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Making Magic -マジック開発秘話-
陣営構築
2018年10月15日
元祖『ラヴニカ』を振り返ってみると、あのセットでの最大の革新は陣営という概念の再構築だった。今回、陣営セットであることの意味と、陣営をうまくデザインするために必要なことが一体何なのかについて見ていこう。その後で、これまで作ってきたすべての陣営セット/ブロックを振り返り、そしてそれらが陣営をどの程度うまく実装してきたかを語っていく。
陣営への疾走
まず最初に、陣営とは何かを定義しておくべきだろう。
#1 ― セットに、さまざまな集団を表す、メカニズム的、フレイバー的な要素が存在する
集団を定義する方法には様々なものがある。メカニズム的には、何らかの形でカラー・パイを中心にバランスが取られていることが多いが、その形にはかなりの柔軟性がある。(タルキールの氏族のように)全ての陣営が同数の色からなることもあるが、(イクサランの文明のように)色の数が異なることもある。各色が同数存在することが多いが、そうでないこともありうる。メカニズム的独自性は、その世界全体の雰囲気に関わっている。カラー・パイの重要性から、陣営は5個か10個になることが多いが、少なければ2個ということもあった。陣営を1つだけにすることはできない。陣営間の対照性というものは重要なのだ。これについては後で触れる。
フレイバー的には、陣営はあらゆるものを表すことがある。(アラーラの各断片の――少なくとも最初の姿の――ように)それぞれの空間で生きる集団であることも、(イニストラードの怪物たちのように)お互いに混じり合う集団であることもある。(タルキールの龍の氏族のように)社会的要素であったり、(ローウィンの部族のように)単にその世界の分かれ方だったりすることもある。陣営が(ミラディンの戦闘での両軍のように)お互いに戦い合うこともあれば、(ラヴニカのギルドのように)平和的共存を探ることもある。それらが何であり、何によって定義づけられているのかには大きな幅があるが、陣営の鍵になるのは、それらがフレイバー的な意味で両立しており、多くの場合には世界がそれらの関係性によって形作られているということである。
#2 ― 各集団にはメカニズム的独自性がある
ほとんどの陣営は、キーワードで定義される。最も人気のある方法として、陣営ごとに(4つ以上の陣営がある場合、通常は陣営ごとに1つずつ)キーワードを割り振るというものがある。この場合、それらのキーワードはその陣営内にだけ存在する。例えば、セレズニアが召集を持つなら、他のギルドが召集を持つことはできない。各陣営には、それぞれのプレイスタイルも存在する。その陣営をドラフトするなら、例えば、ゲームをどのようにするかという方針が存在していて、それはその陣営の性質を強化するものであるべきである。陣営には、その陣営だけが意識するようなゲームの特定の部分を参照する濃いメカニズム的テーマがあることもある。例えば、エスパーの断片は、他の断片が意識していないアーティファクトを参照していた。もう1つ、陣営を作る上で人気のあるゲームの要素がクリーチャー・タイプだ。通常、この手法を取る場合、陣営の全部ではないにせよ大部分が、その同じクリーチャー・タイプを共有することになる。この手法では、その陣営はそのクリーチャー・タイプをメカニズム的に参照することが多い。
#3 ― 各集団はクリエイティブ的独自性を持つ
ほとんどの場合、陣営には名前がある。その名前は、クリーチャー・タイプに基づくものでないかぎり、メカニズム的意味を持たないことが多いが、カード名やフレイバー・テキストには頻出することになる。それぞれの陣営には、特色となる特徴がある。人型生物なら、特色となる衣装や道具、武器を使うことが多い。陣営ごとの社会や生き方、交流のあり方なども明確に定義されていることがほとんどである。また、それぞれの集団を象徴する印を持つことも多い。その印がカードで透かしとして用いられることもある。(銀枠マジック以外では、透かしがメカニズム的に意味を持つことはない。)
