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津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ プロツアー『カラデシュ』とその後の変化
津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ プロツアー『カラデシュ』とその後の変化
こんにちは!晴れる屋の津村です。
ここ2週間でプロツアー『カラデシュ』、そして「グランプリ・クアラルンプール2016」に「グランプリ・プロビデンス2016」と、スタンダードの大型イベントが続々と開催され環境にも大きな変化が訪れました。
プロツアーは、すでにみなさんがご存じの通り、八十岡翔太選手の優勝で幕を閉じました。
もとより世界最高の選手と評されることの多いヤソさんですが、この度の優勝をもってして改めて「八十岡強し」を世界に印象付けることとなりました。今週はそんなプロツアー『カラデシュ』前後の、そして翌週に開催されたふたつのグランプリまでのメタゲームの変遷を追っていきたいと思います。
プロツアー『カラデシュ』 ~《霊気池の驚異》をめぐるメタゲーム~
プロツアー『カラデシュ』 トップ8デッキ
- 優勝・「グリクシス (青黒赤) ・コントロール」
- 準優勝・「ジェスカイ (青白赤) ・コントロール」
- 3位・「白赤トークン」
- 4位・「白赤機体」
- 5位・「青赤《電招の塔》コントロール」
- 6位・「ティムール (青緑赤) ・《霊気池の驚異》」
- 7位・「4色機体」
- 8位・「白青フラッシュ」
プロツアーで台風の目となったのは「《霊気池の驚異》デッキ」でした。本格的なコンボデッキに属するこのアーキタイプは、多くのプロプレイヤーを惹きつけると同時に、プロツアーにおける最大の仮想敵となったのです。全体のデッキ分布では、事前の予想を遥かに上回る17.60%もの数字をたたき出し、プロツアーで最も使用率の高いデッキとなりました。
7 《森》 3 《島》 1 《山》 4 《植物の聖域》 3 《尖塔断の運河》 4 《霊気拠点》 -土地(22)- 4 《光り物集めの鶴》 4 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 4 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー(12)- |
4 《霊気との調和》 2 《発生の器》 4 《ガラス吹き工の組細工》 4 《織木師の組細工》 3 《有事対策》 2 《霊気溶融》 3 《コジレックの帰還》 4 《霊気池の驚異》 -呪文(26)- |
4 《儀礼的拒否》 4 《払拭》 1 《霊気溶融》 1 《否認》 1 《コジレックの帰還》 4 《天才の片鱗》 -サイドボード(15)- |
前回の記事でもお伝えしたように、デッキの動きはいたってシンプルです。《ガラス吹き工の組細工》や《織木師の組細工》といったカードで「エネルギー・カウンター」を溜めていき、そこから《霊気池の驚異》に繋がれば最速で4ターン目にして《絶え間ない飢餓、ウラモグ》や《約束された終末、エムラクール》が降臨するという仕組みです。
マシュー・ナス/Matthew Nassのリストは《光り物集めの鶴》と《有事対策》までを採用することで、4ターン目までに《霊気池の驚異》へとアクセスできる可能性を極限まで高められているのが特徴的です。
前述のように使用率が最も高かったことに加え、世界でも有数のチームである「ChannelFireball」の数名がこのデッキを選択したことで、《霊気池の驚異》の成功は約束されたかに思えました。しかしながら、いざ蓋を開けてみると、使用率の高さとは裏腹に「《霊気池の驚異》デッキ」が大成することはありませんでした。
このデッキは良くも悪くも、プロツアー前に目立ちすぎてしまったのです。プロプレイヤーの調整録を見ればほとんどの記事で《霊気池の驚異》を目にすることができますし、最終的に使用しなかった理由こそ人それぞれではありますが、いずれにせよプロプレイヤーたちがこのデッキを軽視してしまうことはなかったのです。
