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楽しさのためのバランス調整
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楽しさのためのバランス調整
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年5月3日
プレリリースの週も終わって、私は皆さんが地元のショップに行く時間を作り、そして新しいセットのもたらすものを経験していることを願っております。とはいえ、発売週を迎えたので構築フォーマット、特にスタンダード向きのカードのデベロップについて少しお話をしようと思います。今週お話しするカードは『ドラゴンの迷路』のファイルに一月ちょっと存在していたものです。あなたはこのカードを覚えているかも知れませんね。
《稲妻のらせん》
{W}{R}
インスタント
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。稲妻のらせんはそれに3点のダメージを与え、あなたは3点のライフを得る。
我々が『ドラゴンの迷路』に(そして本当はラヴニカへの回帰ブロック全体に)求めていたことのひとつは、旧ラヴニカ・ブロックの懐かしい人気カードを呼び戻すことでした。《化膿》は言うまでもなくそのままの形で戻ってきました。《ワームの到来》と《大軍のワーム》の両者は《包囲ワーム》を召喚します。《強行 // 突入》の《強行》はやや小型の《不可思の一瞥》です。《ボロスの布陣者》は毎ターン小型の《手練れの戦術》を唱えます。《ラル・ザレック》の奥義は《時の縫い合わせ》を5回唱えます(これに気がついた人はいましたか?)。これらはラヴニカへの回帰ブロックで似たようなものを呼び戻したうちのほんの一例です。奈落の中で、旧ラヴニカ・ブロックを気に入らないという人を探すのはかなり難しいでしょう。
『ドラゴンの迷路』のデベロップに入った時点で、《稲妻のらせん》のコストが{R}{W}では少し安すぎるとわかっていました。もし今日始めてこのカードを印刷するなら、多分我々はコストを{1}{R}{W}から始めていたでしょう。しかし、セットを印刷するときには多少のリスクを冒さなければならず、そして《稲妻のらせん》はテストするのに見合う十二分な名声を持っていました。我々はこのカードをセットに入れて、フューチャー・フューチャー・リーグ(以下FFL)に入れるよりまだ前に試してみました。結局、2ターン目の《稲妻のらせん》、そして《ボーラスの占い師》でさらに《稲妻のらせん》を手に入れたり、もしくは《瞬唱の魔道士》からの4ターン目《稲妻のらせん》フラッシュバックにかなうアグロ・デッキはありませんでした。うーむ。
多くの人々が《稲妻のらせん》が再録されないことを悲しむのは分かっていましたし、我々が軽い気持ちで決定したわけではないことをはっきりさせたいと思います。我々は本当にこのセットに《稲妻のらせん》を入れたいと望んでおり、そしてそれによく合うかもしれないセットが将来あれば進んで再び試したいカードでもあります。誰も楽しめないような仕事をするようデベロッパーに釘を刺すのは簡単ですが、実際にはそうではありません。我々は誰もが可能な限り楽しめるようにしたいと思っていますし、そのためにはカードを印刷するかしないかについての難しい決断が必要となるものです。しばしば、楽しくするには印刷されたものを見るだけでなくプレイを見る必要があるカードもあれば、ぶった切るしかないカードもあります。カードパワーと楽しさの概念を分離するために我々は開発部でいろいろなことをしています。
ひとまず《稲妻のらせん》のことは置いといて、『ドラゴンの迷路』の新しいカード、《死橋の詠唱》について話をしましょう。私は《死橋の詠唱》が非常に楽しいカードであると気付きました。あなたはそう思わないかもしれませんが、全てのカードが万人向けのデザインをされているわけではありません。そこにはワクワクするほどのランダム性だけでなく、リアニメイト先の大型クリーチャーをデッキに入れておくことと、毎ターン望むカードを戻すために墓地のカードを十分に取り除けるようにしておくこと、両方への明確な見返りがあるのだとわかりました。私はFFLでこのカードを基にしたかなりの数のデッキをプレイし、そしてそれが概ね良い感じであると分かりました。これはデッキを構築した私に利益を与えましたが、私がこれを中心に構築したときに対戦相手が倒せないようなカードではありませんでした。現実世界の構築でこれを見るかもしれないし、見ないかもしれませんが、我々はこのカードの結果に満足しています。