#4 ― 集団同士の関係性がセットを定義する
陣営の役割と、それらがお互いにどう関係するかがその世界のあり方を定義づける鍵である。(『インベイジョン』のように)戦争なのか。(イクサランのように)その世界の住人達が同じような目標に向かって盲進しているのか。(イニストラードのように)ある集団の恐怖に怯えながら他の集団が暮らしているのか。(ラヴニカのように)すべてが共存しようとしているのか。(アモンケットのように)それらの集団を軸に世界ができあがっているのか。陣営がお互いにどういう意味を持つかにはかなりの柔軟性があるが、その関わり方がその世界のあり方の本質にどのように関わっているかが重要である。
陣営のあるセットについてこれから語っていく中でわかっていくとおり、これまで毎回それに成功してきたわけではない。何かを除外してしまっていれば、その陣営は失敗なのだ。
陣営の要素
陣営とは何かの定義を終えたので、陣営セットをデザインする上で何が重要なのかについて少し語ろう。
セットを、陣営を軸にして構築しなければならない
セットに陣営があるのであれば、それはセットの軸になるものになるので、工程の早いうちに決めなければならない。決めなければならないことは以下のようなものがある。
a) 色:各陣営は何色であるか
上述の通り、陣営は色のバランスが取れていることが多い。(つまり、陣営に属する全てのカードの枚数を数えれば、各色の枚数がほぼ同じになるということである。)これの例外となるのが、2陣営のセットである。その場合、それぞれの陣営が対立するというフレイバーになり、多くの場合、両陣営とも5色すべてを使うことができるが、それが同数であるとは限らないのだ。
b) クリーチャー・タイプ:クリーチャー・タイプは陣営にに関して2通りのどちらかの使われ方をすることが多い
陣営がクリーチャー・タイプを軸にして構築されていたり、クリーチャー・タイプがフレイバー的に重要な役割を担っていたりすれば、その陣営には中心となるクリーチャー・タイプが存在する。陣営がクリーチャー・タイプを軸にして構築されていなければ、陣営間の差別化のために使われ、特定のクリーチャー・タイプが特定の陣営にしか存在しなくなっていることが多い。例えば、白のギルドすべてに天使がいるわけではなく、ボロスとオルゾフだけに限られている。
c) メカニズム:上述の通り、陣営をデザインする上で一番簡単な手法は陣営ごとにキーワードを割り振ることである
この方法を使う場合、そのキーワードはその陣営に固有のものである。しかしながら、もう1つの方法として、各陣営それぞれ独特の組み合わせでキーワードを使うようにするというものもある。さらに、どの陣営も全てのキーワードを使えるようにして、その使い方を分けることで差をつけるやり方もある。
どの方法を使うかは、セットの構造や、クリエイティブ・チームが世界を構築する方法の基礎として用いることになるので、初期のうちに決める必要がある。
各陣営の雰囲気を決めなければならない
陣営セットが成功するための大きな鍵の1つは、ユーザーがどの陣営に与するかを選べるようにすることだと私は考えている。それが成立するようにするために、2つのことをしなければならない。1つ目に、各陣営に独自の考え方や外見があるようにすること。その集団に加わること、あるいは協力することがどういう意味を持つのか。それが説得力のある考え方を持つようにしなければならない。例えば、求められればプレイヤーはその陣営が示すものを説明できるべきである。2つ目に、陣営がお互いにはっきり区別できるようにしなければならない。陣営を選ぶことを楽しくするものの1つが、それぞれが独自の理念や態度を持ち、フレイバーに富んだ選択肢が提供されていることである。それらの出発点が曖昧であれば、独自性は台無しになってしまう。
