READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

振り返り その1

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2024年3月11日

 

 先日の「MagicCon: Chicago」にて、私が考える歴代メカニズムのベスト20について語らせていただいた。そうしたら懐かしい気分になったので、マジック30年の歴史(1993年~2023年)を振り返り、メカニズムに限らずマジックというゲームに加わった特に素晴らしいものを取り挙げていく2部作の記事を書くことにした。それぞれの年について第1位のものと、次点のものも挙げていこう。なお私はメカニズム寄りの見方で選んでおり、またほとんどはランダム封入のブースター製品に注目していることには留意されたし。

1993年

この年に発売されたブースター製品:『アルファ版』、『ベータ版』、『アラビアン・ナイト』

第1位:黄金の三偉業

 この最初の1つについては、追加されたものがマジックというゲームそのものということになるので、少しずるいが3つを1つにまとめて取り挙げよう。私は『アルファ版』について語るたびに、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldはマジックを創造したときに3つの天才的なアイデアを生み出したと言及している。1つはトレーディングカードゲームという概念、2つ目はカラー・ホイール、そして3つ目はマナのシステムだ。それぞれのアイデアがなぜそれほど重要なのか、説明しよう。

 マジックは、まったく新しいゲーム・ジャンルを発明した。ゲームで使えるさまざまなコマが大量にあり、どれを使うかはプレイヤーであるあなたが選択するというアイデアは、革新的だった。これにより、プレイヤーそれぞれが望む通りにゲームをカスタマイズでき、プレイ形式すらもコントロールできる。私がよく言っているように、マジックは単一のゲームではなく、使うコマの選び方次第で多彩なゲーム・システムを本当に自由にプレイできるのだ。それから、トレーディングカードゲームのビジネスモデルが純粋に素晴らしく、マジックにほとんどのゲームが得られないようなリソースがもたらされた結果、デザイン・クオリティの高さを実現できているという点も特筆すべきだろう。

 私の記事の常連である諸君は、私がカラー・ホイールに並々ならぬ情熱を持っていることをご存知だろう。(カラー・ホイールについての多数の記事やポッドキャストはこちらの記事にリンクをまとめてある。)私はカラー・ホイールこそがこのゲームの秘伝のタレであり、メカニズムとフレイバー両方の基盤であり、マジック精神と我々が効果的に使う心理的支柱をもたらしたものであると考えている。

 マナのシステムは非難の的にされることも多いが、トレーディングカードゲームに内在する多くの問題を解決してくれる。「マナ・システムの欠点だと考える部分を取り除こうとゲームを作ったら、そのシステムがゲームのために何をしてくれていたのかに気づいた」と私に語るゲーム・デザイナーは非常に多い。マナのシステムは流れを生み、ゲームにドラマを加え、あらゆるセットの骨格を作るのである。

次点:飛行

 飛行はフレイバーに富み、直感的であり、ゲームを終わりに向かわせる。マジックのあらゆるセットに収録される栄誉に浴し、我々がゲームを作る上で核となる。「MagicCon」でのトークでもし常盤木メカニズムを含めていたら、歴代ベスト・メカニズムで飛行を第1位に挙げていたかもしれない。

1994年

この年に発売されたブースター製品:『アンティキティー』、『リバイズド』、『レジェンド』、『ザ・ダーク』、『フォールン・エンパイア』

第1位:多色カード

 『レジェンド』では「金色」カードが登場した。『アルファ』版は5色それぞれにできることを示したが、『レジェンド』は色を混ぜたり合わせたりすると何ができるのかを示すことで、次のレベルに進めたのだ。初期のデザインは多色のデザインにできることを最大限に活かしたものではなかったものの、このゲームに貴重な新ツールをもたらした。

次点:メカニズム的セット・テーマ

 『アラビアン・ナイト』ではフレイバーをテーマにするアイデアが導入された。『アンティキティー』では、メカニズム的テーマを中心にセットを組み上げるというアイデアが導入された(『アンティキティー』の場合はアーティファクトだ)。これによりプレイヤーは、それまで組めなかった新しいデッキを組むようになり、我々もセットごとの違いを打ち出すことができるようになった(これは我々がより多くのセットを作っていくにつれて、さらに重要になっていくのだった)。