《霊気池の驚異》をわずか1マナで無効化してしまう《儀礼的拒否》。プロツアーではこのカードががあちらこちらで飛び交い、それこそ《霊気池の驚異》包囲網と言って差し支えのない光景が広がっていました。
3 《平地》 3 《山》 4 《秘密の中庭》 4 《感動的な眺望所》 4 《尖塔断の運河》 4 《霊気拠点》 -土地(22)- 4 《発明者の見習い》 4 《スレイベンの検査官》 4 《模範的な造り手》 4 《屑鉄場のたかり屋》 4 《経験豊富な操縦者》 3 《模範操縦士、デパラ》 -クリーチャー(23)- |
4 《蓄霊稲妻》 3 《耕作者の荷馬車》 2 《無許可の分解》 4 《密輸人の回転翼機》 2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文(15)- |
4 《儀礼的拒否》 4 《流電砲撃》 2 《断片化》 2 《空鯨捕りの一撃》 1 《領事の旗艦、スカイソブリン》 2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -サイドボード(15)- |
「《霊気池の驚異》デッキ」がどれくらい意識されていたか。それを最も分かりやすく示しているのが「Team MTGMintCard」考案の「4色機体」デッキです。環境最速のビートダウンデッキである「白赤機体」をベースに、万能除去呪文である《無許可の分解》、そしてサイドボードに《儀礼的拒否》が加えられています。
このリストの秀逸な点は、《耕作者の荷馬車》の採用でしょう。
《屑鉄場のたかり屋》と《無許可の分解》のために黒を足す構築はプロツアー前から見かけることがありましたが、《儀礼的拒否》まで手を伸ばしたリストはほとんど目にする機会がありませんでした。《耕作者の荷馬車》であれば攻撃力を落とすことなく3色や4色の実現に踏み切ることができますし、こういったカードの取捨択一はさすがの一言。プロツアーの翌週に開催された「グランプリ・クアラルンプール2016」でも見事に栄冠を勝ち取っていますし、今現在「白赤」系統のデッキで最も注目度の高いアーキタイプだと言えます。
このデッキが象徴するように、多くのデッキが色々な形で《霊気池の驚異》を強く意識してわけですが、そんな中で栄えあるプロツアーの決勝戦にたどり着いたのは、《霊気池の驚異》に対してより直線的なアプローチを施したふたつのコントロールデッキでした。
5 《島》 2 《沼》 2 《山》 4 《窪み渓谷》 3 《燻る湿地》 4 《尖塔断の運河》 2 《さまよう噴気孔》 4 《進化する未開地》 -土地(26)- 4 《氷の中の存在》 2 《奔流の機械巨人》 -クリーチャー(6)- |
4 《流電砲撃》 1 《儀礼的拒否》 3 《予期》 3 《蓄霊稲妻》 2 《否認》 1 《精神背信》 3 《苦い真理》 3 《虚空の粉砕》 2 《光輝の炎》 2 《無許可の分解》 1 《本質の摘出》 2 《天才の片鱗》 1 《秘密の解明者、ジェイス》 -呪文(28)- |
3 《稲妻織り》 2 《儀礼的拒否》 1 《否認》 1 《精神背信》 2 《餌食》 1 《光輝の炎》 2 《即時却下》 2 《慮外な押収》 1 《秘密の解明者、ジェイス》 -サイドボード(15)- |
6 《平地》 4 《島》 4 《港町》 3 《感動的な眺望所》 1 《尖塔断の運河》 4 《さまよう噴気孔》 4 《霊気拠点》 -土地(26)- 2 《大天使アヴァシン》 3 《奔流の機械巨人》 -クリーチャー(5)- |
4 《蓄霊稲妻》 3 《予期》 3 《鑽火の輝き》 1 《神聖な協力》 3 《光輝の炎》 3 《虚空の粉砕》 1 《停滞の罠》 4 《天才の片鱗》 2 《即時却下》 1 《隔離の場》 2 《燻蒸》 2 《ドビン・バーン》 -呪文(29)- |
3 《呪文捕らえ》 1 《保護者、リンヴァーラ》 3 《儀礼的拒否》 3 《否認》 1 《神聖な協力》 1 《燻蒸》 3 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -サイドボード(15)- |