デザインの観点から言うと、これはフレイバーだけでなく実際のゲームプレイにも関わってくる話である。この陣営はどのメカニズムを使えるのか。どの特定のカード能力を使えるのか。デッキのアーキタイプは何なのか。必要とするプレイ速度はどうなのか。マナ・カーブはどうなるのか。参照するゲームの要素は何なのか。長所はどこなのか。短所はどこなのか。どういう勝ち方をするのか。陣営を成立させるためには、独自のゲームプレイが染み込んだものにしなければならないのだ。
上述のすべてをしなければならないだけでなく、クリエイティブ・チームと協力して陣営をプレイする感覚がそのフレイバーと一致するようにしなければならない。この陣営をプレイすることが、その陣営に属している気分になれるものになっているかどうか。ゲームプレイも、名前やイラスト、フレイバー・テキストと同じように、陣営らしさを表す上で重要だということを忘れてはならない。そして、その陣営がユーザーがそのセットに入ることを知っているものに基づいているのであれば、ユーザーの期待に応えるものでなければならないのだ。例えば、ポップカルチャーにおいて(ああ、ほとんどの、だ)ゾンビは遅いものだとされているので、『イニストラード』のゾンビ陣営のゲームプレイは遅いものでなければならなかった。映画やテレビでのゾンビが群れで襲うものなので、ゾンビの群れが相手を圧倒する形で勝つものでなければらなかった。
私が用いる手法の1つに、その陣営が生み出すべき感情が何なのかを考えるというものがある。この陣営について考える人がいたら、その気分はどうなるのが望ましいのか。その陣営をプレイすることでその感情が生み出されるように、その感情をゲームプレイに反映するのだ。
陣営をドラフト可能/構築可能なものにしなければならない
一見すると、これは当然のことのように見えるに違いないが、実際にセットを作る上では多くの問題を派生させることになる。
a) どのような色の組み合わせがドラフトされるかを決定づける
一言で言うと、特定の色の組み合わせの陣営があれば、その色の組み合わせでドラフトできるようでなければならない陣営が3色以上からなるものであれば、通常は、その3色のうち2色でドラフトできるようにすべきである。
b) 開封比を決定づける
ドラフトできるようにするため、陣営ごとに充分な量が存在しなければならない。これは通常、コモンで陣営を成立させるということを意味する。このことから、各陣営をコモンの複雑さで描写できるようにしなければならない。陣営が多色であれば、マナ基盤を供給することも必要であり、ドラフトするのに適正な水準を満たすようにすることもコモンに何を入れるかの決定に影響を及ぼす。また、陣営が多色であれば、多色カードをコモンに入れることが望ましいこともしばしばある。
c) シナジーを決定づける
セットをデザインするときは、色が重複する陣営間のシナジーを組み込まなければならない。例えば、『ラヴニカのギルド』では、ボロスはイゼットやセレズニアとうまく噛み合わなければならないのだ。陣営が主に単色であれば、どの2色(友好色や敵対色であることが多い)のシナジーを推すかを決め、そしてその色の組み合わせとなる陣営がシナジーを持つようにしなければならない。
d) ドラフト/デッキのアーキタイプを決定づける
その中で、陣営は様々なドラフトやデッキのアーキタイプを扱わなければならない。例えば、速いデッキと遅いデッキが必要である。脅威を軸にしたものや、対策を軸にしたもの。クリーチャーを中心にしたものや、中心にしないもの。そして、新メカニズムすべてがどこかで登場するようにしたいのだ。陣営は単体でデザインされるわけではない。すべての陣営を組み合わせ、全体としてリミテッドや構築の環境をどのように作り上げるかを考えなければならない。
陣営はセットに構造を与える上で非常に有用であるが、使うのであればそのセットが陣営を最大限に活かすようにする大きな責任が伴うのだ。
陣営の道
最後に、これまで陣営を使ってきたセットやブロックについて見ていこう。それらの陣営が何であったかについて語り、そして各セットが陣営をどれほどうまく扱ったかについて評価し、それから詳細を語ろう。
『フォールン・エンパイア』
陣営:
- レイトバー騎士団(白)
- ヴォーデイリアのマーフォーク(青)
- 漆黒の手の騎士団(黒)
- ドワーフ(赤)
