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フローとフィエロの彫りだし
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フローとフィエロの彫りだし
Zac Hill / Translated by Shin'ichiro Tachibana / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2012年3月2日
ある種のカンファレンスやエキスポや集まりなどなどの折りに、誰かが私の間抜けなマジック・デベロッパー用ドラゴンハットを取って欲しいとせがんだり、(いつか確かめてみてくれ―言ってみれば夢の国のミッキーのやつみたいなもんで、「つば」だけだが我々のスタイル基準に合っている)、知的学問としてのゲームデザインについて、幅広いストロークで話してくれと頼んだりする。そこで今日はそれに似たようなことをしよう。
大抵DailyMTG.comでは、マジックを作る工程について話す。 だが、より広いゲームデザインについては全くと言っていいほど触れていない。実際、ゲームデザインというフィールドは急成長している。現在、私は高校求職求人フェアで、勉強しろ、栄養を取れ、果敢にトップデッキしろなんて話していたが、社長が、将来何になりたいかを彼らに尋ねた結果の概要を見て完全に閉口させられている。1位の回答は――医者。なるほど。命を救いたいと。うん、うん、うん。そして、その次にあがっているのが?
ゲームデザイナーだ。
我々は16ピクセルの宇宙船やラインダンスするエイリアンから大きな進展を遂げてきた。今日のゲームデザインは、政策分析、応用生化学、発達心理学、教育といったさまざまな分野から成り立っている。言い換えれば、ゲームデザインについての情報量は信じられない割合で増え続けている。そして、われわれ開発部はその実情を把握しようと努めている。
今まで読んだ中で最も良いゲームデザインの本は何かとよく聞かれる。当然それはいくつもあるし、もしあなたが開発部の別の10人に聞いたなら10の異なる答えを得ることだろう。 しかしながら、そのうちの私が特筆すべき2冊を挙げるとするならば、Jesse SchellのThe Art of Game Designと、Jane McGonigalのReality is Brokenだ。(リンク先はともに英語)
これらの本の内容をここで要約したところで、どうやっても言葉足らずになってしまうだろうから、それらについて総括的に話すこともやめておこう。だが両書の共通の要点を挙げるなら、ゲームは、それによって呼び起こされるプレイヤーの感情的な反応と、プレイヤーにもたらす経験があるからこそ有意義なのだ、という考え方である。今日の記事は、これら両方の情報源から抽出してみよう。特に、他のメディアに比べてゲームがよりよく掘り出すと考えられる、フローとフィエロと呼ばれる2つの反応について見てみることにする。
なんという感覚だろう
私がそれらの経験に踏み込む前に、ひとまず、感情的なかかわりという概念について検討しておこう。プレイヤーがどう感じるかがゲームデザインの関心の中心であるべきだということは、決して直観的なものだとは言えない。大抵の現代メディアの与える刺激が原始的で、本能的で、感覚通りなのに比べ、多くのゲームで与えられる刺激は、高度に抽象的で、まったく別次元に存在するようなものではないか? 場合によっては、著者が制御しない――つまり、プレイヤーがゲームの筋道を操作する――ということは、ゲームデザイナーは感情的な経験を作り出し、読者と共有できるなどということはありえないのではないか?
人々がゲームをするには何らかの理由があるということには、誰もが同意するだろう。つまり、あらゆるゲームをゲームたらしめている属性のひとつに、ある意味で喜んで働くというものがある。ほぼ必ず解決するべき問題が存在する。そして、その問題の解決には、ほぼ必ず、ある種の方向性を持った行為が必要だ。――もしくは少なくとも方向性を持った行為という幻想が存在し、それは場合によって実際の行為よりも強力なものでありうる。さらに、その問題を解決するための最も効果的な方法を見つけるのには、ほぼ必ず努力を要するものである。ボールを地上から10フィート上空にある輪の中に投げ込むとか、弾丸の雨嵐の中で戦場の向こうにあるスナイパーのアジトに手榴弾を投げ込むとか、何千もの選択肢から60枚のカードを選んでデッキを形作ってそれらのカードが展開されたときに必要な何百もの難解なルールを覚えながら対戦相手の20点あるライフを0点へと減らすとかいうことは、そう簡単なものではない。
《記憶の熟達者、ジェイス》 アート:D. Alexander Gregory |
努力が要求されることをする場合、人々はその努力の価値を表すために、対価を要求する。毎日労働しに行くといったように何かをするとき、お金や利益といった形で対価が得られる。――そのときでさえ、脳は外発的報酬を嫌う。だが、何百万の人々が、何百万のさらに何百万もの時間をゲームに費やし、プレイするために金まで支払う。我々はみんな馬鹿なのか、あるいはなにかに酔っているのだ!
