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Making Magic -マジック開発秘話-

デザイン演説2025
2025年8月11日
私が『マジック』の首席デザイナーに就任して始めたことの一つは前年の『マジック』を振り返り、何が成功し、何が失敗したのかを検証する年一コラムの執筆だ。このコラムはアメリカの大統領が毎年行なう一般教書演説に倣い「デザイン演説」と名付けた。主席デザイナーになったのは2003年だが、「デザイン演説」を初めて公開したのは、私が主席デザイナーとして監督した最初のセットが発売された2005年である。
過去の20本の記事は以下の通りだ。
- 2005
- 2006
- 2007
- 2008
- 2009
- 2010年
- 2011年
- 2012年
- 2013年
- 2014年
- 2015年
- 2016年
- 2017年
- 2018年
- 2019年
- 2020年
- 2021年
- 2022年
- 2023年
- 2024年
いつも通り、最初に1年全体を振り返り、良かったところと教訓について語る。次に、各ブースター製品を検証し、良かったところと教訓について語る。ブースターパック以外にも素晴らしい製品は多々あるが、このコラムは私1人で書いているため、ブースターパックについてのみ語っていく。今回も、カード個別のデザインよりも大局的なデザインを語っていくことになる。今回は『ブルームバロウ』から『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』までが対象となる。
いつも通り、今回も同じ質問から初める。「昨年のマジックのデザインはどうだったか」だ。
素晴らしい出来だったと言える。これまでで最高のデザインワークの一つだ。『霊気走破』を除けば、セットはどれも好評だった。今年受け取ったフィードバックを見ると、どのセットも何人ものファンが「過去最高のセット」と言ってくれた。そしてこの反応は『マジック』のプレイヤー数が過去最高だった時期と一致している。今、『マジック』のプレイ人口は32年の歴史の中で、かつてないほど増加傾向にある。我々はゲームの健全性を測るためにいくつかの指標を用いているが、どの指標も過去最高を記録している。『マジック』は現在、最高の状態にあると言える。その理由の多くは『マジック』をプレイするのが楽しいためだ。そしてこれはデザイナー全員の努力によるものだと考えている。
『マジック』を素晴らしいものにするために、ゲーム・デザイン以外にも多大な労力が費やされていることは留意しておきたい。このコラムはデザインに関するコラムのため、デザインに焦点を当てている。ただし、他のすべてのチームの貢献がゲームを成功に導いてくれている。
とはいえ、完璧だったわけではない。それぞれの製品から得た教訓があり、それをこれから語っていく。一部のプレイヤーが不満を抱える原因である、大きな傾向についても触れたい。しかしながら、今のデザインは健全な状態であり、素晴らしい『マジック』セットをデザインする能力は向上し続けている。
『マジック』のデザイン全体
良かったところ
デザインのルーツを見つけることができた
昨年の教訓の1つに「マジック世界のセットはよりマジックらしさを感じられるものにする必要がある」があった。今年はこれを見事に達成したと言えるだろう。『ファウンデーションズ』と『タルキール:龍嵐録』はどちらも昔のセットを彷彿とさせ、マジックの真髄を掘り下げているとして高く評価された。我々が自分たちのルーツを忘れていないことを示すのは重要である。「ユニバースビヨンド」がより大きな役割を果たす時代においても、『マジック』の舞台、そして最も重要である『マジック』を特別なゲームにしている本質は、セットに深く浸透しているのだ。
深く没入感のある舞台を作り出した
新しい世界やテーマを導入するセットの中には、内容が薄いと感じられるものがあるという意見があった。『ブルームバロウ』や『ダスクモーン:戦慄の館』は、雰囲気こそ大きく異なるが、いずれも『マジック』が多元宇宙に根付いた新しい舞台を生み出す力を示した。
既知のデザインを微調整することで、価値あるデザイン空間を多く見出した
新生、雄姿、戦慄予示、違和感、兆候、前兆、消尽、調和、動員、相続、疾風、闘魂、後見、英雄譚クリーチャー、ジョブ選択などといった新しいメカニズムを数多く生み出した。これらの多くは、『マジック』が過去に作ったメカニズムを少しアレンジしたものであった。過去のメカニズムを改良したものもあれば、新しいフレイバーに合わせて調整したものもあり、また小さな変更を加えてゲームプレイの新しい面白さを再発見したものもあった。今年のデザインは、ゲームの過去を掘り起こすことで多くの成果を上げた。
