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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

ティムール果敢:「ブレスト」なくても勝てるんです(ヒストリック)

岩SHOW

 『ストリクスヘイヴン』チャンピオンシップはスタンダードとヒストリックの混合フォーマットだったが、決勝ラウンドはヒストリックで行われた。

 「ミスティカルアーカイブ」の参入で様変わりしたこのフォーマット、トップ8入賞者の使用するデッキ、そのすべてにブレストの愛称で親しまれる《渦まく知識》が採用されていたというエピソードは、このドロー呪文の強さを長きに渡って知るプレイヤーにとっては当然と言えばそうかもしれない。

 1名が3枚にとどまったのみで、他7名のリストでは4枚採用。圧巻の使用率で、ヒストリックはすなわち《渦まく知識》を上手く使いこなせた者が勝つフォーマットだと言っても過言ではないだろう。同じく1マナのドローで《信仰無き物あさり》を主力とした「イゼット・フェニックス」も2名が勝ち残り、どちらかの呪文を使えば勝てる環境のような印象は強く拡散されたように思う。

 ただ、世の中このような風潮に真っ向からNOを突きつけるプレイヤーがいるのもまた事実だ。今回紹介するデッキには青と赤が含まれている。しかしながらこのデッキには決勝ラウンドで飛び交った《ミジックスの熟達》や《マグマ・オパス》の姿もない。そして《渦まく知識》《信仰無き物あさり》までも。

 それらがなくてもデッキは成り立つ、そして勝てる。それを証明したのがこの「ティムール果敢」だ。

Scott Mines - 「ティムール果敢」
ヒストリック (2021年6月6日)[MO] [ARENA]
4 《蒸気孔
4 《尖塔断の運河
4 《繁殖池
2 《植物の聖域
4 《踏み鳴らされる地
2 《根縛りの岩山

-土地(20)-

4 《損魂魔道士
4 《龍護りの精鋭
4 《戦慄衆の秘儀術師
4 《スプライトのドラゴン

-クリーチャー(16)-
4 《豊穣な収穫
4 《ショック
3 《選択
2 《蛇皮のヴェール
1 《棘平原の危険
4 《アタルカの命令
4 《表現の反復
2 《クアンドリクスの命令

-呪文(24)-
1 《湧き出る源、ジェガンサ

-相棒(1)-

2 《運命の神、クローティス
2 《マグマのしぶき
1 《魂標ランタン
3 《否認
2 《燃えがら蔦
2 《丸焼き
2 《溶岩コイル

-サイドボード(14)-

 

 非クリーチャー呪文を唱えるたびにターン終了時まで+1/+1修整を受けるのが果敢という能力。ヒストリック環境におけるこれを持つベストクリーチャーと言えば《損魂魔道士》。

 そして果敢に類似する能力であり、+1/+1カウンターという形で永続的に強化されるのが《スプライトのドラゴン》と《龍護りの精鋭》。

 このデッキはこれらのクリーチャーを大量のインスタントとソーサリーでバックアップしようというコンセプトで組まれている。

 この手のデッキについては、非クリーチャー呪文に問われるのは質よりも量だ。軽い呪文を連打することでそれだけクリーチャーのサイズが増すのだから当然である。そうなると重宝されるのがコスト1マナ以下でカードが引けるドロー呪文である。

 だったら《渦まく知識》や《信仰無き物あさり》なんて良いんじゃないのと? 思ってしまうところだが、このデッキでは不採用なのが面白い。物あさりに関しては墓地に落として美味しいカードがなければ手札が減るカードなので避けているというのはわかる。では《渦まく知識》はどうだろう。このインスタントはカードを3枚引き、手札から2枚をライブラリーの一番上に戻す。手札の内容が良ければ問題ないが、今ひとつの場合は弱いカードがライブラリーの上に付きまとうことになる。

 これを回避するためにセットで使われるのが《寓話の小道》。シャッフルすることでライブラリーの上をリフレッシュさせつつ、手札には良いところだけを残すというちょっとしたコンボだ。

 ただ、このデッキではその《寓話の小道》を採用するのが難しい。序盤が勝負の3色デッキなので《尖塔断の運河》《植物の聖域》のような早いターンに強く使える多色土地を優先して使いたい。小道は4ターン目までは持ってきた土地がタップ状態で戦場に出てしまう。これではもたもたしてしまうよね。というわけでこのリストでは《渦まく知識》を諦めたのだろう。

 《渦まく知識》という1つの選択肢が失われてはいるが、それはこのデッキにとって重大なことではない。緑が使えるので、土地かそれ以外のカードか狙って入手可能な《豊穣な収穫》を使用可能なのは無視できない利点ではあるし、手数という面でも《表現の反復》で十分に複数回のアクションが狙えるのでデッキとして見事に成立している。

 これらと《選択》《ショック》などでザクザクとクリーチャーのサイズを大きくして、さっさと殴り勝ってしまうスピーディーなゲーム展開は一度味わうとクセになる。《蛇皮のヴェール》をうまく合わせて除去をスカらせたらもう勝利は目の前というところだ。

 《戦慄衆の秘儀術師》は減った手札を埋める分のアドバンテージは得られる強力なクリーチャーであるが、デッキとしては果敢組の方が勝利に直結するので、このゾンビは「おとり」として除去を引きつけるように使ってもかまわない。もちろん生きて殴りだせればゲームの主導権はこちらが握ってしまえる。

 特徴的なカードとしては2つの命令にも注目だ。

 《アタルカの命令》はすっかりヒストリックお馴染みの1枚として定着している大ダメージ発生源。果敢組を強化しつつ本体にダメージを与えたり、あるいは土地を出して手数を増やしてさらにクリーチャーを育てたりと臨機応変に用いよう。

 《クアンドリクスの命令》は珍しいチョイスに見えるが、これはチャンピオンシップでも活躍した「ジェスカイ・ターン」への対策としての意味合いが大きな1枚だと考えられる。

 クリーチャーをオーナーの手札に戻せるので、《不屈の独創力》の対象となっている《ドワーフの鉱山》のトークンや、戦場に出てきた《ヴェロマカス・ロアホールド》を戻してやることで、相手のコンボを不成立にさせる。それと同時にクリーチャー強化や墓地対策が行えて、他のデッキに対しても《戦慄衆の秘儀術師》をパワー3にしてもう1回唱えるというちょっとしたハメ技に持ち込んだりできる点を評価されたのだろう。一見重くて使いにくい呪文ではあるが、このデッキでは勝負を決定づける一打となる場面が多く、侮れないカードだなとその評価を改めさせられたね。

 結果を残したデッキやカードは素晴らしいが、すべてのデッキやプレイヤーがそれに従う必要もない。最強と認識されているカードをあえて使わない構築でこのデッキもランク戦を駆け上っており、つくづくマジックは自由な発想が大事なゲームだということを実感。クリーチャーを育て上げて殴り切るゲームを望んでいるプレイヤーには、ぜひとも使用を検討してもらいたい逸品だね。

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