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企画記事
あなたの街のティーチングマイスター 第11回:イエローサブマリン マジッカーズ福岡店(福岡県) 枝吉実さん
「ティーチングマイスター」とは、初心者にマジックを教える認定資格を持つ人のこと。ティーチングマイスターが教えるマジック体験会「多元宇宙への招待状」の開催を記念し、全国各地にいる彼らの紹介インタビューをシリーズで掲載していきます。
今回ご紹介するのは、お客さんと一緒にお店を作り上げてきたベテラン店員のこの方です。
歴史を感じるエピソード
――マジックを始めたのはいつですか?
枝吉:高校1年……16歳のときに、友人に誘われて始めました。『テンペスト』の時期です。昔はけっこう、パック買うのも大変でしたね。本屋さんの片隅とか、ファミコンショップとかでちょっとずつ買い集めるくらいで。
――それは福岡でのことですか?
枝吉:そうです。マジックを始めて26年になりますが、ずっと福岡です。ちょこちょこ頻度が下がったりはするんですが、ずっとマジックやってきました。
――好きなデッキはありますか?
枝吉:最初期から、赤単ですね。初めて出たプロツアー予選も、赤単で抜けたんです。決勝で諸藤さん(※注1)にボコボコに負けたんですが、当時は2位まで権利がもらえたので。
ちなみに、福岡の予選は参加者が少ないわりに2位まで権利がもらえてお得ということで、よくプロプレイヤーも遠征に来られてたんですよ。それで石田格さん(※注2)とも対戦したことがありました。
※注1 諸藤さん:諸藤拓馬さん。2005年日本選手権優勝など、昔から福岡で活躍している。
※注2 石田格さん:マジック黎明期よりトッププレイヤーとして名を馳せた天才。故人。
――歴史を感じるエピソードです。それで、プロツアーに出たんですか。
枝吉:2000年のプロツアー・ニューヨークでした。19歳のときです。ですがまず、会場が変わっていたことに気づかなくて、がっつり遅刻したんですよ。
――えっ!
枝吉:間違えた会場に行ってからホテルに戻って、何もわからず泣きそうになりながらホテルの人に相談したら、ホテルの人が場所を聞いてくれて、正しい会場にたどりつけたんですが、もう1・2回戦目は終わってるわけなんです。そこにハットマンことNACさん(※注3)が通りがかったので、「初対面でこんなお願いをして申し訳ありませんが、こういう理由で遅刻したので、よろしければ3回戦目から出られるように話していただけないでしょうか」とお願いしたら快く引き受けていただけて、出場できました。
※注3 NACさん:中村聡さん。風変わりな帽子やオリジナルのデッキで人気を博した。
――おお、それはよかったですね。
枝吉:結果はボロボロでしたけど、いい記念にはなりました。そのころはプロツアー会場が24時間開いていたので、延々とシールドやドラフトをやってました。
――英語があまり話せなくても、マジックだったら通じますもんね。
枝吉:英語は苦手だったので、こみちゅうさん(※注4)の後ろにくっついて歩いて、こみちゅうさんが注文する食べ物を「僕もそれと同じのを」って言ってました(笑)。
でもマジックなら英語がわからなくても話が通じるというか……『ネメシス』の《旗艦プレデター》っていうのがリミテッドでめちゃくちゃ強かったんですが、シールド戦をやっていて、それで除去されそうになったときに、私が《市長の塔》でプロテクション(アーティファクト)をつけて防いだら、近くで見ていた外国の方たちがわあっと大喜び(笑)。そんなふうに、気持ちは通じ合ってましたね。
※注4 こみちゅうさん:小宮忠義さん。1997年日本選手権優勝など、青使いとして有名。
――「まさかあの最強カードを、謎の土地ではじくとは!」って感じですかね。いい話です。
枝吉:プレイに言葉は関係なくて、どんな人とも座ってカードを介せばつながれるのが、マジックのいいところですね。対戦で勝つことよりも、いろんな人と話せるのが楽しくて、ずっとマジックをやってきたと思います。おかげさまで、そのころ知り合って20年来の付き合いの方もいますから。
――やはりマジックの魅力というと、人のつながりですね。
枝吉:はい、それは本当にそうです。そうそう、イラストも唯一無二の良さがありますね。描き下ろしのイラストが、物語に沿って1枚1枚描かれるというのがすごい。自分はストーリーも好きなので、イラストとストーリーにひきこまれます。
――ストーリーのお気に入りキャラはいますか?