新しいことに挑戦した
贈呈、部屋、エンジン始動! これらはセットの中核的要素となるメカニズムであった。今までに使用したことのないデザイン空間を探索したものである。『マジック』のデザインは、新しいセットを作る際には既存のツールを活用すべきだが、必要に応じて新しいツールを作り出してもよい。
リミテッド環境作りが上達した
今年のセットについてよく寄せられた感想の一つに、プレイヤーがリミテッド環境を大いに楽しんだというものがある。私たちは常に、楽しいリミテッド環境を作るための技術を適応・改善しており、昨年はこの分野が上昇傾向の一部を務めたと感じている。
教訓
『マジック』は、扱うお約束を新たな文脈で捉え直したときに最も輝く
共鳴性はデザインにおいて重要な要素である。新しいテーマを探求するとき、カード・デザインにはプレイヤーの期待に応えるべきポイントがある。しかし、私たちはそのお約束を単にそのまま繰り返すのではなく『マジック』としての解釈を加える必要がある。ストレートな言及を行うべきは「ユニバースビヨンド」のセットであるべきで、多元宇宙内のセットではない。『ダスクモーン:戦慄の館』と『霊気走破』は、その参照表現がやや直接的すぎた部分があった。
デザインの後工程におけるテーマのサポートをもっと上手く行う必要があった
各セットは新たなメカニズム的テーマを導入することを目指している。最新セットを手に入れる楽しみの一つは、新たなデッキ構築の可能性を探ることにある。しかし、私たちは新しい探求の場を作ることは得意である一方、それをセットの枠を越えて継続的にサポートすることにやや弱さがある。たとえば『ブルームバロウ』でカワウソ・デッキを組んだり、『霊気走破』で機体デッキを組んだ場合、その後のセットでデッキを拡張する新カードはあまり追加されなかった。このようなセット間でのメカニズム的な結びつきを作ることは、言うは易く行うは難しい。追いかけるべき新テーマは多数あり、各新セットは自らのテーマを成立させるために必要な制限もあるが、それでも我々はこの分野にもっと時間を割くべきである。
複雑さの増加に注意する必要があった
我々は個々のメカニズムが全体として過度に複雑にならないよう努めてきたが、昨年はメカニズム同士の相互作用によってセット全体の複雑さが増す傾向が見られた。これは、導入するメカニズムの数の多さや採用したメカニズムそのものに起因している部分もある。メカニズムのシナジーは望ましい。リミテッドのゲームプレイや構築デッキの発展に寄与するためだ。しかし、平均的なプレイヤーが状況を追いきれなくなるような、過度に入り組んだ状況を作ってしまわないよう注意が必要である。
『ブルームバロウ』
良かったところ
世界構築、クリエイティブ・デザイン、ゲーム・デザイン、アートワークの相互連携は見事であった
ウィザーズの各チームはそれぞれ才能に溢れているが、セットの各要素が組み合わさり、個々の総和をはるかに超える力を発揮することがある。『ブルームバロウ』はそのようなセットの一つであった。世界構築からカード名、フレイバーテキスト、アート、カードのメカニズムに至るまで、あらゆるチョイスが自然に融合し、本当に素晴らしい新世界を作り上げた。『マジック』がこれまでやったことのない要素を探求しつつも、その核心部分は30年前のマジックにも存在できたと感じられる、驚異的な世界となった。親しみやすさと革新性が組み合わさった理想的な世界は、上手く実現するのが非常に難しい。
メカニズムはフレイバー豊かで楽しいものであった。
最も注目されたメカニズムは新生と贈呈である。新生は実用性とシナジー性を備えつつ、可愛らしさとフレイバーを兼ね備えていた。各新生が固有のクリーチャー・トークンを持つという選択は大成功であった。贈呈は『マジック』であまり扱ってこなかった新たなリソースを生み出すメカニズムとして人気を集めた。他のプレイヤーに何かを与えるという行為は、別のフレイバー上の大きな勝利であると同時に、ジャンルの奇抜さを捉え、多人数戦において非常に面白い政治的手段となった。動物の職業が村の物語的お約束に沿っていたこと、足跡を使った季節の表現、動物を中心とした各種能力(給餌、雄姿、積算)がこのセットの核となるテーマである動物を強く強調し、プレイヤーを大いに満足させた。
動物テーマを中心としたメカニズムは高く評価された
