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Making Magic -マジック開発秘話-
デザイン104
読み物
Making Magic
デザイン104
Mark Rosewater / Tr, YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年8月19日
今週の記事に何を書こうか決めかねて、私は自分の書いてきた記録を読み返してみた。「One Hundred and Counting(リンク先は英語)」で最初の100回の話を見てみたところ、その中にあった2003年4月21日の記事「Design 101(リンク先は英語)」が目を惹いた。この記事はマジックの初心者デザイナーがよく犯す過ちについてのものだった。それから1年後、2004年7月12日、その続きとなる記事「Design 102(リンク先は英語)」を書いていた。それからさらに2年半後、2006年11月6日に、当時行われていた「グレート・デザイナー・サーチ」を踏まえて「Design 103(リンク先は英語)」を書いた。それからもう6年半が経過しているので、このシリーズの続編を書くのにいい時期だと思い立ったのだ。
現在、これ系では「基本根本」というシリーズを連載しているが、そちらはより技術的な体系化に重きを置いたものであり、こちらのシリーズはカードのデザイン(今回はセットのデザインも)におけるべし・べからず集という意味合いが強い。今回は、セットのデザインの大きな枠の中のカードのデザインという役割に踏み込んでいくが、技術面に寄らずに創造的な話をしようと思う。
「基本根本」とは異なり、このシリーズはデザイナー向けではなく、マジックのカードをデザインする上での落とし穴に興味があるなら誰でも楽しめるものになっている。デザイナーが陥りやすい罠について、誰でも学ぶことができるのだ。過去のこのシリーズを読んだことのない諸君のために、ここで簡単にまとめておこう。
まず、「Design 101(リンク先は英語)」では、初心者、あるいはそうでなくても、マジックのデザイナーが犯しやすいよくある誤りについて書いた。
誤り1:複雑すぎるカード
誤り2:シナジーのないカード内の能力
誤り3:マジックの基本デザインルールを無視したカード
誤り4:ルール内で働かないカード
誤り5:軽すぎ、強すぎ、「壊れている」カード
次に、「Design 102(リンク先は英語)」で書いたのが、マジックのデザイナーが改善できることについて書いた。
改善点1:マジックの歴史を知る
改善点2:マジックをプレイする
改善点3:いろいろなカードをデザインする
改善点4:必要なものを把握する
改善点5:そのカードでプレイする
改善点6:他の人にそのカードでプレイさせる
改善点7:セットに息継ぎの時間を与える
そして、「Design 103(リンク先は英語)」では、さらなる失敗について書いた。
失敗1:受け手にやりたくないことをさせる
失敗2:受け手に必要ないことを強制する
失敗3:意識するものを制御不能な状態にする
失敗4:プレイヤーがやることを非常に増やす
失敗5:対象でない受け手におもねったカードを作る
今回は、4つの失敗について話をしたい。ただしその前に1つ、創造的思考についての本についての話をしなければならない。いや、いつものロジャー・フォン・イークの「頭にガツンと一撃」の話をするわけじゃない(とはいえ、読んだことがないのならお勧めはする)。今回はその続編、「眠れる心を一蹴り」の話をしよう。「一撃」ほどではないが、これも一読の価値はある本だ。
「眠れる心を一蹴り」の話をするのは、この中で創造者が4つの役割という観点から表現されているからである。「探検家」は未知なるものに挑み、新しい着想を見つける役目。「芸術家」はそれを組み立てる役目。「判事」はその着想が有意義かどうかを判断する役目。「戦士」は判事が認めた着想を貫く役目だ。今回、記事で取り上げる失敗は、それぞれの役割ごとに1つずつになっている。役割の順に見ていくことにしよう。
探検家の失敗 ― 「まだやっていない」はやる理由にはならない
