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プロツアーがもたらすもの

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プロツアーがもたらすもの

Zac Hill / Translated by Shin'ichiro Tachibana / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年2月10日


 プロツアー・闇の隆盛特集へようこそ!

 実際のところ、私は皆さんが言うような「冷静」とか「地味」とか「デリケート」とかいった類の人間ではないのだと言っておかなければならない。だから私がこの週末のプロツアーに興奮しているというのは決して驚くべきことではないのだ。

 なぜか?

 うむ、それはひとつに私にとってホノルルで行われたプロツアーが今でも心の中に生きているからだ。どれが1番よかったかなど決められない―6ドルステーキのお店、海の家、カラオケ、《血編み髪のエルフ》の続唱から《前兆の壁》がめくれたときのようなある種の緊迫感。選択肢が多すぎる!私は選択肢5番、10500ドルの現金を選択するのが正解だろうね......。

#sickbrags


Samuele Estratti

 エヘン。さて、余計な自己満足はこれくらいにして、プロツアーには他にもたくさんの楽しみがある。我々は全面的にカバレッジを刷新し、ストリーミングで3日間にわたってビデオを放送したり、過去に例がない、あなたの好きなプレイヤーの最先端のデッキ構築技術へアクセスを行うことにした。1カ月が経過してネットのデッキやドラフトのビデオによりプレイヤーのやる気が失われる前の、印刷されたばかりの闇の隆盛から2週間後のプレイに注目した。また我々はフェイスブックのアプリとしてファンタジープロツアーを誕生させ、あなたは自宅に居ながらにして、快適にこのイベントの一員として参加することができるのだ。

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 私は何をするのか? おそらくビデオカメラの前で話す機会は逃さないだろう。つまり、闇の隆盛のリミテッドの開発についてと、注目の世界のスタンダード調合を生み出すその筋の専門家としてブースに収まっているだろう。十中八九、私の話なんかよりもプレイヤーとして併催イベントのドラフトに参加して負ける方がよっぽどためになると思う。私はそれを「学習経験」と呼び、もっと正確に言えば「負けなさい」ってことだ。

 プロツアーがこのように魅力的な経験であるという理由として、私は100万の項目をリストに挙げられる。私が覚えている限り――1995年にパーキンズレストランの店内でダーウィン・カッスルの写真を撮った時から、弱冠15歳でプロツアー・ニューオーリンズ2001でデビューし、現在では、私の作ったカードでプレイヤーたちが熱い照明の下、フィーチャーマッチエリアで対戦しているのを眺めている今日まで――それらは私の人生の一部となっている。プロツアーを学ぶことが開発工程において重要だと言うと、みなさんを驚かせるかもしれない。それはバロメーター、すなわち健全な環境へのストレステストだ。なので、今日はプロツアーのダイジェストな結果とそれを組み込んだ開発サイクルについて話すことにしたい。 私の仕事はそれなしではずっと難しいだろうと言えば十分だろう。

期限までに押しこめ

 世界の優秀なプレイヤーたちが、あなたのゲームを壊れるほどまでに曲げることによって、それが開発工程を簡単にするということは全く直感的ではないだろう。何しろ彼らは環境のあらゆる盲点を突き、あなたの誤りを冷徹に罰する。プロツアーがなければ、我々の手を離れたものが、見通しを不透明にしたり、最終的に大きな被害をもたらさないかという懸念でちっとも落ち着けない。

 ええと、いうなれば。

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 ガチンコの競技プレイヤーは問題を作るのを好むだけでなく、さらにそれらを解決するのも好きなのだ。

 まず、少し話を戻そう。

 ウィザーズ・オブ・ザ・コースト本部の四方を囲んで行われる内部プレイと、実際の世界でのプレイのと間には大きな違いが存在する。この違いは根本的なもので、その本質は時間の関数としてセットのプレイパターンと逆であるということを示す。

 あなたは開発部が各セットの最終版で通常何回くらいドラフトをすると思っているだろうか?

