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基本カリキュラム

Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki
2011年7月20日


 今週は基本セットウィークだ。この機会に私は基本セットをデザインする際に行われた決定の類について、そしてそこから学んできた教訓について話そうと思う。この記事は特定のサイクルや個々のカードについて述べているわけではない。私は来週、カードごとの接近飛行に立ち戻るつもりだ(もしくはいつか別の週に。皆さん、どうか私を束縛しないで頂きたい! マジックのクリエイティブ・デザイナーとして、私はのびのびと、スケジュールなんて糞くらえな生活を送っているんだ)(サングラスをかけ、彫刻のようなとがった顎をそよ風に当てながら)(咳払いをして、サングラスを外し、再び粛々と記事を書き始める)。個々のカードについて語る代わりに、この記事は教訓について語る。原則。哲学。我々がより賢い人間になるための、そして基本セットが何のために存在するか、という目的を果たすための。

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 基本セット2012デザインチームとして我々は基本セットデザイナーの帽子をかぶり、自分達は「基本セット使節団」なのだと心に刻んだ。この心得はとても良い帽子のように、きわめて重要なことだった。マジックのセットを作る者として、どんな小さな決定もデザイナー達を絶え間なく攻め立てる。だからこそ目標は明確にしなければならなかった。事実、もしも簡潔で忘れられない構想を明確に声明とすることができたなら。基本セットがそうするべきであるという、全てを要約するような、こんなふうに・・・.

 「基本セットは馴染み深いファンタジーのフレーバーと主要な効果で、初心者が手に取りやすいような古典的なマジックのゲームプレイを提供すべきである」

 ......そして我々はその赤々と燃える声明を心し、それによってデザインの最初から最後まで、完璧な決定を行う力を得る。

 以上が起こったことの全てだ。あらゆる物事が完璧に進んだ、我々は当初の仮定に決して疑問を挟むことなく、我々全員は常に我々という人間であった。おしまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


我々が実際に学んだこと

 オーケー、いいとも。我々は人間として成長してきたようにデザイナーとして成長してきた。道の途中では何度か衝突事故を起こし、視野の狭かった過去の経験を越えて我々の目はより広い世界へと開いてきた。人生は短く、我々はそんな短いもの、小さいものや様々なものを愛している。

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審判の日》 アート:Vincent Proce


 だけどそれは真実だ。熱烈な文章で目的を明確に述べるのは簡単な事じゃない。ましてや過程を経て目的を切り開くこと自体は。あらゆる創造的事業は、めざす目的という耳をつんざくような旋風の中でされた陰気な決定のオンパレードだ。そしてとりわけ、人々のグループの中で働いているのなら(仕事場では本質的にいつもそうだ)、これらの決定を行う多くの人々がいて、そして皆の見る空の色はそれぞれ違っていて、誰もそれぞれの意見に同意はしない。首尾一貫した企業理念を思いつくのと同じくらい役に立つ仕事さえ、カード製作時間の中で燃えてしまいかねない。

 そんなふうにこぶと打撲傷を作ったので、私はM12を作る過程で我々が学んだことをいくつか共有したいと思う。チームは、ただマジックのカードをデザインするためにそこにいたわけじゃない。

 M10スタイルな基本セットを作れば作るほど、それらが何をしどう機能すべきかを我々は学んだ。「基本」のつくセットをデザインするのは、全てのセットデザインと同じように、いくつかのカードを修繕するようだった。そして「クリエイティブ・チーム連絡係」として基本セットのためにデザイナーでいることは、ドレイクが取りうるパワー/タフネスの範囲を決定するチームにいる以上のものだ。(ところでドレイクは、青であるべきで、1/1以上4/4以下かそのくらいで、飛行を持つ。例外はある......失敗作としても知られる *机に拳を叩きつける* だけどそれが通常の範囲だ)

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 デザインチームは基本セットのための特別なヴォーソス的判断基準を持っていた。我々の仕事は新規プレイヤーに単純なカードを提供し、スタンダードを「なければならない」カードで囲み、リミテッドファンを作り出すだけでなく、ファンタジーというジャンルの見覚えのある象徴を集めたような雰囲気をセット全体に作ることだった。ちょうどM10とM11、そしてこの場合アルファ版のデザインのように。我々は文字通りに古典的なファンタジーのコンセプトを選び出すチェックリストを作った。ドラゴン、騎士、炎の呪文、君を蛙に変えてしまう呪文、などなど......そして全てのカードが選ばれ、もしくはデザインされた。それらはフレーバー批評家に認められてきたからだ。我々はそこで明確にマジックの新鮮なカードデザインを紡ぎ出し、また世界を描いた。理にかなっていて、そして君の期待に応える世界を。

