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原根健太の徹底解説!スタンダード・アナライズ
第2回:『基本セット2021』後の環境とプレイヤーズツアーファイナル
皆さんこんにちは。原根です。
前回よりスタンダードの連載を担当させていただいています。前回は初回ということで直近のスタンダード概要と環境で活躍するデッキ紹介の形を取らせていただきましたが、今回は来週末に控えたプレイヤーズツアーファイナル(トップ8による決勝ラウンドは再来週末)に向けて少し踏み込んだお話をしていきたいと思います。最後までぜひお付き合いください。
では早速本題に入っていきましょう。
トピック
まずは直近あったスタンダード的トピックをまとめていきます。
トピック1 プレイヤーズツアー・オンライン開催
前回記事でも触れたプレイヤーズツアー・オンラインが開催されました。本来プレイヤーズツアーはマジックフェスト・北九州2020を含めテーブルトップイベントによる開催が予定されていましたが、昨今の新型コロナウイルス感染症を取り巻く情勢により、今年いっぱいの競技イベントはオンラインで実施することが発表されています。全世界に参加者が存在するこのイベントは日程を全4回に分けての実施となり、今プレイヤーズツアーでは4人のチャンピオンが生まれることとなりましたが、なんとそのうち2人は日本人選手となっています。村栄 龍司さん、浅原 晃さん、おめでとうございます!
村栄 龍司さん |
浅原 晃さん |
この他、林 眞右さん・野稲 和弘さんの2名がトップ8入賞、平山 怜さんが準優勝を遂げるなど、日本人選手の活躍は目覚ましいものでした。
彼らはこの功績によりプレイヤーズツアーファイナルの参加権も獲得しています。これで日本からは全15名の選手が参加しますので、ぜひ声援を送ってください。
プレイヤーズツアーファイナル 日本人出場選手(敬称略) | ||||
浅原 晃 | 石附 拓也 | 石村 信太朗 | 大森 健一郎 | 加藤 健介 |
熊谷 陸 | 佐藤 レイ | 高橋 優太 | 野稲 和弘 | 林 眞右 |
原根 健太 | 平山 怜 | 村栄 龍司 | 八十岡 翔太 | 行弘 賢 |
このイベントで最も活躍したデッキは、前評判通り「ティムール再生」でした。
4大会のうち3つで優勝し、残る1つも準優勝と圧倒的な成績を収めています。一般的に「ティムール再生」に対し相性が良いとされる「バント・ランプ」や「バント・フラッシュ」など《時を解す者、テフェリー》を用いたデッキ群の活躍も目立ちましたが、それでも最後に勝ち残るのは「ティムール再生」だったのです。意識された上での勝利、王者が王者と呼ばれる所以ですね。
トピック2 『基本セット2021』リリース
プレイヤーズツアー・オンライン終了後、新セットである『基本セット2021』がリリースされました。新規カード・再録カードともにトーナメントシーンに影響のありそうなカードが多く登場しています。ひとつポイントとしては、あくまで基本セットの位置付けですので、新たなメカニズムなどは存在せず、既存デッキの強化が基本路線となっています。
《耕作》《真面目な身代わり》《精霊龍、ウギン》は現在のメタゲームでも活躍中のランプデッキを強化します。安定感と決定力の2つを同時獲得しました。
現スタンダードのランプデッキは《成長のらせん》と《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の兼ね合いで青緑のカラーリングが基本ですが、両カードがドロー能力を伴うため《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》が注目を浴びています。ランプデッキは2ターン目のアクションを《成長のらせん》に大きく依存していたため、さらなる進化に繋がる可能性があると言えます。《時の支配者、テフェリー》はジョルレイルの誘発に貢献する他、ウーロの脱出も補助するため、多くの青緑デッキに取り入れられています。
ランプ・デッキの強化が目立ちますが、《悪魔の抱擁》を用いた「黒単アグロ」や《漁る軟泥》《原初の力》を手に入れた「緑単アグロ」など、単色アグロも強化されています。現スタンダードは各種トライオーム(《ケトリアのトライオーム》など)や占術ランド(《神秘の神殿》など)に見られるように、2色以上を生み出す土地は確定タップインのものが多く、多色のアグロデッキは構築しづらくなっているため、1ターン目から積極的に展開を行うアグロデッキは単色のものが中心になっています。
トピック3 大型オンライントーナメント開催