よく、どうやってセットを作り始めるのか、と聞かれる。場所、雰囲気、空気、メカニズム、サイクル、カード、何から手を付けるのか? 答えは、そのどれでもない。セットを作り始めるのは、まずその視点からである。メカニズム的ポイントから始めることもあれば、フレイバー的ポイントから始めることもある。そこからどのようなものを作るのか予見できてさえいれば、どこであっても有用な始点になるのだ。
ここでの教訓は、始点を探すにあたって誤った動機を選ぶことの危険性に関するものである。また、デザインすべきでないカードをデザインしてしまうという同じ過ちも犯しうる。この誤りの本質は何なのか? デザインそのものではなく、デザインの外部にあるある選択である。外部とは? そこが重要だ。
ゲーム・デザイナーというものは、ゲーム・プレイヤーでもあるものだ。自分の作っているものを楽しめないのなら、創作者/芸術家として一人前とは言えない。ゲーム・デザイナーはゲーム・プレイヤーでもあるので、自分で挑戦したいという強い情熱を持っているものだ。ほとんどのゲーム・デザイナーにとって、ゲーム・デザインそのものもまたゲームであると私は信じている。秀でたゲームの全ての特徴を兼ね備えているのだ。できること、できないことを定めた様々なルールに基づいて目指すべき最終目標が存在する。この考え方の問題は、デザイナーが実際にやるべきことを差し置いて難関に挑みたくなるということである。
マジックのデザインにおいて、もっとも危険な難関といえば「まだこれをやっていない」ということだ。マジックは常に変わりゆくゲームであり、20年の歴史の中で大量のデザイン空間を掘り返してきた。マジックでまだやっていない何かを見付けることには夢中になってしまう、挑戦したくなるような難関なのだ。が、それは罠だ。
1つめに、マジックが20年来やってきていない何かがあるなら、それには理由があるものだ。2つめに、やっていないからといって、それがいいものだとは限らない。奇妙なこともいろいろやってきたが、成功したのはわざと奇妙なことをやったときではなく、他の問題の解決策としてその手段を選んだときなのだ。
例として両面カードを見てみよう。最初から「マジックのカードの裏面は決まり切っている。これを変えたらどうだろう?」という話をしたわけではない。闇の変身を描く方法を探すことから始まって、これが狼男やホラー物語のテーマである変身を描くのに相応しいと気がついたのだ。両面カードは、解決策のうちの1つだった。他にも様々な直観的な解決策を試してみて、それが巧く行かなかったからと試した両面カードが我々の望んでいるまさにそのものだったのだ。
ここで重要なのは、もし両面カードから始めていたら他に巧く行くものを見付けることはなかっただろうということ、そして逆に問題を解決するために探したことでフレイバーに相応しいメカニズムを見付けることができたということだ。そうして、何か独特なことをやることになったなら、それはデザインに不可欠なので、サポートすることができるということにもなる。
何か異なることをやりたいなら、それを意識の中にとどめ、それが流麗な解決策になるような問題が発生するのを待つべきだということにもなる。すぐにその問題が手に入るとは限らないが、充分な数のアイデアがあるなら、その中には相応しい問題を見付けるものもあるだろう。デザインを行うには様々な技術が重要となる。その中に、忍耐も含まれるのだ。
芸術家の失敗 ― 必要以上に忠実であろうとする
創造的描写の教訓の1つに、芸術ごとに違う媒体を使っていても、同じルールが適用されるということがある。この教訓のために、まず絵画の話をしよう。絵画の授業を受けたことはないが、絵描きの友人はいる。この話は、私が執筆について話していたときに出てきた話である。
芸術の授業でやらなければならないことの1つに、籠に入った果物や花瓶、モデルなどを描く静物画がある。最初は、その対象物を紙の上によく似たように描くことが目標となる。可能な限り忠実に描くことができたなら、次はより少ないものでそのイメージを再現し始めることになる。よくあるのは、可能な限り少ない線で描くということだ。なぜそんなことをするのかというと、対象物が何であるか示すのに全ての情報が必要なわけではないということを理解するためである。
これと関連して、自分でできる実験がある。自分の名前を鉛筆で大きな楷書で書いてもらいたい。その後、線を少しずつ、読める範囲で消していくのだ。もしそれを他の誰かに見せたなら、その見た人も読むことができるだろう。やってみると、かなりの線を消しても名前がまだ読めることがわかるだろう。その理由は、人間の脳みそは、特に馴染みのあるものについて、穴埋めが得意だからである。
