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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

ダブル利用

Mark Rosewater
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2020年7月20日

 

 『ダブルマスターズ』プレビュー特集第1週にようこそ。これからこのセットがどのようにデザインされたかについて語り、そして1枚でなく(『ダブルマスターズ』だけに)2枚のプレビュー・カードをお見せする。それでは始めよう。

部屋の中の象

 2018年11月、我々は『アルティメットマスターズ』を告知した。そしてその記事の中で、こう述べたのだ。「今後しばらくは、「マスターズ」シリーズの発売を見送ります。」 今は2020年7月であり、あれから18ヶ月が経過した。そして我々は新しい『マスターズ』セットのプレビューをしているというわけだ。「今後しばらくは」というのには短過ぎはしないか? 何年も先のことを手掛けているのではなかったのか? これを作っていることを、『アルティメットマスターズ』を告知したときには知っていたのではないのか?

 短すぎる。手掛けている。(ただし再録のみの製品の製作期間は、新カードを作成し、その世界を作って更新しなければならないものよりもかなり短い。)知らなかった。本当に、知らなかったのだ。これから、何が起こったのかの話をさせてもらいたい。

 毎年、我々は革新的製品と呼んでいる、新しい方向に推すものを作っている。過去の例には、最初の『統率者』デッキ、銀枠セット、『コンスピラシー』、『バトルボンド』、『アーチエネミー』、『プレインチェイス』がある。2013年の革新的製品は、『モダンマスターズ』だった。これは、モダン・フォーマット内のカードを使った再録のみの、楽しくて上級者向けのドラフト環境を作るように組まれたセットであった。これが大成功を収めたので、我々は2年後に『モダンマスターズ 2015年版』を革新的製品枠で発売したのだ。これもまた大ヒットとなった。

 そして我々は、『マスターズ』が(過去に『統率者』がそうだったように)独立したものになりうるものだと認識したのだ。2016年、我々は同じ構造で扱うフォーマットが異なる『エターナルマスターズ』を発売した。これもまたヒットした。

 この時点で、我々は『マスターズ』シリーズにもう少し重心を置くようになり始めていたのだ。2017年と2018年には、『マスターズ』セットを年に1回ではなく2回発売した。2017年には『モダンマスターズ 2017年版』と『アイコニックマスターズ』。2018年には『マスターズ25th』と『アルティメットマスターズ』を発売したのだ。

 回数を増やしていくにつれ、我々はセットにプレイヤーが注目する特徴を与え、メカニズム的に異なる体験を作り出す助けとなるよう、テーマ的中心を与える必要があると考え始めた。また、リソース問題に直面しつつあることにも気がついた。一般則として、我々は同じカードを同じ年の複数の製品に再録しないようにしている。(これには例外があり、特に入門用製品ではそうなっていない。)それぞれの製品に特徴を持たせたいので、重複したものにならないように注意しているのだ。この要求と、メカニズム的中心を持たせる必要性から、再録不足の問題、あるいは少なくとも人々が心を躍らせるような再録カードの不足が生じることになった。マジックには歴史上多くのカードが存在するが、プレイヤーが欲しがるのは様々なフォーマットで見かけられたカードに集中している。そのリソースを我々は出力を維持しようとするためにあまりにも早く使ってしまっていたのだ。(《解放の樹》を参照のこと。)

 ユーザーは疲れを見せていた。それらを作っている速度で作ることには問題があった。それまで通りに続けることはできないのは明らかだった。そのとき、ハッカソンが開かれ、『モダンホライゾン』のアイデアが生まれたのだ。ほぼ同じユーザーを対象としたセットで、新カードが中心になっており、再録カードは強力なカードを印刷することよりも他のフォーマットからモダンにカードを持ち込むことに重点を置いていた。『マスターズ』セットはこれでひと休みできるかもしれない。

 そう判断して、我々は派手なお別れとして『アルティメットマスターズ』を作ったのだ。この製品を告知する記事の執筆者から、開発部に、次の『マスターズ』セットはいつになるのかという確認があった。当時、我々には作る計画がなかったので、そう答えたのだ。しかしながら、いったん成功した製品を「二度と」作らないと言うのは、その時の計画がどうであれ、やがて誤りになる可能性が高い。そこで、「今後しばらくは」という書き方になっていたのだ。

今後しばらく

 そして6か月が過ぎた。私はあまり詰め込むべきではないと考えているが、さまざまな理由から変更になる製品スケジュールが存在する。ある時点で、『統率者レジェンズ』は『ダブルマスターズ』の発売される時期に発売される予定だった。私の知らない理由によって、『統率者レジェンズ』は8月から今年の後半に移動することになったのだ。製品スケジュールに穴が空いたことになる。

 穴が空いた場合、我々は最初に、他にその穴を埋められるような作業中の製品があるかどうか確認する。後に発売される予定の製品で、スケジュールを早めることができるものがあることが多いのだ。ときには、必要な時に投入できるように発売日を決めずに作業する製品が存在することもある。以前、『Unsanctioned』が最初、スケジュール上の突然の穴を埋めるというこの目的のためにデザインされていたことから『Parachute』と呼ばれていたと語ったことを覚えているだろうか。前倒しにできる製品は存在せず、『Parachute』の紐はもう引いてしまっていた。つまり、新しい製品を作らなければならないということになる。

