READING

開発秘話

Latest Developments -デベロップ最先端-

『テンペスト』の再構成

authorpic_samstoddard.jpg

『テンペスト』の再構成

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年5月1日


 『テンペスト』は私のお気に入りのリミテッド環境の1つですが、必ずしも上手く歳を経ていったとは言えません。私の考えでは、『テンペスト』は発売されたその時よりもはるか先の時代を行っており、その前に出た『ミラージュ』やその後に出た『ウルザズ・ザーガ』や『メルカディアン・マスクス』よりもとても優れたリミテッド環境でした。加えて、『インベイジョン』よりも優れているという議論も多く行われました。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストは会社として多くの事柄を正しく行ってきましたが、過去18年間でセットを作ることについて多くの事柄を学びました。

 今回の記事では、1997年から学んだことのうちほんの一部についてと、『テンペスト』を現在のリミテッド環境の水準に「リマスター」するために加えたものについて、そして『Tempest Remastered』とオリジナルの『テンペスト』の比較をお話ししたいと思います。


呪われた巻物》 アート:D. Alexander Gregory

コモンの除去

 時々、私はコモンの除去の弱さについての苦情を聞くことがあります。ええ、それらはかつてよりも大幅に弱くなっていますが、私はそれが悪いことであるとは考えていません。リミテッド環境はコモンの除去の強さによって大きく定義され、それが強すぎた時はかなり大きなバランス崩壊が起きることがあります。このような除去があると爆弾クリーチャーを相手にしても大した問題にならないというポジティブな影響がありますが、それは......全てのクリーチャーを相手にしても大した問題がないということを代償になされたのです。クリーチャーがどんな回避能力を持っているか、もしくは「戦場に出たとき」の能力を少し気にするぐらいになりますが、 それ以外は気にしなくなります。

 では、『テンペスト』にどんな除去やそれに近いものがあるのでしょうか? 見てみましょう......

[????]

 これらのカードのうち《弱体化》や《平和な心》のようなカードはごく最近にも収録されています。しかし多くは現在のコモンで我々が行うことのラインを越えています。《転覆》、《闇への追放》、《とどろく雷鳴》はほとんどのアンコモンやレアでさえも見かけることのできるカードよりも強力で最高にアウトな奴らです。確かに、人々に毎回レアをピックしてほしくはありませんが、1枚のコモンがほとんどのレアよりも強い場合、ゲームはかなり似たような結果になるでしょう。

 単にパワー・レベルだけでなく、我々は各色のバランスが取れていないという事実を抱えています。近年では、特に緑が格闘のキーワード能力を使い始めてから、我々はかなり良い除去のバランスを保てています。黒と赤がコモンで最高級の除去を持っている傾向であることは事実ですが、皆がその対戦相手と......彼らのクリーチャーとやり取りをする十分な手段を持っています。これは我々の『Tempest Remastered』での真の課題で、黒と赤の除去を現実的なレアリティに移すことは簡単でしたが、我々が緑にできたことは強力な強化呪文と《誘発》のような格闘もどきを入れることが精一杯だったからです。

 残りの『Tempest Remastered』の除去は我々がそれぞれの色で許可しているものに近いレベルで配置され、勝負になるデッキを作るために黒か赤をやらなくてもいいようになっています。また我々はかつてのコモン全体除去である《とどろく雷鳴》と《エヴィンカーの正義》をアンコモンにして、以前の『テンペスト』での盤面を一掃しすぎることによる阻害要因を低下させました(しかし完全に取り除いたわけではありません)。


要求されるマナ

 『テンペスト』の時代は、土地を引かなさすぎる以外にも負けパターンが存在していました。しばしば2色デッキの1色を引けていないというだけで負けていたのです。9ターン目に{R}{R}のカードを握りしめ、それらを唱えられるようになる2枚目の《》を待ち続け、引いてくるのは《》ということもあるかもしれません。ああもう!