 その答えはあなたを驚かせるだろう。開発においてリミテッドのプレイテストは驚異的な強度と頻度に行われるにもかかわらず、ブースターから出てくるような最終的なカードのバージョンでドラフトするのはおそらく1回かせいぜい2回だ。

 なぜか? ええと、我々がプレイテストしているとき、我々はおかしいと感じて変更するべきことがあるかということに目を配っている。変更するべきことがなくなったとき―我々の仕事は終わるのだ! 4つ程度のセットが同時進行する中、我々は日々限られた時間の中で開発をしているということを考えて欲しい。我々に完成版のセットでドラフトを何回もするような、気ままでぜいたくな時間は存在しないのだ。もちろん、終わったということを確認するために1回か2回はプレイするが、それで終わり、それで終わりなのだ!

 同様に、我々の構築プレイテストのサイクル(フューチャー・フューチャー・リーグ(リンク先は英語))は週ごとを基本にしていて、変更を加えることなく1週間が過ぎるようなら、大抵翌週には新しいセットのカードをFFLに加える。

 これが何を意味するかというと、マジックのあるセットのプレイパターンというのは、内面的には、たくさんの電源系ゲームで見られるものに似ている。我々は、プレイして、微調整して、プレイして、微調整して、プレイして、そして微調整をする。を繰り返す。環境の変化は非常に早いが、環境の中身を変革させる能力は比較的制限されている。なぜなら、環境は意表をついたり変化したりしがちで、あなたはそれに続き、合わせようとする。それゆえに、戦略的なメタゲームではなく製品開発が圧倒的にフォーマットの進化の変化させるのだ。

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 しかしながら、現実世界では真逆に機能する。カードのメカニズムは一定に保たれ、カードの展開方法に応じて進化する。我々がセットをリリースしたとき、我々は絶えず進化し続けるゲームのピースに「ストップ」をかける。いわばフットボールのスローイングのようなものだ。工程と変化が複雑なセットはとても正確に的を射るような驚異的で複雑なワインドアップを生み出すが、しかしいったんあなたがボールを手放すとそれがどこへ行くかを見守ることしかできない。開発工程は我々に計画(フットボールで言えば、フィールドの空間支配)を備えさせ、必要であれば認知し反応する時間や生物力学的な調整をするためとても近くにボールを配置するが、それを1回投げることしかできない。

 その時点からあなたたち(フィールド上のプレイヤー)は起こったことに主導権を与えられる。あなたは千回、二千回、三千回...とゲームをプレイする。あなた方はお互いに反応する。あなたは我々が与えたツールをその最大限のポテンシャルで展開する。あなたは我々が思いもよらなかった新しいツールを作り出す。最終的に、我々がそれ作り上げフロントエンドに置かれているすべての作業にもかかわらず、一連のゲームプレイ体験によりあなたが現実を形作るのだ。

 「わかりました。」とあなたは言う。そして「私は、あなたの疑わしく、不器用かつ明瞭に表現された、おおげさな隠喩を受け入れようと思います。がしかし、それはプロツアーと何が関係しますか?」と聞くだろう。

 プロツアーは我々に次の道を用意させてくれる。必ずしも解法を用意できるとは限らないが、それは唯一の問題解決のための場所なのだ。

非常事態に割り込む

 同じ環境で全くプレミアイベントがなくなったことを想像してみてほしい。人々はマジックをたくさんプレイするが世界中の強豪プレイヤーが、実証された環境で勝ちをめざし全力でプレイする最高峰のイベントが存在しなくなる。カードプールは同じままなので、強力なデッキは存在するだろうが、それらにお目にかかることはできないという違いがある。

 今、あなたは強力なイベントサーキットがないと、最初の段階で強力なデッキが創造されないということに異議を唱えるかもしれない。それは正しいかもしれないが、我々のゲームは100万人近くのプレイヤーがプレイしていて、(カジュアルなものもあるが)そこには必ず勝者と敗者が生まれている。人々は最適化した戦略を見つけるだろう。だがプロツアーがなければ、我々には実際にその手腕をこらした戦略を評価する場が存在しない。これが地方レベルで何を意味するのかというと、制圧的なデッキアーキタイプに対して(a)主流でない対抗的な戦略で対抗するプレイヤーがなす術がなく、また(b)必ずしもそれらに対処するために環境中に存在するソリューションを持っていない。となる。なぜならウィザーズにいる我々はそれらの解法を提供することができないからだ。

