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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

龍を描け その2

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龍を描け その2

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年3月9日


 『タルキール龍紀伝』プレビュー第2週へようこそ。今週は、セットのデザインの話を続けて、そしてクールな新プレビュー・カードもお披露目していこう。いつもの通り――まあ、ほぼそんな感じだ。これから見ていくが、サルカンはタルキールを大きく変化させた。先週の私の記事をまだ読んでいない諸君は、まずそちらを読んできてくれたまえ。今日の話は、それを前提にしているのだ。

「時間線は誰のもの?」

 先週、このブロックの構造をどのように設定し始めたかについて話した。大/小/大というブロックで、その第2セットは両大型セットそれぞれと一緒にドラフトするが、大型セット2つを同時にドラフトすることはないのだ。そのことから、先行デザイン・チームは時間旅行の物語を扱うということを思いついた。『タルキール覇王譚』へと続く時間線と『タルキール龍紀伝』へと続く時間線、2つの時間線を作ることでこの構造を表すのだ。大きな問題は、実際にはどうやってそうするのか、だった。

 我々は最初に、時間旅行の物語に必要なものを洗い出していった。歴史上のターニング・ポイントから分岐してできた2つのかけ離れた世界が必要だった。クリエイティブ・チームは、サルカンの出身地を提示してくれた。大将軍の世界だったその世界を、龍の世界に変化させるのだ。ただし、そうしたときにも共通の構造を作らなければならない。2つの大型セットは似ていて、かけ離れている必要があったのだ。


賢いなりすまし》 アート:Slawomir Maniak

 この問題への答えは、陣営だった。ブロックの最初でユーザーに、大将軍の率いる5つの陣営を提示した。龍は絶滅しているが、かつて龍がいて絶滅したのだということが感じられるようにした。これは龍の性質を使って表現している。各氏族が龍の異なる性質を崇め、そして氏族の理念の軸にしているのだ。

 この龍の性質が重要なのは、それによって共通の構造を作ることができたからである。『運命再編』に到って、我々はこの5つの性質をそれぞれ最も体現している5体の龍を描くことができる機会を得た。そして、この5体の龍が大将軍となる新しい時間線の上で、この5体を追ったのだ。つまり、この5つの氏族には2種類の歴史が存在することになる。一貫しているのは龍の性質と、その色のうち1色を中心とした2色である。3つめの色は、2つの時間線の差を明確にするために取り除かなければならない。

 ちなみに、最初は5つの氏族の名前をブロック中ずっと維持する予定だった。たとえばマルドゥは最初の時間線では赤白黒の氏族であり、2つめの時間線では2色(共通の敵対色である白が取り除かれた赤黒)の氏族になるのだ。問題は、ユーザーは楔3色を示す名前を求めているということだった。楔3色の名前を導入し、その後でその意味する色を変えたとしたら、大混乱を起こすことになるだろう。そう考えて、氏族名は楔3色にだけ使い、龍が支配するようになった場合には氏族名はその龍の名前を取ることにしたのだ。

良いメカニズムを探す

 先週、ブロック全体を通しての裏向きメカニズムの変遷(変異→予示→大変異)をどう組み立てたかという話をした。その次は、各陣営をどうやって表現するかを決めることになる。判っていたことは、各陣営を定義するために、各陣営には大型セットごとにそれぞれ1つのメカニズムが必要だということだった。つまり、『タルキール覇王譚』では、各陣営に1つずつの独自のメカニズムが存在し、そして『タルキール龍紀伝』でも、各陣営に1つずつの独自のメカニズムが存在する。ただし、そのメカニズムは『タルキール覇王譚』のものとは異なるのだ。この類似した構造は、違いを表現すると同時に類似性を浮かび上がらせてくれることになる。


アート:Ryan Yee

 『運命再編』のプレビュー記事でも言った通り、第1セットに5つの陣営のメカニズムがあり、最後のセットにも5つの陣営のメカニズムがあり、そしていくつもの裏向きのメカニズムがあるので、もうキーワードを増やす余地はない(我々は、ブロックごとに存在するキーワード/能力語を6個から12個の範囲に収めることにしている)。つまり、『運命再編』はどちらかの大型セットからメカニズムを借りてこなければならないのだ。『運命再編』の新しいキーワードを3つ、『タルキール龍紀伝』の新しいキーワードを4つにするために(といっても1つは再録で、1つは既存のメカニズムの調整版だが)、『運命再編』の陣営のメカニズムは『タルキール覇王譚』から3つ、『タルキール龍紀伝』から2つを採用することになる。

