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Making Magic -マジック開発秘話-
マジックの未来
2020年7月6日
私には主席デザイナーとしてさまざまな仕事があるが、最も重要な仕事の1つが未来を考えることである。マジックは進化し続けるので、私はマジックが進化できる方向の先端に居続けなければならない。そこで、今日、最も有望な未来を描いている場所について語るのは楽しそうだと考えたのだ。我々が今しているかもしれない何かのヒントを示すわけではなく、もっと長期的に将来のデザインの最もあり得るデザイン空間について語ろうと思う。
以下の区分については、重要性や規模の順番で並べているわけではない。単にこの記事を書いている間に思いついた順番である。
既存のメカニズムの拡張
私が未来を求めて最初に見る場所は、過去である。マジックには27年の歴史があり、多くのメカニズムを作り上げてきた。もちろん、過去のメカニズムを再録することもできるが、私がここで語りたいのは過去のメカニズムをもとに、それができることを拡張するというものである。その好例がサイクリングだ。『ウルザズ・サーガ』で初登場したときは、手札にあるカード1枚を2マナで新しいカードに交換するだけの単純なメカニズムだった。何年もかけて再録するにあたり、我々はサイクリングができることを拡張する方法を探していった。いろいろなサイクリング・コストを採用した。サイクリングした時に追加の能力を持つサイクリングつきカードを作った。サイクリングに言及して、さまざまなサイクリングつきカードをプレイすることを推奨するカードを作った。
このためのもう1つの方法として、そのメカニズムは同じ機能を持つが、大きく異なるゲームプレイに繋がるような環境を作るというものがある。この好例が、増殖である。『ミラディンの傷跡』ブロックで初登場したときは、-1/-1カウンターや毒カウンターと組み合わせられており、攻撃的なメカニズムだった。『灯争大戦』で再登場したとき、プレインズウォーカーや動員(+1/+1カウンターを使うメカニズム)と組み合わせられており、相手を削るのではなく味方を強化する建設的なメカニズムになっていた。
つまり、私が新セットをデザインするときは、私はいつも過去のメカニズムに注目し、使えるかどうか、拡張の余地があるかどうかを確認するのだ。ここで、新しいメカニズムを作る時に、それが何をできるのかを考え、そして将来の拡張の可能性を残すようにしているということを記しておくべきだろう。これの好例として、かなり早い時期にプレインズウォーカーに常在型能力を持たせることはできたが、我々はそれが派手でインパクトがあるようになる時期まで数年間寝かせたのだ。(そして最終的にその時期とは『灯争大戦』になった。)
失敗したメカニズムの復旧
過去のメカニズムを検証する時にもう1つ注目するところが、可能性を見せたがうまく行かなかったものである。この古典的な例が彩色である。アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheが『フィフス・ドーン』でこのメカニズムを持つカードを1枚だけデザインしたが、私はこれをクールなメカニズムだと判断し、うまく使える将来のセットのために温存した。『未来予知』のミライシフト・カードで少し見せ、そして最終的に『イーブンタイド』で採用したのだ。ユーザーからの反響は、「はぁ」というものだった。
数年後、私は初代『テーロス』を手掛けていて、セットの要素をまとめる助けとなる再録メカニズムを探していた。デザイン・チームの一員であったザック・ヒル/Zac Hillは彩色を提案してきた。もう一度手掛けて塗り直せば、このセットに完璧にふさわしいと思った。再調整の結果、それは信心となり、愛されるメカニズムになったのだ。
つまり、私は常に、可能性はあったけれども実現しなかったメカニズムを探し続けているということである。正直に言って、見つけるのは難しい。しかし、我々は常に探しているのだ。
新しい枠
もう1つ確実に可能性があるデザイン空間は、新しい枠を必要とするものだ。ここ数年、新しい枠を作り、伝統的な枠では簡単にできなかったことをメカニズム的に可能にすることがどんどん簡単になっていっている。初めてこのデザイン空間を扱ったのが『Unglued』で、やがてそこから黒枠カード史上初となる、新枠がどうしても必要なメカニズムである分割カードへと繋がった。分割カードに関して言えば、通常の枠で不可能だったというわけではないが、理解するのはずっと難しいものになっていたことだろう。新枠のおかげで、その機能を直感的なものにできたのだ。