ウサギはウサギらしく、カエルはカエルらしかった。『ブルームバロウ』は動物の共鳴感を大きく実現する必要があった。それを大きな形で達成できた。これは簡単そうに見えて、実際はそうではない。タイプ的テーマは開発部にとって悩ましい課題である。非常に人気が高い一方で、うまく作るのがほぼ不可能に近い。構築戦ではタイプ的テーマに完全な直線性が求められる一方で、リミテッドではアーキタイプ間の相互接続が必要になる。例えば、ウサギは他のウサギをプレイしたときに報いるべきだが、同時にウサギ部族をプレイしていない人もドラフトしたくなるカードでなければならない。『ブルームバロウ』はこのバランスをこれまでで最もうまく取ったセットであった。ウサギをドラフトしたければできるし、特定の動物をドラフトしないこともできる。この二つを両立させつつ、セットの雰囲気を維持したことは大きな成果であった。
教訓
リミテッドのテーマがレールに乗りすぎていると感じる人がいた
デザインでは、ウサギ・デッキに鳥やカエルを入れられるよう多くの時間と労力を費やした。しかし、強い直線的テーマの課題のひとつは、プレイヤーに「やるべきこと」を強く示してしまう点にある。そして十分な人数がその指針に従うと、それがドラフトの現実となってしまう。『ブルームバロウ』は私にとって最高のタイプ的セットだと感じているが、それはタイプ的セットの問題をすべて解決したわけではない。最も多く寄せられた不満は、ドラフトが「レールに乗りすぎている」というものであった。一度特定の動物をドラフトすると、選択肢が急速に狭まっていく。次の部族セットにおける最大の課題は、「ウサギをプレイしよう」と伝えつつも、「ウサギだけをプレイしよう」とは伝えない方法を見つけることである。
動物の組み合わせが適切ではなかった
10種類の動物は多すぎたという意見があった。10の異なる派閥、それぞれが固有の動物に対応しているのは、複雑すぎて理解しづらい網の目を作ってしまった。動物派閥を5つだけにすべきだったという声もあった。一方で、10種類では少なさすぎるという意見もあった。動物世界の魅力はその多様性にある。各アーキタイプを1種類の動物に限定したことは窮屈すぎた。派閥は、複数の動物をまとめられる概念であるべきだった。すべての動物にはファンがいたが、常に別の動物を望むプレイヤーがいた。アライグマよりアナグマ、コウモリよりスカンク、カエルよりカメを望む人もいた。リストはずっと続く。ネズミ、ハツカネズミ、リスは必要なかったと感じる人もいた。『ブルームバロウ』の成功の大部分は、プレイヤーが動物に抱く繋がりにあったが、これは強くはあっても一貫してはいなかった。
一部の動物のメカニズム的実装に不満があった
このセットの鳥はすべて飛行を持っていたが、「飛行を持たない」を重視するテーマがあり、鳥だけのデッキを作りたいという期待に反していた。これは鳥のドラフト・アーキタイプを成立させるために行ったが、鳥部族の構築デッキの期待にはそぐわなかった。カワウソは弱すぎて構築戦では使われず、ハツカネズミは強すぎて構築戦で使われるようになり、結果として多くのプレイヤーが見飽きてしまった。ネズミは違和感を覚えるという声があり、過去の多くのネズミともうまくかみ合わなかった。全体的には、セット全体の大まかな方向性は好まれていたが、細部については誰もが何らかの不満を持っていた。
焦点を当てた動物の多くがカード枚数不足だった
統率者戦は現在、最も人気のあるテーブルトップ・フォーマットであり、最も人気のあるカジュアル・フォーマットでもある。動物テーマはカジュアル・プレイヤーにとって非常に魅力的だ。しかし『ブルームバロウ』に登場した動物の多くは、統率者デッキを成立させるのに十分なカードが存在しなかった。もっと後方互換性のある動物を選ぶべきだという声もあったし、逆に十分なカードがない動物にもっと注力し、カードを増やすべきだという意見もあった。新テーマを作りながら100枚のハイランダー・フォーマットに対応することは、今後も取り組むべき課題である。テーマの再登場で時間をかけて解決できる部分もあるが、それは短期的課題に対する長期的解答である。
『ダスクモーン:戦慄の館』
良かったところ
次元全体の雰囲気は大成功だった
『ダスクモーン:戦慄の館』の存在を初めて発表したとき、多くの懸念があった。すでに『マジック』には人気のホラー次元・イニストラードが存在する。ダスクモーンはイニストラードにない何を提供するのか。また、より現代的なお約束を扱うことになるが、それは『マジック』らしさを損なわないのか。懐疑的な意見が多かったため、我々は通常よりも早く「プレインズウォーカーのための『ダスクモーン:戦慄の館』案内」を公開し、この次元が幽霊屋敷と、それを作り出した邪悪な存在であるというコンセプトをプレイヤーに示すこととした。プレイヤーはこれを気に入り、それ自体が独自の雰囲気を持ちながら、多元宇宙の自然な一部であると感じられると評価した。これには一つだけ大きな例外があったが、それについては後述する。