1995年

この年に発売されたブースター製品:『第4版』、『アイスエイジ』、『クロニクル』、『ルネッサンス』、『ホームランド』

第1位:キャントリップ

 「キャントリップ」は、あなたがそれを唱えた際にカードを1枚引けるカードを指す俗称だ。マジックのカードをデザインする上での難問の1つは、適切なコストを決めるのが難しい効果があることである。例えば1マナにも見合わない小さな効果もあれば、特定のマナ域にうまく収まらないものもあるのだ。キャントリップは、カードのコストを見直すために『アイスエイジ』で導入された。通常、カードのコストとはマナ・コストとそのカード自体である。キャントリップは失ったカード1枚を取り戻すことで、カード枚数の不利を埋めてくれるのだ。『アイスエイジ』では、今では「スロートリップ」と呼ばれる、次のターンの開始時にカードを引くキャントリップの形でそれを実現した。我々はすぐに、その場でカードを引いた方が良い(バランス面でも問題ない)ことに気づいた。キャントリップは今や、我々が頻繁に使う常磐木ツールになっている。

次点:需要に応じた印刷

 『アイスエイジ』は、初めてプレイヤーの需要に応じて印刷されたセットだった。初期のマジックでは、ウィザーズが需要に応えることができていなかった。『フォールン・エンパイア』で初めてプレイヤーに求められると想定された数を印刷できるようになったが、当時の小売店は必要なものを確保するために過剰に発注をかけることが常であり、市場は供給過多になった。『アイスエイジ』で初めて今で言う発注受付期間が一定期間設けられ、必要に応じて再版するようになったのだ。

1996年

この年に発売されたブースター製品:『アライアンス』、『ミラージュ』

第1位:リミテッドの整備

 リミテッド・フォーマットは『アルファ版』のプレイテスターたちによって生み出されたため、リチャードもこのゲームに需要があればいずれはできるだろうと認識していたものだ。多くのプレイヤーが初期のセットを使ってリミテッド・フォーマットで遊んでいた(私もそうだ)が、当時のセットがリミテッドを念頭に置いて作られていないのは明らかだった。例えば『レジェンド』では、厄介なワールドでないエンチャントを破壊したいと思っても、エンチャント破壊がある最低レアリティはレアだった。また、コモンには攻撃でダメージを与えられる赤のクリーチャーが1枚しかなかった。『アイスエイジ』は回避能力の数が不十分でクリーチャーも少ないことで有名で、実質的に勝ち手段がないシールド・プールになる可能性もあった。これを変えたのが『ミラージュ』だった。このセットはリミテッド・フォーマットで遊べるようデザインされ、我々のマジックのセットの作り方を永遠に変えたのだった。

次点:ブロック構造

 『ミラージュ』はまた、ブロックの1つとしてデザインされた最初のセットでもあった。『アライアンス』も『アイスエイジ』ブロックの一部として販売されていたが、それはあくまでデベロップとマーケティングの段階での話だった。ブロックの誕生はマジックの制作を大きく進化させた重要な一歩だった。我々は最終的にそこから離れることになったが、マジックのデザインが成長するうえで欠かせない部分だった。

1997年

この年に発売されたブースター製品:『ビジョンズ』、『第5版』、『ポータル』、『ウェザーライト』、『テンペスト』

第1位:「戦場に出たとき」の効果

 ときには、マジックでまだやっていなかったことが信じられないほど当たり前のデザインが飛び出すことがある。興味深いことに、「戦場に出たとき」の効果は『ビジョンズ』のデザイン・チーム(つまり『ミラージュ』のデザイン・チーム)が独自に作ったものであり、『テンペスト』のデザイン・チームは他のチームがすでに作っていたことを知らなかった。呪文をクリーチャーに持たせられる能力は大きなデザイン・ツールとなり、我々があらゆるセットで使うものになった。