これがゲームデザイナーとしてのあなたにとってどういう意味をなすかというと、もし、あなたが人々に喜んで働いてもらおうとするなら、何か彼らを酔わせるようなものを用意すればよい。アマチュアゲームデザイナーの最大の誤りを1つ挙げろと言われれば、体験してみた人々からの好評を期待するだけで、何の経験も生み出さないようなシステムを作ってしまうということが挙げられる。
その上、今対象としているメディアの強みを最大限活かすような形のプレイを生み出すように経験を仕立てなければならない。例として、カードゲームは順を追った物語を表す効果的な媒体ではないと言うことは、ウェザーライトのストーリーから我々が学んだ教訓の一つだと私は考えている。逆に、文学の著者としては、ここシアトルのRichard Hugo Houseで行なわれた経験の種類についての授業で、フィクションは伝えるための良い方法であると教わった。順を追った物語は、フィクションの一形式であり、発展的な内観、共感的な認知、などなどの母体である。だが――話を戻そう――実際のところ、フィクションは(たとえば)フローの経験やフィエロの瞬間を伝えるのには非常に不向きなのだ。対照的に、ゲームはそのような点で非常に素晴らしい。
私はゲームが芸術の形をなしているか否かのディベートの火ぶたを切りたいわけではない。しかしながら、もし芸術の創造の過程に、特定のメディアにおいて共感される経験を最大化するということを含むのであれば、ゲームというメディアが再現において秀でている種類の経験が存在するということになる。フローとフィエロはそれらの中のチーフだ。
だから、えー、正確にはそれらは何か?
ゾーンの中に入れ
ほとんど常に、人々はゲームについて「最大化された呼び覚まされる経験」などという過度に鍛造された言葉を使って話したりはしない。彼らは楽しかったと言う。だが、「楽しかった」は、私の好きな記述方法によると「我々の周りの世界における楽しく激しい行為」であるところの「プレイ」に基づいている。
やがて、(ゲームデザイナーとして)基本的には人々に大体決まった順番で対処すべき問題を提供する、ということを意味する「行為カーブ」と呼ばれるものにそって「プレイ」することをデザインできるようになる。全力を尽くせば太刀打ちできるようなレベルのものと向き合った瞬間、「フローの中にいる」と言えるだろう。
チクセントミハイ博士 |
フロー経験というのは人間が楽しめる、最も普遍的で陶酔するような経験の一つだ。心理学者ミハイ・チクセントミハイはそれを「満足させ、うきうきさせる、独創的な達成感を機能的に高まらせる感覚」のようなものと定義する。 実のところ彼はフローの研究に彼の生涯の10年近くをささげた。 我々はそれをどこで見つけるのか? なぜ我々はそんなに楽しめるのか? そしてその秘密とは一体何か?
チクセントミハイはフロー経験の中心となる3つの要素を発見した:明確な目的、厳格に定義された行為のルール、そして、それらの目的やルールの構成に基づいて評価できる進歩の可能性だ。
《集団意識》 アート:Steve Argyle |
なぜそれはそう働くのか?
