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黒田正城の「エターナルへの招待」
プロツアー・フィラデルフィア分析編 その1
読み物
黒田正城の「エターナルへの招待」
2011.09.10
黒田正城の「エターナルへの招待」・プロツアー・フィラデルフィア分析編 その1
著者紹介:黒田 正城 黎明期から日本のプロマジック・シーンを支えてきた強豪プレイヤー。 |
新環境として大注目を集めた、プロツアー・フィラデルフィアが無事に終わった。
久々に活躍するカードがたくさん見られるということで、私もカバレージを非常に楽しみにしていた一人である。
Magic Online(MO)のモダン構築は連日満員。8人トーナメントが次から次へと開催される様は、まさにこのフォーマットの人気を示していると言える。
それではまず、3日にわたって行われたプロツアー全体をさらっとおさらいしてみよう。
フィラデルフィアで使われたデッキのアーキタイプをまとめようと思ったら、この記事で一目瞭然だったので、まずはこちらを参考にしていただきたい。
2日目に進んだ最多勢力はZooであったが、ここで目に付くのはとにかく圧倒的なコンボデッキの量である。
12Postをコンボと定義していいかは疑問符の付くところだが、仮にそうだとした場合、2日目に残ったデッキの50%以上がコンボデッキであった。
とはいえ2日目進出率を見ると大きな差があるため、コンボを使った方が勝てるということではない。
むしろ、厳しい練習を重ねた最上位のマスターだけが2日目に残ったと見るべきだろう。
デッキタイプ | 人数 | 割合 | 2日目 進出数 |
2日目 割合 |
進出率 |
コンボ | 255 | 61.2% | 83 | 55.0% | 32.5% |
非コンボ | 162 | 38.8% | 68 | 45.0% | 42.0% |
トップ8に残ったデッキを見ても、コンボデッキの数はなんと6つにもなる。
プロツアー前に行われていたMOのトーナメントでは、多種多様なデッキリストを目にすることができたが、一方で結果を残しているデッキはいくつかの種類に限られていた。そして、その中には上述したコンボデッキも幾度と無く登場していた。
「プロツアー本戦で、これらコンボデッキはしっかり対策されているのだろうか?」
「我々が予想もしない、あっと驚くデッキが登場するのだろうか?」
これが、本戦前の大きな興味であった。
しかし、モダンの海を泳ぎきって優勝したのは、スタンダードの世界でも良く知られたコンボデッキだった。
というわけで、今回はトップ8に残ったコンボデッキ6つを見ていきたいと思う。
残り2つとそれ以外の注目デッキは、次回ご紹介しよう。
《欠片の双子》
1 《繁殖池》 4 《滝の断崖》 5 《島》 3 《霧深い雨林》 3 《山》 4 《沸騰する小湖》 3 《蒸気孔》 -土地(23)- 2 《呪文滑り》 4 《詐欺師の総督》 3 《やっかい児》 2 《鏡割りのキキジキ》 -クリーチャー(11)- |
2 《否定の契約》 4 《思案》 4 《定業》 1 《手練》 1 《稲妻》 2 《払拭》 4 《差し戻し》 3 《炎渦竜巻》 4 《欠片の双子》 1 《撹乱する群れ》 -呪文(26)- |
2 《呪文滑り》 1 《ヴェンディリオン三人衆》 2 《稲妻》 2 《古えの遺恨》 1 《剥奪》 2 《四肢切断》 3 《血染めの月》 2 《仕組まれた爆薬》 -サイドボード(15)- |
4 《島》 1 《山》 1 《繁殖池》 3 《蒸気孔》 4 《滝の断崖》 4 《燃え柳の木立ち》 4 《沸騰する小湖》 2 《霧深い雨林》 -土地(23)- 2 《呪文滑り》 4 《詐欺師の総督》 3 《やっかい児》 2 《鏡割りのキキジキ》 -クリーチャー(11)- |
2 《否定の契約》 4 《思案》 4 《定業》 2 《払拭》 2 《呪文貫き》 2 《罰する火》 4 《差し戻し》 2 《炎渦竜巻》 4 《欠片の双子》 -呪文(26)- |