次点:スリヴァー

 我々がデザインにおいて使う用語の1つに、「孤立的」というものがある。それはあるカードやメカニズム、テーマが持つ機能的要素が、同じセット内の他のカードにのみ適用されることを意味する。多くの場合この用語はネガティブな文脈において使われるが、私は孤立的なデザイン要素は用法用量を適切に扱えば効果的になり得る、といつも説明するようにしている。孤立的メカニズムの成功例として私が頼りにしているのは、スリヴァーだ。スリヴァーはプレイヤーが『テンペスト』を手にするなりまったく新しいデッキを組むことを可能とし、その後スリヴァーが追加されていくにつれて、どんどん孤立的でなくなっていった。さらに、スリヴァーは我々が独自の世界を構築できるものをマジックにもたらした。他の知財にもエルフやゴブリンはいるかもしれないが、スリヴァーがいるのはマジックだけなのだ。そして我々は、プレイして楽しい強力なメカニズム的アイデンティティを持つクリーチャーを得られたのだった。

1998年

この年に発売されたブースター製品:『ストロングホールド』、『エクソダス』、『ポータル・セカンドエイジ』、『Unglued』、『ウルザズ・サーガ』

第1位:サイクリング

 リチャード・ガーフィールドは、マジックをプレイしている中でフラストレーションを感じることの1つはカードがたびたび手札で詰まってしまうことであると気づいていた。それはコストが高すぎるのかもしれないし、有効な場面が狭すぎるのかもしれないし、盤面の状態から実現できないことを要求されているのかもしれない。リチャードのデザインは実にシンプルで、プレイヤーに他のカードとの交換を許すことだった。これにより我々は、普通ならプレイヤーがメイン・デッキに採用しないようなカードをデザインすることができるようになった。どのカード・タイプにも使えて多くのデザインで機能するサイクリングは、常盤木を除けばどのメカニズムよりも多くのセットに採用され、今や落葉樹メカニズムになっている。

次点:デザイン・ツールとしてのカードフレーム

 『Unglued』ではトークンやフルアート版土地などいくつかのものがマジックに導入されたが、中でも特に重要だと私が考えるのは、《B.F.M. (Big Furry Monster)》というカードだ。

en_BFM_left.jpgen_BFM_right.jpg

 私は『Unglued』で限界を超えることを目指し、社内のさまざまなセクションと話をした。そのうちの1つが、カードのレイアウトと印刷を担当するプロダクション・デザイン・チームだった。私は彼らに、我々がこれまでやっていないことで、印刷によって可能なものはないかと尋ねた。彼らは、シート上で隣り合っていれば、アートが2枚のカードにわたっても問題ないと答えた。そこから着想を得た私は、2枚のカードを占めるほど大きなクリーチャーを作ったのだ。《B.F.M.》は、このセットで最も人気を集めるカードの1枚になった(最も人気の「1枚」なら、左側が右側を上回った)。《B.F.M.》は、我々デザイナーが既知の枠に縛られないことを見せてくれた。何かメカニズム的に楽しいことがあり、変更する理由が思いついたなら、我々はそれを実現できる。《B.F.M.》は分割カードや「融合」メカニズムなど多くものにつながっていき、カードフレームに対する開発部の見方を変えたのだった。

1999年

この年に発売されたブースター製品:『ウルザズ・レガシー』、『第6版』、『ポータル三国志』、『ウルザズ・デスティニー』、『メルカディアン・マスクス』

第1位:「明滅」効果

 『ウルザズ・デスティニー』で、私はパーマネント1つを追放(当時はまだそう呼ばれていなかったが)して、その後それを戻す効果を持つ白の垂直サイクルをデザインした。デベロップ・チームはそのサイクルを《ちらつき》1枚まで減らしたが、それは印刷されるに至った。

en_flicker.jpg

 《ちらつき》の能力は、我々が(ほぼ)すべてのセットの白や青で使う主要な能力になった。汎用性が非常に高く、「戦場に出たとき」の効果などさまざまなゲーム要素とシナジーを持っている。