 『運命再編』で大型セットのメカニズムを使うということは、(中心色が共通のものを1つの陣営として扱って)各陣営の2つのメカニズムには重なりがあるべきだということになる。『運命再編』が『タルキール覇王譚』と組み合わせて使われるときには2つ、『運命再編』が『タルキール龍紀伝』と組み合わせて使われるときには3つが重なることになる。ブロックの良いデザインのためには、シナジーを持つメカニズムを5組作る必要があったのだ。

 『タルキール龍紀伝』は大型セットなので、そのデザインは『運命再編』のデザインよりもずっと早く始まっていたということを思い出してほしい。つまり、組となるメカニズムの間でシナジーを見付けるのは、『タルキール龍紀伝』のデザイン・チームの仕事だったということである。これから、我々が見付け出した順に見ていくことにしよう。

 一言添えておくと、これから見ていく全てのメカニズムについて、1つ重要なことがある。『タルキール龍紀伝』は「龍のセット」なのだ。つまり、メカニズムには龍っぽい雰囲気が必要だということになる。解釈の余地はあるが、それでも龍っぽいと言ったら納得できるようなメカニズムにしなければならなかったのだ。

赤中心の陣営

 これの変化は、赤白黒から赤黒だ。マルドゥのメカニズムは強襲だったので、強襲と組み合わせてうまく働く新しいメカニズムを見付ける必要があった。『運命再編』のプレビュー記事で言ったとおり、このメカニズム疾駆はサム・ストッダート/Sam Stoddardと私が、最初の課題として考えた際にそれぞれ独立に見付け出したものである。サムがいかにしてこのメカニズムを思いついたかは定かではないが、おそらく私と同じような経路で思いついたのだと思われる。

 強襲は攻撃専用だ。そこで私は新メカニズムは攻撃に関連して何かをするものだという単純な前提を置いて考えていった。攻撃誘発や、クリーチャーが対戦相手にダメージを与えたときに働くサボタージュ能力などを考え、そして『ビジョンズ』のカード《ヴィーアシーノの砂漠の狩人》に思い到った。これはターン終了時に手札に戻るので、攻撃しようと思わせるのだ。

 そこから私は思考を進めていった。この「欠点」を活用するメカニズムがあるとしたら? 代替コストを支払って、クリーチャーに速攻を与える。ただしそうしたならターン終了時に手札に戻るとしたら? まず、この能力だけを持ったバニラ・クリーチャーを作ってみた。マナ・コストより疾駆コストのほうが安いことだけがメリットになるようなものだ。しばらくこれを弄ってみたところ、手札に戻すということを欠点でなく長所にする方法がいくつも見えてきたのだ。

 このメカニズムを持ったカードのデザインを続けていくうち、非常に面白いことがあること、そしてこのメカニズムには素晴らしいデザイン空間があることが明らかになった。その次のデザイン会議で集まったとき、サムが私と基本的に同じメカニズムを思いついていたことには驚かされた。チームはこのメカニズムを気に入り、疾駆が『タルキール龍紀伝』のメカニズム第1号になったのだ。

 ちなみに、この時点ではどのメカニズムが『運命再編』に入るかは判っていなかったことを記しておきたい。我々はただ『タルキール龍紀伝』で使う、シナジーのある能力5つを選んでいるだけであり、どれを『運命再編』に入れるかは『運命再編』のデザイン・チームに任せていたのだ。

青中心の陣営

 次に解決したのは、青赤白から青白になった陣営だった。『タルキール覇王譚』では、ジェスカイと呼ばれた氏族であり、メカニズムは果敢だった。果敢はクリーチャーでない呪文が唱えられたことを参照するものだったので、新メカニズムも当然クリーチャーでない呪文に関連したものになる。クリーチャーでない呪文であれば何でも果敢とかみ合うのだが、それよりももっとシナジーの強いものが必要だった。そう、同じ呪文を2回唱えられるようなメカニズムはどうだろうか?