- エルフ(緑)
『フォールン・エンパイア』は、ドミナリアのサルペイディア大陸を舞台にしている。各陣営はそれぞれ異なる単色の集団で、他の陣営と戦いながら内部でも抗争を続けている。(白にはファレル教団、青にはホマリッド、黒にはスラル、赤にはゴブリンとオーク、緑にはサリッドがいる。)
陣営の評価:B-
『フォールン・エンパイア』は陣営を軸にした初のセットというかなりの敬意を受けている。各陣営に明確なメカニズム的、クリエイティブ的な独自性を与えることに大成功を収めた。現在の視点で見て足りなかったのは、お互いが特にシナジーを持つようにデザインされなかったことである。『フォールン・エンパイア』はドラフトができる前のもので、当時は陣営間のシナジーはそれほど重要ではなかった。今日では、陣営間のつながりなしで単色の陣営のセットを作ることはできないだろう。
『ミラージュ』ブロック
陣営:
- 軍隊的なザルファー
- 宗教的なフェメレフ
- 交易的なスークアタ帝国
『ミラージュ』ブロックの舞台は、ドミナリアのジャムーラ大陸であった。物語の軸となったのは、3つの対立した国家である。3つの陣営のそれぞれに色を記していないのは、色と陣営の間に強い関連性がないからである。
陣営の評価:F-
『ミラージュ』ブロックを陣営ブロックに列記するべきかどうかわからないが、物語を考えると3つの国家(と、4人のウィザード、マンガラ、テフェリー、ジョルレイル、ケアヴェク)が重要なのは明確であった。陣営にはメカニズム的つながりはなかったので、多くのプレイヤーはこのセットに陣営があるとは思っていないことだろう。最終的にこれを加えたのは、濃いメカニズム的独自性のない陣営は陣営だと思われることすらないということを示すためである。
『インベイジョン』ブロック
陣営:
- 連合(全色)
- ファイレクシア軍(黒とアーティファクト)
『インベイジョン』ブロックはドミナリアを舞台としており、多くの大陸が物語に関わっている。これは、戦争の敵味方になる2陣営による初めてのセット/ブロックである。また、各陣営の印が初登場し、イラストで用いられたのもこのときである。(透かしではなかった。)ファイレクシア軍がドミナリアを侵略していて(4年に渡るシリーズの最後である)、その次元に住むすべての住人が止めるために協力するのだ。
陣営の評価:D+
《合同勝利》 アート:Eric Peterson |
『ミラージュ』と異なり、2つの陣営が存在してお互いに戦っていることははっきりしていた。不幸にして、メカニズム的つながりは多くなく(「版図」が連合のメカニズムだった)、またこの2つのセットは、2陣営に求められる、お互いに対戦したときに興味深い対戦を作るようなセットとして作られてもいなかった。
『オンスロート』ブロック
陣営:
- ビースト(1種色:赤緑、2種色:青黒)
- 鳥(1種色:白青、2種色:黒赤)
- クレリック(白黒)
- ドラゴン(1種色:赤、2種色:青)
- エルフ(緑)
- ゴブリン(1種色:赤、2種色:黒)
- 霧衣の幻影(青)
- 兵士(1種色:白、2種色:青緑)
- ウィザード(1種色:青、2種色:白黒赤緑)
- ゾンビ(黒)
『オンスロート』ブロックはドミナリアのオタリア大陸を舞台としている。初の部族ブロックであり、陣営はクリーチャー・タイプに基づくものであった。色の割り振りは様々で、エルフやソンビのように1色に限られる部族もあればウィザードやビーストのように4~5色に渡って存在する部族もあった。
陣営の評価:C-
『オンスロート』の陣営には、明確なメカニズム的独自性があった。お互いにシナジーが十分にあったというわけではなく、また陣営と世界(当時のマジックは「ドミナリアを離れない」時期だったので、この場合は大陸)の独自性にに強いつながりがあったわけでもない。
『神河物語』ブロック
陣営:
- 定命の者(全色)
- 神(全色)
『神河物語』ブロックは神河世界を舞台としており、(ほとんどの2陣営ブロックがそうであるように)対立を軸とした2陣営のブロックである。この対立は、物理世界の定命の者と、精神世界の神(クリーチャー・タイプで言うとスピリット)の間のものである。