次点:キーワードの重要性

 『メルカディアン・マスクス』にもメカニズムはあった。レベルに傭兵、代替コスト、そしてスペルシェイパー。しかしどれにも名前がついていなかった。これが、開発部も予想だにしなかった苦情につながった。このセットには新しいメカニズムがないじゃないか、と。そこから得た重要な教訓は、セットへの期待を形作るのは言葉の力であることだった。これをきっかけに、我々は新規メカニズムに(ほとんど)名前をつけるようになったのだ。それは、顧客がそれぞれのメカニズムを識別し、それらについて話す助けになった。どちらもセットの発売直後において大切なことだ。

2000年

この年に発売されたブースター製品:『ネメシス』、『プロフェシー』、『インベイジョン』

第1位:キッカー

 ビル・ローズ/Bill RoseはいつもX呪文に夢中だった。ゲームのさまざまなポイントでさまざまな有効性を発揮するところが好きだったのだ。『インベイジョン』のデザインに取り組む最初のミーティングで、ビルは彼が作った新たなメカニズムのアイデアを提案した。それが「キッカー」だった。それはゲーム序盤に何かできる呪文でありながら、後半にはさらに強く使える。キッカーは恐らく、我々がこれまで作成したメカニズムで最も多芸なものであり、多くの新規メカニズムがキッカーの延長だと感じられるほどだ。「サイクリング」と同様に落葉樹となり、我々が必要とする場面で使えるようになっている。

次点:ブロック・テーマ

 『ミラージュ』ブロックは、我々が初めてブロックとしてデザインした3つのセットで構成されていた。(先述した通り、『アイスエイジ』は事後的にブロックと扱われたようなものだった。)当時のブロックにはフレイバーはあったものの、ほとんど2つの主要メカニズムによってテーマが定められていた。『ミラージュ』ブロックは「側面攻撃」と「フェイジング」。『テンペスト』ブロックは「バイバック」と「シャドー」。『ウルザズ・サーガ』ブロックは「サイクリング」と「エコー」。そして『メルカディアン・マスクス』ブロックは先ほど説明した通り、テーマに名前がつけられなかった。『インベイジョン』ブロックでは、新しい試みが行われた。登場するメカニズムではなく、1つのテーマに注目したのだ。『インベイジョン』ブロックは多色ブロックだった。ブロックに属するセットのメカニズム全体が、そのテーマを中心に形作られた。これがブロックを次のレベルへ押し上げ、我々はより明確でフレイバーに富み、売り出しやすいものを作れるようになった。マジックのセットを多く作る上で大切なことだ。

2001年

この年に発売されたブースター製品:『プレーンシフト』、『第7版』、『アポカリプス』、『オデッセイ』

第1位:フラッシュバック

 私がマジック史上最高のメカニズムに挙げたのが、これだった。「サイクリング」や「キッカー」と同様に用途が多岐にわたるうえ、その両者には欠けているフレイバー要素も加わっている。ゲーム序盤か後半のどちらかに使えるキッカーと異なり、フラッシュバックは両方の場面で使うことができ、プレイヤーたちの憧れのテーマである「1つの呪文を二度使う」ことを実現してくれる。サイクリングやキッカーと同じく、フラッシュバックはその有用性を示し、落葉樹の地位を得たのだった。

次点:スレッショルド

 このメカニズムは、リチャード・ガーフィールドが時間とともに自然に貯まっていくリソースを探すことに興味を示したことから生まれた。そのリソースは最終的に、墓地ということになった。墓地は呪文が唱えられ、クリーチャーが死亡していくにつれて、ゲームの自然な流れで徐々に満たされていく。そして墓地のカードが7枚になったとき、「スレッショルド」を持つカードのレベルが上がるのだ。スレッショルド自体も何度か再利用されているが、マジックのデザインにとってより重要な貢献となったのは、条件を満たしたときにアップグレードするものを観察記録するというアイデアそのものだった。我々開発部はそれを、「スレッショルド的メカニズム」と呼んでいる。このアイデアは、多数のメカニズムやセット・テーマを生み出すことになるのだった。

