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Making Magic -マジック開発秘話-

複雑な英雄心

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複雑な英雄心

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年10月21日


 英雄特集にようこそ。今週は『テーロス』で導入された新メカニズム、英雄的について語ることになる。メカニズム特集の際にはよくあることだが、私は当該メカニズムのデザインについてプレビュー期間中に語ってしまっている(読んでいない諸君はこちらを)。ということで、英雄的能力の起源ではなく、そのある一面について議論する必要があった。しばらく考えた後、メカニズムそのものではなく、そのメカニズムがセットに与えた影響について見ていくのは面白いのではないかと思い至った。そこで、今回はメカニズムの作り方ではなく、メカニズムの存在によってセットはどう変化するのかについて見ていこう。もちろんその題材は英雄的能力である。

広がる波紋

 私がメカニズムについて語る時、ほとんどの場合はセットがそのメカニズムにどう影響を与えたかについて語る。実際、プレビュー期間中の記事でも、英雄的能力を作るにあたって満たさなければならない条件があった、という話をしている。しかし、逆側にもまた面白い話はある。英雄的能力が登場したことで、セットはどう変化したのか? 今回の話は英雄的能力のデザインにとどまらず、もっとずっと広がる話なのである。

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 トップダウンのギリシャ神話をやることはわかっていて、エンチャントで神々の影響を表すという構想が気に入っていた。さらに、英雄と怪物が必要で、それらは時とともに強化されるようにしたかった。つまり、このセットには普通より多くのオーラが入ることになる。この時点ではまだ授与は存在していなかった。信心と初期版の怪物化は存在していたが、この時点では信心はただ彩色の名前を変えただけで、「色への信心」にもたどり着いていなかったし、戦場にあるパーマネントに限定するという形も定まっていなかった。怪物化については、怪物特有の、怪物をより凶悪にするメカニズムが必要だということはわかっていた。英雄化を作った時点では、「ゲーム中に1度だけ」起動できるということにたどり着いたところだった。占術が投入されたのはデベロップ中のことだったのも忘れないでもらいたい。

 私は、英雄的を、クリーチャーが呪文の対象となったときにその上に+1/+1カウンターを置くメカニズムとして作り、そしてすぐに+1/+1カウンターを置く以外の効果も存在するように拡張した。+1/+1カウンターは白や緑に使うべき効果で、青や赤はより呪文のような効果を生成するべき、黒はその中間にすべきと判断したのだ。

 英雄化がセットに投入されたことで、デザイン・チームはいったん立ち戻ってそれが与える影響について検討する必要があった。その影響について、これから見ていこう。

数の問題

 英雄的能力が呪文だけで誘発し、能力では誘発しないようにした理由は、能力でクリーチャーを何度も対象にするのは簡単すぎるから、である。例えば、青に、カードを引く英雄的クリーチャーを作りたかったのだ(デザインは楽観的なので最初はコモンにしたが、カード・アドバンテージはコモンには強すぎるのでアンコモンに移動することになった)。一方、英雄的を呪文に限ったことによる問題として、リミテッドで使いにくくなるということである(構築では少しは使いやすいが、それでもそれほどではない)。

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 ここで計算をしてみよう。通常のシールドデッキは40枚である(リミテッドをプレイしない諸君のために言っておくと、デッキの必要枚数は60枚でなく40枚なのだ。昔のマジックに関するトリビアを好む諸君のためにさらに言っておくと、マジックが作られた当時は、どんなデッキでも40枚が下限だったのだ)。通常、そのうち約17枚が土地である。残りは23枚。通常、23枚のうち16枚程度がクリーチャーであり、クリーチャーでも土地でもない呪文に割かれる枚数は7枚ということになる。その中にはクリーチャー除去が入るものだが、仮にクリーチャー除去よりも自分のクリーチャーを強化する方を選んだとしても、たった7枚しか英雄的能力を誘発させることができるカードは存在しないのだ。

 英雄化能力をもっと誘発させたいし、オーラも増やしたい。この観点から、クリーチャーとしても使えるオーラをデッキに入れさせる方法を考えることになった。プレビュー記事の中で語ったとおり、授与が最初に作られたのは『テーロス』のデザインではなく『神々の軍勢』の先行企画中だった(先行企画とは何なのか、そしてそれがどうして行われるようになったのかについての記事は年内にも書く予定である)。『テーロス』は実作業で忙しかったので、私は先行デザイン・チームとともにオーラ・テーマを進化させる方法を探ることにした。

 ビリー・モレノ/Billy Morenoが授与クリーチャーの構想を提示した。授与によってクリーチャー枠に入るオーラを作ることで、この数の問題を解決できることは誰の目にも明らかになった。この選択をするに至った理由は、英雄的能力がファイルに及ぼした影響なのである。