「グリクシス」と「ジェスカイ」。決勝に進んだ2人が選んだのは、3色目こそ異なれど、ともに古典的なコントロールデッキでした。メインボードから無理なくカウンター呪文を搭載できるこの戦略は、《霊気池の驚異》が幅を利かす環境での最適な解決策になったのです。
準々決勝でRomao選手が披露した一方的な虐殺劇は、彼らが週末にいかにして《霊気池の驚異》を打ち破ってきたのか、そしてこのマッチアップがどれほど「《霊気池の驚異》デッキ」にとって絶望的なものかを知らしめる絶好の舞台となりました。
これらコントロールデッキの懸念材料としては、一度着地してしまった「プレインズウォーカー」に対して無力なことですが、ヤソさんはインタビュー(参考::プロツアー『カラデシュ』現地レポート 2日目・3日目編)で「プレインズウォーカーが少ない環境だと読み切ってこのような形に仕上げた」と仰っており、ずば抜けた環境把握能力と構築能力をもってしてこの度の優勝を掴み取ったことが伺えます。
このまましばらくはコントロールデッキの天下が続くのかと思いきや、それを良しとしないのが昨今のスタンダード環境の奥深さと面白さです。翌週に開催された「グランプリ・クアラルンプール2016」と「グランプリ・プロビデンス2016」では、プロツアーとは全く異なる結果が待ち受けていました。
グランプリ・クアラルンプール2016/グランプリ・プロビデンス2016
グランプリ・クアラルンプール2016 トップ8デッキ
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グランプリ・プロビデンス2016 トップ8デッキ
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ずらりと並んだ「白青フラッシュ」と「黒緑昂揚」の文字。「白青フラッシュ」は、プロツアーの成績優秀者デッキで9勝1敗に4人が名を連ねており、それを受けてか両グランプリを通じて使用者が非常に多く、2日目進出数でも「クアラルンプール」・「プロビデンス」ともにトップの数字を記録しています。
10 《平地》 6 《島》 4 《港町》 4 《大草原の川》 1 《ウェストヴェイルの修道院》 -土地(25)- 4 《スレイベンの検査官》 4 《無私の霊魂》 2 《鎖鳴らし》 4 《反射魔道士》 4 《呪文捕らえ》 4 《大天使アヴァシン》 -クリーチャー(22)- |
1 《石の宣告》 4 《停滞の罠》 4 《密輸人の回転翼機》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文(13)- |
4 《折れた刃、ギセラ》 1 《保護者、リンヴァーラ》 1 《消えゆく光、ブルーナ》 1 《断片化》 2 《石の宣告》 1 《否認》 4 《呪文萎れ》 1 《秘密の解明者、ジェイス》 -サイドボード(15)- |
《密輸人の回転翼機》と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》による多角的な攻撃と、「瞬速」カードの多さによる対応力の高さが魅力的なデッキがこの「白青フラッシュ」です。
古くからこの手のデッキの最大の強みは、対戦相手のみ窮屈な試合運びを強いられる点です。リストが知れ渡った今であっても、5マナをオープンでターンを返してきたこのデッキに最適解を打ち出すのは至難の業です。
また、「白青フラッシュ」と「黒緑昂揚」に共通する項目として、1枚でゲームメイクできる「プレインズウォーカー」の存在が挙げられます。
コンボデッキが激減し、ミッドレンジやコントロールデッキが増えたことで、これら「プレインズウォーカー」は日増しに存在感を増しています。みなさんもご存じのように、これらのカードを数ターンも放置してしまうとあっという間にゲームが終わってしまうので、今後は《破滅の道》や《餌食》といったカードでの対策が必須になるでしょう。
8 《沼》 7 《森》 4 《花盛りの湿地》 4 《風切る泥沼》 1 《荒廃した湿原》 -土地(24)- 4 《森の代言者》 3 《不屈の追跡者》 2 《ゲトの裏切り者、カリタス》 2 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》 1 《害悪の機械巨人》 1 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー(13)- |