メカニズムは楽しいシナジーを生み、素晴らしいリミテッド環境を作った
エンチャント・テーマ、部屋、戦慄予示、違和感、昂揚の再録、兆候、光霊、生存、大主、そしてそれらが墓地と相互作用する仕組みは大成功であった。このセットは、その年で最もメカニズム的に大胆なセットであった。優れた世界構築に加え、卓越したアート・ディレクションが組み合わさり、多くのプレイヤーが「今年一番好きなリミテッド・セット」と評したほか、構築フォーマットにも大きな影響を与えた。
特に部屋は、最も多く称賛されたメカニズムとしてここで挙げておくべきだろう。
『ブルームバロウ』との対比は、『マジック』の魅力を際立たせた
『マジック』は、私の言葉で言えば「振り子を振る」ことを好む。つまり、直前とは異なる場所に行くことを好むのである。トレーディングカードゲームである『マジック』の魅力の一つは、非常に多様な世界を表現できることである。その一環として、我々は常に舞台となる世界を変えているが、『ブルームバロウ』から『ダスクモーン:戦慄の館』への移行ほど極端な対比は過去になかった(この流れを「グルームバロウ/Gloomburrow」と呼ぶ人もいた)。多くのプレイヤーがこの劇的な変化を喜び、コミュニティを盛り上げる要因となった。これを『マジックの「バーベンハイマー」的瞬間』と呼ぶ人もいた。
教訓
80年代ホラーのテーマがセットに無理に押し込まれており、全体の雰囲気を損なった
何かに着想を得ることと、それをそっくり真似することの間には微妙な一線がある。プレイヤーはこの世界の幽霊屋敷的な雰囲気を概ね好んだが、『マジック』的な解釈がなく、次元全体の雰囲気にも合わない大衆的ホラー映画への言及は歓迎されなかった。特に批判が集中したのは、多くのサバイバーであり、それらは特定の70〜80年代ホラー映画を大きく意識したもので、このセットの中では場違いに感じられた。振り返れば10〜15枚程度のカードを修正すれば、多くのプレイヤーが抱いたこのセット最大の懸念は解消できたはずである。
セットのクリエイティブ上の選択に一部問題があった
このセットは意図的に、『マジック』がこれまで踏み込んだことのない領域に挑戦した。その多くは好評だったが、最も批判を受けた領域があった。それは、ここでは「平凡な現代性」と呼ぶことにする。『マジック』には『神河:輝ける世界』や『兄弟戦争』のように、通常のファンタジー作品よりもはるかに技術的に進んだ要素を持つ、SF寄りのセットが過去にも存在した。こうした要素は、多くのプレイヤーにとっては問題にならなかった。しかし、『ダスクモーン:戦慄の館』で初めて行ったことの中には、プレイヤーを困惑させたものがあった。具体的には、スニーカーやジーンズ、野球バットといった、現実に我々が使っているものをキャラクターが身に着けたり使用したりしていたことである。ファンタジーの魅力の一つは、自分たちの世界とは根本的に異なる世界に訪れるという感覚にある。ファンタジーは本来、人々にインスピレーションを与えるものであり、我々の日常にありふれた物を目にすると、その感覚が損なわれてしまう。
セットに要素を詰め込み過ぎだった
エンチャント・テーマ、部屋、戦慄予示、違和感、昂揚の再録、兆候、光霊、生存、大主、そしてそれらが墓地テーマと相互作用する仕組みは大成功だった。しかし同時に、それはあまりにも詰め込み過ぎだった。一部のプレイヤーにとっては過剰であり、これは注意すべき点である。もしこのセットを作り直すなら、何を削るかは正確には分からないが、少なくとも1つ、場合によっては2つの要素を削るだろう。
『ファウンデーションズ』
良かったところ
『ファウンデーションズ』は基本セットのあるべき姿を示した
私がよく話すことだが、『マジック』最大の課題は「参入障壁」である。ゲームのことを何も知らない状態から、『マジック』を自信を持って初めてのプレイができる状態になるまでには大きな隔たりがある。我々は長年、このゲームへの最良の入り口を作る秘訣を探ってきた。『ファウンデーションズ』はこれに対して新しいアプローチを取り、プレイヤーから好意的な反応を得た。それは、学びやすくするために簡略化するのではなく、新規プレイヤーをワクワクさせることを目指したのである。確かに『マジック』は決して学びやすいゲームではない。しかし『ファウンデーションズ』は、学びたくなるほどの魅力を見せることに全力を注いだ。