雲変化》 アート:Noah Bradley

 このデザイン空間を弄っていく間、何度もこれまでに作ったメカニズムに近づくことがあった。手札から何度も唱えられるような呪文――バイバックだ。手札から唱えた後で、墓地にある間に唱えることができる呪文――フラッシュバックだ。分岐できる呪文――複製とか共謀だ。いったん消えて、次のターンにもう一度現れる呪文――反復。こうして、車輪の再発明をするなら、これらのメカニズムの中から1つを選んで再録すればいいということが明らかになった。

 バイバックは『ニクスへの旅』のときに試して巧く行かなかった。フラッシュバックは『イニストラード』で使った。共謀は「色関連」の性質を持っているのでこのブロックには相応しくない。残った選択肢は複製と反復だった。複製は1ターンに大量の効果が発生するが、反復は複数のターンに渡って利益を受けることになる。プレイテストしてみると、すぐに我々の求めていたのは反復だと判ったのだ。(編注:掲載時には複製と書かれていましたが、誤りです。お詫びして訂正いたします)

黒中心の陣営

 これは黒緑青から黒青への変化を遂げた。スゥルタイのメカニズムは探査だったので、何か墓地に大量にカードを持つことによって有利になるものとかみ合うメカニズムを探すことになった。最も明らかな選択肢は、カードを墓地に送るメカニズムだった。自分のライブラリーを削る効果を試してみたところ、シナジーはあったが、それ単体で面白いゲームプレイを生み出しはしないということがわかった。我々に必要なのは2つのかみ合うメカニズムだったが、それぞれのメカニズムが単体で面白くプレイできるということも重要だったのだ。

 次に我々が選んだのは、手札から墓地にカードを送るメカニズムだった。手札を捨てることを活かすようなメカニズムを探し、再びいくつかのメカニズムを試したが、どれも巧く行かなかった。その次が戦場から墓地にカードを送るメカニズムだ。このメカニズムのために我々は、テーマ上黒青に相応しいと言える生け贄を試すことにした。

 こうしてたどり着いたのが、我々が『オンスロート』の時に初めて試したメカニズムだった。「戦場に出たとき」の効果でクリーチャーを生け贄に捧げることが必要なクリーチャー(『オンスロート』は部族セットだったので、このメカニズムは特定の種族に紐付けられていた)。この効果を持つクリーチャー自身を選ぶこともでき、そうなるとその呪文は実質的にソーサリー(瞬速を持っていればインスタント)になるが、それより重要性の低い他のクリーチャーがいれば、それを生け贄に捧げて、クリーチャーと「呪文」の両方を使うことができるのだ。このメカニズムは、調整を経て、濫用メカニズムとして仕上がった。

緑中心の陣営

 これは緑青赤から緑赤に変化した陣営だ。ティムールのメカニズムは獰猛なので、戦場に大型クリーチャーを出していることとかみ合うようなメカニズムが必要となった。最初は、4/4のクリーチャー・トークンを生み出すメカニズムを試してみたが、これは少しばかり扱いにくいということがわかったので、我々は大型クリーチャーを出していることが利益になるような他のメカニズムを探すことにした。


残忍なクルショク》 アート:Kev Walker

 最終的には、獰猛メカニズムを元にして調整することにした。獰猛は1体でパワー4以上のクリーチャーが必要だった。圧倒も自分のクリーチャーを参照するのだが、1体のクリーチャーではなく、自分の全クリーチャーのサイズの合計を見るのだ。圧倒に相応しい数字を色々と試してみたが(8という数字に定めたのはデベロップである)、我々は、同じようなデザイン空間に存在するが異なるメカニズムである圧倒のことが気に入った。獰猛では不可能だった、大量の小型クリーチャーを並べるという戦略さえも存在したのだ。

白中心の陣営

 これは、白黒緑から白緑に変化した。 アブザンのメカニズムは長久だったので、必要なメカニズムは+1/+1カウンターと大きさのどちらかを参照するメカニズムとなる。圧倒が大きさを参照しているので、+1/+1カウンターを参照するほうが相応しいと思われた。実際、既に+1/+1カウンターを持っているクリーチャーを参照する長久カードが存在していたので、我々が本当に必要としていたのは+1/+1カウンターを生み出すメカニズムだったのだ。

 +1/+1カウンターを生み出すメカニズムは珍しいものではないので、最初はこれは簡単な仕事のように思われた。しかし、実際は最も難しい仕事だったのだ。それほど難しかった理由は、+1/+1カウンター関連の能力のほとんどは自分の最大のクリーチャーをさらに強化するというものだったからである。それでは白というよりも緑の能力に感じられてしまうが、白の氏族だという違いを感じさせたかったのだ。さまざまなメカニズムが巧く行かなかったので、我々は一歩引いたところから何が足りないのかを考えていくことにした。


黄金牙、タシグル》 アート:Chris Rahn

 足りないメカニズムは、最大のクリーチャーに恩恵を与えるメカニズムの逆のメカニズムだった。逆のメカニズムとは何なのかを掘り下げて、最小のクリーチャーを強化するメカニズムを見付けたのだ。それこそが解決策だった。最弱のクリーチャーを強化するのは、まったく違うものに感じられた。そして、+1/+1カウンターを置く場所を自由には選べないので、+1/+1カウンターを使う他のメカニズムとも違う動きを見せる。たった1度のプレイテストで、我々は相応しいメカニズムである鼓舞を見付けたと確信したのだった。