2 《ヴェンディリオン三人衆》 2 《罰する火》 1 《古えの遺恨》 1 《四肢切断》 3 《血染めの月》 2 《炎渦竜巻》 1 《金屑の嵐》 2 《精神壊しの罠》 1 《仕組まれた爆薬》 -サイドボード(15)- |
スタンダードでもすっかりおなじみとなった、《詐欺師の総督》と《欠片の双子》に、同様のコンボである《やっかい児》と《鏡割りのキキジキ》を足したデッキ。トップ8に2人のプレイヤーを送り込んだ。
パーツがクリーチャーであり、除去呪文を意識しなければならないという欠点を抱えてはいるが、たった2枚のカードで無限コンボが成立するため成功率が高い。手札から3、4ターン目にカードをプレイするだけでコンボが成立するというパターンも多く、相手にしたときの不快感も高い。
必要パーツが少ないため、軽いライブラリー操作呪文をいくつかプレイしていれば自然と目的にたどり着く。このため、デッキの中身はコンボのパーツとそれを探してくる《定業》《思案》、そして《差し戻し》等の軽いカウンター呪文で構成されている。
MOのデイリーイベントで活躍していた双子デッキを見ると、ほとんどのデッキはこれらのパーツだけでデッキが作られていたが、優勝したデッキにはメインから《炎渦竜巻》が採用されており、丸い構成になっている。また、8位のアレッサンドロ・ポルタロは、この枠に《罰する火》+《燃え柳の木立ち》を追加で採用している。
同系や他のコンボと当たったときには無駄になってしまうカードだが、モダンの環境に存在する全てのクリーチャーデッキに、致命的にヒットするこのカード。しかし一方で、このカードは本大会であまり活躍しなかったとコメントしていたプレイヤーもいたようだ。1本目の勝率を上げることにどれほど貢献したのか、とても興味深い。
サイドボードでは《呪文滑り》が万能すぎて素晴らしい。
除去避けとしても、ブロッカーとしてもとにかく頼りになる存在であり、決勝もこの1枚が勝負を決めたと言って過言ではない。
さて、次は赤青つながりということでこちらのコンボを見ていこう。
《紅蓮術士の昇天》
5 《島》 1 《山》 3 《蒸気孔》 4 《燃え柳の木立ち》 4 《霧深い雨林》 4 《沸騰する小湖》 -土地(21)- -クリーチャー(0)- |
4 《ギタクシア派の調査》 4 《有毒の蘇生》 4 《稲妻》 4 《思案》 4 《定業》 4 《血清の幻視》 4 《魔力変》 4 《差し戻し》 3 《マナ漏出》 4 《紅蓮術士の昇天》 -呪文(39)- |
4 《詐欺師の総督》 3 《古えの遺恨》 4 《罰する火》 4 《欠片の双子》 -サイドボード(15)- |
6 《島》 1 《山》 3 《蒸気孔》 4 《霧深い雨林》 4 《沸騰する小湖》 -土地(18)- -クリーチャー(0)- |
4 《ギタクシア派の調査》 4 《炎の儀式》 4 《稲妻》 4 《思案》 4 《定業》 4 《魔力変》 2 《留まらぬ発想》 4 《深遠の覗き見》 4 《差し戻し》 2 《交錯の混乱》 1 《ぶどう弾》 4 《紅蓮術士の昇天》 1 《苦悩火》 -呪文(42)- |
3 《ヴェンディリオン三人衆》 4 《炎の斬りつけ》 3 《呪文貫き》 1 《破壊放題》 3 《血染めの月》 1 《拭い捨て》 -サイドボード(15)- |
こちらもトップ8に2名が進出。《稲妻》を7発プレイするコンボデッキである。・・・と投げっぱなしてもいけないので簡単に説明すると、
- 《紅蓮術士の昇天》を場に出してカウンターを2個乗せる。
- 大量のライブラリー操作カードを、《紅蓮術士の昇天》の能力でコピーして《稲妻》を手に入れる。《魔力変》をコピーしてマナを伸ばし、息切れを防ぐ。
- 《稲妻》をコピーして相手にぶつける。
といったデッキである。
同じゴールを目指しているにもかかわらず、メイン/サイドでこれだけ選択肢に違いがあるというのはおもしろい。
選択肢が多いのはデッキ構築時だけではない。先ほどはゲームの流れを単純に3ステップで説明したが、実際のゲーム中は選択肢が絶望的に多く、常に最善のプレイをするには相当な練習が必要になる。
また、勝ち筋が限られているため今後は大いに対策される可能性がある。本戦でも《神聖の力線》で0ターンキルを食らった不運なプレイヤーがいたようだ。これらの理不尽な死に方を回避する手段として、アンドレス・プロストは双子コンボをサイドボードに用意したと思われる。2本目以降、相手からクリーチャー除去が飛んでくる可能性は皆無に等しいため効果的だ。