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 さらに言えば、プロツアーにおいてプレイヤーが強い戦略を発見するというだけでなく、彼らはそれを打ち倒す戦略を発見し、その上その能力により我々がどのようなカードを開発すればよいかを教えてくれる。これらの順を追った対応は新たなる戦略("このフォーマットには、殺さなければならないタフネス1のクリーチャーが多い。私は《悲劇的な過ち》をそれらへプレイすることを想定し――そして、このカードは《瞬唱の魔道士》と実に相性がよかった!")をなし、さらなる対応を我々は求められる。プロツアーがめぐってきたとき、我々は予測能力を評価する機会をえ、かつ現実がどのように実際に機能しているかに適合する機会を得ているのだ。これにより「何がこの環境にとって実際によいのか?」という質問に対する答えを検証することができる。我々の予想が正しかった場合、どのようにその決定を行ったかというデータが我々の財となる。我々の予想が正しくなかった場合、我々がなぜ間違ったかを検討し、再び同じ間違いを繰り返さないようにその工程を見直す。

 これは実際に成功しているだろうか?

 我々はプレイヤーたちが停滞した環境を嫌う傾向があることを理解している。つまり、1年前にイベントを制圧したデッキがそのまま今のイベントも制圧するようなことがないようにすることが重要だ。そのことから、我々のセット開発スケジュールはプロツアーが終わるのと合わせて終わらせている。プロツアーが行われたのち、われわれは最良のデッキを使用して、新環境に適合させてみる。我々はそれらを戦わせて、最高の戦略を思いつくことができ――そして、我々は大抵いくつかのことを学ぶ。私たちが倒すことができるデッキについては、それは通常、問題がない。つまり我々8人ぐらいが仕事を終えられると判断すれば、100万人のプレイヤーたちは全く問題なくプレイができるわけだ。もしそれができなかったならば、その結果に応じて対応をしなければならない。最近も少し話したが、この工程で《大貂皮鹿》や《強情なベイロス》がどのように生まれたかについて話したが、これは2番目に重要な仕事である。断然もっとも重要なことは、既に存在している制圧的な戦略に翌年のセットでさらなる燃料を与えないことだ。もしわれわれがこれをやらなければ、私たちが生み出した「対策カード」が、より強くなってしまった古いデッキに勝てるかどうかがわからなくなってしまうからだ。

活性化し、たたき込んで、トップデック

 今回の記事の中でこれまでに私は"戦略"や"環境"といった種の語をうんざりするほど書いた。そのハイライトは、私には、開発部における私たちのすべての種類の素晴らしく抽象的な性質の意思決定を毎日確認する必要がある。我々は世界の半分を漂う。我々は小さなシュレディンガーの猫、つまり、果てしない可能性が秘められている。そののち締切が来て、セットが完成し、それが世に出て、私はキッチンカウンターで、うおぉと叫びながらパックを開封する。これが真実だ。この時点では、すでに違うゲームだ。我々は何も変えられない。何もできない。

 プロツアーは我々に有意義に反応する機会を与えてくれる。

 もちろん、親切にも観念化され、丁寧に切り分けられたバージョンに私たちは反応する。それが最低限重要なことだ。私も、Craig Jonesが《稲妻のらせん》をトップデックした瞬間や、Gabriel Nassifが《記憶の点火》を宣言した瞬間、Lachmann と Van Lunenが15分という時間でプロツアーチャンピオンになった瞬間を見ているときにはそんなことを考えてはいない。今日の締めの言葉として、プロツアーは経験―それも他に代えがたき経験である。それらの一部分は私にとって最高の時間に含まれているのだ。

 ここDailyMTG.comにチャンネルを合わせ、あなた自身も体験してくれ!

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