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これがマジックのデザインと何の関係があるのか? 大いにある。カードをデザインする上での目標というのは、絵描きが絵を描く上での目標と非常に近く、受け手にその作っているものが何であるか認識させることである。可能な限りあるがままにすることではない。様々な意味で、カード・デザインは絵画の授業で行う線画のようなものである。可能な限り少ないリソースを使ってオブジェクトを作り上げるのが目的なのだ。
その理由は? ゲーム・デザインには流麗さが重要だからである。ものを増やせば、それを表す文章も増え、カードはより複雑になる。アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(20世紀前半のフランス人の作家・詩人)曰く、「完璧という状態は、何も加えるものがなくなったときではなく、何も除く必要がなくなったときに達成されるものだ。」
何かをカードで描こうとするとき、特にトップダウン・デザインにおいては、全てを再現するのではなくその本質を描くことが必要なのだということを忘れてはならない。カードのフレイバーは受け手が補完するのを助けてくれる。受け手が期待しているのは、精密な複製ではなく、予想通りのイメージなのだ。例えば、おもちゃの魔法の杖を作るとしよう。受け手は「魔法の杖って何に使うんだ?」から入るのではなく、実際のカードを見て、「これは魔法の杖か?」と考えるのだ。
「そうだ」という答えを得るために、魔法の杖の本質を再現しなければならないが、その全ての本質を再現する必要はない。ここで重要なのは、より重要な本質を見つけ出し、そこに焦点を当てることである。
裁判官の失敗 ― カードは素晴らしいが、このセットに相応しくない
デザインの大部分は、カードを殺すことだ。私はこれまで18年間マジックのカードをデザインしてきたが、私がデザインしたカードの中で印刷にまで至ったのは5%未満である。なぜなら、セットが何であるかを決めるというなかに、他のことを試してみるということがあるからである。全てが巧く行くわけではないし、それはそれでいい。想像というのは発見であり、自分のセットに必要なものを見つけ出すことなのだ。
創造的行為は個人的なものであり、自分のやった仕事には思い入れが出るものなので、カードを殺すのは難しい。これは当たり前のことだ。思い入れこそが芸術家に最高の仕事をさせるのだが、自分の仕事を審判する段になったなら嫌な判断もしなければならないものなのだ。
マジックのデザインにおいては、デザイナーはここで言っている4つの役割全てを果たさなければならない。ほとんどのデザイナーにとって最も難しいのは、裁判官の役割である。アイデアを探し回り、アイデアを組み上げ、アイデアを守るのはできても、多くのデザイナーは自分のアイデアの中で良いものと悪いものを区別するのは苦手としているものだ。
この失敗は、デザイナーが、カード単体ではいいデザインだということを把握し、かつ、その入るべきセットに相応しくないということに目をつぶったときに起こる。判断は2つのステップに分けられる。まず、カードのデザインそのものが良いかどうか。そして、そのカードがその入るべきセットにおいて良いデザインかどうか、である。カードが1つめの関門をくぐり抜けたと判断し、2つめの関門を飛ばしているカード・デザイナーを目にすることは非常によくある話だ。
この背景にある理由ははっきりしている。良いマジックのカードを作るのは難しい。巧く作れたなら、それを印刷にまで保ちたいと考える。良いカード、素晴らしいカードであっても、可能性を発揮できるような場所がないままそれをセットに残してしまえば、そのセットそのものを駄目にしてしまうのだ。
素晴らしいカードが巧く行かないことをどうやって把握するか? プレイテストだ。利点だけを取り上げて判断するのではなく、それを入れる予定のセットに加えてプレイした時にどうかを見るのだ。もしそのカードにシナジーがなかったり、無様な挙動を見せたり、まともにプレイできなかったりしたなら、そのクールなデザインは一旦横に置いて、より相応しいセットが訪れるまで待つのが最適なのかもしれない。
