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カンのデベロップ

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カンのデベロップ

Erik Lauer / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2014年9月8日


 私の名前はエリック・ラウアー/Erik Lauer、マジックの主席デベロッパーを務めています。また、私は『タルキール覇王譚』のリード・デベロッパーでもあります。私が最近リード・デベロッパーを務めたセットは『テーロス』、『ラヴニカへの回帰』、『Modern Masters』、『イニストラード』です。

 まず、『タルキール覇王譚』のデベロップ・チームをご紹介しましょう。


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 ダグ・ベイヤー/Doug Beyerは、『タルキール覇王譚』に携わったクリエイティブ・チームの一員です。このセットがうまくプレイされるようにするだけでなく、彼はカード・ファイルの配置やクリエイティブ的観点がデベロップの過程を経て向上していくようにすることの責任者でもありました。


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 デイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは上席デベロップ・マネージャーで、『ニクスへの旅』『ギルド門侵犯』『アヴァシンの帰還』のリード・デベロッパーも務めていました。


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 トム・ラピル/Tom LaPilleは経験豊富なデベロッパーで、『神々の軍勢』『闇の隆盛』『マジック2012』のリード・デベロッパーでした。


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 アダム・プロサック/Adam ProsakはDaily Decksを書いているデベロッパーで、『Vintage Masters』のデベロップ・チームに所属していました。


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 ショーン・メイン/Shawn Mainは『タルキール覇王譚』のデザイン・チームのメンバーです。このセットがうまくプレイされるようにするだけでなく、彼はデザインが下した判断の理由を説明する会議に出席していました。そうすることで、デベロップはデザインの目的とデベロップの目的の間で、カード上でバランスを取ることができるのです。


デザイン、「デヴァイン」、デベロップ

 デザインがセットを手がけて、その次は「デヴァイン」の時間になります。デザインがセットを扱うのですが、デベロップからも頻繁にフィードバックを送るのです。その後、デザインはそのセットをデベロップへと手渡すのです。

 デヴァインの重要課題の1つが、3色構造を完成させることでした。マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterと私はこのセットのどれだけのプレイが3色であるべきかと議論をしました。ドラフトにおいて、5~6人のプレイヤーが3色デッキを(楔1種類ごとに1人)、1~2人のプレイヤーが2色デッキ、場合によって1人が4色以上のデッキをドラフトするのが理想だと私は考えました。この配分そのものがどれぐらいの割合で起こるのかはわかりませんが、このセットのテーマが有効に働いた場合に目指すべき平均です。マークも、これが健全な比率だと同意してくれました。


アート:Eytan Zana

 セットがデヴァインに入るころには、セットのテーマはかなり強固なものになっているのが普通です。デザイン・チームは適切なテーマを探したいと考え、テーマに沿わないゲームが大量に存在するのではデザインの検証が無意味になります。このセットでも同様に、人々が楔を選び、そうでない選択はほとんどありませんでした。そこで私たちはシナジーと、いくらか弱い3色カードを作ることにしました。

 最初の一連の変更の後、楔というテーマはあまりにも弱いものでした。3色の楔をプレイするプレイヤーの割合は、8人中5人を大きく下回っていたのです。たとえば、トム・ラピルは3色の弧のデッキを使っていましたが、彼のお気に入りはエスパーのようでした。

 繰り返しますが、これは普通です。セットのある一面が強すぎ、さらにその適正な強さがどれだけかが明確でないなら、私たちは最初に変更するにあたって逆方向に大きく動かします。そうしたらその面が弱すぎるということになることはしばしばですが、そうなると私たちはそのテーマが使えるように強さを調整するのです。その次は、その中間当たりを試してみます。そしてそれが適正でなければ、さらに半分。こうして半分半分と繰り返して調整していくことが、適正なところを見付けるための効果的な方法なのです。

 3色カードに加えて、私たちは適正なマナ基盤も必要としていました。私たちはコモンの3色土地の良いサイクルを探しました。デザインは何度か良い土地を探そうとしましたが、マークは土地を私に任せ、自分は別のカードに取りかかることにしたのです。私たちは3色デッキを回せる、ただし5色デッキを簡単に回せるほどではない強さの土地を考えました。

豊富な多色

 まず、マナは豊富でした。デザイナーがセットのこのテーマとして3色を扱う一方、デベロッパーは4~5色を考え、多くの強力なカードを手にしていく傾向にあります。この問題を解決するため、比較的弱い土地が投入され、そして(もちろん)人々は2色デッキを使うか、あるいは非常に不安定なマナに頼って3色を使うかになりました。実際、その比較的弱い土地が使われることはありませんでした。繰り返しになりますが、これは最初と2番目の「中間」を取って土地をデザインしていく方法です。私の望は、すべての目標を達成できる最適な強さに再びたどり着くことでした。しかし、ここで少しばかり異なることが起こったのです。

 私たちは、デザイナーが土地を非常に弱くしたつもりのプレイテストを行いました。デベロッパーは、それでもそれを使わずに3色デッキをプレイするよりはいいと考えました。しかし、実際にやってみると、デベロッパーはその「弱い」土地を大量にプレイし、5色デッキをプレイしていたのです。このプレイテストの終わりには、デザイナーもまたその楔の3色全てのこの種の土地を入れるべきだということに同意するに到りました。