2002年

この年に発売されたブースター製品:『トーメント』、『ジャッジメント』、『オンスロート』

第1位:タイプ的テーマ

 『アルファ版』には、3つのタイプ的テーマがあった。

en_load_of_atlantis.jpgen_zombie_master.jpgen_goblin_king.jpg

 これらは多くのカジュアル・デッキを後押ししたが、真剣に扱う者はいなかった。そこで私は『オンスロート』で、そのデザインを強化することを自身に課した。「霧衣」クリーチャーにはクリーチャー・タイプを変えられるという小テーマがあったものの、それに関連するものはセット内に多くなかった。私は、タイプ的テーマがカジュアル・プレイヤーたちに人気であると認識していた。ではトーナメント・プレイヤーもそれを気にするようにしたらどうだろうか? 蓋を開けてみると、タイプ的テーマは広く愛されていることがわかった。それらは方向性が明確で、フレイバーに富み、楽しいゲームに導いてくれる。我々も何度も採用しており、多色や墓地に匹敵する人気のテーマである。

次点:変異

 『アルファ版』の制作時、ルール・チームは2枚のカードをルール内で機能させる任務に取り組んだ。《Camouflage》と《Illusionary Mask》だ。

en_camouflage.jpgen_illusionary_mask.jpg

 両者が抱えている問題は、裏向きのカードを明確に定義することなくカードを裏向きにすることだ。裏向きのクリーチャーにパワーとタフネスを持たせることでこの問題を解決する中で、それらは新たなメカニズムを生み出した。「変異」はこのゲームにミステリーの要素をもたらした。以前からプレイヤーの手札は非公開情報だが、パーマネントには基本的に当てはまらなかった。変異はプレイヤーたちにも好評で、他にも戦場や追放領域で裏向きのカードを使う方法をもたらしたのだった。

次点:常盤木でないメカニズムの再利用

 これは本当に迷ったので、次点を2つ選出することにした。『オンスロート』でタイプ的テーマの数を増やしたり「変異」を加えたりしてこのテーマを強化したとき、私にはもう1つ達成すべきクエストがあった。「サイクリング」を再び採用したかったのである。それは当時、前例のないことだった。メカニズムは常盤木に上がるか、去っていくかのどちらかだったのだ。サイクリングは非常に良いメカニズムであると、私は主張した。それをもう一度使わないのは間違っていると思った。私はプレイヤーがサイクリングを中心にしたデッキを組めるカードをいくつか作り(《霊体の地滑り》や《稲妻の裂け目》だ)、このメカニズムを再利用する許可を得たのだった。今にして思えば明らかなことだが、過去のメカニズムを利用できるマジックのデザインの強みは非常に大きく、極めて効果的に使われている。

2003年

この年に発売されたブースター製品:『レギオン』、『スカージ』、『第8版』、『ミラディン』

第1位:装備品

 『ミラディン』はアーティファクトをテーマとしており、我々は長年にわたって、ゲーム内で装備品をうまく使う方法はないかと議論を重ねていた。「なぜ剣を用意してゴブリンに与えられないのか?」と。この問題を実にクールな方法で解決したのが装備品だった。我々は装備品をすぐに常盤木にし、それはデザインの主要ツールになった。

次点:メカニズムに合った世界構築

 ミラディンは社内チームが作り上げた最初の次元ではなかった(『テンペスト』のラース次元が最初だった)が、そのセットのメカニズム的アイデンティティを念頭に置いて作るという、現代の世界構築の始まりであった。我々は『ミラディン』をアーティファクトに注目したセットとして計画し、それに合わせてミラディン次元をすべてが金属の世界としてデザインした。デザイン・チームと世界構築チームの連携は、カード・デザインにおいてもクリエイティブにおいても成功のための鉄板レシピとなったのだった。

2004年

この年に発売されたブースター製品:『ダークスティール』、『フィフス・ドーン』、『神河物語』、『Unhinged』

第1位:警戒に名前がついたこと

 常盤木メカニズムのほとんど、少なくとも『アルファ版』の時点で名前がついていなかったものは、名前つきのメカニズムになるまで時間がかかるのが常だった。「警戒」は『アルファ版』収録の1枚のカード(《セラの天使》)から始まった。それはときどき使われ続け、ついに我々は名前をつけてもっと頻繁に使いやすくするべきだという結論に至った。キーワード能力として警戒が初めて登場したのは、『神河物語』でのことだった。この記事では他にも実例がたくさんあるが、私は警戒を人気メカニズムが常盤木キーワードになる仕組みの代表例として扱っている。