前述の理由によりテーブルトップイベントは軒並み中止となってしまいましたが、一方でMTGアリーナを用いたオンラインイベントが活性化してきています。前回の記事でも紹介した「Red Bull Untapped」、さらにアメリカのショップであるStar City Gamesによる「SCG Tour Online」など、賞金総額数万ドルを越えるような大型トーナメントがプレイヤーズツアー以外にも開催されるようになりました。これら大型トーナメントは複数回の予選を実施後、成績優秀者を招待して本戦が行われる運びとなっています。ここからは、そうして集まった結果を分析し、月末に控えるプレイヤーズツアーファイナルのメタゲームを予想・解説していきます。
メタゲーム分析
まずは直近で開催された注目イベントの結果を羅列します。
7月第1週(7月4~5日)大会結果
SCG Tout Online Championship Qualifier #2
- 1位 「ティムール再生」
- 2位 「バント・ランプ」
- 3位 「スゥルタイ・ランプ」
- 4位 「バント・ランプ」
- 5位 「バント・ランプ」
- 6位 「緑単アグロ」
- 7位 「ジャンド・サクリファイス」
- 8位 「赤単アグロ」
Red Bull Untapped Online Qualifier Russia
- 1位 「バント・ランプ」
- 2位 「赤単アグロ」
- 3位 「スゥルタイ・ランプ」
- 4位 「バント・ランプ」
- 5位 「緑単アグロ」
- 6位 「緑単アグロ」
- 7位 「ボロス・ウィノータ」
- 8位 「ラクドス騎士」
7月第2週(7月11~12日)大会結果
SCG Tout Online Championship Qualifier #3
- 1位 「バント・ランプ」
- 2位 「ティムール再生」
- 3位 「ティムールタッチ白再生」(《時を解す者、テフェリー》採用型)
- 4位 「ティムール再生」
- 5位 「スゥルタイ・ランプ」
- 6位 「ラクドス・サクリファイス」
- 7位 「バント・ランプ」
- 8位 「ティムール再生」
Red Bull Untapped International Qualifier II
- 1位 「ティムール再生」
- 2位 「ティムール再生」
- 3位 「バント・ランプ」
- 4位 「シミック・ランプ」
- 5位 「ティムール再生」
- 6位 「緑単アグロ」
- 7位 「ティムールタッチ白再生」(《時を解す者、テフェリー》採用型)
- 8位 「ラクドス・サクリファイス」
『基本セット2021』がリリースされて以降、4つの注目イベントが開催されました。世界各地のトッププレイヤーの参加も多く見られ、高い注目を集めました。今秋に控えるローテーション前の環境終期ということもあり、上位入賞デッキは見慣れたものばかり。その上でこれらのデッキを分類するとすれば、「本命を使う」か「本命を倒しに行く」か「本命を倒しに行くデッキを倒しに行く」の3つに分けられます。
選択肢1 本命を使う
まず環境の本命は前期と変わらず「ティムール再生」です。前環境でプレイヤーズツアー・オンライン4つのうち3つを制したデッキパワーは伊達ではありません。
2 《森》 2 《島》 1 《山》 4 《繁殖池》 1 《神秘の神殿》 3 《踏み鳴らされる地》 3 《蒸気孔》 4 《ケトリアのトライオーム》 3 《ヴァントレス城》 2 《爆発域》 4 《寓話の小道》 -土地(29)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》 1 《厚かましい借り手》 2 《夜群れの伏兵》 -クリーチャー(6)- |
4 《成長のらせん》 2 《霊気の疾風》 2 《否認》 2 《焦熱の竜火》 4 《神秘の論争》 4 《荒野の再生》 3 《サメ台風》 4 《発展 // 発破》 -呪文(25)- |
4 《砕骨の巨人》 1 《厚かましい借り手》 1 《長老ガーガロス》 2 《霊気の疾風》 2 《否認》 1 《ナーセットの逆転》 1 《焦熱の竜火》 2 《終局の始まり》 1 《サメ台風》 -サイドボード(15)- |
「デッキの動きが安定している」「その上で圧倒的なブン回りがある」「一発逆転のトップデッキ力もある」「構築によって多彩なゲームプランも実現可能」「苦手な相手もほとんどいない」「逆に有利な相手は多くいる」など、いわゆる「強デッキ」としての性質をほぼ全て有しています。今回紹介するイベントの中でも最大規模(1300人参加)のイベントを制しており、デッキの地力は間違いありません。更に、同大会の決勝戦はMPLメンバーであるハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezとライバルズ・リーグ・メンバーである井川 良彦によって競われました。上記の性質の通り「強者が最も好みやすいタイプのデッキ」ということもあり、プレイヤーズツアーファイナルにおいてもまず間違いなくトップシェアを占めるデッキとなることでしょう。
