛ぶものを部下たちが宙で掴んで引き裂きはじめると、声をあげて笑った。
彼は馬を進めた。
《包囲ゾンビ》 アート:Johann Bodin |
彼らは街の大通りに踏み入った。かつては小さいながら賑わう商業地帯であったようだが、今や店は無人で、扉は半開きで、窓の中は見通せなかった。ウィルヘルトは軍勢を進めた。
大通りを半ばまで進んだところで、両脇の建物から死者が溢れ出た。両手を掲げて掴み、引き裂き、殺そうとしながら。
「ギィィサァァァァ!」 ウィルヘルトは吠え、周囲で戦いが勃発して斧を振り回した。彼の馬は後ろ脚で立ち上がり、鋭い爪の蹄をもろい頭蓋骨に叩きつけた。
「叫ぶ必要はなくてよ」 頭上の通路から、苛立った声が聞こえた。ウィルヘルトは顔を上げた。
「さあウィルハム。そんなことをする必要はなくてよ。彼らをもっと優れたグール呼びに差し出してはいかがかしら? 今終わりを迎えるよりも、その方が良いでしょうに……」
愕然とし、ウィルヘルトは自分の軍勢を振り返った。彼らは雄々しく戦っている。だが自分は軍勢ひとつに対して、ギサには都市ひとつの人口がある。一体を倒すごとに、更に三体がやって来て代わり、壊れた商店街から途切れることなく溢れ出てきていた。これが続くなら、自分たちは敗北する。彼はギサへと向き直った。
「断る」 彼はうなった。「君に証明してみせる、僕たちは玩具以上のものになれると!」
「どうぞ。自分の兵隊さんで遊んでなさい」 ギサは溜息をついた。「それではさようなら、ウィルハム」 そして彼女は振り返らず、大仰に去っていった。彼女の兵は押し寄せ続けた。
それでもギサは美しかった。今までと同じく、ウィルヘルトは彼女が去って行く様子を哀しく見つめた。ギサの死者たちは淡々と暴力的に、のろのろと彼の戦線でもがいていた。勝つ見込みはない――今や彼は理解した。だがあるいはギサの心を手に入れる手段は腕力や、あるいは脚の力や切断された首の力だけではないかもしれない。
ウィルヘルトは胸鎧の下に手を入れ、蘇生してから動かない心臓の隣にずっと持っていた手紙を取り出した。それは彼の指が単純な言葉を書けなくなるほど硬直する前に書かれたもので、グールの文字にしては今もまだ読みやすかった。きっとギサも、感銘を受けずにはいられないだろう。
軍勢に向き直ると、彼は最も腐敗が少なく比較的俊敏そうな一体を選び、その手紙を押し付けた。「行け。お前は僕からの彼女への贈り物だ。彼女に支配されるまで走れ。意志が屈する前にその手紙を渡してくれればそれでいい」
その男は手紙を受け取ると、足を引きずり、よろめきながら、ギサが去った方向へと急いだ。
ギサは広場のまさに中央に立ち、両手をほぐしながら呼吸ははやっていた。あの愚かな、とても愚かなゲラルフ以外の誰かとの戦いに、これほど興奮するはずがなかった。だがそうだった。あの「ウィルハム」は一体のグールに過ぎないかもしれないが、それでも軍勢を立ち上げて自分の所にやって来たのだ。あまりに鬱陶しい男だった――近いうちに自分の部屋に招くつもりはない――だが興味をそそった。それは認めてあげてもよかった。
一体のグールが広場に駆けこむと、まっすぐに彼女へと向かってきた。その手には封筒が握られていた。ギサが口笛を吹くと、その歌の釣り針が腐敗した心に沈むのを感じ、即座にそのグールをウィルハムの掌握から引き出した。今やきちんと支配され、やや落ち着いて歩いてきたその若者へと彼女は微笑んだ。そしてその手の封筒を引き抜いた。
中には一枚の紙が入っていた。ギサは瞬きをし、目を二度通し、それを小さく丸めて地面に投げ捨てた。
「美しきギサへ
僕は君のために生きた。君のために愛した。君のために死んだ。君のために蘇った。
僕が成してきた全ては、君に認められるためだった。
僕をどうか最高に幸せな男かグールにしてくれ。そして僕の女王になってくれ。
ウィルヘルトより」
ウィルヘルト。自分はそれほどまで重要なのだとでも言うように、名前を訂正してくるとは! とんでもない思い違いだ。私の縄張りにやって来て、正当に私のものであるグールを否定して、名前のように基本的なものが間違っているとほのめかそうとする!