 我々はこの手のランダム性を完全になくしたわけではありませんが、ここ数年のリミテッドでもう少しマナ基盤を増やすことと(『テンペスト』のそれはとても少なく、かつかなり弱いものでした)、コモンのコストの設定を変えることで緩和しようとしてきました。

 現在のデベロップは、全てのカードの色マナ・シンボルの数を、とりわけコモンにおいてよく認識しています。最近のほとんどのセットを見てみると、4ターン目より前に唱えたいと思うカードで2つ以上の色マナ・シンボルがあることはとても稀です(多色でないなら)。その理由は至って単純です――特に2色デッキにおいて、我々は可能な限り色事故でゲームが決まらないようにしたいと思っているからです。

 『Tempest Remastered』の問題の1つは、カード・プールに他のブロックのものを使うことができず、《訓練されたアーモドン》の代わりに《ケンタウルスの狩猟者》を入れたりできないことでした。従って、このセットの中にはまだ少し色の不満は残っていますが、オリジナルの『テンペスト』よりもずっと少なくなっています。幸運なことに、我々はブロックの3セットからカードを選んだり、同じように各色のカードを我々が現在のセットでコモンだと考えているものに近づけるためにレアリティを変えるなどの手段を持っています。これは赤で最も顕著で、もとの『テンペスト』では7枚のコモンが赤の{R}{R}コストか火吹き能力を持っていました。

 多くのゲームが色事故で決まってしまうであろうことに疑問の余地はありませんが、私は『Tempest Remastered』ではオリジナルの『テンペスト』よりもそれが決定的要因になることは少なくなると胸を張って保証できます。

コモンの対策カード

6circles_of_protection.jpg

 『テンペスト』の白を見てみると、コモン21枚中11枚がクリーチャーです。それだけなら今のほとんどのセットよりも少ないだけなのですが、多分もっと驚くべきことは残された10枚のスロットが6枚の防御円で埋められていることです。一度は白のカラー・パイの主要な部分だと考えましたが、我々は過去18年に渡る長い道のりを経て、防御円をプレイして相手の勝ち筋を完全に潰し、回避能力を持ったクリーチャーでジワジワとなぶり殺しにすることは全く楽しくないということに気づきました。

 全体として、我々は色対策を印刷することを避け、それがリミテッド環境のためなのは言うまでもありません。初期のマジックでは、激しく壊れたデッキが環境を支配することを防ぐ極めて強力なサイドボード・カードがあることに意味がありました。このことですぐに明らかになったのは、サイドボード後のゲームで《沸騰》、《寒け》、《日中の光》のようなカードがマジックを楽しくしている多くの双方向性を奪い去ってしまうということでした。こうなると「おお、それに対するシルバー・バレットを俺は持ってて、それを引いたぞ! お前の負けだな」だけでゲームが決まってしまいます。プレイヤーが相手に何もさせなくするのではなく、自分のデッキの戦略を強調するか、相手に対して良くするようなサイドボーディングのほうがずっと良いと、我々は考えています。

 《サルタリーの僧侶》のようなカードは依然としていくつか存在しますが、現在我々はリミテッドを考慮して印刷しないようにしています。『Tempest Remastered』に選ばれた大多数のカードは、人々を閉め出すのではなくリミテッドのやり取りの性質を最大限にするものです。

『テンペスト』らしさを保つ

 さて、ここまで私は全ての相違点についてたくさんお話ししてきましたが、我々が『Tempest Remastered』で保っている『テンペスト』らしさについてもお話ししたいと思います。

 リシドはその複雑で直感的でないゲーム・プレイのため取り除かれましたが、コーやスリヴァーのような、単純に新世界秩序に沿わない多くの『テンペスト』のカードを残そうと我々は取り組みました。このようなセットは「Magic Online」上でのみ存在し、何か新しいプレイヤーを惹き付けるようなことはとても考えられず、ここで我々は、通常のセットにおけるリミテッドの雰囲気の鍵となる特徴のいくつかを壊す機会を得ます。あるプレイヤーはそれを好み、またあるプレイヤーはそうではないかもしれませんが、当時のデザインとデベロップの理想の多くを明確に呼び起こすでしょう。

 また、『テンペスト』を素晴らしいセットにした最も楽しいカードやメカニズムへのプレイヤーの期待を試し、叶えることも我々にとって重要なことでした。つまり、『テンペスト』と大きく数が違ったとしても、シャドーとバイバックを『Tempest Remastered』でも確かに表現するということでした。我々はまた、スリヴァーやスパイクといった『テンペスト』のリミテッドで楽しく興味深いカードを収録する機会も活かしました。今日では我々が多く作ることはないようなクリーチャーですが、我々の目標は『テンペスト』を小さくまとめて「オリジナルのセットの基本セットバージョン」にすることではなく、オリジナルのセットから最も良いものを取り上げ、そしてゲーム・プレイの改善をすることであり、これらを収録することはその目的を補強する助けとなるのです。

 今週はここまでです。来週は『モダンマスターズ』についてお話しします!

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索