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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
今週のCool Deck:ブルー・ベルチャー~意味のないカードはない~(モダン)
クールを告げる金曜日がやってきた。マジックのデッキをクールという観点から語る今週のCool Deck。世界選手権という年間最大最高のイベント終え、2024年のクールな出来事もひと段落……というわけではないのかも?まだまだ年末年始に向かって、基本セットとなる『ファウンデーションズ』がリリースされたり、大小さまざまなコミュニティでイベントが開かれることだろう。まだまだクールな瞬間、クールなデッキと出会える!というわけで当コラムもはりきってやっていこう。秋の夜長にはマジックが一番、クールなデッキと共に満たされた時間を過ごそう。
今回は昔話から。まずは1999年に遡ろう。マジックのカード、近年は何をするカードが分かりやすいものがほとんど……意味不明なカードは随分と減った、というかほとんどお目にかかれなくなった。しかし僕がマジックを始めてからしばらくの間は、パックを剥いていると「これ何?」「結局のところ何すんの?」と謎に満ちた、やりたいことが伝わりにくいカードと出会うことがあったものだ。当時は使い道が不明なカードを手に入れても……と困惑したものだが、今となってはそんなカードとの出会いは今になっても覚えている、良き思い出へと昇華されている。
例えばようやく『テンペスト』のスターターパックを手に入れ、これを開封する機会を手に入れた時のこと。憧れのパックをリュックに入れて家に帰る道中は、ワクワクしたものである。『テンペスト』の時代はまだカード自体を見てもそのレアリティは判別できなかった。エキスパンションシンボルは一色のみだったのだ。なのでスターターパックの並び順でレアリティを判別する。基本土地・コモン・アンコモン・レア、それぞれに収録枚数が決まっていたので、リストで見てレアやアンコモンと知っている有名カードを元に、その前後のカード総数でどれがどのレアリティなのか……おおよそ判断していた。今考えるとインターネットで全カードリストを確認するなど夢のまた夢な、クールな時代の話だな。
そうやって3枚手に入ったレアカードが何かわかったのだが、同時に頭上に疑問符が発生することに。《マナ切り離し》……このカードは何なんだ?自分のライブラリーから土地を追放する、マジックを初めてまだ1年ぐらいのミニは一体何のことやらわからない。何も考えずにデッキに入れてみたが、土地を引かなくなることのメリットはあまり体感できず……マジックが多少わかるようになってからは、ライブラリーの濃度が高くなるのは分かるが、だからといってそのために手札とマナを消費する価値はあるのかというと、ウーン。しかしさらに時を経て、遂にトーナメント・シーンで《マナ切り離し》が使われているのを目にすることに。
2003年、インターネットも徐々に普及してきて、マジックのデッキリストを漁ることができるようになってきたその頃に登場した、そのデッキの名は「マナ・ベルチャー」。ベルチャーとは《ゴブリンの放火砲》のこと。このアーティファクトを起動すると、ライブラリーから土地が公開されるまで捲り続けて、その枚数分のダメージを与える。これを起動する前に《マナ切り離し》で土地が公開される可能性を潰せば、安定して20点以上のダメージが狙える、そんなコンボデッキがエクステンデッドというフォーマットのデッキとして紹介されているのを目にした。感想?もちろん「Cooool!!!」だ。一見使い方がわからないカードにも、出番は回ってくる。そのタイミングが訪れた時にデッキを組めるようなクールなビルダーになりたいなと思ったものである。
では、時計の針を戻して現在に。2024年、「マナ・ベルチャー」の精神性を受け継いだデッキがモダンに登場。このデッキはマナ・ベルチャーとは異なり、最初から土地が1枚も採用されていない。では「ブルー・ベルチャー」の姿をご覧いただこう。