『ファウンデーションズ』は、そのためのセールスポイント作りに優れていた。カード選択、再録カード、新規カードを駆使して、『マジック』の持つ魅力的な要素の数々を見せつけたのである。そこには魅力的なクリエイティブ要素や落葉樹メカニズムを強調することも含まれていた。複雑さを欠点ではなく特徴として前面に押し出し、その結果は目覚ましいものであった。
セットのカード選択が優れていた
『ファウンデーションズ』のデザイン・チームはウィザーズの全員に「『マジック』で最も興奮したカードはどれか?」と尋ねた。そのデータをもとに、最もワクワクするであろう再録カードを選び出した。また、『ファウンデーションズ』をスタンダードで少なくとも5年間使用可能な常設セットにするという決定も下された。これによりファンは大いに盛り上がり、多くの人々がこのセットを「クラシック・マジック」と呼んだ。
「肉とじゃがいも」のような『マジック』だった
このセットは『マジック』が持つ複雑さを避けなかったが、それでも新規プレイヤーを圧倒しない形で、『マジック』の核心的な体験を捉える方法を見出した。直感的でフレイバーに沿った選択を行うことで、カードはプレイヤーの予想通りに動き、親しみやすく安心感のあるプレイ体験を提供した。
教訓
一部のカードが5年間使用可能であることに不安を抱くプレイヤーがいた
『ファウンデーションズ』を5年間使用可能にするという選択は、新製品ラインへのコミットメントを示すうえで大きな意味を持ったが、カード選択の一部が懸念を生んだ。特に多くのプレイヤーから指摘されたのは《ラノワールのエルフ》と《全知》である。前者はスタンダード環境を歪め、問題を引き起こす可能性があり、後者は壊れたデッキを生む恐れがあった。
セットが十分に踏み込んでいないと感じるプレイヤーがいた
このセットにはキッカーやサイクリング、上陸といったメカニズムが含まれているが、英雄譚や機体といった落葉樹メカニズムは入っていない。それらも含めて、ゲームの最も格好いい部分をもっと見せてもよかったのではないかと感じたプレイヤーがいた。私自身はやや懐疑的である。すでに多くの要素が詰まっているためだが、数年後に『ファウンデーションズ』を刷新する際に差し替えを検討することには前向きである(英雄譚は本当にクールだ)。
リミテッド環境は他のドラフト環境と比べてやや大人しかった
我々はランダム・ブースターには必ずリミテッド環境を用意すべきだと考えているが、『ファウンデーションズ』は他の多くのセットと比べ、リミテッド面での優先順位を低く設定していた。その結果、リミテッド環境は、より経験豊富なドラフターが慣れ親しんでいるほどの奥深さがなかった。
『霊気走破』
良かったところ
機体をセットのメカニズムの中心に据えたことは好評だった
『カラデシュ』で新しいアーティファクト・サブタイプとして機体が初登場した。我々は長年、機体を表現する方法を模索しており、ついにそれが実現できるセットを見つけたのである。機体は十分な人気を博し、完璧なフレイバーを体現したため、滅多に起こらないことを成し遂げた。すなわち、ほぼ常盤木に近い形で即座に落葉樹化されたのである。近年の多くのセットには、少なくとも1枚か2枚の機体が含まれている。『カラデシュ』ブロックを除けば、機体はこれまで脇役的な存在であったため、機体が主役となるセットを楽しむプレイヤーは多かった。また、乗騎に機体らしさをもたらした騎乗も好評であった。騎乗は『サンダー・ジャンクションの無法者』で初登場したが、『霊気走破』では騎乗、乗騎、機体に焦点が当てられた。
「エンジン始動!」はユニークなリミテッド環境を生み出した
『マジック』が長く続くにつれ、革新は難しくなる。すでに多くのメカニズムを扱ってきたため、新しく注目すべき要素を見つけ、それを上手く機能させるのは容易ではない。「エンジン始動!」と速度は『霊気走破』のリミテッドに独自性の高い焦点を与え、多くのリミテッド・プレイヤーが楽しめるものとなった。ただし、多くのプレイヤーから、「エンジン始動!」は加速/accelerateのような、レースの文脈以外でも使える普遍的な名前の方がよかったという意見が寄せられた。また、低い速度に到達したときの報酬をもっと増やしてほしいという声もあった。
1つのセットで3つの次元を訪れることができた
『霊気走破』はいわゆる「旅行記セット」であった。領界路を利用し、1つの世界ではなく3つの世界を舞台にした拡張セットを作ったのである。アヴィシュカーやアモンケットといった次元の現況を追えたことを楽しんだプレイヤーは多かった。ファイレクシアの侵略をはじめとする出来事が、これらの次元をどのように変えたのかを示すため、多くの世界構築が行われた。また領界路の存在が次元の進化や相互作用に与える影響も見ることができた。さらに、これまで断片的にしか見られなかった新世界であるムラガンダを訪れることができたのも好評で、多くのプレイヤーから「ムラガンダ単独の新セットを作ってほしい」という要望が寄せられた。