では、次のコンボはこちら。
ブリーチポスト(《裂け目の突破》入り12Post)
3 《森》 1 《山》 4 《燃え柳の木立ち》 1 《踏み鳴らされる地》 1 《ドライアドの東屋》 4 《雲上の座》 4 《微光地》 4 《ヴェズーヴァ》 1 《ウギンの目》 2 《霧深い雨林》 -土地(25)- 4 《草茂る胸壁》 4 《根の壁》 1 《桜族の長老》 1 《ムル・ダヤの巫女》 4 《原始のタイタン》 1 《テラストドン》 1 《無限に廻るもの、ウラモグ》 4 《引き裂かれし永劫、エムラクール》 -クリーチャー(20)- |
4 《グルールの印鑑》 3 《内にいる獣》 4 《裂け目の突破》 4 《緑の太陽の頂点》 -呪文(15)- |
1 《クァーサルの群れ魔道士》 1 《子守り大トカゲ》 3 《虚空の杯》 3 《罰する火》 2 《原基の印章》 2 《四肢切断》 3 《炎渦竜巻》 -サイドボード(15)- |
前回紹介した12Postは、MOの世界でもダントツの人気と実績を誇っていたデッキであり、ミラーマッチでは土地を潰しあう不毛な戦いが繰り広げられていた。6マナに到達されると《原始のタイタン》が登場するため、それを妨害できるかどうかが勝負の分かれ目であったと記憶している。
しかしプロツアーに持ち込まれた12Postは、それと明らかに異なる構成になっていた。《裂け目の突破》を採用したことにより、1ターン早い5マナ域で勝負をかけることが可能になったのだ。
《裂け目の突破》から《引き裂かれし永劫、エムラクール》を出すことができれば、15点のダメージを与えつつパーマネントを根こそぎ持っていくことができる。Zooのようなギルドランドを多用するデッキの場合、この15点だけでゲームが決まってしまうこともままあるだろう。まあどちらにしても、殴ってパーマネントが消滅したらゲームは終わっている。
《引き裂かれし永劫、エムラクール》が手札に無かったとしても、おなじみ《原始のタイタン》や《テラストドン》が十分な代役を果たしてくれる。このパーツを加えたことによって、単色の12Postに対する相性はかなり良くなったはずだ。
はるか昔、トリニティ・グリーンという緑単色のデッキが環境を席巻した時代、ミラーマッチを制するために赤マナと《弧状の稲妻》を採用したアングリー・ハーミットというデッキが誕生したが、それとよく似た展開である。
赤をタッチした恩恵は他にもある。緑単色のときは《忘却石》のような大雑把な除去しかなく、Zooなどのビートダウンにかなり苦戦していたが、《罰する火》《炎渦竜巻》といった火力呪文を使うことができるようになり、かなり耐性がついた。《燃え柳の木立ち》をナチュラルに使うことができる点も好印象である。
サイドボードもかなり練りこまれており、コンボ対策の《虚空の杯》、《欠片の双子》や《血染めの月》対策として有効な《原基の印章》、《袖の下》対策の《子守り大トカゲ》と、相手が使ってくるであろうカードをきちんと想定して組んである。非常に完成度の高いデッキだ。
青単感染
8 《島》 1 《湿った墓》 2 《トレイリア西部》 4 《墨蛾の生息地》 4 《沸騰する小湖》 -土地(19)- 4 《荒廃の工作員》 1 《大祖始》 -クリーチャー(5)- |
1 《否定の契約》 1 《召喚士の契約》 2 《ギタクシア派の調査》 4 《思案》 4 《定業》 4 《ドラゴンの嵐》 4 《呪文貫き》 4 《交錯の混乱》 4 《深遠の覗き見》 1 《応じ返し》 4 《猛火の群れ》 3 《撹乱する群れ》 -呪文(36)- |
4 《呪文滑り》 3 《ヴェンディリオン三人衆》 1 《殺戮の契約》 2 《剥奪》 1 《残響する真実》 1 《計略縛り》 1 《四肢切断》 2 《ジェイス・ベレレン》 -サイドボード(15)- |
さて、最後に紹介するのは青単の感染コンボである。まず、このデッキを初めて見るという方はリストを端から端まで眺めていただきたい。大きな違和感を抱かないだろうか?