次点:破壊不能

 このメカニズムは、ビル・ローズと私が良いメカニズムを生み出すものは何かについて話していたときに生まれた。そのとき私は、プレイヤーたちが求めるがまだ手に入れていないものを捉えることだと主張した。すると当然の流れとして、ビルが尋ねた。「それなら、プレイヤーたちが求めるものとは?」私は「他のプレイヤーが自分のものを破壊するのを止めることかな」と冗談を飛ばした。私が破壊不能を提出したのはその2秒後のことであった。それは『ダークスティール』に収録されることになり、しばらくはキーワードではなく1つの用語だったものの、のちに常盤木の座へと至った。破壊不能は慎重に扱わなければならないものの、非常に有用なツールであることを証明している。破壊不能を持つパーマネントは少ない方が良いが、一時的な効果としての使い道は多い。

2005年

この年に発売されたブースター製品:『神河謀反』、『神河救済』、『ラヴニカ:ギルドの都』

第1位:陣営のセット

 「MagicCon: Chicago」にて、私はラヴニカがもたらした大きな影響について1時間にわたって語るパネルディスカッションにも参加した。ラヴニカはセットとしても次元としてもマジックに大きな影響を与えたので、ここで取り挙げるものの選択肢は多い。その中でデザインに最も大きな影響を与えたのは、陣営セットの導入であったと私は考える。それはセットを(多くの場合色で)分け、それぞれのパートに特徴的なフレイバーや(独自のキーワードなどの)メカニズム的アイデンティティを持たせる。今や恒常的に行われている陣営セットをマジックに加えた『ラヴニカ』ブロックは、大成功を収めたのだった。

次点:混成マナ

 『ラヴニカ:ギルドの都』を制作する中で、私は多色について考えることに多くの時間を割いた。これにより私は、金色カードが色A「And」色Bを表現したものであることに気づいた。つまり色A「Or」色Bを表現する、金色カードと異なるものを作る余地があったのだ。この考えが、片方の色でもカードや能力のコストを支払える「混成マナ」へとつながった。混成マナは、最も用途の多いツールの1つであることを証明し、マジックのデザインにおける多くの問題を解決してみせた。その使用頻度が時間とともに増加し続けていることは、ちょうど先日、2部作の記事(その1その2)で語ったばかりだ。

2006年

この年に発売されたブースター製品:『ギルドパクト』、『ディセンション』、『コールドスナップ』、『時のらせん』

第1位:ボーナスシート

 『時のらせん』は過去をテーマにしていたため、私はブースターパックからたまに昔のカードが旧枠で出現するというアイデアを提案した。このアイデアは121種のカードが収録されるほど発展し、各パックに1枚ずつ入るようそれぞれのシートが用意された。印刷するために追加のシートを必要とするため、我々は内部でこれを「ボーナスシート」と呼んでいる。ボーナスシートは、『時のらせん』ブロックの残る2セット『次元の混乱』と『未来予知』でも使われた。その後『ストリクスヘイヴン:魔法学院』の「ミスティカルアーカイブ」でも再びボーナスシートを採用した。それは高い人気を証明し、我々が毎年展開する定期リソースとなったのだった。

次点:特殊タイプ「氷雪」と氷雪マナ

 『アイスエイジ』には、雪をかぶったバージョンの基本土地があった。我々が「失われし『アイスエイジ』ブロックのセット」である『コールドスナップ』のために新たなデザイン領域を探していたとき、雪のテーマを別の形で活かせないか検討した。その結果作られたのが、特殊タイプ「氷雪」と氷雪マナ・シンボルだった。『コールドスナップ』がうまくいかなかったためそれらが再び登場する見込みはないと思っていたが、その後『モダンホライゾン』に2色土地のサイクルが必要になり、我々は氷雪を大々的に復活させたのだった。それは大いに人気を博し、我々は『カルドハイム』で再び氷雪を取り挙げた。氷雪は、フレイバーに富んだ特殊タイプの価値を我々に示し、その使い方を再考させたのだ。

