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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
遠いあの日の我がデッキ
これまでのあらすじ:マジックが大好きだ、この最高のゲームの楽しさを伝えるのを仕事にしたい! そう願っていたら公式サイトでコラムを連載することになり、そして気が付けば1000回目を迎えたのであった!
いや~まさかこんなに続くとは。書いている本人が一番驚いている。時に真面目に、時にふざけにオールイン。基本的には戦術論とかガチガチのものは書けないので、マジックにはこんなデッキもあるんだよ~と、まったり楽しさを伝えようとやってきましたがね。そんなんでも読んでくれている皆さんのおかげで大台に乗せることができました。どうも、ありがとうございます! 基本は1回1デッキだが、環境を振り返る時やバリエーション違いを紹介する時には2~3デッキ取り上げたこともある。ということは、ここに至るまでに1000以上のデッキを紹介してきたことになる。それでも、まだまだまったく紹介しきれていないデッキがあって……マジック、凄まじいな! ここまで来たら増え続けるデッキたちと当コラムの勝負という気にもなってきた。どこまでも紹介してやるって!
1000回目を迎えての心情はここらにしておこう。記念すべき回に一体どんなデッキを紹介するのか? 今日の本題なわけだが……難しいね。一番好きなデッキというのは決められない、強いて言えば以前にマジックを始めた時の思い出とともに紹介させてもらった『ウルザズ・サーガ』の構築済みデッキ「疫病」かな。すでに書いちゃってるんだからもう取り上げられん(笑)。まあでも、それに近い時代の思い出話でもすればいろいろ出てくるかな。あれは中学2年生の頃……
1999年、「ゲームぎゃざ」という雑誌が創刊された。マジックを大々的に取り扱ったもので、最新デッキやイベントレポート、当時のトッププレイヤーたちのコラムに背景世界解説に読者参加型コーナー……それはもう、何度も何度も同じ号を読み返したものである。当時はインターネットも各家庭に普及なんてこともなく、中学生がマジックに関する情報を手に入れるにはこれしかなかったのだ。
そこには月刊誌の都合、1か月以上前のイベントで活躍したデッキなどが載っていた。ショップの大会に足しげく通っていたプレイヤーにとっては鮮度が落ちていた情報なのかもしれないが、仲間内でわいわいと、カードがろくに揃っていないデッキで遊んでいた僕らには十分な情報の洪水だった。テキストが長くてさっぱりわからんあのカードはこう使うのか、僕らの中では赤いデッキには絶対に入っているアイツがトーナメントでは全く使われていないのか、そんな発見に満ち満ちていたのである。
そんなデッキ群の中で、比較的コモンを多く使い、また自分たちにも強さが分かりやすいデッキということで目を引いた存在は「ストンピィ」だった。今でこそ、レガシーにおける《古えの墳墓》《裏切り者の都》でロケットスタートを切るデッキのことを指すが、当時は緑単のアグレッシブなデッキの名前であった。《飛びかかるジャガー》に《怨恨》をつけて殴るという、当時の他の色の追随を許さない超高速ビートダウンだ。
このデッキに憧れを抱いたヤツは僕らの仲間内にも多かった。その中で1人、今でも月に2~3回は遊ぶ20年以上の付き合いになる親友がいるのだが、そいつが「ストンピィ」を独自解釈したデッキを皆で遊ぶ集会の場に持ち込んできた。
「ストンピィは土地を複数枚引いても使い道がないので、極力その枚数を減らしたい。《ラノワールのエルフ》はクリーチャーでありながら土地のようなものなので、これを入れればその分土地が減らせる。《土地譲渡》も土地が0枚の手札でもキープさせてくれるので、これもまたデッキの土地を減らすのを後押しする。あとは1マナクリーチャーを可能な限り詰め込み、《怨恨》や《巨大化》でパンプして戦う」
このような設計理論に基づき、なんとデッキ内の土地がたった7枚のストンピィもどきを作り上げてきたのである。ちなみにそいつは全く勉強ができず、テストでも一桁の点数を取ることすらあるような、愛すべきアホキャラだった。そんな男が、ここまで考えてデッキを構築してきたのである。僕はマジックを通じて「学校の勉強が出来るか否かだけでは測れない人間の能力というものはあるのだな」と学んだのであった。
ちなみにその土地7枚のストンピィはそれはもう強かった。設計思想も何もなく、とりあえず持っているカードを入れてみたというデッキはその速度に圧倒されていたのだ。《土地譲渡》を使うことでデッキ内の土地の枚数を極限までそぎ落とす。後に「ミラクル・グロウ」というデッキが同様のコンセプトをもとに設計され。実際にトーナメントで戦果を挙げて世の注目を集めた時には、僕は二重にたまげたもんである。とんでもないリストを組んだ海の向こうのプレイヤーに、そして同じ境地にすでにたどり着いていたあいつのあのデッキに。
まあ話は戻って……とにかく、そのスピードにはとてもじゃないが今までのデッキでは太刀打ちできなかった。相手が2ターン目に4点とか放ってくるのに対して、こちらの除去は主だったものが3マナ以上だったりしたのだから間に合わない。僕は黒単か赤黒を好んで使っていたのだが、他のマッチアップでは必殺の《堕落》も唱えるまで生きていることの方がレアケースときたもんだ。戦い方を改めねばならない。
学校のいらなくなったプリントの裏に延々とあーでもないこーでもないとカード名を書き留めた。当時、僕らはスタンダードなどのフォーマットにとらわれておらず、手持ちのカードは何でも使ってヨシ。サイドボードはなんだかよくわからんのでナシ、一本勝負をお互いが飽きるまで延々と繰り返すという……近い世代のプレイヤーがマジックを覚えた時に遊んでいたであろう、特にルールのないルールで遊んでいた。先手後手はじゃんけんで決めて、以後負けた方が先手をもらえるというシステムだ。
いろいろ考えた末に出した結論は、こちらもスピードで勝負するという原始的なアプローチだった。最初のじゃんけんで勝って先手をもらえたら、そのままスピードで押し切って勝つ。次のゲームで負けてもまたその次は先手がやってくるので、そこで勝つ。そうやっていれば、少なくとも五分の成績で終わることができるんじゃないか、と。
そして、その速度勝負のために用いるのは《暗黒の儀式》だ。
これで1ターン目から《カーノファージ》などの軽くてパワーが2以上のクリーチャー、シャドーや飛行などの回避能力を持っているクリーチャー複数体並べる。
《邪悪なる力》や《よじれた実験》でそれらを強化して殴る、殴る、殴る。
とにかく前に向かって一直線、先に攻撃できる先手の利を活かして押し切るのだ。ライフは最後に1点残っていればいいので、惜しまずに《殺し》なんかをガンガン唱えて、とにかく1ターンでも早く殴り倒す。
スタック・ルールというやつのおかげで《肉裂き怪物》でとどめの一撃を与えても相討ちにはならないということも知った。これなら戦える!