陣営の評価:C
各陣営にはメカニズム的独自性があるが、それらのメカニズムはそれぞれの陣営、特に、クリーチャー・タイプでメカニズム的に区別されていた定命の者に濃い雰囲気を与えることはできていなかった。
『ラヴニカ』ブロック(ならびに続編の『ラヴニカへの回帰』ブロック、『ラヴニカのギルド』ブロック)
陣営:
- アゾリウス(白青)
- ディミーア(青黒)
- ラクドス(黒赤)
- グルール(赤緑)
- セレズニア(緑白)
- オルゾフ(白黒)
- イゼット(青赤)
- ゴルガリ(黒緑)
- ボロス(赤白)
- シミック(緑青)
『ラヴニカ』のセットはすべて都市世界ラヴニカを舞台にしており、陣営はその次元の住人の多くが所属する10個のギルドである。(ギルドに所属しないクリーチャーも存在する。)それらは2色の組み合わせ10組を象徴し、それぞれの組み合わせのフレイバーを体現している。『ラヴニカ』は陣営の印をカードで透かしとして使った初めてのセットであった。
陣営の評価:A
《シミックの幻想家、モミール・ヴィグ》 アート:Zoltan Boros and Gabor Szikszai |
ラヴニカとギルドは、陣営セットの金字塔である。独特の独自性を持ち、お互いにうまくプレイできるようにデザインされている。現時点までで、ギルドは我々がデザインした中で最も成功した陣営群である。
『ローウィン』ブロック
陣営:
- 変わり身(全色)
- エレメンタル(1種色:赤、2種色:他全て)
- エルフ(緑黒)
- フェアリー(青黒)
- 巨人(赤白)
- ゴブリン(黒赤)
- キスキン(白緑)
- マーフォーク(青白)
- ツリーフォーク(白黒緑)
このブロックはローウィン次元を舞台としている。これも部族に基づく陣営のセットである。各部族は少なくとも2色に存在する。変わり身は、他の陣営と組み合わせて働くように作られた陣営という、新奇な追加である。
陣営の評価:B-
《アメーバの変わり身》 アート:Nils Hamm |
各陣営に明確なメカニズム的独自性があり、陣営はお互いにシナジーを持つように作られている。このブロックの最大の問題は、ブロックの第2セットである『モーニングタイド』ではすべて職業である5つの異なる部族に焦点を当てることにしたことである。それらの職業は8つの種族を横断するものだったが、結果としてできた関連性の網は焦点を大きくぼやけさせることになった。
『シャドウムーア』ブロック
陣営:
『シャドウムーア』:
- キスキン(白青)
- フェアリーとマーフォーク(青黒)
- エレメンタル(黒赤)
- ゴブリンと巨人(赤緑)
- エルフ(緑白)
『イーブンタイド』:
- ?(白黒)
- ?(青赤)
- ?(黒緑)
- ?(赤白)
- ?(緑青)
これも、ここに含めるかどうか悩んだセットである。『ローウィン』ブロックから種族のクリーチャー・タイプはすべて(変わり身以外)引き継いでおり、フェアリー以外のすべての色は変化している。そして混成マナでメカニズム的独自性は間違いなくあるのだが、これを陣営ブロックとして扱うべきかどうか悩んだのは、メカニズム的独自性はあったがクリエイティブ的独自性がほとんどなかったからである。
陣営の評価:D-
《光らせの子》 アート:Nils Hamm |
このセットは、陣営のメカニズム的実装とクリエイティブ的実装があまりにも大きく乖離していると、このブロックに陣営があるということをプレイヤーの多くに伝えることができないという好例である。
『アラーラの断片』ブロック
陣営:
- バント(緑白青)
- エスパー(白青黒)
- グリクシス(青黒赤)
- ジャンド(黒赤緑)
- ナヤ(赤緑白)
このブロックはアラーラ世界を舞台にしているが、その世界は、それぞれには3色のマナしか存在しない断片と呼ばれる5つの独特の小世界に分かれている。それぞれが3色の陣営を複数初めて使ったのがここである。
陣営の評価:B
《数多のラフィーク》 アート:Michael Komarck |