そのため、現スタンダードの現状は前環境と変わらずで、本命・「ティムール再生」を巡るものとなります。
選択肢2 本命を倒しに行く
対「ティムール再生」の筆頭候補として挙げられるのが「バント・ランプ」です。《荒野の再生》で生み出されるマナはインスタント・タイミングでしか利用できないため、《時を解す者、テフェリー》はその利用に大きな制約を掛けます。「ティムール再生」の一般的なリストで用いられている打ち消し呪文の多くは《神秘の論争》であり、これは自身が2マナ以下しか構えられていない状況で相手のテフェリーに干渉できる貴重な手段ですが、逆にゲーム中盤から後半、3マナ余らせた状態でプレイされるテフェリーには脆くなります。マナブーストに長けるデッキから繰り出すテフェリーは非常に効果的です。
2 《森》 2 《島》 2 《平地》 4 《繁殖池》 3 《神秘の神殿》 4 《寺院の庭》 1 《豊潤の神殿》 4 《神聖なる泉》 2 《啓蒙の神殿》 4 《寓話の小道》 -土地(28)- 3 《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》 1 《漁る軟泥》 4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》 2 《ハイドロイド混成体》 -クリーチャー(10)- |
4 《成長のらせん》 2 《空の粉砕》 4 《エルズペス、死に打ち勝つ》 2 《サメ台風》 4 《時を解す者、テフェリー》 3 《時の支配者、テフェリー》 2 《世界を揺るがす者、ニッサ》 1 《精霊龍、ウギン》 -呪文(22)- |
1 《漁る軟泥》 2 《狼の友、トルシミール》 2 《霊気の疾風》 2 《敬虔な命令》 2 《ドビンの拒否権》 1 《ガラスの棺》 2 《神秘の論争》 2 《空の粉砕》 1 《覆いを割く者、ナーセット》 -サイドボード(15)- |
『基本セット2021』からの新戦力として《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》を手に入れています。先に紹介した通り、ランプ・デッキは2マナ域のアクションを《成長のらせん》に大きく依存していたため、能動的な最序盤のアクションとしてこれを取り入れるアップデートが行われています。シナジーを重視して《伝承の収集者、タミヨウ》も《時の支配者、テフェリー》に置き換わるなどの変更も合わせて行われています。
また、「テフェリーをマナブーストからプレイする」という要件は原則バントの3色でしか満たすことができませんが、中には「裏技」を用いてこれを突破するデッキも存在します。本命・「ティムール再生」もマナブーストを駆使するデッキですが、ここに《時を解す者、テフェリー》をタッチしてしまうというやり方です。
1 《森》 2 《島》 1 《山》 1 《平地》 2 《繁殖池》 2 《踏み鳴らされる地》 4 《寺院の庭》 2 《神聖なる泉》 4 《ケトリアのトライオーム》 4 《ラウグリンのトライオーム》 2 《ヴァントレス城》 4 《寓話の小道》 -土地(29)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》 2 《厚かましい借り手》 -クリーチャー(5)- |
4 《成長のらせん》 2 《否認》 1 《霊気の疾風》 1 《焦熱の竜火》 3 《神秘の論争》 4 《荒野の再生》 4 《サメ台風》 4 《発展 // 発破》 3 《時を解す者、テフェリー》 -呪文(26)- |
2 《幽体の船乗り》 2 《帰還した王、ケンリス》 2 《敬虔な命令》 2 《裁きの一撃》 1 《霊気の疾風》 1 《丸焼き》 1 《否認》 1 《神秘の論争》 3 《陽光の輝き》 -サイドボード(15)- |
『イコリア:巨獣の棲処』にて登場した3色サイクリングランドを駆使することで強引に4色のマナベースを成立させています。タップインランドが多くなりますが、《成長のらせん》や《自然の怒りのタイタン、ウーロ》はマナブーストでありながらこれらの処理にも最適です。らせん・ウーロの序盤アクションは現スタンダードで頭ひとつ抜けた性能を持っていますね。
「ティムール再生」を攻略するために《時を解す者、テフェリー》を使う路線では「バント・ランプ」は最もスマートな手段であり、上記4大会すべてで最大のシェアを占めています。本命「ティムール再生」よりも多くのシェアを持つことからも分かる通り、非常に人気の高いアーキタイプです。フェアなミッドレンジデッキを好むプレイヤーはこぞって選択する可能性が高く、プレイヤーズツアーファイナルでも選択するプレイヤーも多いことが予想されます。