教訓
レースよりも次元に焦点を当てるべきだった
3つの次元を見られることは好評だった。実際、クリエイティブ面に関する最大の不満は、次元そのものに十分な時間が割かれなかったことであった。セットの大部分がレースに焦点を当てており、プレイヤーはアヴィシュカー、アモンケット、ムラガンダを探索する機会の方により関心を持っていた。
3つの次元と、10のレーシング・チーム(多くが別次元出身)は情報量が多すぎた
多くのカードがレーサーに焦点を当てており、大多数が新しい次元の出身だったことが、この問題を悪化させた。1セットに3つの次元を詰め込む時点で情報量は多くなっていたが、そこに全レーシング・チームを加えたことで、さらに複雑さが増した。コメントを寄せたプレイヤーのほとんどは、レース・チームは訪れている3つの次元出身にすべきだと述べた。また、もしレースの舞台とは別の次元出身にするなら、すでに知られている次元から選ぶべきであり、そうすればクリエイティブ面で必要となる世界構築の負担が減るという意見もあった。
レースというテーマ自体があまり受け入れられなかった
『霊気走破』は、昨年のセットに対して寄せられた批判の多くを踏襲していた。つまり、世界を生き生きと描くよりも特定のトロープに焦点を当てていたことだ。『ダスクモーン:戦慄の館』にもサバイバーや一部カードのコンセプトに関する不満はあったが、次元自体にはまだ多くの魅力を示す余地があった。『霊気走破』は、十分な関心を持たれなかったレースが中心であった。もっとも、チャンドラとニッサの物語に焦点が当たったことを楽しんだプレイヤーも数多くいた。
セットはやや弱く、構築戦での活躍が少なかった
『霊気走破』のもう一つの大きな問題は、セットの主要テーマが構築フォーマットに「定着」しなかったことである。これはセット・デザインやプレイ・デザインの責任ではなく、展望デザインの問題であった。我々は新しい試みに挑戦していた。機体は常に補助的なメカニズムであり、それをセットの中心に据えてみたのだが、特定のテーマが補助的役割の方が機能しやすい理由があることが判明した。「エンジン始動!」も新しい領域への挑戦であったが、構築フォーマットではうまく機能しなかった。挑戦したことを後悔はしていない。デザインの仕事の一部は、未知の領域に踏み込み、これまで試してこなかったことに挑戦することだからだ。しかし、すべてが上手くいくわけではなく、『霊気走破』は私の考えでは、意義は大きかったが失敗に終わった実験であった。
『タルキール:龍嵐録』
良かったところ
「二つの世界のいいとこ取り」というテーマをうまく達成できた
このセットについて最も多く寄せられたフィードバックは、タルキールへの再訪を皆がとても楽しみにしていたというものであった。世界への再訪までに時間をかけると、その再訪への期待感が大きくなることが分かった。このセットの最大の課題の一つは、実際には二つの異なるタルキール(楔氏族の世界とドラゴンの世界)への再訪であったため、両方の側面に焦点を当てたセットにする必要があったことである。フィードバックは、その両方をうまく実現できていたという評価であった。
氏族のフレイバーをクリエイティブ面でもメカニズム面でもうまく表現できた
良いと評価する大きな要因の一つは氏族の表現であった。氏族の中心となる対抗色に再び焦点を当て、氏族にも新鮮なひねりを加えたことがプレイヤーに好評だった。各種氏族メカニズムも楽しんでもらえた。氏族間のシナジーも好評であった。クリエイティブ・チームが氏族に新しい外見を与えたことも評価された。新たな精霊龍も好評だった。総じて、タルキールの楔氏族をうまく表現できていた。
三色の扱いが上達している
三色はタイプ的テーマと同様、コンセプトとしてはプレイヤーに好まれるが、実際の実装は非常に難しいテーマの一つである。初代『タルキール覇王譚』は(エリック・ラウアー/Erik Lauerの多大な貢献によって)開発部が初めて3色デザインをうまく処理した例とされ、その後の3色セットの模範となった。今回のセットの展望デザインも、引退前の最後の仕事の一つとしてエリックが監督し、単色混成マナといったデザイン・ツールを活用することで3色デザインのレベルをさらに引き上げた。セット構成の細やかな工夫や、そこから生まれたゲームプレイを評価するフィードバックが多く寄せられた。
教訓
龍王をセットに入れてほしいという声が多かった