2007年

この年に発売されたブースター製品:『次元の混乱』、『未来予知』、『第10版』、『ローウィン』

第1位:プレインズウォーカー

 『時のらせん』ブロックでは多元宇宙の機能を変える計画だったため、我々はプレインズウォーカーの力を下げることにした。我々はプレインズウォーカーを物語の中心に据えたいと考えたが、神のごとき力を持つ者を一個人として扱うのは難しかったのだ。その計画の中で、マット・カヴォッタ/Matt Cavottaが私に、プレインズウォーカーをカード・タイプにするというアイデアを持ちかけた。我々が過去にプレインズウォーカーをカードにしてこなかったのは、彼らが強すぎるからだった。プレインズウォーカーの作成には約6か月を要したため、『未来予知』ではなく『ローウィン』に収録せざるを得なかった。結果は大成功であり、我々がすべてのセットに少なくとも1枚は収録するようになるほどだった。人気の高さはさておき、プレインズウォーカーはフレイバーに富み、強力で、多元宇宙内を舞台にしたマジックのセットで定番のカードになっている。

次点:多相

 『ローウィン』は、実に8種類のクリーチャー・タイプ(キスキン、マーフォーク、ゴブリン、エレメンタル、エルフ、フェアリー、巨人、ツリーフォーク)に関連するタイプ的テーマを持ったセットだった。我々には、どうしてもそれらを結びつける接着剤が必要だった。ドラフトにおいて、異なるクリーチャー・タイプを使うプレイヤーが争うように取るカードの存在が必要だったのだ。それから、各クリーチャー・タイプの開封比も十分に高くする必要があった。我々が抱えていた問題の解決策は、『神河物語』の伝説のクリーチャー《霧衣の究極体》にあった。「多相」を持つクリーチャーは、すべてのクリーチャー・タイプである。そのことは我々が抱えていた問題をすべて解決しただけでなく、カードが足りないクリーチャー・タイプのデッキを組めるようになったため、プレイヤーにも大いに好評だった。我々は多相を、その後も繰り返し登場させている。

2008年

この年に発売されたブースター製品:『モーニングタイド』、『シャドウムーア』、『イーブンタイド』、『アラーラの断片』

第1位:有色アーティファクト

 我々が有色アーティファクト・クリーチャーを作ったのは、『アラーラの断片』が最初ではない。このアイデアを最初に示唆したのは、『未来予知』のミライシフト・カード《サルコマイトのマイア》だ。その後我々はカカシのフレイバーが付いた《刈り取りの王》を作った。不特定マナでも唱えることはできるが、そのマナ・コストから実質的に5色のカードだった。そして有色アーティファクトをより大きなテーマとして扱ったのは、このセットの「断片」の1つである「エスパー」が初めてだった。顧客がそれを快く受け入れてくれたおかげで、我々としてはさらに使いやすくなり、今や(ほぼ)すべてのセットで使う常連になっている。

次点:《運命の大立者
jp_Figure_of_Destiny.jpg

 ときに、1枚のカードが多くのひらめきをもたらすことがある。『イーブンタイド』収録の《運命の大立者》は、マナを使うことで次へ進められる複数の状態を持ったクリーチャーだった。それは最も大きな影響を与えたカード・デザインの1つだ。「Lvアップ」や「クラス」のような新たなメカニズムを生み出し、デザインの基本骨格は多くのカードに真似されたのだった。

jp_Warden_of_the_First_Tree.jpgjp_Ascendant_Spirit.jpgjp_Frodo_Saurons_Bane.jpg

ここまでで半分

 本日はこれで以上だ。私がマジックの過去を振り返るのを楽しんでもらえたなら幸いである。今回の記事やここで取り挙げたデザイン要素に関する意見は、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)TumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、その2でお会いしよう。

 その日まで、あなたがプレイして最も楽しいデザイン上の革新が見つかりますように。


 (Tr. Tetsuya Yabuki)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索