選択肢3 本命を倒しに行くデッキを倒しに行く
「バント・ランプ」が「ティムール再生」を見ているのと同じように、「バント・ランプ」を狙うデッキもまた存在しています。
22 《森》 2 《ギャレンブリグ城》 -土地(24)- 4 《生皮収集家》 4 《樹皮革のトロール》 4 《漁る軟泥》 2 《クロールの銛撃ち》 4 《恋煩いの野獣》 4 《探索する獣》 2 《水晶壊し》 4 《石とぐろの海蛇》 -クリーチャー(28)- |
4 《原初の力》 2 《グレートヘンジ》 2 《世界を揺るがす者、ニッサ》 -呪文(8)- |
4 《オークヘイムの敵対者》 2 《水晶壊し》 2 《長老ガーガロス》 3 《レインジャーの悪知恵》 4 《強行突破》 -サイドボード(15)- |
「緑単アグロ」は「バント・ランプ」に対し相性の良いデッキの1つです。このマッチアップは「緑単アグロ」が攻める側、「バント・ランプ」が守る側のポジションで競われることになりますが、「緑単アグロ」の攻撃手段が多角的であることがその優位性を示しています。
「緑単アグロ」には3本の柱があります。1本目は《生皮収集家》から始まる攻撃的展開。2本目は《アーク弓のレインジャー、ビビアン》《世界を揺るがす者、ニッサ》などプレインズウォーカーによる攻め。3本目が《グレートヘンジ》によるアドバンテージ戦略です。「バント・ランプ」にはそれぞれ《空の粉砕》《エルズペス、死に打ち勝つ》といった対処手段が存在しますが、マナ域が重なっており、1ターンに1つしか唱えることができません。これらの攻撃手段を組み合わされると解決の要求値が高くなり、片側を対処している間にライフを大きく損失するなど、ジワジワと劣勢に追い込まれていきます。
苛烈な攻めを行ってくる相手には守りに専念して後半の《自然の怒りのタイタン、ウーロ》で勝利することが「バント・ランプ」の持つモードの1つであり、これまではそれで問題ありませんでしたが、『基本セット2021』で登場した《漁る軟泥》がそのプランに待ったをかけています。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》本体や墓地を食い荒らしてしまうため、これに頼ることができないのです。そのため自身が勝利するためには守りの上で機能しないカードを一定数デッキ内に含める必要があり、そのようなプランを取ってしまうとそもそも相手の攻めを捌ききれないというジレンマが発生します。これは有利・不利の関係性を語る際の典型的な状況です。
また、前環境から引き続き「バント・ランプを狩る者」として幅を利かせているのが「スゥルタイ・ランプ」です。
4 《森》 2 《島》 2 《沼》 4 《繁殖池》 4 《草むした墓》 4 《湿った墓》 4 《ゼイゴスのトライオーム》 4 《寓話の小道》 -土地(28)- 4 《樹上の草食獣》 4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》 4 《ハイドロイド混成体》 -クリーチャー(12)- |
4 《成長のらせん》 2 《無情な行動》 4 《耕作》 3 《戦争の犠牲》 4 《世界を揺るがす者、ニッサ》 3 《精霊龍、ウギン》 -呪文(20)- |
4 《恋煩いの野獣》 2 《無情な行動》 2 《否認》 3 《肉儀場の叫び》 2 《神秘の論争》 2 《思考のひずみ》 -サイドボード(15)- |
《戦争の犠牲》は各種パーマネントを活用する「バント・ランプ」に対し劇的な効果があります。この呪文の解決を阻止するべく、バント側は《ドビンの拒否権》を用いますが、最近の「スゥルタイ・ランプ」は《思考のひずみ》を複数枚採用しており、鉄壁の防御も貫通してしまいます。
「バント・ランプ」が《時を解す者、テフェリー》に割り当てているスロットは、スゥルタイでは《耕作》となっているのもひとつのポイントです。ランプのミラーマッチで重要な土地の伸ばし合いに優位性があり、《ハイドロイド混成体》や《サメ台風》のサイズ差に大きく影響します。スゥルタイには《ゼイゴスのトライオーム》があるため、デッキ内の色マナカウントに余裕があり、基本土地を多く採用できることから、バントでは採用の難しい《耕作》をプレイすることができます。《戦争の犠牲》や《思考のひずみ》のような大技をゲームプランの軸にする構造にピッタリです。
「緑単アグロ」も「スゥルタイ・ランプ」も『基本セット2021』で対「バント・ランプ」に有効なアップデートを遂げましたが、「バント・ランプ」側のアップデートは《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》のみと、相手側の強化に比べれば心許ないものとなっています。
しかしその背後には……