次にセットに関与できるかどうかもわからない初心者のカード・デザイナーにとって、これは特に難しい問題である。しかし、セットを最高のものにするのが目的なのであれば、カード1枚1枚はどれだけ出来が良くても無視することが必要になる。自分が愛するものを殺す、これは創造的な仕事の中でももっとも難しいことの1つである。しかし、それなしでセットが回り、それを加えることで強化されないのであれば、無理に残せばセットの他の部分を破壊してしまうのだ。
戦士の失敗 ― 全てを守ることはできない
リード・デザイナーの仕事は、セットをデザインからデベロップに手渡したところで終わりではない。デベロップの肩越しに眺め、デベロップの手による変更がセットの展望を壊すものでないかどうか見守る責任があるのだ。ただし、別の視点から見るのはデベロップの仕事であり、セットをより良いものにするためには積極的になることがありうるということには意識する必要がある。
つまり、デベロップはメカニズムを変更したり新しいメカニズムを追加したりメカニズムを削除したりすることがあり得るということである。カードが除かれたり交換されたりすることもある。色の割り振りが変わることもある。様々なものが変わり得るのだ。デザイナーにとっての鍵は、何が本当に問題なのかを見極めることだ。初めてリーダーを務めるデザイナーがよく犯す誤りは、デザインの決定全てを守ろうとすることだ。全ての決定がデザイナーたちが充分考え抜いた結果なのは明白であり、1つの変更に対しても非常に保守的になる。この考え方は危険であり、セットの成功を阻害するものだ。
その理由は、リード・デザイナーが下した決定全てが正しいものではないからである。セットを扱うチームを2つに分けている理由は、デベロップ・チームはデザイン・チームがデザイン中に得た先入観に囚われない、新しい見解を持ち込むことができるからである。デザイン・チームはある決定にたどり着いたが、その後でセットに何らかの変更が加えられた結果、最初の決定は正しくなくなることもある。しかしそれらの変更に思い入れがありすぎると、これらの変更を理解するために必要な視点を持っていられるとは限らないのだ。
逆から見ると、リード・デザイナーはデベロップ・チームが理解していない形でそのセットを理解している。これが展望である。リード・デザイナーにとって明白なことが、デベロップ・チームにはそうでないこともありうる。これが、リード・デザイナーが関与する理由である。重要なのは、そのセットに関わる中で生まれた思い込みを、セットを導くために必要な展望から切り分ける必要があるということだ。
私は、建築家に喩えるのをよく使う。デベロップ・チームがやってきて、ビルの再構成を行うことになった。君はどこが大黒柱かを知っている。建築に詳しくない諸君のために言うと、大黒柱とは家を支えている柱のことである。大黒柱を取り除いてしまえば、家全体が壊れてしまう。リード・デザイナーたる君は、自分の大黒柱を知らなければならない。デベロップ・チームが取り除くと壊れてしまう、デザインの鍵はいったい何なのか?
全ての変更を否定すれば、デベロップが持ち込んだ向上を全て否定することになる(そして大量の対立を生むことになる)。全ての変更を肯定すれば、展望が失われ、セットは駄目になってしまう。何が本当に問題ないのかを見つけ出し、それに危険が迫ったときに踏み込むこと。それが重要なことなのだ。
リード・デベロッパーは、特に慎重なフィードバックをするリード・デザイナーから話を聞くことに興味があるものだ。何かが変わるとき、一歩引いてそれが最善にするための者かどうか考える必要がある。全ての変更が悪ではない。実際、良いデベロップ・チームはデザインのアイデアに基づいて向上させる方法を見付けるものだ。リード・デザイナーは、デベロップがセットを向上させる邪魔をしてはならないのだ。
「塩が失敗に味付けをする」
教室に戻るのは楽しいものだ。今日の内容はこれまでのコラムよりもちょっと高級な話だったが、異なる視点を楽しんでもらえたなら幸いである。いつものとおり、ール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で諸君の考えを聞かせてもらいたい。
それではまた次回、今年のデザイン演説でお会いしよう。
その日まで、学びがあなたとともにありますように。
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