協力

 授与が導入されると、次の問題が浮かび上がってきた。英雄的を最初に選んだのは、オーラが対象を取るので、英雄的とオーラは相性がいいからである。クリーチャーの問題、そしてクリーチャーで英雄的能力を誘発させられない理由とは、もしクリーチャーに「戦場に出たとき」の能力を与えたとしても、それは誘発型能力となり、すなわち英雄的クリーチャーは呪文でなく能力の対象となることになるので誘発しないのだ。

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 あるバージョンの授与では英雄的能力が誘発しないことになった。説明しよう。授与クリーチャーがクリーチャーとして戦場に出て、それから誘発型能力でマナを支払えばオーラになる、というものだったとしよう。これなら授与クリーチャーがつけられる前にその対象となったクリーチャーが破壊された場合に、墓地に置かれずにクリーチャーに戻って戦場に残る、ということは現在の版よりもわかりやすい。しかし、こうだとすると、オーラとしてつけられるのは能力の効果であり、呪文ではない。

 しかし、英雄的能力はオーラとかみ合わなければならないので、この2つのキーワード能力が協力できることは重要であった。授与は、英雄的能力と相互作用するようにすることが核なのである。

 メカニズムの進化について語る時にはそのメカニズム単体で語ることが多いが、今回示したとおり、あるキーワードの真価には他のキーワードの存在が影響するというのが通例である。セットの要素は単体で存在するのではなく、相互作用によって形作られ、向上していくものなのだ。

能力と意思

 メカニズムを作るとき、デザインには、ただそのメカニズムを持つカードを作るだけでなくそれを有効に使えるようにするカードを作る責任も存在する。加えて、これら2つのものがシナジーを持つようにすることも必要である。もちろんここでも英雄的能力を例にして示そう。

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 最初に英雄的能力を作ったとき、各色の英雄的能力ができる様々なことを定めた。その後、各色に、英雄的能力を誘発させるために使いたいようなカードが充分な枚数あるようにした。その後、その両方を見て、きちんと協力して動けるようにした。色の組み合わせの定義を強化するために使っていることもあるので、シナジーを同じ色に入れているとは限らないということに注意してもらいたい。

 例えば、緑には《信条の戦士》や《ケンタウルスの戦上手》のように、呪文の対象になったときに複数の+1/+1カウンターを得る英雄的クリーチャーが存在するが、授与クリーチャーは白や黒に多い(白や黒にはコモンの授与クリーチャーが2枚ずつ存在するが、緑には1枚しか存在しない)。これは緑の英雄的デッキでこの2色のどちらかを使うことを推奨しているのである。

 加えて、通常自分のクリーチャーを対象としないような呪文(普通は対戦相手や対戦相手のクリーチャーに使うような、不利益をもたらす呪文)が自分の英雄的クリーチャーを対象にできるようにも意識を払った。プレイヤーが自分を賢いと思えるような瞬間を作りたいので、そう思えるような相互作用を組み込んだのだ。

プレッシャーも倍、楽しさも倍

 英雄的能力はファイルに、また別の圧力を発生させた。私は、特定のカードが他のカードを入れさせるという主軸的戦術についてしばしば語っている。しかし、特定のカード群をデッキに入れたくないようにさせる、反主軸的戦術と呼ぶべきカードの存在についてはそれほど語っていない。ある意味では、英雄的能力がそれである。

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 英雄的カードには、ある程度の集中が必要である。誘発させるためのカードが必要だ。デッキに入れられるカードの枚数は限られている。つまり、あまりに大量の英雄的カードをデッキに入れると、その全ての能力が誘発することはめったに起こらなくなるので、枚数は限られてくることになる。英雄的能力を使うと決めたら、実際に引ける程度の枚数は入れるが、同時に複数の英雄的カードが戦場に出るほどの枚数は入れないものだということが初期プレイテストでわかった。

 私は、デッキにより多くの英雄的カードを入れさせるためにできることを探すという課題をデザイン・チームに課した。いくつもの構想に基づいて実験したが、その中で抜群にわかりやすかったのは、複数のクリーチャーを対象にするカードを作るというものだった。必要に応じて何体でもクリーチャーを対象に取れる呪文を作ってみたが、最終的には最大2体まで対象にできるようにすればコモンのシンプルな出来のいいカードができるということになった(なお、後にデベロップはそれらのカードをアンコモンに移した)。

 結局、最大2体まで対象に取れる呪文のサイクルを作った。それらは自分のクリーチャーに使いたくなるような、肯定的な効果を生成する呪文である。これは作るのが楽な色もあったし、難しい色もあった。全てをインスタントとして作ったことで、戦闘中に影響を及ぼすこともできるようになったのだ。