 新しい製品を作らなければならないとなると、我々はスケジュールを見て何が可能かを考える。新カードを作ったり世界を作ったり更新したりするのには時間がかかる。それらをするような時間はない。つまり、この製品は、再録のみのものでなければならないのだ。スケジュールを見ると、いくらかの新しいアートを入れる時間は取れるが、すべてのアートを新しいものにする時間はなかった。

 新しい製品が必要だとなると、製品設計者は「仕様書」と呼ばれるものをデザイナーたちに渡す。仕様書とは、基本的に、その製品が可能なことと不可能なこと、また満たす必要がある条件の大枠である。また、仕様書には、新しい製品が他の発売の邪魔にならないよう、その前後のセットが何をするのかも考慮されている。仕様書は、そのセットを作るためにどんな道具や制約があるのかの正確な記述を作ろうとするものなのだ。デザイナーはそれを受けて、アイデアを提示する。

 後に『ダブルマスターズ』のリード・デザイナーになるブライアン・ホーレイ/Bryan Hawleyは、「豊饒の角/Cornucopia」というアイデアを提示した。(スケジュール上の都合で、このセットにはリード・デザイナーは1人しかおらず、展望デザインのリードとセットデザインのリードが分かれていなかった。)それは、レアや神話レアが4枚入った、(通常のブースターよりもずっと大きな)メガ・ブースターというものだった。上層部はこのアイデアを採用したが、もう少し抑えることができると判断した。レアや神話レア4枚ではなく、2枚ではどうだろうか。大型ブースターにするのではなく、通常サイズのブースターではできないだろうか。(ブースターやブースター・ボックスの大きさが通常と異なる製品を作るのは、スケジュール的に不可能だったのだ。)

 ここで一言。デザインでよく起こることの1つが、「やりすぎ」なものの創造である。これはつまり、それまでやったことを超えたことをするということである。常に新しいものを作り続けるゲームを作っているので、我々はこれまでにやっていたものをどの程度超えているのかに注意しなければならない。例えば、『アルファ版』の最大のクリーチャーは8/8(《大地の怒り》)だった。これを初めて超えたのが9/9の《サルディアの巨像》であった。その次は10/10の《リバイアサン》。次に来たのが11/11の《Polar Kraken》と12/12の《ファイレクシアン・ドレッドノート》だった。《大地の怒り》を超える初めてのカードを16/16の《動じない大ワーム》にすることも可能だった。

 しかし、そうしていれば、その間のすべてのカードの機会はなくなってしまっていただろう。「史上最大のクリーチャー」が何体も登場できたのに、1体しか登場できなくする理由などない。同じ理念が、ブライアンの「豊饒の角」にも当てはまるのだ。2でも心躍るものにできるのに、なぜ4まで飛ばす必要があるのか。

 多くのデザイナーから提示されたさまざまな選択肢を検討したあと、我々は2枚のレアや神話レアが入っていることを売りにした再録製品で行くことにした。そうなると、次の疑問がわきあがってくる。我々は基本的に『マスターズ』製品を作ることになるのではないかと。我々はこのアイデアを少し変更して『マスターズ』だと感じられないようにすることを試したが、『マスターズ』版のほうが良い製品になるだろうと判断された。また、既存のユーザーは『マスターズ』というのが何なのかを知っているので、マーケティング的にも有利になると考えられた。「今後しばらく」について様々な冗談が生まれたが、我々はネット上での冷やかしを避けるためだけに調整した版を作るよりも正しい製品を作るほうがいいと判断したのだ。

 もう1つ、この製品が選ばれた理由として、再録のみのセットを年に複数個出していたのを0にしており、再録の蛇口を締めすぎだというフィードバックが大量に届いていたということがある。この製品は、特にそのレアや神話レアの2枚分の枠は、それをいくらか低減してくれるだろう。部屋の中の2匹目の象であるフェッチランドについても、語るべき話がある。(これから話す。)

楽しみをダブルに

 ブライアン率いるデザイン・チーム(レジー・ヴァルク/Reggie Valk、アダム・プロサック/Adam Prosak、ジェイディーン・クロンペアレン/Jadine Klomparens、マックス・マッコール/Max McCall、マイケル・ハインダ―エーカー/Michael Hinderakerがは『ダブルマスターズ』のデザインを初めたとき、最初に手掛けたのは1年ほど前にした作業を振り返ることだった。衆知の通り、中断することが分かる前に、次の『マスターズ』セットのデザインは(ブライアンの手で)始まっていたのだ。「アーティファクトマスターズ」というようなものになる予定だった。時間というのは不可欠なもので、そのおかげでデザイン・チームはデザインの良いスタートを切ることができたのだ。