4 《ボーラスの占い師》 4 《稲妻罠の教練者》 4 《水力発電の検体》 1 《タッサの神託者》 -クリーチャー(13)- |
4 《対抗呪文》 4 《撹乱する群れ》 4 《拒絶の閃光》 2 《定業》 4 《朦朧への没入》 4 《ジュワー島の撹乱》 4 《海門修復》 4 《シルンディの幻視》 4 《水浸しの教え》 4 《選り抜きの記憶》 4 《睡蓮の花》 4 《ゴブリンの放火砲》 1 《神秘を操る者、ジェイス》 -呪文(47)- |
4 《記憶への放逐》 2 《狼狽の嵐》 3 《否定の力》 4 《海の先駆け》 2 《洪水の大口へ》 -サイドボード(15)- |
モダンの「ブルー・ベルチャー」は土地が1枚も採用されていない。なので放火砲を起動すると確定で大ダメージを叩き込んで勝利することができる……放火砲を唱えるためのマナはどうするか?それは土地を用いる……無茶苦茶言っているようだが、このトリックは両面カードのおかげで成し遂げられる。《朦朧への没入》《水力発電の検体》《海門修復》……このような両面カードは、第2面が土地として作られている。手札からプレイする時にこの土地のモードとして出すことが可能だが、ライブラリーなどの領域にある際には第1面の呪文のみが参照される。つまりはベルチャーで安心して運用できる土地であるわけだ。《朦朧への没入》《水浸しの教え》などそれぞれに呪文として唱えてもクールな働きを見せてくれるカードもあるので、臨機応変に戦える。これらの土地を設置しつつ《睡蓮の花》の待機が明けるのを待ちつつ、7マナ揃ったら放火砲をファイア!クールに一撃必殺を叩き込もう。
すべてが呪文で構成されたライブラリー……この特性を活かせるのはベルチャーだけではない。《選り抜きの記憶》、この呪文はライブラリーから土地でないカードを好きなだけ追放できる……《マナ切り離し》の真逆のソーサリー!これも使い道がなかなか限定されており、上手く使えるデッキが見つからなかったが、2024年に両面カードが増えたことで呪文だけのデッキが成立するようになり、遂に輝く時が来た。これでライブラリーを空っぽにして、この手のコンボではお馴染みの《タッサの神託者》を戦場へ。これの勝利条件が満たされて、問答無用でゲームオーバー。《神秘を操る者、ジェイス》も同じく勝利条件が満たされるので、このどちらかが手札にないならライブラリーにそれ1枚のみが残るように呪文を追放しよう。次のドローでそれを引いて決着、実質的に1枚コンボとしてクールに機能する!放火砲と神託者の二段構え、たまらない。
このデッキが青い理由は……両面カードが優秀であることに加えて、打ち消し呪文でコンボをサポートできるという点。《対抗呪文》のように、打ち消しでもって相手のコンボ対策や勝利手段を弾く、しっかり打ち消しが使えるコンボというのはズルいとさえ思えるクールさだ。特に《撹乱する群れ》《拒絶の閃光》などのマナを支払わない代替コストを持つ呪文、通称ピッチスペルは特にクールだ。マナを消費するベルチャーの動きを遂行しながら打ち消しのマナも構える、というのは至難の業だ。なのでこれらのピッチスペルでカバーするという寸法だ。特に《拒絶の閃光》はカードを集めるために出した《ボーラスの占い師》《稲妻罠の教練者》などをコストに充てられるため、非常に理にかなっている。こうして「マナ・ベルチャー」の精神性を受け継いだ後継機が、今モダンのコンボデッキの代表格として活躍しているのはなんだかグッとくる。
意味や用途が不明なカード、ずいぶん減ったとはいえ今後出てこないとも限らない。一体このカードは何のためにあるのか?そんな疑問を抱く1枚に出会ったら、いつか《マナ切り離し》や《選り抜きの記憶》のようにコンボパーツを見つけて、日の目を浴びる時が来るかもしれない……そんな風にうっすらと記憶の端っこに留めておけば、新セットがリリースされる度に楽しみが一つ増えるというもの。そんなカードとの出会いを人はクールと呼ぶのである。
それじゃあ今週はここまで。Stay cool! Everything has meaning!
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