4 《ウルヴェンワルド横断》 2 《発生の器》 1 《死の重み》 4 《過去との取り組み》 4 《闇の掌握》 2 《精神背信》 2 《殺害》 1 《餌食》 3 《最後の望み、リリアナ》 -呪文(23)- |
1 《約束された終末、エムラクール》 1 《死の重み》 1 《精神背信》 3 《人工物への興味》 2 《鞭打つ触手》 2 《知恵の拝借》 1 《本質の摘出》 1 《失われた遺産》 1 《餌食》 1 《生命の力、ニッサ》 1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 -サイドボード(15)- |
「黒緑昂揚」に関しては、特別にプロツアーで結果を残したデッキというわけではありません。ですが、プロツアーからの大きな変化として、「《霊気池の驚異》デッキ」が著しく数を減らしたことが挙げられます。
「黒緑昂揚」は長期戦に強いため、各種コントロールデッキに非常に相性が良く、それでいて「白青フラッシュ」や「白赤機体」に対しても《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を用いた鉄壁の防御で対抗することができます。
ただし、全く別の軸から攻めてくる《霊気池の驚異》だけは相性が悪く、サイドボード後にいくら手札破壊などを入れようともこのマッチアップの相性差が改善されることはありませんでした。しかしプロツアーの結果を受けて《霊気池の驚異》が激減したため、ようやく「黒緑昂揚」が活躍できるフィールドが整ったというわけです。
また、環境の低速化に伴い、《不屈の追跡者》も以前と同様の評価を得られるようになりました。
各リストの細部こそ異なるものの、Magic Online上で最大規模の大会であるMOCSでもトップ8に5名を送り込む大車輪の活躍を見せており、今後も「白青フラッシュ」と同様に環境を牽引していくであろうデッキです。
6 《沼》 5 《森》 4 《花盛りの湿地》 4 《進化する未開地》 4 《風切る泥沼》 -土地(23)- 4 《残忍な剥ぎ取り》 3 《不屈の追跡者》 1 《巡礼者の目》 1 《ゲトの裏切り者、カリタス》 3 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》 1 《害悪の機械巨人》 1 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー(14)- |
4 《ウルヴェンワルド横断》 2 《発生の器》 1 《死の重み》 1 《悪意の調合》 4 《過去との取り組み》 4 《闇の掌握》 2 《精神背信》 2 《殺害》 3 《最後の望み、リリアナ》 -呪文(23)- |
1 《節くれ木のドライアド》 1 《歯牙収集家》 1 《約束された終末、エムラクール》 1 《自然のままに》 2 《精神背信》 2 《人工物への興味》 2 《鞭打つ触手》 2 《知恵の拝借》 2 《餌食》 1 《生命の力、ニッサ》 -サイドボード(15)- |
おわりに
今週の「津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ」は以上です。スタンダード環境は《霊気池の驚異》をめぐる環境から、「白青フラッシュ」と「黒緑昂揚」が存在感を増す環境へと変化しました。どちらのデッキも高い対応力と爆発力を兼ね備えており、それでいて強力無比な「プレインズウォーカー」を有しているのが特徴的です。これら両デッキにしっかりと勝ち切ることは難しいですが、これからは「プレインズウォーカー」を対処できることが必須科目となるかもしれません。
今週末には「グランプリ・ワルシャワ2016」・「グランプリ・サンティアゴ2016」も開催されますので、スタンダードがお好きな方はそちらの結果もお見逃しなく!
それでは、また次回の連載で!
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