 強力なレアや神話レアのアーティファクトは、そのほとんどが爆弾カードになりがちで、通常は不特定マナ・コストを持つことからどのデッキにも入れられるので、リミテッドでは問題になりうる。これへの解決策はメインデッキのアーティファクト除去を有効にすることだが、それが成立するのはプレイヤーがそれを入れることに意味があるだけのアーティファクトが存在するときだけである。そこで、アーティファクトをテーマとした『マスターズ』が企画されたのだ。(それと、プレイヤーが欲しがるアーティファクトの再録が大量にあるという事実から。)『ダブルマスターズ』の構造は、特にリミテッドにおいて、このアーティファクトのテーマに焦点をおいている。

 もう1つ、デザインへの大きな影響は、パックに2枚入っているレアや神話レアであった。追加のレアや神話レアを入れる枠のため、コモンの枠が1枚削られた。この結果、レアリティは変動している。例えば、通常、大型セットではコモンは100枚(あるいは101枚)存在する。『ダブルマスターズ』では、コモン枠が1枚少ないので、コモンの数は90枚になっている。アンコモンは同じ80枚のままだ。レアや神話レア、それぞれの存在比を通常より高くしたくはなかったので、枚数を変更する必要があった。計算の結果、レアや神話レアの枚数は倍よりも少し多くなっている。レアは通常53枚。それが121枚になっている。神話レアは通常15枚。それが40枚になっている。

 この変更の最大の影響は、リミテッドにおけるレアや神話レアの役割が変わったことである。通常よりも2倍出てくることから、予測可能な影響を持たせることができるようになったのだ。つまり、デザイン・チームは、通常のリミテッドでアンコモンが果たすような役割をレアに持たせることができたということである。例えば、通常のセットでは、アンコモンにはドラフトのアーキタイプを示す2色カードのサイクルが存在している。『ダブルマスターズ』では、この役割を果たす10枚の2色のサイクルが2つ(これは『ダブルマスターズ』なのだ)存在するが、それらはレアである。(ここで、このセットが再録のみのセットなので、それらのカードは通常セットにおけるアンコモンの多色カードほど明確にドラフトのアーキタイプを示しているわけではないということを記しておくべきだろう。)

 もう1つ、レアや神話レアをダブルにしたことの大きな変更は、リミテッドにおけるそれらの密度を高めたことである。レアや神話レアは(特に再録されるようなカードは)強力なものが多いので、リミテッドのゲーム全体のパワー・レベルは高い水準になるだろう。このフォーマットをプレイした時に気づくことの1つは、実際にモダンでプレイされているデッキを連想させるようなデッキをドラフトできる、ということだ。

 3つ目の大きな変化はドラフトに存在する。素晴らしいレアや神話レアを2枚開封して、そのうち1枚を流さなければならないというのはつまらないということはそれほどプレイテストをしなくても明らかだった。そこでデザイン・チームは『ダブルマスターズ』のドラフトに手を加え、ブースターを開封した直後のピックは2枚にしたのだ。これは小さなことに思えるかもしれないが、ドラフトには大きな影響がある。単に自分のレアや神話レアを2枚とも取れるというだけではなく、それ以降のドラフトの指針となるようなシナジーのあるカード2枚を取ることもできるのだ。

 ダブルとレアについて語ってきたので、そろそろダブルするプレビュー・カード2枚をお見せしよう。

 クリックしてプレビュー・カードを表示

 この2枚は、『シャドウムーア』で作られた、ダブルするエンチャントのサイクルの一部であった。(私がダブル好きなことは諸君もご存じの通りである。)このサイクルは、ティミーやタミー向けのレアのエンチャントのサイクルを作ろうとしてできたものである。《倍増の季節》に関する経験から、ティミーやタミーは私同様ダブルが大好きだとわかっているので、何かをダブルするエンチャントのサイクルを作ったのだった。白と青では、それぞれ、ライフ獲得とカードを引くこと。ダブルというテーマを扱うカードがそれほど多くなかったので、これらのカードは『ダブルマスターズ』のファイルに加えられた。(先述の通り、リミテッドのゲームプレイはダブルよりもアーティファクトが中心である。)

 ダブルというテーマに関して、今日の締めくくりとしてもう1つの側面に触れておきたい。このセットでダブルというテーマを扱う場所をもう1つ探していて、ボックストッパーに気がついた。『基本セット第8版』から、ボックストッパーはブースター・ボックスに含まれるマジックのカードであった。『基本セット第8版』では大判カードだったが、『アルティメットマスターズ』では通常のボックストッパーが登場した。そのセットにも存在するカードが、フォイル版の拡張アート・カード(アートがカードの左右の断ち切りいっぱいまで広がっている)として40枚存在した。『ダブルマスターズ』では、4つの変更を加えて同じようなことをしている。1つ目、『ダブルマスターズ』なので、2枚入っている。2つ目、フォイル版ではない。3つ目、40枚中39枚は新アートである。そして4つ目、拡張アートではなくボーダーレス(左右だけでなくカードのすべての辺に広がっている)である。

ダブルな時間

 本日はここまで。『ダブルマスターズ』ののぞき見を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事や『ダブルマスターズ』についての反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『ダブルマスターズ』についてさらに語る日にお会いしよう。

 その日まで、このセットについて考えるあなたの興奮がダブルになりますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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