近年、黒枠での新枠の許容度は上がっている。道具箱にある道具だとして扱っているのだ。メカニズム的な観点から言うと、新しい枠が興味深いのはそれによって新しいデザイン空間を広げることができるようになるからである。それには3種類の意味がある。
- プレイヤーがカードの働きをよく理解する助けになったり、プレイ内で何かメカニズム的な意味があることを思い出させる助けになったりする。この好例は、初代『テーロス』ブロックや『テーロス還魂記』ののクリーチャー・エンチャントだろう。ニクス枠は単にその世界の雰囲気をカードに加えているだけでなく、テーロスのセットすべてが言及しているエンチャントであるということを認識しやすくしているのだ。
- 通常はカードに収まりきらない情報を収めることができる。この好例は、『ドミナリア』(と、のちの『テーロス還魂記』)の英雄譚・カードだ。特に複数の章で同じ能力を使う場合、章の技術のおかげで、伝統的なカードには収まりきらない文章をカードに収めることができた。同時に、章という考え方が、過剰な文章を追加することなくカードの作用の多くを伝える助けになっているのだ。
- 何が起こっているのかを記録するためにカードそのものを使うことができるカードを作ることができる。この好例は、『Unhinged』の《The Fallen Apart》だろう。このクリーチャーがダメージを受けるたびに腕や足を失い、メカニズム的な悪影響があるのだ。このカードは、四肢のどの部分がなくなっているのかを記す方法になっている。記憶の問題は大きな障壁になるので、記録の助けになるカード枠は非常に重要なのだ。また、記録以外の方法で助けになるカード枠もありうるが……まだ、ない。
新しいセットをデザインするたび、我々はカード枠が、デザインを進化させて理解の助けになったり、そうでなければ作れなかったカードを作ることができるようにしたりするものでありうるということを意識している。カード枠には多くの負荷があるので、それをどれぐらいの頻度で使ってもいいかという上限がある。そのため、メカニズムやテーマやサイクルのうちどれに新カード枠を与えるかという優先度をつける必要があるのだ。それぞれの方法がどのようにデザインに影響を与えるかを見るため、新カード枠と通常枠の両方でデザインすることもよくある。
両面カード
それ以外で予想よりも深いとわかったデザイン系統の1つがこれである。両面カードは、カード枠同様、複数の使い方がありうる。
- マジックは変身が好きだ。魔法的に一方の形から他方の形に変化するカードや能力が大量に存在する。その種のカードでは何を表せば良いのかわからなかったので、アートに四苦八苦していた。変化前の姿を描けば変身後の姿を全く伝えることができないが、その逆でも同じことが言えてしまう。変身中のクリーチャーを描こうとすれば、変身前の姿も変身後の姿も明瞭には表せていないものになってしまう。両面カードは両面それぞれに別のアートを描けるので、この問題への完璧な回答だったのだ。
- 変身前後の両方をカードの同じ面に描かなければならないとすると、メカニズム的にそれそれを表すために使える文章量に限りが出る。両面カードを使うと、突然、使える文章欄が2倍になるのだ。つまり、片面カードではできない、多くの両面カードが存在するということである。
- 変身するカードは両面カードの素晴らしい用法だが、用法はそれだけには全く留まらない。両面カードの最も心躍るものの1つが、あらゆる他の興味深いもののために使える可能性だった。これまで印刷に到らせたあらゆるメカニズムの中で(ここでは、両面カードについてメカニズムという単語を雑に使っている)、両面カードよりもデザイン空間が広いものは存在しない。これを使ってできると思われる心躍るものはいくらでも存在するのだ。
両面カードは新カード枠よりもまだ多くの負荷がかかるので、それほど頻繁に使えるものではない。しかし、諸君全員を驚かせるようなものを将来提供できる可能性だけで私は興奮しているのだ。
パンチアウト技術