このカードが5マナならもっと楽しくなるでしょうか? 確かにそれはより強力になるでしょうが、それが実際にもっと楽しくなるかどうかは分かりません。カードは楽しむために強くある必要はなく、カードパワーが助けるのはゲームに勝つことです。ゲームに勝つことは一般的にゲームに負けることよりも楽しいものですが、我々はカードと、デッキの間でのやり取りが勝敗に関わらず両方のプレイヤーにとって楽しいものであることを望んでいます。我々は競技レベルのスタンダードのカードパワーの範囲内に楽しいカードを作り、それがプレイされるのを見られるように努力していますが、それがプレイされないことも予想されます。6人のデベロッパーがデベロップの中で時間を費やしたぐらいでメタゲームを解析できてしまうようでは、その後の現実世界のプレイヤーからの圧力から生き残る見込みはないでしょう。
秘密は、マナを軽くしたり数を増やしたりしてより強いカードを作るのは簡単だということにあります(この両方を組み合わせることもできます)。難しいのは、結果としてゲーム内の他のカードの楽しさを損なわないように、そのカード自体を楽しくするための最もバランスの取れる可能性のある数を見つけることです。
私がデベロッパーになったときに私の頭を包んでいた最初の事柄は、我々が取り組んでいる数字は全て変わりやすいものだということでした。あなたが印刷されたマジックのカードを見るとき、「もう1マナ安ければいいのに」「2枚じゃなくて3枚引けたらなあ」と独りごとを言うかもしれません。ええ、それはマジックのデベロップ・チームだけが持つ特別な力です。我々がそれらの数字を決定します。我々は異なる事柄を試して、最良の数字が何であるかという考えを得ます。時々元々のデザインが正解であったり、そしてまた時々はそのカードにとってもっとよく機能する数があります。それは単にマナの増減以上のものです。時々、我々はマナを2倍にして効果を3倍にして、カードを我々がセットの中で求めるバージョンにします。時々、マナを軽くして条件や欠点を加えます。他の場合には、カードにある数字全てを吹き飛ばして、似たような役割の何かを探しますが、セットにとってより重要だと考えられる方法で行います。
《死橋の詠唱》 アート: Zoltan Boros |
これらの変更全ては、我々が奈落について話す、楽しさの総量という1つの大きな概念に大抵組み込まれています。詳しく説明しますと、人間ができる最も楽しいものを1とするなら、0は中間、そして-1は人間が考えうる最悪の時間で、我々は2人の人がマジックのゲームをプレイして合計した点数が2に近づくことを目標としています。この点数を打ち出すことはとうてい合理的な目標ではないのは明らかですが、単にカードのバランスを取れるようにするだけではないデベロップの決定について説明してくれます。マジックは楽しさの観点からはゼロ・サム・ゲームではありません。人々は単純に勝つこと以外でも楽しむことができ、またそうするでしょうし、そして我々はプレイヤーに自分のゲームをプレイしながら対戦相手と有意義で楽しめるやり取りをする機会を与える必要があります。
一般的に競技レベルではない(土地破壊やその他のロック効果の)カードが多く印刷されるのは、それらがゲームの楽しさの総量を著しく減らすからです。これらのタイプのカードを楽しむプレイヤーが少ないとは言いませんが、自らの呪文を唱えるマナがないために有意義なやり取りができない場面でゲームを楽しんでいるプレイヤーを私はほとんど見たことがありません。マナ・スクリューやマナ・フラッドといったマジックのデザインが先天的に内包しているものを原因としてそういったゲーム・プレイが起こることはありますが、我々が提示する手段がそのような状況と戦うプレイヤーにとって不満をさらに増すだけのものであるとしたら、全く良くないのです。いくらゲームがメカニズム的にバランスの取れたものであろうと、誰もそれを楽しんでいないのでは意味がありません。
我々がリスクを冒すときはそのカードがあればもっとゲームが楽しくなると信じているときですが、しばしば我々はゲームをより良くするために、最終的に個々のカードを強すぎないものにします。例えば《死橋の詠唱》の場合は、そのマナ・コストを0、もしくはマイナスまで下げることができたはずですが(そしてどうかマット・タバック/Matt Tabakに私がこの提案をしたことを知らせるのだけは許してください)、その結果ゲーム全体が全く楽しくないものになります。そして実際に《死橋の詠唱》が0マナの自分だけの《吠えたける鉱山》だったならば、どんなデッキにでも4枚入れないわけがないですよね?