枝吉:チャンドラです。パイオニアで、チャンドラのファンデッキも作りましたよ。プレインズウォーカーのチャンドラ数種類と、その能力をコピーしたり手札を入れ替えたりできる《チャンドラの調圧器》ってアーティファクトを入れて、必殺技は《ボロスの反攻者》に自分で《絶滅の星》を撃ち込みます(笑)。まあ一発ネタなんですけどね。でもそのデッキをお客さんに貸したら、「ここを改良したらいいんじゃないか」ってみんなでよってたかってブラッシュアップし始めて、毎週ごとに少しずつ強くなってるんですよ。
――みんなで育てるチャンドラデッキ、いいですね。コミュニティの楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
デッキのボトルキープ
――先ほどの、最初に出たプロツアーというのは学生時代ですよね。その後、こちらのお店で働くようになるんですか?
枝吉:そうですね。自分が最初に、トーナメントプレイを本格的に始めたのがここでした。そのうちに、「うちで働けば?」という話になって、20歳のときにアルバイトで入らしていただいたので、今年で22年目になります。ただ仕事を始めると、自由に時間を取れない面もあるので、競技的なプレイはなかなかしにくくなっていったんですが、その分お店で休憩時間に遊んだりしていました。ただコロナが始まってからはお店にお客さんも来ず、遊べない時期がありましたが……。
――コロナの間は厳しかったでしょうね。
枝吉:コロナ前は、平日も毎日イベントをやっていたんです。独自のリーグ戦のようなもので、好きなときに来て好きなだけ対戦して、勝ったらお店から賞品がありますという。昔は営業時間が22時までだったので、19時から始めて3~4戦遊ぶ感じでした。ただコロナのあとは営業時間が20時までになったので、なかなか時間が厳しくなりましたね。
そこで、最近はBO1による対戦時間の短縮を試してみているんですよ。以前はBO3が当たり前でしたが、新しいスタッフから「BO1にしたらどうですか」と言われたんです。そうか、MTGアリーナ出身の子たちはBO1なのかなと。試しにやってみたら好評だったので、今後はBO1の大会を増やしたり、時勢に合わせてやり方を変化させていこうと考えています。
――現代に合わせた大会の形、アリですね。
枝吉:営業時間に関してはどうにも難しい面もありますが、なるべくお店の都合ではなくて、お客さんの都合に寄り添えるように考えてます。以前は日曜にはマジックのイベントを入れてなかったんですけど、今はお客さんの要望に合わせて少しずつ入れるようにしていますし。お客さんと一緒に成長するお店と言いますか……。
お店のお客さんが、いろんなフォーマットのデッキを作って置いてって、「これ使っていいよ」って言ってくれるんですよ。新規のお客さんが来たら貸し出していいよと。ご自分も来店したとき、その中から選んで使っています。「デッキを持って来なくていいから楽だ」って言って。
――ああ、お客さんのボトルキープみたいな感じですか?
枝吉:有名お笑い芸人のボトルキープみたいなもんです。「若手が来たら好きに飲んでくれ」みたいな。
――そしたらカードを持っていない人でも、そのデッキを貸していただければマジックがどんなゲームかわかっていいですね。
枝吉:そうですね。今度のティーチングのときにも、もし興味がある方がいたらぜひそれで遊んでもらおうかなと思ってます。
ティーチングについて
――それでは、ティーチングマイスターの資格をとったのはいつですか?