その環境の内側では、我々は強力であることを感じている――世間一般が満たされているのを感じる。これは我々がゾーンにいると言っているときは、何を意味しているかということだ。すぐに、我々は弱点を打開したり過ちから学んだりして、そして学習したことの報酬として障害を乗り越えていく。我々の急速に学習する能力が我々を特徴づける種の特質であるとするならば――我々が地球上で優位に立つための、最も信頼性のある特性と言えるかもしれない――激しく急速な学習の、とてもはっきりとした心理的な報酬だという主張が理解できるだろう。
ガッツポーズをする
フローが人間の学習の容量の高さを――そして、その結果勝利することを――表すのなら、フィエロは勝利したことによって発生する対価だ。
マゴニガル博士(リンク先は英語)によると、フィエロというのは「考えようによっては、経験できることによる最も原始的な快感のようなもの」だ。それはどんな理由であれ、障害を征服したときに得られる、我々にとって感情的に重要な快感だ。タッチダウンダンス、ガッツポーズ、プレミアリーグで誰かが得点を入れたときの「ゴーーーーーーーール!!!!!」と叫ばなければならない衝動をもたらすような、奇妙で現実離れした力のことだ。
より難しい挑戦には、より大きな対価が得られる。つまり、我々は我々だけの体験を再確認することを愛している。だが我々が乗り越える障害は本物のようなものでなければならない。もし誰かにマジックを教えるとき、もしプロツアーの決勝のようにプレイヤーを徹底的に叩きのめす機会を楽しんだりするというのであれば、それは私は違うと思う。他方では、現代のキブラーとフィンケルの準決勝のような、非常に優れた洗練されたゲームは良い演出のダンスのようで、そういったゲームで勝った瞬間は何を意味するかを本能的に感じられる。その根底にある意味はフィエロ衝動で、それは熟達を証明する喜びを含み――そして熟達は我々が生涯で最も強烈な挑戦と遭遇する能力があると感じる手助けをする。
《主の存在》 アート:Ciruelo |
何かが我々をその限界へと後押しする中で、それに立ち向かったなら、その勝利は基本的かつ本質的に実在していると感じられる。それは強力な動機づけだ。実際に、スタンフォード大学脳科学科の研究者は、それが我々を安全な洞穴の群れから出させ、世界を征服しようとする冒険へと駆り立てたのだと仮定したのだ!
感情の原動力
フローとフィエロ、それら2つの感情的な反応はゲームが作られるうえで極めて役立つ。だがマジックではどのようにあてはまっているのか?
順に見ていってみよう。
先に指摘したように、フローは以下の3つに依存している:目的、ルール、前進だ。より率直で明確にそれらをそれぞれ定義していけば、全体の経験がよりフローへと近づいていくことになる。加えて――先に話した行為カーブに起因して――これらそれぞれのパラメーターは健全である必要がある。すなわち、あなたがゲームの深みを目指していくと、あなたの理解の急成長に比例して相応に挑戦のハードルが上がる。
そして、目的という観点から言えば、マジックは明らかに成功している。もっとも基本的なレベルで、あなたは達成すべきことは1つだ。対戦相手のライフを20から0に減らす。それだけだ。現在、マジックはそのための無数の方法の可能性を提供しているが、目的はとても明確なままだ。結局のところ、あなたがプレイをすればするほどあなたの目的は進化していく。対戦相手がカードを使い果たさせるか、毒を10回受与えればいいということを学ぶ。カード・アドバンテージについて学び、そしてそれがどうして目的になりうるのかを学び、どんなときでも誰がカードが何枚持っているかに気を払うようになる。マナ・カーブについて学び、ゲームで毎ターン脅威になるものを展開するという別の目的を見つける。目的はゲームの理解の拡大に比例して現れていくのだ。
《高まる野心》 アート:Volkan Baga |