流れに乗って

 ただそれを組み合わせただけで終わりではない。デベロップは、デザインが楽しいシナジーを大量に組み込んだ、それでもデベロップ的には充分だとは認識していないのだ。デザインが望むような相互作用を奨励するため、デベロップはカードの流れを増やす方法を探した。つまり、引くカードを選ぶ方法をプレイヤーに与えることで、必要なカードを手に入れやすいようにしたのだ。

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 もちろん、こうして追加されたのが、占術メカニズムである。占術が他のメカニズムとどう相互作用しているのかは一見しただけではわかりにくいが、プレイしてみれば、例えば英雄的デッキをプレイしていれば、多くのゲームで英雄的カードとそれを誘発させるカードを手に入れられるのは占術のおかげなのである。

 デベロップの役割についてはしばしば語っているが、この占術に関する話は、デザインが展望を示し、デベロップがその展望を実現させるために環境を調整するといういい例だと思う。

それ以外にも

 英雄的能力が授与にどう影響を及ぼしたか、そして英雄的能力は占術が追加される要因の1つになったという話をしてきたが、このセットに存在する他の2つのメカニズム、信心と怪物化にはどう影響を及ぼしたのだろうか? これら2つのメカニズムへの影響は、比較的微妙なものだと言える。

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 まずは信心。英雄的能力を追加したことで、この2つのメカニズムの重なり合う部分に寄せられることになった。重なり合う部分、すなわちオーラである。英雄的能力には対象にしてくれるものが必要で、信心はできるだけ多くの色つきパーマネントを戦場に置きたいのだ。オーラはその両方の条件を満たしている。もっともオーラに注目を集めるようにしているのは英雄的だが、信心もまたオーラに注目させるものだ。つまり、信心の効果を決めるにあたって、デザイン・チームはクリーチャーを強化するプレイ・スタイルを意識しており、それに合わせて効果を決めたのだ。

 英雄的能力が怪物化に与えた影響はさらにわずかなものだ。英雄的能力はクリーチャーを強化するものだ。これは、同じく大型クリーチャーを使う方法である怪物化を推奨する。一方が英雄を強化するのなら、他方は怪物を強化することになるだろう。鍵となるのは、その2つの強化がほぼ同時期に起こるようにして、ゲームの中盤ないし終盤に怪獣大戦争が起こるようにすることである。つまり、英雄的能力が怪物化に与えた影響は、効果の内容ではなく、強化の速度やテンポにあるのだ。プレイテストにおいて英雄の強化があまりにも早ければ、怪物化のコストを下げることになる。怪物があまりにも早く巨大化したなら、怪物化のコストを重くする必要があるだろう。

 信心や怪物化への影響を取り上げたのは、メカニズムの影響というのが常に大きくわかりやすいとは限らないことを示すためである。より目立たない形であっても、デザインやデベロップにとっては重要なものなのだ。

カードの家

 今日のコラムで語りたかったことは、私がコラムでメカニズムについて語る時、デザインの真実を伝えているわけではない、ということである。全ての要素は他の要素と関連しており、何かを変更したら他の場所に波紋が伝わるものなのだ。カード1枚を調整すると、他の多くのカードを調整する必要があることもよくあることだ。メカニズム1つを変更すれば、様々なメカニズムを変更することになるものなのである。

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 諸君がセットを見るとき、それは我々が「確定状態」と呼ぶものだ。全てのカードは存在していて、その中身も絶対である。しかし、デザインやデベロップにおいては、セットはまだ確定しておらず、全ての要素は変化しうる。我々がデザインにまる1年かけているのは、セットを注意深く組み上げるには時間がかかるからなのだ。部分同士がどのように影響を及ぼし合っているか理解した上で、何かを修正する場合には、バランスの取れた状態に戻すには他の何を変更しなければならないかを理解しなければならないのだ。

 この節の小見出しを「カードの家」にしたのは、そういうことである。カードの家を建て始めるときは、お互いにバランスを取り合う形で複数のカードを置く必要がある。いったん安定する構造を見付けたら、それからカードの家を建て始めることができる。デザインは、時々戻って基礎から組み直す必要があるということを除いては、まさにそういうものなのである。

 今日のコラムを読んで『テーロス』のデザインを異なった視点から見て、英雄的能力がどう影響を及ぼし、そして及ぼされたのかがわかってもらえれば幸いである。

 いつものとおり、メール、掲示板、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+)で諸君の感想を聞かせてもらいたい。

 それではまた次回、『統率者(2013年版)』のデザインについて見る日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがあなたの人生の要素がお互いにどう関連しているかに注目しますように。

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