アート:Eytan Zana

 これが、なぜデヴァインが重要かの理由の1つです。デザイナーとデベロッパーはセットで何が起こるかについて異なった予測をしていることがしばしばで、それぞれの予測を持ち寄ることでセットの形についてよりよく把握することができるのです。

 私は、3色をプレイするのか、5色全てをプレイするのか、どちらが正しいのかを知る必要がありました。そこで私は2つのカード・プールを使い、1つめから5色デッキ、2つめから3色デッキを作りました。デベロッパーが両方をプレイするのを観察してみると、5色デッキの方が強いのは明らかでした。そこで私はもう一度同じカード・プールを使い、今度は1つめから3色デッキ、2つめから5色デッキを作りました。先に負けたカード・プールを使っても、5色デッキのほうが強かったのです。

 私は、まだ、誰もがプレイする、そしてその土地を大量に入れて5色デッキを作るのが最強にはならない、適正な3色土地を探していました。まだ正解の手がかりもありませんでした。問題は、使う楔の中に2色しか含まれていない場合にも、魅力的でない3色土地を使うのが正解だということに思えました。使う楔に含まれない色のマナは、4色目を散らすのに魅力的なだけでした。

 そこで私は、3色でなく2色の土地を試すべきだと判断しました。私は、3色目を引き当てる助けとなるような2色の土地を探したのです。私は、『ゼンディカー』の隠れ家サイクルを考え、敵対色の隠れ家をコモンに入れるということについてマークに尋ねましたが、マークは土地のことは私がやるべきだと繰り返しました。彼はより大局的な問題に取り組んでいたのです。そこで、私たちはそれを試すことにしました。

 もちろん、デザイナーもデベロッパーも「自分の色の」隠れ家をデッキに入れました。デザイナーは一般に自分の一番好きな楔を選び、デッキは充分に回りました。デベロッパーは4色以上、あるいは2色以下のデッキをプレイすることもありましたが、大抵は3色の楔をプレイしました。デヴァインの終わりには、私たちのコモンの土地は5枚の敵対色隠れ家にまとまっていたのです。

 デベロップの間に、人々の見解は変わりました。ドラフトが繰り返され、マナは決して多くないということがわかったのです。最初に3色を揃えたプレイヤーが勝つゲームが多かったので、プレイヤーはマナ基盤をかなり早期にドラフトしました。ショーン・メインはこのセットがドラフトしても楽しくないことに気づき、何かを買えなければならないと強く主張しました。私は隠れ家が大好きだったので、それ以外も増やすべきだと判断しました。その結果出来たものは気に入っています。そう、コモンの土地のサイクルは隠れ家10枚になったのです!

 それらを隠れ家のまま、『ゼンディカー』から再録するわけにはいきませんでした。『ゼンディカー』のそれらのカードには、『ゼンディカー』独特の名前がつけられていたのです。しかし、この新しいカードは(あらゆる意味で)同じカードです。さあ、ご覧下さい!

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果敢を知るもの

 デベロップの後期に、FFLでカンの検証が行われました。現実世界のスタンダード同様、メタゲームはアグロ寄りのデッキからコントロール・デッキへと変遷しました。このとき、コントロール・デッキが優勢でした。しかし、コントロール・デッキ同士が対戦すると、マッチは非常に長引いたのです。コントロール・デッキには他のコントロール・デッキを打ち破れるほど強力な攻撃手段がなかったのです。コントロール・デッキはこの時点で非常に強かったので、様々なデッキに有効な攻撃手段を作るのは良い手だとは思えませんでした。そこで、私たちはコントロール・デッキ同士の対戦でのみ有効な何かを作ろうとしたのです。

 何人かのデザイナーやデベロッパーと話し合った結果、私はこのカードをこのセットに入れました。

悟りのジン
{5}{U}{U}
クリーチャー ― ジン
瞬速
[カード名]は打ち消されない。
カンフー(あなたがクリーチャーでない呪文を1つ唱えるたび、ターン終了時まで、このクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。)
あなたのコントロールする土地を3つオーナーの手札に戻す:[カード名]をオーナーの手札に戻す。
6/7

 この当時、果敢は「カンフー」という名前でした。

 ケン・ネーグル/Ken Nagleは「土地を3つオーナーの手札に戻す」というコストを作り出しました。彼は、本当に必要なときには自分のクリーチャーを守ることができるが大きく出遅れる、というこの構想を気に入っていました。

 私たちはこのジンを検証し、面白いと判断しました。しかし、呪文を唱えることで6/7クリーチャーをいくらか強化する、というメカニズムはここに相応しくないという意見があり、私たちはこれを取り除いて検証を続けました。およそ1週間後、両プレイヤーが《悟りのジン》を戦場に出している、コントロール・デッキ同士の対戦がありました。しかし、何も起こらなかったのです。6/7クリーチャーの存在は、千日手を生んだだけでした。私たちは再びこの《悟りのジン》に果敢を与えて同じ対戦を試してみました。すぐに、両方の《悟りのジン》が戦場に現れ、一連の呪文が唱えられることになりました。一見すると相応しくないようにも見えましたが、6/7についた果敢はとても楽しかったのです!


アート:Richard Wright

 デベロップの大半は、様々なバージョンのカードを試し、そして一番楽しい環境を作るものを選ぶというものです。最初のバージョンが正しいこともままるのです。

 さて、それでは最後のカードをご紹介しましょう。《真珠湖の古きもの》です、お楽しみください!

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