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『霊気紛争』のリード

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『霊気紛争』のリード

Ben Hayes / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年1月3日


 こんにちは! 僕はベン・ヘイズ/Ben Heyes、マジック開発部の上席ゲーム・デザイナーで、『霊気紛争』のリード・デベロッパーだ。

 他の会社では「デベロップ」というと普通科学技術的なものを指すけれど、ここウィザーズではゲーム・デザイン工程の後半のことを指すためにこの単語を使っている。この工程では、最初のデザイン・チームが作り出した素晴らしいアイデアを取り上げ、それら全てを組み合わせて可能な限り多くの人々が満足するような形にすることに焦点が置かれている。デベロップの工程には、そのセットやメカニズムを簡単に理解できるかどうかから、競技的なリミテッドや構築環境を調整することまで全てを含むんだ。

 『霊気紛争』は『カラデシュ』ブロックの、『カラデシュ』の次のセットで、舞台と、多くの発想を共有しているので、この工程を通して最大の難問は、このセットを『カラデシュ』と比較してどう位置づけるかというあたりにあったんだ。『霊気紛争』を『カラデシュ』と違う独特のものにするにはどうするか、『カラデシュ』で作り上げられた枠組みをどう広げ、どう補完するかってこと。

 詳しい話に入る前に、まずは僕の素晴らしいチームを紹介するよ。

チーム

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ベン・ヘイズ/Ben Hayes(リード)

 いま自己紹介したとおり、僕はこのチームのリーダーだった。今回に到るまでにも、僕は『統率者(2015年版)』『統率者(2016年版)』『マジック・デュエルズ』『コンスピラシー:王位争奪』のリード・デベロッパーだった。『カラデシュ』ではデザイン・チームとデベロップ・チームの両方に在籍していたので、このチームが立ち上がる前からこのブロックに1年以上関わっていたってことになる。今回のようなプロジェクトでリーダーを務めるのは僕にとって夢だったから、ついに日の目を見ることになって本当に興奮してるんだ。


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サム・ストッダート/Sam Stoddard

 サムはマジック開発部の上席デザイナーで、デベロップ・チームの一員で、そしてこのチームで私の「次席者」の役割を担っていた。彼はこの時点で2つのセットでリーダーを務めていて、工程を通して僕を素晴らしく導いてくれたんだ。サムは『マジック・オリジン』と『異界月』のリード・デベロッパーで、「Latest Developments -デベロップ最先端-」の筆者でもあるんだ。


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イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer

 イーサンはマジック開発部の上席デザイナーで、デザイン・チームの一員で、僕のグループではデザイン代理を務めていた。工程の間を通して、繰り返しの中でセットの穴を埋める必要があるときに多くのカード・デザインをしてくれたんだ。それだけでなく、イーサンはこの上なく有用で多彩なプレイヤーの視点をチームにもたらしてくれた。チームの彼以外のメンバーは全員プロツアー出身だったけど、彼はもっとカジュアルなプレイヤー経験を持っていたんだ。イーサンは『統率者(2014年版)』『統率者(2016年版)』『ニクスへの旅』『ゲートウォッチの誓い』でリード・デザイナーを務めていたよ。


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アダム・プロサック/Adam Prosak

 アダムはマジック開発部のゲーム・デザイナーで、デベロップ・チームの一員だ。それに、彼は『霊気紛争』の初期デザイン・チームの一員でもあったので、このチームでの彼の役割はデザイン・チームが掘り下げてきたことに関する知識を共有し、最終的な決定に到るまでにどんな流れがあったのかを伝えることだった。アダムはフューチャー・フューチャー・リーグというプレイテスト工程に大きく関与しているので、このセットでスタンダードにどんな影響を与えたいかという話に移行したときにとても役立ったんだ。アダムは『Tempest Remastered』のリード・デザイナーで、『Legendary Cube』『エターナルマスターズ』『モダンマスターズ 2017年版』でリード・デベロッパーだった。


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ヨニ・スコルニク/Yoni Skolnik

 ヨニはマジック開発部のゲーム・デザイナーで、デベロップ・チームの一員だ。『統率者(2016年版)』『コンスピラシー:王位争奪』の両方で僕と一緒に働いていて、そのどちらでも広い視野を見せてくれたんだ。ヨニはセットや環境に関する素晴らしい大局観を持っていて、発想を伝えると素晴らしい建設的なフィードバックをくれる相手としてチームに迎えるのは素晴らしかったよ。今言ったチーム以外にも、ヨニは『戦乱のゼンディカー』と『モダンマスターズ 2017年版』のデベロップを手がけていたんだ。


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ティム・アーテン/Tim Aten

 ティムはマジック開発部のエディターで、もうウィザーズからいなくなった。ティムはもともと『霊気紛争』のデベロップ・チームには名前がなかったけど、開発部内で指折りのプレイヤーで、公式にチームに所属していたメンバーと同じぐらい深く関わり、同じぐらい多くの良い変化をもたらしてくれたから、そのことを認める意味で彼をこのリストに加えるのは僕にとって大事なことだったんだ。ティムは『タルキール龍紀伝』『戦乱のゼンディカー』『イニストラードを覆う影』『カラデシュ』『アモンケット』『破滅の刻』のデベロップに関わっていた。最近では「ジェパディ!/Jeopardy!」(編訳注:アメリカのクイズ番組)に参加して8回勝ち抜き、10万ドル以上手に入れたんだ!