アラーラは、それぞれが独特の外見をした、興味深く、うまく具現化された陣営5つの素晴らしい例である。アラーラの陣営に対する大きな非難は、それぞれ単体ではうまくプレイできるのだが、それと重なりのある断片すべてとシナジーがあったわけではないということである。
『ミラディンの傷跡』ブロック
陣営:
- ミラディン人
- ファイレクシア軍
このブロックは、ファイレクシア軍の侵略を受けて(ネタバレ)ゆっくりと新ファイレクシアへと変わっていくミラディン世界を舞台にしている。これも、対立を軸とした2陣営のブロックである。陣営として透かしを使った2つ目のセットである。『ミラディンの傷跡』ブロックでそれが重要だったのは、ブロックが進むにつれてファイレクシア軍の影響が広がっていくことを示していたからである。
陣営の評価:B+
《大修道士、エリシュ・ノーン》 アート:Igor Kieryluk |
ここにはかなり面白いところがある。各陣営にはメカニズム的に濃く、フレイバーに富んだ雰囲気があり、それらはお互いに対立してプレイするようにデザインされている。このセットの最大の問題は、最終的な開封比のせいでドラフトで両陣営を混ぜることが難しくなっていたことである。
『イニストラード』ブロック(と、その続編の『イニストラードを覆う影』ブロック)
陣営:
- スピリット(白青)
- ゾンビ(青黒)
- 吸血鬼(黒赤)
- 人狼と狼(赤緑)
- 人間(1種色:緑と白、2種色:他の色)
このブロックはゴシックホラー次元であるイニストラードを舞台としており、陣営はその世界の怪物とその被害者である。陣営は部族に基づいているが、デザイン上の部族要素は『オンスロート』や『ローウィン』といった部族セットよりも低くなっている。
陣営の評価:A-
《流城の貴族》 アート:James Ryman |
『イニストラード』の陣営は、色間のシナジーを備えた怪物のトップダウンでの雰囲気を再現する上で素晴らしい役割を果たした。
『タルキール覇王譚』と『運命再編』
陣営:
- アブザン(白黒緑)
- ジェスカイ(青赤白)
- スゥルタイ(黒緑青)
- マルドゥ(赤白黒)
- ティムール(緑青赤)
このブロックは、大将軍世界タルキールを舞台としている。5つの陣営はすべてが3色の楔に基づく陣営で、この世界の氏族の1つを表している。このセットでも、陣営を表すために透かしを用いている。ラヴニカと違い、これらの陣営は世界のそれぞれの場所で生活しており、大きく異なる背景がある。
陣営の評価:A-
《僧院の速槍》 アート:Steve Argyle |
これもまた、良い陣営セットである。セットごとに大きく異なる雰囲気だが、組み合わせてドラフトをしてもうまくプレイできる。
『タルキール龍紀伝』
陣営:
- オジュタイの血統(白青)
- シルムガルの血統(青黒)
- コラガンの血統(黒赤)
- アタルカの血統(赤緑)
- ドロモカの血統(緑白)
このセットは、異なる時間線上のタルキールを舞台としている。氏族は存在しているが、龍によって支配されており、2色に削られている。また、覇王の氏族の印と少し違うものを透かしとして使っている。
陣営の評価:B+
《コラガンの命令》 アート:Daarken |
龍の氏族にもまとまりはあったが、最終的に覇王のものに比べて印象が薄いものになった。しかしながら、これらの氏族はつながる色同士でシナジーを持つものであった。
『戦乱のゼンディカー』ブロック
陣営:
- ゼンディカー人(全色)
- エルドラージ(全色のマナ、ただし無色)
最初の『ゼンディカー』は陣営セットではなかったが、ゼンディカーを舞台とした2回目にあたる今回は、違う対立があるため陣営セットとなった。ゼンディカー人は、我々が前回ゼンディカーを訪れた以降に目覚めてこの世界を占領したエルドラージに対する抵抗軍だった。
陣営の評価:C+
《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 アート:Michael Komarck |
デザイン・チームは両陣営にまとまりを持たせるために尽力したが、陣営全体としてはプレイヤーに響くものにはならなかった。