あの男を倒す。それが結論だった。
腐敗した美形の指揮官を先頭に、侵略者の軍勢が広場に乗り込んできた。彼は初めて馬を降り、斧を手にして大股で向かってきた。
「ギサ!」
彼女は目を丸くしてみせた。「ええ、ウィルハム。自分の名前は知っていてよ。最後の機会をあげましょう――あなたのグールと、あなたを、私に捧げなさい。そうすれば生かして――ではないわね。でも言いたいことはわかるでしょう」
地面に転がる、丸めた紙くずを一瞥して彼は落胆した。「僕の誘惑に屈しない相手はいなかったのに」
「可愛いウィルハム、なにごとにも初めてがあるのよ」 鋭く素早く、彼女は口笛を吹いた。ウィルヘルトは自分の軍勢の支配が、再び見えざる力に奪われるのを感じた。ギサは自分たちを引き裂こうとしているのがわかった。ウィルヘルトは咆哮して引き返した。ギサはよろめき、それは僅かではあったがウィルヘルトは大いに喜んだ。僕は強い、見ただろう? 耳を傾けさせることができたんだ!
そしてギサは甲高い叫びを上げた。スレイベンの蝙蝠が一匹残らず襲いかかった。
《グールの夜遊び》 アート:Fajareka Setiawan |
蝙蝠のように小さいものがこんなにも多くの鋭い歯を持っているなど、あるいはこんなにも獰猛に攻撃してくるなど、ありえないように思われた。ウィルヘルトやその軍勢が一匹を叩き落すごとに、更に四匹が迫り、小さな金切り声を上げて露出したあらゆる皮膚を裂いた。自衛本能をはぎ取られた空飛ぶ齧歯類の嵐に、途切れない噛みつきの奔流に、鎧すら無力だった。
遂には、軍勢のよろめく残骸を隣に、ウィルヘルトは踵を返して逃げ出さざるを得なかった。二度目の、おそらくは最後の人生を最初と同じく唐突に終わらせないために。
大聖堂の階段を覆うステンドグラスの欠片の中をギサは注意深く進んだ。死者の悲鳴が今もうるさく耳に鳴り、落ち着きつつある心臓の鼓動をぼやけさせていた。もし弟より先に死んだとしても、ゲラルフは心臓が止まる音を自分に聞かせはしないだろうに! 人のものもそうでないものも、広場のそこかしこに屍の破片が散らばっていた。ゾンビの鴉がウィルハムの馬の目をつついていた。馬は倒れて首を切られ、頭は――それと両目は――少し離れた所に転がっていた。
ウィルハムもいなくなってしまった。彼の一片すら見つけられなかった。
彼女は血と肉にまみれた広場を眺め、溜息をついた。つまり、この遊戯はこれでおしまい。そう、いつでも次はある。
それに、ゲラルフは私に会いたがっていないだろうか?
最愛の弟へ
あなたは私がいなくて困っていると、その無駄だらけの人生には愛おしい姉の存在が必要であると私は結論付けました。今、あなたのもとへ向かっています。一週間のうちには到着するでしょう。私の部屋を用意しておきなさい。あなたの無能な女友達が見捨てた都市を私が忙しく統治していた間、あなたが何をしていたのかを見るのが楽しみです。
今一度、あなたを愛する姉として
ギサより
姉上へ
何ですと、やめて頂けないか! あなたの存在など必要としていない。愛する姉だったことなどないし、姉だというのも不幸にも一緒に生まれたというそれだけだ! 姉上は私の研究を邪魔するだけだ。どうかお願いだ、スレイベンを去らねばならないというなら、何処へでも行ってくれ。ここ以外のどこかへ。
敬具(決して敬いなどしていないが)
ゲラルフより
(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)
Innistrad: Midnight Hunt イニストラード:真夜中の狩り
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