 それはただ美学の問題というだけではなく、心の仕組みのあり方の問題でもあった。君の脳は馴染みのないものとしっかり繋がっているわけじゃない。がっちりと掴む親しみのある要素が必要で、それは比較し、対比させ、かつて経験した景観の中に新しいものを示すことができる。では、新規プレイヤーが手に取りやすいマジックのセットとは? 君はどのようにして皆に君が作ったゲームを楽しんでもらう? 馴染み深いフレーバーを持つカードの機能を並べ上げる。それらは見た目の通りの働きをするべきである。ドラゴンは空を飛び、炎を吐く。「精神制御」という名の呪文は君にクリーチャーの動きをコントロールさせてくれる。剣は君のパワーを、盾は君のタフネスを上げてくれる。フレーバーはただ楽しいだけのものではなく、機能的で実践的なものだ。


基本セットは、基本セットのようであるべきだ。

 回りくどい言い方だが、これは我々デザイナーに、自分達自身を思い出させてくれるいい文言であり続けている。基本セットは最も正直な呪文とクリーチャーを含むべきであり、余分なメカニズムの束はいらない。混乱させられてしまうような、基本セット外にあるマジックのカードの既に目もくらむような美装は。基本セットは少なくとも各色に2枚ずつのバニラクリーチャーを含むべきである。例えば、ただ攻撃し、ブロックし、オーラを得て、コンバット・トリックをプレイされるだけの奴を。我々は、基本的なマジックのゲームプレイの類がどこかに生きていることを必要としていると、そして基本セットこそがそれであると強く感じている。

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 基本セットはまた、他には入れられないような重要なカードの宝庫でもある。何年もの繰り返しの後に、これこそがまさに基本セットが持つ雰囲気となる。セットの多くのカードは既に定義されている。我々はM12を、我々が求めるファンシーな新カードを詰め込んだだけの、400枚もの異なるカードのセットへと膨らましはしなかった。つまり基本セットの重要部品のために部屋を開けて仕事を終わらなければならない。

「うーむ、すごくいい白のレアだけど、そうすると《審判の日》がどこにも入らないよ」
「なんてこった」

 我々の伝統的な3セットブロック(我々はかつてエキスパートレベルセットと呼んでいた。その単語はマジックのパッケージにはもう使われていないが)は、重要なカードを再録する権限がある。もしそのセットが必要としたなら、そして我々がそれを戦略的だと考えたなら、思いやりのある再録はいいことだ。だがそれでも基本セットは、スタンダードの基本的効能の隔たりを埋めるようなものであるべきだ。全てのセットに《帰化》を入れることはできない、だけど時々《帰化》こそがまさに開発が求めるカードとなる。

 基本セットにはサラマンダー・ならず者を割り当てるべきだという新たなルールもある。からかっているのかって? そうかもしれない(ある意味ではイエス、ある意味ではノーだ。アンフィンは来るのか去るのか。だけど私は、基本セットは新種族を随時初演するにはいい場所であると考えている)。


難解なものの比率を一定のレベルに保つこと

 基本セットの楽しみというものは、君の精神を吹き飛ばしてしまうような所からは来ない。それはマジックのゲームをプレイするというクラシックな感じ、既に組み込まれている多くの思考から来ている。君はどのように攻撃するかを決める。私はどのようにブロックするかを決める。君はコンバット・トリックを唱えることを決め、私は別のコンバット・トリックを唱えるかどうかを決める。基本セットは、マジックのゲームと恋に落ちた最初の経験を再現するためにそこにある。そしてカード自身の難解さの比率を低く保つようにしている。バニラクリーチャーと《巨大化》だけのゲームの時でさえ、君の頭脳下では緻密な決断が絶えない急流となっている。君はよく考え賢いプレイをすることを楽しむために、クレイジーな離れ業のメカニズムの重ね塗りや直観に反した妙ちきりんな環境を必要とはしない。マジックは複雑なゲームであるゆえ、正直なものの宝庫として役に立ち、他のセットのメカニズム的芸当と比較することのできる基本セットの存在は偉大なことだ。

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解放された精神》 アート:Jason Felix

 それでも時折、君のギアを軋ませる《個人的聖域》や《無限の日時計》といったカードの余地は存在する。時折、カードを読んだ時に「一体何じゃこりゃぁぁぁ!?」と凝視するのもいいことだ。