マジックのルールの信頼性についても似たようなパターンがわかるだろう。メジャーでダイナミックなたくさんのゲーム同様、マジックのルールは非常に複雑だ。だが、その複雑さにはある種の信頼が組み込まれている。それはいかなる突飛なものでも、その相互関係において常に正しい答えが存在する。だから、常にあなたはあなたが操作しているシステムの内部や、何ができて何ができないかがわかっている。それはフローの作成には不可欠である。現実世界では、我々の環境に影響を与えるためにどうすればいいかは確定して折らず、その結果不安になったりする。相互作用を明確に定義したルールの下では、我々は満足できるし、ルールに安心できるのだ。繰り返すが、マジックをより理解すると、その「ルール」を理解することによって適正なゲーム行動をとるようになる。カラーパイのようなシステムは、あなたが戦略や色の組み合わせの限界を学習し、そしてそれらの限界をテストを学習していくにつれ、さらに重要になっていく。いつ攻撃し、いつブロックするかについて経験則を開発すると、シチュエーションが変化したとき「ルール」の自由なセットを曲げたり修正することを学習する。繰り返すが、経験して学んだことというのは強力だ。それはそれ我が前へと進むことを助ける。
最終的に、最後の例は、前進の必要性を暗に示している。さらにもう一度、とても基本的なレベルで、マジックの最初の複雑さは、様々なシチュエーションでマジックに関する理解を前進させていくということを意味する。「おぅ、インスタントってすごいことができるんだ」「ああ、飛行ってなんて強力なんだ」。デッキ構築はこの感覚を非常に強く含んでいる。「わあ、この《歩く死骸》は《愚鈍な虚身》よりも格段にいいなぁ」「おー、この《破滅の刃》はすげぇ! おれはこれを当然デッキに4枚入れるぜ。」 あなたの技術の向上にともない、あなたの理解が深まり新しい出会いの価値を最大化する。「ここは4ダメージのために3ダメージを受け入れるべきだ。なぜなら自分のクリーチャーには回避能力があり、彼女が私のクリーチャー用のチャンプブロッカーや除去カードを引くよりも、私が対戦相手のクリーチャー用のチャンプブロッカーや除去カードを引く方があり得る話だ。」「《存在の破棄》を1枚入れておこう、俺の《秘密を掘り下げる者》デッキにはサーチカードはいくらでもあるし、デッキリストにくずカードが入ったとしてもヤバいカードに対処できる価値のほうがずっと大きい 。」 もっとずっと複雑な理解だって出てくる! うさぎの穴に飛び込んだような深みが待ち受けているのだ。
フィエロの瞬間を定量化するのは難しい。マゴニガルはそれについて「乗り越えるための挑戦を切望すること、戦闘に勝てること、危険を征服できること」のようなものだと記述している。 明らかに、対戦相手が《大喰らいのワーム》を召還したときはいつも、それは手を付けるべき小さなミニクエストだ。そしてマジックのゲームの全体的な枠組みは組み込まれた一連の戦い、小さな勝利の連続によって、征服のクライマックスが形作られている。
《征服者の誓約》 アート:Kev Walker |
フィエロ衝動は非常にたくさんのマジックプレイヤーが「ティミー」カテゴリーに分類されるのと同じ理由に根差してるもののような気がする。それは単なる挑戦、戦い、征服ではなく、意味のある挑戦、戦い、征服だ。私にとってフィエロは壮大なもの、物語の意味をしみこませたものへ参加しようとする欲求によって決定される。そして、マジックは地球上で一般的な物語のイベントを経験するのに最良の媒体だろう。私がプレイヤーに会うたびいつも、彼らの持ってくるゲームの経験における壮大な物語に次ぐ壮大な物語で圧倒される。クレイジーコンボ。全軍攻撃。50,000の苗木と216,000/216,000 《カメレオンの巨像》。各《複製の儀式》を全てキッカー込みで唱える。それらが一緒になれば、ある種の勝利の協奏曲、最高の経験の証。みなそういったフィエロ物語を持っている――しばしばその集合体を持っていることもある。こんなに多くの、こんなに速い、こんなに規則的に生成される他の経験はまず存在しない。それらは壮大で、それらは純粋で、それらは真実だ。
ゲームをしない人たちの多くは、多くの人々が何から何までとても人工的で、構築された経験に多くの時間を費やすのかに戸惑い、深い困惑を覚える。それは自然な反応だ。 私も非常にたくさんの時間をゲームのために費やしてきたが、私はそれが人間のニーズに根差しているのではっきり人気であると理解している。彼らは他の芸術の形に根差した方法で実際の人間の感情を呼び起こす、だが時折触ることができない。フローとフィエロはそれらのうち最も率直な2つだ。
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