タルキールを最後に訪れたとき、友好色の陣営を治める龍王が存在していた。今回の再訪では、物語を早送りして3色氏族の時代に移った。そのため、2色氏族がなぜ3色氏族になったのか、龍王がどう滅びたのかという物語を飛ばしてしまったことを残念がるプレイヤーは多かった。楔セットでは対抗2色が使われるため(2色の組み合わせが複数の楔にまたがるためだ)、友好色の龍王は楔セットには合わず、居場所がなかった。このため、龍王を入れる方法を見つけられなかったことが、多くのプレイヤーを落胆させた。この点に明確な解決策はないが、このセットで最も多かった不満であることは認めたい。統率者デッキに氏族の指導者や精霊龍を繰り返し登場させたことが、「ならば龍王も入れられたのではないか」という考えを強める結果になった。
リミテッドが二極化した
タルキール・ドラフトが解明されていくと、基本的には二つのどちらかの戦略に分かれた。赤白アグロを組むか、緑を基盤とした4色または5色戦略を取るかである。つまり、この3色セットでリミテッドを最適にプレイする方法は3色をプレイしないことだった。これは3色セットの核心的な問題に立ち返ることになる。マナ基盤が厳しすぎると、3色デッキは引く土地次第で手札の強さが大きく変動してしまう。逆にマナ基盤が緩すぎると、各色の優れたカードを寄せ集めた4色や5色デッキが成立してしまう。その場合、多くのドラフターが欲しいカードをタッチしてしまうため、どのアーキタイプも自分専用の強力なカードを確保しづらくなる。
前兆呪文が出来事呪文に似すぎていた
プレイヤーは総じて前兆のゲームプレイを好んだが、最大の指摘は、それらが出来事呪文によく似ていたため、出来事のようにプレイしたくなったという点であった。前兆が解決後にライブラリーに戻るのは、ドラゴンをより強くできるようにするためであり、ドラゴン中心のセットでは重要な要素である。これは簡単に解決できる問題ではない。「追加呪文」系メカニズムを拡張したいという意図はあるが、カード枠デザインにおける柔軟性には限界がある。
『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』
良かったところ
「FINAL FANTASY」シリーズのフレイバー再現は大成功だった
あらゆる「ユニバースビヨンド」セットの最重要任務は、その題材の作品のフレイバーを捉えることである。このセットについて寄せられた最大の称賛は、「FINAL FANTASY」シリーズの本質を見事に再現したというものであった。セットを手掛けたデザイナーたちが「FINAL FANTASY」シリーズを愛していることが明らかであり、その愛情と細部へのこだわりがセット全体に存分に表れていた。
メカニズムは刺激的で楽しいものだった
このセットは見た目が良いだけでなく、プレイ感も優れていた。デザイン・チームは『マジック』のメカニズムを使って、「FINAL FANTASY」シリーズのゲームプレイ時の楽しさを『マジック』に変換する方法をうまく見出した。すべてのメカニズムが好評だったが、特に多くの言及があったのは英雄譚クリーチャー、ジョブ選択、段階の3つであった。それぞれが「FINAL FANTASY」シリーズの一面を理想的に表現していた。
テレビゲームのファンでなくても、リミテッド環境は非常に楽しかった
「FINAL FANTASY」シリーズに馴染みのないプレイヤーからも多く寄せられたのは、特にリミテッドにおいてゲームプレイがとても楽しかったという感想であった。カードが何を参照しているのか分からなくても、セットの基本的なゲームプレイ自体が面白かったのである。そして、多くのプレイヤーが自分のデッキに入れたくなるカードがたくさんあった。
教訓
プレイヤーが望んだ要素をすべてセットに盛り込むことはできなかった
「FINAL FANTASY」シリーズのファンから最も多く寄せられた不満は、シリーズで大好きな要素がカード化されていないというものであった。これに関連してよく耳にした意見は、16作品間でカードの配分が均等でなかったという意見である。統率者デッキになった4作品は、メインセットでのカード枚数を減らすべきだったと考えるプレイヤーもいた。
クリエイティブ面で、他の「ユニバースビヨンド」セットよりも統一感に欠けていた
「FINAL FANTASY」シリーズを知らないプレイヤーから最も多く寄せられた意見はクリエイティブ・デザインが他の「ユニバースビヨンド」セットに比べて統一感に欠けているという意見であった。これは、ほとんどの「ユニバースビヨンド」セットが単一の舞台を扱うのに対し、『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』は16の異なる世界を表現していたためである。ただし、どのカードがどの作品由来なのかが明記されている点は、多くの称賛を受けた。