18 《沼》 -土地(18)- 4 《カーノファージ》 1 《ブラッド・ペット》 1 《奈落のインプ》 2 《ダウスィーの殺害者》 2 《走り回るスカージ》 1 《黒騎士》 1 《ダウスィーの怪物》 1 《ダウスィーの大将軍》 1 《アーグの盗賊団》 1 《肉裂き怪物》 1 《悪臭のインプ》 1 《ストロームガルドの騎士》 1 《のたくる塊》 1 《骨砕き》 1 《ダウスィーの匪賊》 1 《隠された恐怖》 1 《走り回る怪物》 -クリーチャー(22)- |
4 《暗黒の儀式》 3 《強迫》 1 《邪悪なる力》 3 《よじれた実験》 2 《トーラックへの賛歌》 1 《悪魔の布告》 1 《脊髄移植》 1 《恐怖》 1 《隠れ潜む邪悪》 2 《殺し》 1 《憎悪》 -呪文(20)- |
確かこんなリスト……だったと思う。さすがに覚えていないのだが、「○○はX枚しか持っていなかったからやむなく△△で代用した」みたいな断片的に脳内に残っている記憶から無理やりリストにしてみた。おそらくはこれそのままのリストでプレイしたことはないのだろうが、古き良き黒のクリーチャーが並ぶことで懐かしさが伝われば、ということで。
今見るとスタンダードもへったくれもないので、当時エクステンデッドですら使えなかった《トーラックへの賛歌》が2枚も入っている無茶苦茶っぷり(笑)。
当時、近所のゲーム屋で『フォールン・エンパイア』が安売りされていて、中学生の僕らのこづかいでも気楽に買えたのだ。すべて英語のテキストでわかりづらく、辞書を引きながらカードテキストを確認したものである。意味不明な挙動のカードが多かった中、このソーサリーはわかりやすく、そして初心者であっても「なにこれ強ッ」と思わされたものである。かごめかごめをやっているのと、狼が吠えているのとの2種類のイラストを使っていた。
このデッキを組むにあたって、《カーノファージ》だけはどうしても4枚必要だと思ったのでトレードしてかき集めた記憶がある。あとは大体、月に1~2回買ったパックから入手したものだ。《憎悪》がパックから出てきた時には飛び上がるほどうれしかったのを覚えている。
実際にこれでフィニッシュすることは……「5マナ出ねぇ」となってあまりなかったように思うが、18点のライフを支払っての2ターンキルってのは夢があったし、理論上それができるデッキを自分は持っているというのがなんだか誇らしかったものだ。
『テンペスト』ブロックが誇るシャドー軍団や、《走り回るスカージ》たちも頼もしかった。回避能力は絶対的な正義である。1ターン目に《暗黒の儀式》から《隠れ潜む邪悪》を出して4/4飛行を得るというリスキーな動きも実に楽しかった。
最初にこれを披露した時に対戦相手は「マジで?」と、いきなりライフを10点放棄したこちらに驚いていたものだが、次のターンに《よじれた実験》を貼って殴ると違うトーンの「マジで?」が聞けたものだ。
肝心の対「ストンピィ」はどうだったのかというと、これが目論み通りの五分だった……と思う。基本的にお互いが先手を取った時にはそのまま勝つ、たまに《暗黒の儀式》連打だったり《巨大化》連打だったりでひっくり返ることもあったが、交互に勝ちが移動するゲームを毎日のように遊んでいた。あの時間こそが、最もマジックにのめり込んでいたのかもしれない。
やがて時は過ぎ、そのストンピィ使いはマジックをやめた。中学卒業とともにバイトを始め、他のマジック仲間と時間が合わなくなったのが要因だった。しかしながら、そいつはいまだに「あの頃のマジックは最高に楽しかった」と、ことあるごとに口にする。「岩っさんの黒、強かったな」と。今は飲食店の店長を務めているのだが、「店の壁に《アルビノ・トロール》のポスター貼りたいわ~」なんて冗談を交えながら、そいつの店で飲むビールは美味い。
僕にとってマジックとは、20年以上付き合いのある友人のようなものである。時にはちゃめちゃに楽しく、時にシリアスに向き合った。たまに嫌いな一面が見えることもあるが、友人ってのはそういうもんだ。だからこそ、本当の友人らと同じように長きに渡って付き合ってこれたのだろう。
俺はお前の良いところ、1000個以上語ってきたぞ。これからもよろしくな!ってところで、おっさんの長い思い出話はこれにておしまい。また機会があったら、その時にでも。
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