もう1つ、非常に有望なデザイン空間が、パンチアウト・カードである。最初に登場したのは『アモンケット』ブロックで、通常のマジックのカードと同じ大きさのカードにそこから打ち出してゲームプレイの道具として使うことができる要素が含まれているのだ。新しいカード枠や両面カードと同様、パンチアウト技術のデザインの可能性も非常に大きい。印刷するにあたっては、それが表すものやその大きさ、そこに書く内容にはかなりの柔軟性がある。新しいデザイン空間の最大の制約の1つは、その起こっていることをユーザーが把握できるかどうかである。あまりにも多くの記憶問題があれば、印刷することはできないのだ。パンチアウト技術はプレイヤーに記憶の助けとなる道具をもたらし、この問題への助けとなる。また、多くのフレイバーをもたらす可能性もある。最後に、これはブースターパックに入るので、プレイヤーが確実に手にすることができるのだ。
パンチアウト技術の使い方には色々なものがある。
- 戦場にあるパーマネントを強化するという使い方がある。『イコリア:巨獣の棲処』のキーワード・カウンターがその好例である。カードを使わずにクリーチャーに永続的に飛行を与えるにはどうしたらいいか。飛行カウンターだ。
- 強化(や弱体化)を記録する助けとして使うことができる。『アモンケット』の石材カウンターがその好例である。石材カウンターは通常のカウンターで扱えるだけに単純だった(石材カウンターがパンチアウト・シートに含まれたのは、必要だったからではなく、有益で場所があったからである)。しかし、単純なカウンターでは扱いにくいような高度なものを記録するものでもありえるのだ。
- それ自身がパーマネントであるパンチアウト要素もありうる。例えば、トークンが大量に必要なセットで、特定の種類のトークンを表すためにパンチアウト・カウンターを使うことは想像できる。カードではうまくできない、これまでになかった何かを表すこともありうるかもしれない。パンチアウト技術には、心躍ることをする可能性が大量に存在するのだ。
- 最後に、外部の要素として使うこともできる。ルール上戦場に存在しなくてもゲームに影響を及ぼすものだ。このデザイン空間についても話し合ったことはあるが、まだ結実を見てはいない。
デッキに入れられないカード
この分類は、デッキを組む時点ではデッキに入れることができないカードについての話である。この好例は、我々が『アヴァシンの帰還』で採用しなかった、禁断/forbiddenというメカニズムだった。「禁断カードをデッキに入れて切り直すことができる」という効果を持つカードがあった。これは厳しい条件なので、禁断カードは恐ろしいほど強力なものにできていた。
この技術は興味深いデザインの鉱脈になるので、何度も提案が繰り返されている。使い方はさまざまなものがあり得る。
- 禁断同様、デッキに入るにせよ戦場に出るにせよ、使うためにはデッキ内にカードが必要な強力で派手なカードがあり得る。
- 強力ではないが非常に狭い効力のカードも存在しうる。これによって、デッキ内にこれを使えるようにするカードに、開発部後で言う「汎用ベルト」、つまり多くの狭い選択肢を使えるようにするメカニズム、という雰囲気を持たせることができる。
- これらのカードを、他のカードがすることの要素として働くカードにすることもできる。クリーチャー・トークンを生成するというアイデアをただ広げるだけである。はるかに複雑なトークンを作るようにすることができるのだ。
- 条件が課せられた強力な再録カードもありうる。これは1つ目と煮ているが、雰囲気は大きく異なる。
これもまたまだ結実していないデザイン空間ではあるが、何度も繰り返し続けている。(例えば、『カラデシュ』のデザインではこの空間を扱っていた。しかしそのメカニズムは最終的なセットには入らなかった。)実際に印刷されるのは時間の問題である。
デッキ外のカード部品
カードである必要はないがゲーム内に持ち込むことができるものである要素である。唯一定期的に使われているのは、プレインズウォーカーの紋章である。もう少し踏み込んだこの要素の好例が、カードが、ゲームプレイ上の意味を持つ統治者「カード」を生成する『コンスピラシー:王位争奪』の統治者メカニズムである。この空間の踏み込んだもう1つの例が、することに重要性があるトークンを生成することである。『エルドレインの王権』のカードでは「食物・トークン」とだけ言っていて、何をするかは食物・トークンそのものに書かれている。これは、これよりもはるかに複雑な外部要素へと拡張できる。
追加の「デッキ」
『Unstable』のからくりは、2つ目のデッキをゲームに持ち込むというデザイン空間を扱っている。これは1つ前の分類と似ているが、デッキとして多くの、そして多くの場合無作為化できる、要素を含んでいる。2つ目のデッキの利点は、生成されるものにかなりの個性があるということである。例えばからくりの場合、プレイヤーは装置を組み立てていた。カードはその装置の部品を表していたのだ。欠点は、多くの追加要素を表していて、複雑さや物理的負荷がかなり増えてしまうということである。例えば、単純にゲームプレイに必要な場所が広くなる。おそらく、黒枠でこの方向性に進むとしたら、2つ目のデッキはほんの数枚からなる非常に小さなものになることだろう。