繋ぎの話

 メカニズムができたら、次はそれが組み合わせてもうまく動くようにする必要がある(ここで組み合わせを考慮するのは『タルキール龍紀伝』の5つのメカニズムだ)。友好色を中心にしたプレイなので、各メカニズムは5つの氏族のうち3つずつで登場することになる。例えば、疾駆は黒赤であり、白青と緑白以外の3つの氏族で登場するわけだ。

 氏族によっては、メカニズムが自然に重なり合っているものもある。疾駆で戦場に出したクリーチャーを濫用で生け贄に捧げたり、あるいは圧倒に必要なパワー8を達成するために鼓舞したり。圧倒の合計パワー8を達成するために疾駆でクリーチャーを出すこともできる。一方、メカニズム間の重なりが特定のカード・デザインによるものもある。例えば、我々は、トークンを生み出す反復カードを作り、濫用で生け贄に捧げられるようにした。

 加えて、我々は『タルキール覇王譚』のメカニズムで見かけられたものに触れるカードも作った。例えば、白青にはクリーチャーでない呪文を唱えたときに(+1/+1ではないが)メリットがあるクリーチャーが存在する。こうして、既に存在しない世界を垣間見ることができるようにすることは重要だったのだ。過去の時間線では生き残っていた何かが、少量しか存在しなくなっているわけだ。

 このことから、我々はこのセットのデザインにおけるもう1つの重要な要素が導かれることになった。

完全に新たな世界

 我々はただセットをデザインしているだけではない。我々はもう1つの時間線をデザインしているのだ。つまり、プレイヤーたちに馴染みのある世界を弄り、作り替えるということである。この作業の多くはクリエイティブ・チームによるが、デザインもそこに参画したかった。我々は、以前の時間線で見受けられたものでこの時間線では変わっているものをカードに表した。例えば、我々はクリエイティブ・チームと協力し、全く違う生き方をしている『タルキール覇王譚』の5人のカンをもう一度登場させようとした。

 今日のプレビュー・カードは、カンの1人アナフェンザである。以前の時間線では、彼女はアブザンの指導者だった。この新しい時間線では、状況は大きく異なっている。それでは《族樹の精霊、アナフェンザ》をご紹介しよう。

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 そう、この時間線では、アナフェンザは幽霊なのだ。彼女がどう死んだかは今後の「Uncharted Realms」に譲るとしよう。ただし、マジックにおいて死は終わりではなく、彼女は精神だけとなった今も文字通り生きているのだ。

 デザイン・チームはこの新しい時間線が以前の時間線とどう違っているか(そしてまれには違っていないか)をメカニズム的にほのめかす様々な方法を楽しみながら見つけ出していった。このセットを掘り下げていけば、諸君も楽しいイースター・エッグを目にすることができるだろう。

龍を心に留め置こう

 パズルの最後のピースは、このセットが究極的に目指さなければならない「龍のセット」というものにするということである。『スカージ』は「ドラゴンのセット」として売り込まれたが、それはかけ声倒れだった。『ドラゴンの迷路』は「ドラゴンのセット」とは名乗っていないが、セット名に「ドラゴン」と入っているのでプレイヤーの多くはドラゴンを望み、そして失望することになった。『タルキール龍紀伝』は、文字通りの「龍のセット」でなければならないのだ。

 問題の1つが、『運命再編』にも(わずかながら)ドラゴンが存在したということであり、より龍的にしたいということである。そして、タルキールの世界観において、龍は龍の大嵐から生まれることになっている。つまり、龍には小さな幼生は存在せず、龍は全てが大型でなければならないのだ。1つめの条件から、ドラゴンの開封比は『運命再編』よりも高くなければならない。2つめの条件を踏まえると、そのためには大型の飛行クリーチャーを大量に入れる方法を見付けなければならないということになる。これはとんでもない話であり、デザインの全員、さらにはデベロップの全員を投入してようやく相応しい組み合わせを探すことができたのだ。来週、カード個別の話をする中で、我々の選んだ龍について話していくことにしよう。

次なる時間線で

 今回はここまで。「龍のセット」を作るのは非常に楽しい経験だったので、諸君も同じぐらい楽しんでプレイしてもらえたら幸いである。いつもの通り、今回の記事や新セットについての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、カード個別の話でお会いしよう。

 その日まで、戦場にあなたのコントロールする龍がいますように。

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