 さて、チームの紹介も終わったし、いよいよ僕らが作ったセットの話をするよ。

紛争!

 どのマジックのセットでも最も重要な要素の1つが、メカニズムだ。ある種の能力がメカニズムになったら、普通、何枚ものカードに持たせることになる。そして、何枚ものカードが同じ種類の能力を持つとなったら、それは当然そのセットをプレイするときの経験に大きな影響がある。これはある意味では当然に聞こえるけど、新カードに接したときにはそういう基礎を見失いがちなんだ。新メカニズム、新カード、そう、これがそれだ!

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 紛争は、『霊気紛争』に独自性を持たせ、『カラデシュ』から離れるという目的のメカニズムだ。フレイバー的に言えば、紛争は、アーティファクトを生け贄に捧げて「有効にする」ことができるなどの形での、過去の発明を新しい発明に再利用するというアイデアと、対戦相手にクリーチャーが殺されたり機体が破壊されたりしたら「有効になる」などの形での、復讐や反撃というアイデア、この2つの異なるアイデアを形にしたものなんだ。

 紛争は『カラデシュ』の、驚異の可能性と発明というテーマと組み合わせるととても自由度が高くしてある。カードが墓地に行ったときだけでなく戦場を離れることで有効になる上、クリーチャーやアーティファクトだけでなくどんなパーマネントでも有効になるようにしてあるんだ。組み合わせの可能性を高め、エキサイティングになるように意図的にそうしてあるんだよ。

 環境に紛争のようなメカニズムがあると、新しい文脈でいくらか強くなるような既存のアイデアの新しい形を作りたくなるはず。たとえば、こんな感じで。

 これは、まあいろんなセットで登場するような類のカードだよね。『霊気紛争』の世界で《旅行者の護符》はどんな形になるかというと......。

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 ある部分を多少弱体化させた(これを唱えたターンにはこれで土地を持ってくることはできなくなった)代わりに、今回のテーマやメカニズムと組み合わせるともっと有効に働くという形で強化したんだ。《精緻会の改革派》と組み合わせてみると、《旅行者の護符》ではどうやっても第2ターンに追加の霊気装置を手に入れることはできないけれど、《改革派の地図》なら問題ないんだ。

 こういったプレイ環境を作る中で僕が一番面白かったのは、みんながよく知っている効果の中から選んで、考えて見つけられるような新しい要素をプレイヤーに提供できるように応用するというところなんだ。

さらなるエネルギー

 エネルギーを『霊気紛争』でどうするかという問題は、『カラデシュ』で始めたことをどう膨らませたいかという話になるんだ。『カラデシュ』を見たら、エネルギーが5色に均等に配分されているわけではないのは明らかだよね。ゲーム・デザイン的に言うと、色や戦略に独自性を持たせるための方法なんだ。何かを導入するときにはいいことなんだけど、『霊気紛争』はこのブロックの締めくくりだから、『カラデシュ』でカードや選択肢が少なかった色にもエネルギーを与えるべきだと思ったんだ。このブロックを終わるにあたって、プレイヤーはあらゆる色の組み合わせでエネルギー・デッキを組めるようになるんだよ。

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 《光袖会の収集者》はエネルギーの消費効率がよくて、回避能力があるからエネルギーの頼れる供給源にもなる。他の多くのエネルギー・カードと同じように自分の生み出したエネルギーだけでも充分有用だけど、他の形でエネルギーを大量に余らせることができるデッキでこそ進化を発揮するんだ。単純に、《光袖会の収集者》を唱える前、第1ターンか第2ターンに《霊気拠点》を出しておくだけでも、1ターン待つことなく次のアップキープにカードを引くことができるんだ。

今でも君は発明家だ

 『霊気紛争』では、新しく表したいテーマがいくつもあるけど、このブロックの中心的なアイデアはそのまま残したいと考えていた。知性を感じられる、創造性や発明心を発揮するための新しい方法は、『カラデシュ』から発明家気分を引き継ぐために不可欠なものなんだ。

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 時々カードに登場する、僕がのめり込むほど好きなフレーズがあって、「あなたはこのゲームに勝利する」はその1つなんだ。この段落を読む前から、《機械化製法》をどうやって使おうかと頭のギアが回転を始めてるかもしれないから、余計なことは言わないよ。

 さて、『霊気紛争』のプレビュー・カードを公開していくらか話してきたけれど、みんなには僕のチームが作るのを楽しんだのと同じようにこのセットをプレイするのを楽しんでほしいんだ。僕が答えられるような質問があれば、そうじゃなくてもただこのセットについて喋りたいだけでも、@benbhayes宛にツイートしてほしい。できるだけ返事はするからね。

 読んでくれてありがとう!

――ベン

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