そう、このデッキには《ドラゴンの嵐》が入っているにもかかわらず、1枚もドラゴンが入っていないのだ。ドラゴン好きの私としてはなんともやるせない気持ちになってしまう構成で、サイドボードに1枚ぐらい入っていないかと思わず探してしまった。
毒クリーチャー+《猛火の群れ》というコンセプトのデッキはプロツアー前からいくつか見られたが、緑の《ぎらつかせのエルフ》が入っているパターンが多かった。この1マナクリーチャーは確かにすぐ場に出てくれるのだが、相手の場に1枚でもクリーチャーが出てくるとまったく意味をなさないカードとなってしまう点が問題であった。サミュエル・ブラックはその根本的な構成にメスを入れ、このクリーチャーを外すと同時にデッキを単色にすることで、安定度を飛躍的に高めたのだった。
前述の《ドラゴンの嵐》は、9マナの赤いカードとして《猛火の群れ》のエサに使われる。《深遠の覗き見》でサーチできるようになった点は大きな改善点だ。
アタッカーはたった8枚、それも全部1/1なので、除去をたくさんいれておけば楽勝では?と思ったら大間違い。様々な妨害手段と《呪文滑り》に阻まれ、思っている以上に10/1感染の攻撃は通ってしまう。回していても面白いデッキなので一度触ってみてはいかがだろうか。
というわけで、今回はコンボデッキ特集をお送りした。一口にコンボと言っても様々な形があり、モダンの環境を象徴している、と言うこともできるだろう。
しかし、この環境はこれでベストなのだろうか?
ここからは独り言のレベルで恐縮だが、マジックの世界において一番の醍醐味は、魅力的な各色のクリーチャーがぶつかり合うことだと思っている。コンボデッキそのものを否定するつもりはないし、面白さも認めるが、2ラウンドに1回の頻度で当たるほどに存在すべきではないだろう。
まして、環境で最も支配的なデッキがコンボデッキということになると、5マナ以上の呪文を入れる価値はほとんどなくなってしまい、せっかくの広大なカードプールが無意味になってしまう。今回のようにコントロールが存在できない状況も生まれる。
自分が考える時間は5分もないのに、相手がコンボを回すのに30分以上付き合わされるのは常に苦痛である。1対1の対戦ゲームである以上、その原点を忘れてはならない。
コンボというのは、ある意味秘密の抜け穴のようなもので、それを発見するには並大抵の研究ではすまない。そういった難題を潜り抜けたごく少数のプレイヤーのみがコンボ使いとして賞賛を受けることができる、そういったものだと思っている。
実際、《死体の花》や《春の鼓動》を軸にしたコンボデッキと初めて対戦したときは、負けたにもかかわらず感動した記憶がある。
せっかくの素晴らしい環境なのだから、今後禁止カードの追加/解禁を重ね、さらに良い環境を作っていただきたいと願う。それこそ我々がデッキを調整するのと同じように。
ではまた次回。
コンボデッキ以外をご紹介するつもりなのでお楽しみに!
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