それでは本題のカード、《稲妻のらせん》に話を戻しましょう、これは初期のテストにおいて強力すぎるとされました。これがデベロップの仕事がある理由であり、この過程はデザインで止めることはありません。我々はここで楽しさと公正が両立するようにします。あるカードの存在が全体の戦略をふさいでしまっている場合、デベロップには基本的に2つの選択肢があります。(1)問題を起こしているカードの周りのカード全て(とスタンダード)をパワーアップしてバランスを取る。(2)問題のカードがフォーマットを歪めないように微調整する方法を考え出す。
我々は本当に《稲妻のらせん》をこのセットに入れたかったのですが、スタンダードのバランスを取るために我々ができる単純な方法は存在しませんでした。ザック・ヒル/Zac HillはFFLの会議で、このカードをやめて、既存の絵を使えて同時に『ラヴニカ:ギルドの都』の元々のカードを呼び起こさせる別のデザインを見つける決定を下しました。我々は《瞬唱の魔道士》の存在によって、どうやってもこのカードを2マナ以下にできないことを知りました。「瞬唱」された魔除けは十分に強く、それらのデッキにそれ以上「瞬唱」対象を増やす必要はありませんでした。我々は2点のダメージの代わりに2点のライフを得ることにした《黒焦げ》を採用しようかとわずかに議論しましたが、結局その代わりにこのバージョンに落ち着きました。
〈らせんの稲妻/Helix of Lightning〉
{1}{R}{W}
インスタント
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。らせんの稲妻はそれに4点のダメージを与え、あなたは4点のライフを得る。
これは何日かテストされ、そして我々はまだ効率的すぎてフォーマットのアグロ・デッキを締め出してしまう問題を抱えていると判断しました。次の段階では、3ターン目と5ターン目に唱えにくいコストを見つけようとして、その結果《瞬唱の魔道士》でフラッシュバックしたときにより大きな効果を持つようになってしまいました。
〈らせんの稲妻/Helix of Lightning〉
{R}{R}{W}
インスタント
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。らせんの稲妻はそれに4点のダメージを与え、あなたは4点のライフを得る。
悲しいかな、スタンダードの色マナサポートは我々が3マナに課せられる最も難しいマナ・コストを扱うのにも十二分なほど強力だったのです。ラヴニカへの回帰・ブロックではなく別のブロックであればこれは機能していたかもしれません。
《戦導者のらせん》
{2}{R}{W}
インスタント
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。戦導者のらせんはそれに4点のダメージを与え、あなたは4点のライフを得る。
我々が最終的にセットに収録を決定したカードはこれです。これは依然としてアグロやミッドレンジ・デッキに対して強力ですが、これらのデッキの存在を阻害しない十分な重さのマナコストであるとわかりました。《戦導者のらせん》、《至高の評決》、《スフィンクスの啓示》を使うデッキは重いカードが多く、また軽いカードが十分ではないので、プレイヤーはそれぞれのカードを何枚デッキに入れるかといういくつかの興味深い決断をしなければならず、いつでも自動的に4枚入るカードを持っているよりもずっと楽しいのです。
我々はそれぞれのカードがどのように全ての人々にヒットするか、または全てのカードが全ての人々を満足させるだろうかを知っているとは言えません。セットのデベロップの間どこにでも矛盾は起こりますが、我々はできる限り人々が楽しめるようにゲームを作る過程をデベロップしたと思います。我々は全てのカードを正しくしようとはしませんが、カードがあるべきようにする大まかな流れは作れていると思います。
サム
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