ミニゲーム
プレイヤーがしていることを止めて、小規模な別のゲームをプレイするようにするものである。通常、そのゲームの結果はメインゲームに影響を与える。『Unhinged』には、ミニゲーム・カードの完全サイクルが存在した。銀枠セットには、通常のゲームを止めて別のマジックのゲームをプレイする、サブゲームをプレイさせるカードも存在する。通常、ミニゲームは非常に短い時間で終わり、テーマ的にメインゲームと関連しているものである必要がある。黒枠でも、ふさわしいミニゲームさえ見つかれば、いつかここに到ることだろう。
ある種のミニゲームは、これと少しばかり違う働きをする。ゲームを止めてサブゲームをプレイするのではなく、通常のゲームをプレイしている間にサブゲームをプレイするのだ。この種のサブゲームの好例が、『Unstable』の《Hangman》である。本質的に、他のプレイヤーが《Hangman》のゲームを解くまでに、《Hangman》のコントローラーがが可能な限り大きなクリーチャーを作ろうとするという《Hangman》のゲームをプレイするのだ。これはゲームの進行中に起こることであり、《Hangman》の大きさは戦闘に影響を与えている。
『灯争大戦』は、戦闘で成功した度合いがそれぞれのミニゲームの結果に影響を及ぼす、衝突/skirmishというメカニズムを扱っていた。これは外部要素とミニゲームがどのように関わり合うかの好例である。
デッキ構築に影響する
もう1つのデザイン空間が、直接デッキ構築に影響を与えるカードを作ることである。『イコリア』の相棒がこのデザイン空間を扱うカードの最高の例である。これらのカードには、2通りのどちらかの作用がある。特定の条件を満たしたデッキにしか入れられない、つまりデッキの組み方に影響を及ぼす制限を生み出すもの。
そして、『時のらせん』で扱ったような、カードを入れることで通常は使えないデッキ構築要素を使えるようにするものである。『時のらせん』では、特定のカードをデッキに入れていれば何種類かのカードをスタンダードで使えるようにするというカードが存在していた。
この種のカードは、非常に派手で、他のフォーマットで多くのプレイヤーが楽しんでいるけれども競技プレイに大きな影響を与えゲームプレイの多様性を失わせるようなスタイルのプレイを間違いなく扱うものになりうる。競技プレイでの欠点を生み出すことなく人気のものにするための方法を見つけることが重要である。
トップダウンのデザイン
この最後の分類には、テーマを強烈でマジックのセットの規則を破るものにするデザインが含まれる。これは定量化するのが難しいが、新しいテーマを決める時に私がいつも意識しているものである。私は、テーマが何をしたいものなのか、そしてそれが我々がしたことのない何かを広げるかどうかという質問をすることにしている。この分類のカードは、今までに印刷に到ったことはない。しかし、将来のことを考えると、本当に驚くべきものを生み出す可能性があるデザイン空間であることは間違いないのだ。
未来の驚き
今日語ったことは成長可能性のあるデザイン空間のすべてというわけではなく、考慮のために最も時間を掛けてきたものだけである。私は、自分がマジックを手掛け始めたときのことを思い出し、これまで成し遂げてきた進歩の多くについてどう考えていたかを自問自答するのが常である。我々がしてきたことの多くは、一見、正気の沙汰とは思えなかったものだった。つまり、マジックが成長して変化していくにつれ、そのデザイナーも同じく成長して変化しているということである。常々言っているとおり、マジックは私よりも長生きすることだろう。そして変化や成長が止まることは決してないだろう。つまり、今日の記事はマジックの進む無数の可能性の中のほんの一部にすぎないのだ。
この未来図を楽しんでもらえたなら幸いである。そしていつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回。
その日まで、マジックの行く末の夢があなたとともにありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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