ボーナスシートにレイアウト上の問題があった
ボーナスシートはカード選択、入手性、リミテッド環境への影響といった点で好評だったが、一部のプレイヤーはレイアウトに不満を抱いた。多くのカードは色が判別しにくく、テキストが読み辛かった。
「ユニバースビヨンド」セット全般に対する継続的な不満がある
本記事で扱っているランダム封入の「ユニバースビヨンド」製品はこれだけなので(『Assassin's Creed』について語る余裕は残念ながらなかった)、この節では「ユニバースビヨンド」全般についてのフィードバックをまとめる。
依然として「ユニバースビヨンド」の実装に否定的なプレイヤーは存在するが、その割合は時間とともに縮小し続けている。例えば『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』は発売されたばかりでありながら、すでに『マジック』史上最も売れたセットとなっている。「ユニバースビヨンド」セット自体は許容するが、『マジック』のファンタジー的世界観にこそ居心地の良さを感じるというプレイヤーもいる。「ユニバースビヨンド」セットをスタンダードに含めることに不満を持つプレイヤーもいる。また「ユニバースビヨンド」ブースターパックが『マジック』多元宇宙のブースターパックより平均的に高価であることを不満に思うプレイヤーもいる。
1年が過ぎた
以上で、昨年1年間の『マジック』のデザインを振り返ることを締めくくる。こうして振り返り、昨年の各セットについて寄せられたあらゆるフィードバックを再確認できる機会を持てることは、いつも嬉しく思っている。フィードバックを寄せてくれたすべての人に感謝したい。さらに意見を伝えたいという方は、この文章や私が述べた所感について、皆さんの考えをぜひ聞かせてほしい。いつものように、今日の記事や提出文書、関連する話題への感想やフィードバックをメールやソーシャル・メディア(X、Tumblr、Instagram、Bluesky、TikTok)を通じて(英語で)送ってもらえると幸いだ。
それまで、我々がマジックを制作するのと同じくらい、マジックをプレイするのを楽しんでくれ。
(Tr. Ryuki Matsushita)
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BACK NUMBER 連載終了
- Beyond the Basics -上級者への道-
- Latest Developments -デベロップ最先端-
- ReConstructed -デッキ再構築-
- Daily Deck -今日のデッキ-
- Savor the Flavor
- 射場本正巳の「ブロールのススメ」
- 津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
- 浅原晃の「プレミアイベント三大チェックポイント!」
- ガフ提督の「ためになる」今日の1枚
- 射場本正巳の「統率者(2017年版)のススメ」
- かねこの!プロツアー食べ歩き!
- ロン・フォスターの統率者日記
- 射場本正巳の「統率者(2016年版)のススメ」
- マアヤのマジックほのぼの日記
- 金子と塚本の「勝てる!マジック」
- 射場本正巳の「統率者(2015年版)のススメ」
- 週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」
- なかしゅー世界一周
- 中村修平の「デイリー・デッキ」
- 射場本正巳の「統率者(2014年版)のススメ」
- 中村修平の「ドラフトの定石!」
- 浅原晃の「プロツアー観戦ガイド」
- 鍛冶友浩の「プロツアー観戦ガイド」
- ウィザーズプレイネットワーク通信
- Formal Magic Quiz
- 週刊デッキ構築劇場
- 木曜マジック・バラエティ
- 鍛冶友浩の「デジタル・マジック通信」
- 鍛冶友浩の「今週のリプレイ!」
- 渡辺雄也の「リミテッドのススメ」
- 「明日から使える!」渡辺リミテッド・コンボ術
- 高橋優太の「このフォーマットを極めろ!」
- 高橋優太の「このデッキを使え!」
- 黒田正城の「エターナルへの招待」
- 三田村リミテッド研究室
- 新セットめった切り!
- シングルカードストラテジー
- プレインズウォーカーレビュー
- メカニズムレビュー
- その他記事





















