枝吉:2018年6月14日です。マイスターの中ではかなり最初のほうではないかと思います。「こういう資格があるんですがどうですか?」と言われて、もともと、マジックに興味がある人が来たら教えていたので、だったら同じかなと。
――マイスターになって、よかったことというと何がありますか?
枝吉:たとえば自分の立場で考えてみて、やったことない趣味……釣りを始めようと思ったときに釣り具屋に行って、どれを買えばいいのかわからないけど「あの店員さんに質問していいものなんだろうか? どうしよう?」ってなっちゃう気がするんですよ。だけどティーチングマイスターという肩書きがあれば、「この人には質問していいんだ」というのがわかりやすいですよね。お客さんから声をかけやすくなっていれば、うれしいです。
――確かに。今までどんな人がティーチングに来られましたか?
枝吉:MTGアリーナから来る人も多いですが、うちは複合店なのでほかのカードゲームやボードゲームをやっていて、「マジックが元祖カードゲームだと聞いたので、どんなものか知りたい」という方も多いです。あとは、「今からティーチング始めますよ~」と店内に呼びかけたら、「タダなら出るか」という人もいますね。たまたまその場にいたので参加して、やってみたらおもしろかったのでそこから定着した人もいます。
――それは運命的な出会いですね。ティーチングに際して、気をつけていることはありますか?
枝吉:マジックに慣れている自分にとっては当然のことでも、ちゃんとわかりやすくすることですかね。普段アンタップなんてわざわざ意識しないですけど、ちゃんと「タップしている土地を縦に起こすことをアンタップといいます」みたいな。
あとは1人1人の顔を見ながらやることですかね。一方通行じゃなくて、「どうですか、伝わってますか?」というのを確認しながら、「大丈夫そうですね。それじゃあ先に進みますね」という感じです。初めてで不安な人もいるでしょうし、明るい雰囲気にしたいので、おもしろいかどうかはともかく、ちょこちょこジョークも交えてやってます。
――ティーチングで手ごたえを感じるのは、どういうときですか?
枝吉:やっぱりティーチングを受けた人が、「マジック始めてみます」と言ってうちのお店でパックを買っていってくれたりするときですかね。
――今度の「多元宇宙への招待状」イベントはいつやる予定ですか?
枝吉:マジックプレイヤーが多く集まる土曜日と、週末来られない人のために火曜日にやる予定です。土曜日は、コミュニティの人たちがこんなふうに遊んでるというのが見られると思います。
多くの方にマジックの楽しさを伝えていきたしですし、それによって広がるコミュニティを作っていきたいという思いがあります。自分がマジックのおかげで20年来の友人ができたのと同じように、新しい人たちにも「ただカードゲームを始めた」ってだけじゃなくて、その人なりの物語が始まったらいいなと。
――ここから20年の付き合いが生まれるかもしれないですよね。それでは最後に、お店に来たことがない方へメッセージをお願いします。
枝吉:うちはガチで勝ちに行くより好きなカードを使って遊ぼうという雰囲気が特色で、カジュアル向けのイベントも多いので、お店に来るハードルはけっこう低いと思います。それこそ、貸し出し用のデッキもありますし。いろいろそろっているマジックの商品を見るだけでも楽しめると思うので、マジックをやったことない人でもお気軽にぜひ来てみてください。
イエローサブマリン マジッカーズ福岡店
住所:福岡県福岡市中央区天神2-7-14 天神シティビル3F
電話番号:092-739-1970
公式サイト:https://yellowsubmarine.co.jp/shop/マジッカーズ福岡店/
天神の繁華街の一角にある「イエローサブマリン マジッカーズ福岡店」。全国のイエローサブマリンの中で「マジッカーズ」の名を冠しているのはここと東京の「マジッカーズ★ハイパーアリーナ」だけで、マジックの取り扱いが充実しています。
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