再録は戦略的に、美しく。

 だいたい半分が再録カードである基本セットは、他の時代の素朴でエキゾチックなものが保存された加えられたゲームのようだ。野生では絶滅してしまった生物種が未来のために安全な生息地で保護されている、その場所のようなものだ。とはいえ私達はいくつかの新たな友達をそこに投げ込んで、生態系をかき回し混乱させる。その例えからは、私が邪悪な者に見えるかもしれない。私が尊い《ゴブリンの手投げ弾》を、比較的新顔の《ゴブリンの付け火屋》と一緒のセットに投げ込むことを言っていると思いだすまで。オーケー、すんごく邪悪だね。だけどいいと思わないかい。

 《火の玉》《グレイブディガー》《空中浮遊》のような、心に響く喜ばしいカードは上から下までよく考えてデザインされた。それらはゲームにおいて、それらの持つ機能と同じくらい美によって保護を受けるに値する。我々はこのような、サファリに常にいくつかの種を、動物園に美をもたらしてくれるようなカードを古いセットから探し回る。


時折、プレインズウォーカーの顔ぶれを交換するべきである。

 M12における最大の改革の一つはプレインズウォーカーの顔ぶれの変化だ。アジャニとリリアナに代わって、ギデオンとソリン。そしてジェイスとチャンドラ、ガラクのキャラクターは続投だが、彼らは全員新バージョンに刷新されている。私はリリアナを愛しているし、地球上で一番のアジャニファンだが、時々君が友にしてやれる最良のことはしばしの間彼らに別れを告げることだ。今やとても多くのプレインズウォーカーのキャラクターがいるので、基本セットは過去に活躍した者達を呼び戻す便利な会合場所だ。

 そして私はM12に3枚の新たなプレインズウォーカー・カードが入ることにとても興奮している、それらのキャラクターと付き合ってきた立場として。ローウィンからここまでの道は少々長かったが、我々は今や、ゲームにおいて見覚えのある表看板である彼らを同じキャラクターのまま、その能力のセットを新しいものに交代する段階にある。我々はまだジェイス、チャンドラ、ガラクに会うことができるし、彼らのキャラクターは物語の中で変化して、必要とされた時はサポートしてくれる存在としてやって来てくれる。我々の主人公のカードテキストはゲームに揺さぶりをかける進化さえしている。

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 振り返ると、M12をデザインすることは、我々の頭に1つの単純な標語を保持するという問題では決してなく、そして昔の良い仕事以上の完璧を目指して追い求めることだった。脳内で腕まくりをし、心の中の手を汚して、日々繰り返し試してはできる限りより良いセットを作り出す。基本セットの任務はかつてと同じだが、あらゆる創造的努力と同じように、その仕事とはたった一行の巧妙な構想を述べることではないと我々は学んだ。日々の小さな経験の中で全て、我々はミスや失敗から学ぶ。人間として我々は皆、目下のところ作り出すことができない何かを心に描くことができるという、奇妙な力を持っている。より賢くなるために、我々はどのように過去から学ぶのか。我々が心に描いたものを成し遂げることのできる人々になれるように。それこそが魔法だ。


今週のお便り

親愛なるダグ・ベイアーへ

 「基本セット2012の内部情報 その1」を読ませて頂きました。
 はじめまして、Hieroと申します。私は驚きました、M12どころか他のブロックにも《リリアナ・ヴェス》、別名リリカ(わぁい)が別の姿で登場しないことにです。他のプレインズウォーカー達には早くも2つか3つめの姿(ジェイスとチャンドラです)があるというのに。別の《リリアナ・ヴェス》がマジック: ザ・ギャザリングに登場しない理由はあるのでしょうか?

Hieroより


 リリアナはまぎれもない我々の主要なプレインズウォーカー・キャラクターであり、我々はまぎれもなく将来彼女のために大きな計画を用意してある。

 リリアナはオリジナルのローウィン・プレインズウォーカー5人の中で新バージョンを得ていないただ一人であることを我々は知っているし、そしてずっと同じ姿でいて、彼女のために新デザインが必要とされていると感じている。我々はまたM12にソリンを入れた時、リリ(意地悪に言うなら、ミス・ヴェス)をほったらかしにしているような気がしていた。だがもし君がリリアナのファンならば、身構えておいてくれ。私が言いたいのは......

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アート:Karl Kopinski

 Hiero、質問をありがとう! また来週。

基本セット2012

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