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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
ビッグ・ラクドス(スタンダード)
それぞれの週末があり、それぞれのマジックがある。
競技プレイヤーのトップであるマジック・プロリーグおよびライバルズ・リーグの面々は、10月下旬の週末はリーグ・ウィークエンドに注力した。MTGアリーナで行われ、世界中に散らばる同リーグのプレイヤーとハイレベルなゲームを繰り広げ、それぞれの観戦者を楽しませた。
また、彼らのようなトップ中のトップであるプレイヤーでなくとも、アリーナにおけるミシック予選で権利獲得に向けて熱戦を繰り広げたプレイヤーは数多いるし、アリーナではなく地元のショップでのトーナメントに参加したプレイヤーも少なくない。感染症対策をしっかりと行ったうえで遊べば、やっぱり紙のマジック最高!というプレイヤーたちの声もよく耳にする。
それぞれに一戦にかかっているものの重さは違うかもしれないが、ゲームを楽しむという点では同じマジック。世界中で数えきれないほどの人たちが同じゲームを遊んでいると思うと、なんだか胸が熱くなる。
戦うフィールドが違ったとしても、デッキリストなどの情報はそれぞれに刺激を与え、活かすことのできるものがある。ライバルズ・リーグ所属、「rizer」こと石村信太朗がリーグ戦に持ち込んだ独創的なリストは、日本人初のプロツアー王者である黒田正城に響いた。
そのデッキは分類するのであれば「ビッグ・レッド」が相応しい。意味はそのまま「大きい赤」、赤をベースにコストが重く巨大なカードで勝負を決める、コントロール寄りのデッキだ。かつて黒田はこのタイプのデッキを用いてプロツアー優勝を果たしている。
石村のリストには、その黒田のデッキのマナ基盤を支えた《真面目な身代わり》が4枚採用されている。
重く破壊力のあるカードに繋げるための堅実なマナ加速であり、相手の攻撃を受け止めて死亡時に1枚のドローを残していく優秀な壁役でもある身代わり。思い出のカードが使えるということもあり、より響いたのだろう。黒田はこのリストを丸ごとコピーし、地元のトーナメントで優勝している。理想的な週末となったことだろう。
それでは、その「ビッグ・レッド」最新型を見てみよう!
6 《山》 4 《沼》 2 《悪意の神殿》 4 《這い回るやせ地》 4 《寓話の小道》 -土地(20)- 4 《砕骨の巨人》 4 《真面目な身代わり》 2 《アゴナスの雄牛》 -クリーチャー(10)- |
4 《棘平原の危険》 4 《精神迷わせの秘本》 4 《焦熱の竜火》 2 《切り裂かれた帆》 2 《ヴァラクートの覚醒》 1 《記憶漏出》 3 《アイレンクラッグの妙技》 2 《絶滅の契機》 4 《髑髏砕きの一撃》 4 《精霊龍、ウギン》 -呪文(30)- |
1 《死の飢えのタイタン、クロクサ》 2 《アゴナスの雄牛》 3 《強迫》 3 《魂標ランタン》 4 《苦悶の悔恨》 2 《轟く叱責》 -サイドボード(15)- |
赤単ではなく黒が採用されているため、正しく言うなら「ビッグ・ラクドス」になる。黒を足しているのはコントロールする力をより高めるため。現在スタンダード環境には4マナ以下でクリーチャーを2体以上除去できる赤のカードで使い勝手の良いものがない。そのため黒を足して環境でも随一の使いやすさを誇る《絶滅の契機》を使えるようにしている。
サイドボードには黒い手札破壊を複数備えて、クリーチャー除去が効きにくい相手に入れ替えて対抗しようという作戦である。どうしてもこういうデッキを組むときには意地になって単色にしたくなってしまうが、そこを柔軟に必要なものはしっかりと2色目で補っている点は流石の一言に尽きる。《真面目な身代わり》がいれば色マナシンボルが1つのカードを足すことは苦じゃないしね。
《焦熱の竜火》をはじめとする除去呪文で相手のクリーチャーを捌き、《真面目な身代わり》で土地を伸ばして使えるマナを増やし、重たいカードで逆転する。これがこの手のコントロールの基本であり、その逆転用のカードがいかに強力で支配を確固たるものにするのか、そこが重要だ。
このデッキのその大役を担うのは……スタンダードで大技といえばこの方、《精霊龍、ウギン》。文句のつけようのないパワーカードだ。
戦場に出てきた際には往々にして[-X]能力で相手の有色パーマネントを根こそぎ追放する。いわゆるリセットを行って、その返しで何もなくターンが返ってきたら、ウギンの支配の始まりだ。重たい3点ダメージで後続を処理、それを嫌って単騎では展開できないと相手が後続を出してこないならそれはそれでよし、相手本体にドスッと重たい3点を。3点で落ちないもの、複数のカードで一気に展開とやってきたらまた[-X]で掃除してやっても良いし、ほかの除去と組み合わせれば殲滅も難しくないだろう。《棘平原の危険》ですらウギンと絡めればタフネス4を落とせるのだから。最終的に[-10]で相手とこちらに埋まらない決定的な差をつけて勝利……するのだが、正直そこに至るまでに相手の心は折れているだろう。
このウギン、身代わりと毎ターンの土地のプレイで真面目に唱えることを目指しても良いが……各種アグロデッキを前に、唱える体制まで至らずに手札に抱えて力尽きるというのは屈辱的な負け方だ。そんなものは誰も望んではいない、入れたカードは使いたい!ってなわけで《アイレンクラッグの妙技》の出番。
このショートカットを使って5ターン目にウギンを降臨させることを可能としている。本来そのターンに出ないものを強引にねじ込むことの威力たるや、奇襲性も相まってされた方はたまったもんじゃない。ターボウギンで対アグロに逆に速度勝負を挑む所存だ。
《アイレンクラッグの妙技》はこの戦術のために必要なカードではあるが、後半には価値が薄くなる1枚だ。そこでこれに価値を持たせられるような工夫が重要になってくる。呪文は1つしか唱えられないという制限、そしてウギン以外にあまり重いカードを入れるのもリスキー。そんなわけでデッキに求められている者はマナを支払って起動する能力各種。
《精神迷わせの秘本》やサイクリングなど、マナを支払って手札を得て余ったマナを注ぐという構造もあるが、最も活かせるのは《這い回るやせ地》か。
4マナと重いこれの起動型能力を1ターンに2回以上起動して、一気に巨大なクリーチャーになる土地に育てるという……もちろん、カードを1枚使ってやりたいことかと言われるとそうではないが、消耗戦の末に引いてしまった妙技に何も使い道がない、という状況を避け勝利のために少しでも活かせるという点は見過ごしてはならない。
妙技云々抜きにしても、だらだらと土地だけおいてターンを終えていく展開は好ましくないので、やせ地を起動して一歩ずつ勝利に近づいていくという姿勢こそが大事だ。
誰にでも薦められるデッキかというと、決してそうではない。ただ盤面を流してひっくり返してというゲーム展開こそ理想だというプレイヤーにはウギン×妙技は体験してみるべきだと思う。そして赤単にこだわり過ぎない構築、これが大事だ。他のフォーマットにも応用できる考え方である。我がままを押し通す際にはいつでも現実的な下準備が必要だということを忘れずに!
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