『霊気紛争』
陣営:
- 領事府
- 改革派
このブロックの第1セットの『カラデシュ』は対立を描いたものではなかったが、第2セットは対立を描いている。対立を軸にしたセットなので、これも2陣営のセットであった。
陣営の評価:C
《光袖会の収集者》 アート:Greg Opalinski |
物語がこの対立を中心としており、デザインは両陣営にメカニズム的独自性を持たせていたが、このセットは陣営セットらしいと感じられるものではなかった。
『アモンケット』ブロック
陣営:
- オケチラの信徒(白)
- ケフネトの信徒(青)
- バントゥの信徒(黒)
- ハゾレトの信徒(赤)
- ロナスの信徒(緑)
このブロックはアモンケット世界を舞台としており、都市ナクタムンを中心に展開する。その都市は、すべての市民が生まれながらに目指すそれぞれの試練を備える5柱の神々によって定義されていた。この分割がある意味では陣営的であるがある意味ではそうではないことから、陣営セットに含めるかどうかは難しいセットである。
陣営の評価:C-
《威厳あるカラカル》 アート:Filip Burburan |
陣営それぞれに独自性と雰囲気はあるが、メカニズム的に非常に強いつながりがあるとは言えない。ただし、組み合わせてうまくプレイできるようにデザインされている。
『イクサラン』ブロック
陣営:
- 鉄面連合―海賊(青黒赤)
- 太陽帝国―恐竜(赤緑白)
- 薄暮の軍団―吸血鬼(白黒)
- 川守り―マーフォーク(緑青)
このブロックはイクサラン世界を舞台にした、部族に基づく陣営ブロックである。このセットは、3色の陣営2つと2色の陣営2つという異なった組み合わせの色の陣営を扱ったものである。
陣営の評価:B-
《人質取り》 アート:Wayne Reynolds |
陣営はそれぞれ独特のもので、3色陣営はそれぞれの2色の組み合わせごとに違う形で、ただしシナジーを持って、プレイできるようにデザインされている。最大の問題は、それらがお互いにあまり相互作用しなかったことであり、プレイパターンが絞られてしまうことになった。
『Unstable』
陣営:
- 小型装置団/Order of the Widget(白青)
- S.N.E.A.K.職員/Agents of S.N.E.A.K.(青黒)
- 卑怯な破滅軍団/League of Dastardly Doom(黒赤)
- ゴブリンの爆発屋/Goblin Explosioneers(赤緑)
- 交配研究所/Crossbreed Labs(緑白)
『Unstable』は狂気の発明家の世界バブロヴィアを舞台としている。友好色の陣営は、その世界で権力を持つ5つの集団を表している。
陣営の評価:A-
《Animate Library》 アート:Raymond Swanland |
陣営はどれも非常にフレイバーに富んだものだ。5つの陣営すべてがセットのすべてのメカニズムを使えるが、それぞれは特定のメカニズムに寄ったものになっている。私のちょっとした不満を言えば、それらのメカニズム的テーマはもっとはっきりわかるようにすべきだった。
陣営はどこに
本日はここまで。我々の陣営の作り方の覗き見を楽しんでもらえたなら幸いである。これは諸君が『ラヴニカのギルド』をプレイする間に考えを巡らせることができるものであろう。いつもの通り、今日の記事について、また我々の作ってきた陣営について好きなことや嫌いなことについて、諸君の感想を知りたいと思っている。また陣営の新しい作り方の発想があれば、ぜひ聞かせてもらいたい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、トリビアの話をする日にお会いしよう。
その日まで、囁きかけてくる陣営を見つける楽しみがあなたとともにありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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