これはある種メタゲームの必然性とも言えますが、「バント・ランプ」の背後を狙う「緑単アグロ」や「スゥルタイ・ランプ」、さらにその背後には「ティムール再生」の姿があります。つまりこれらのデッキは「ティムール再生」に対して相性が悪いという問題があります。
『基本セット2021』でほとんど強化されなかった「ティムール再生」ですが、サイドボードの《長老ガーガロス》が唯一にして最大のアップデートです。このカードはさながら「緑の《悪斬の天使》」であり、アグロデッキを絶望の淵に叩き落します。打ち消し呪文や《時を解す者、テフェリー》《エルズペス、死に打ち勝つ》といったカードが飛び交う現スタンダードにおいてメインでの採用は難しいとされていますが、それらがプレイされることがないとわかっているマッチアップにおいては極めて強力なカードであることは間違いありません。
《思考のひずみ》により「ティムール再生」キラーとなるのではないかと予想されていた「スゥルタイ・ランプ」ですが、このプランはいくつかの問題点を抱えています。まず《思考のひずみ》以外の部分構造は根本的に「ティムール再生」に弱いため、1ゲーム目をかなり高い確率で敗北してしまいます。2ゲーム目以降も《思考のひずみ》を引けない場合は同様の展開となります。
また、《思考のひずみ》は6マナと重い呪文であることから何かしらのマナブーストを絡めなければ唱えることが難しいのですが、「ティムール再生」側がそのマナブーストを積極的に打ち消すことでひずみを唱えることを難しくさせるとともに、手札の呪文を積極的に消費することでひずみの効力を低下させてしまいます。
また《思考のひずみ》よりも早くプレイできる《夜群れの伏兵》でプレッシャーをかけたり、それに追加する形で《サメ台風》のトークン生成を合わせたり、「ハンデスには成功したが盤面を対処できず負け」と言った事態もあります。
ダメ押しは《ナーセットの逆転》の存在で、採用枚数自体は少ないですが、もし相手の手札に存在した場合敗北は必至です。すべてをかいくぐった後でもいち早く次なる決定打に繋がなければ《ヴァントレス城》で手札を回復されてしまうなどあらゆる欠点に見舞われており、現実的な回答ではないことが前環境時点で証明されていました。
メタゲームの問題点
現在の環境は 「ティムール再生」 < 「バント・ランプ」 < 「緑単アグロ」「スゥルタイ・ランプ」 < 「ティムール再生」 のいわゆる「じゃんけん」状態ですが、このじゃんけんには大きな問題があります。それは「ティムール再生」が「限りなく強いグー」であることです。デッキパワーがずば抜けて高く、パーであるはずの「バント・ランプ」も、意識した構成を取らなければその優位性を担保することができません。
《時を解す者、テフェリー》が最大の武器ですが、《爆発域》や《サメ台風》など「ティムール再生」側にも備えがあり、これ1本で勝利することはあまり現実的ではありません。さらに、前述したように《神秘の論争》はケアできますが《否認》はダメで、2ゲーム目以降はこの枚数も増加します。そのため「バント・ランプ」側も《サメ台風》を多く採用したり、《厚かましい借り手》や《夜群れの伏兵》を使うなどしてよりプレッシャーを強めていくことが「ティムール再生」攻略のポイントとなるのですが、ここで気に掛かるのがチョキ、つまり「緑単アグロ」や「スゥルタイ・ランプ」の存在です。
「バント・ランプ」が目下の敵である「ティムール再生」を意識したい一方、その背後を「緑単アグロ」や「スゥルタイ・ランプ」が狙っています。これらのデッキは普通にやり合った場合は分が悪い相手なので対策も手厚く敷きたいところですが、先の問題と矛盾してしまいます。本命を攻略し得るポジションにいる「バント・ランプ」は背後を狙う敵との板挟みにあり、前の敵も気を緩められるような相手ではないことから、非常に難しい立場となっています。
プレイヤーズツアーファイナルの見どころ
現状は「ティムール再生」をプレイすることが限りなく肯定されており、逆にその他のデッキは解決困難のリスクが存在しています。しかしながら、皆が皆「ティムール再生」をプレイした場合は当然ミラーマッチが多く発生するため、優位性は特になく、「『ティムール再生』というデッキは勝つかもしれないが自分が勝てるかどうかは別」という問題に行き当たります。参加者の立場としては何かしらの差別化を考えたいはずです。
その上でひとつポイントとなってくるのが、プレイヤーズツアーファイナルというイベントの位置付けです。
プレイヤーズツアーファイナルは参加ハードルが非常に高く、参加者構成の内訳は「MPL」「プレイヤーズツアー成績優秀者」「グランプリ優勝者」というハイレベルトーナメントになっています。世界トップオブトップの16人で開催される世界選手権までとは行きませんが、過去に開催されていたプロツアーやミシックチャンピオンシップよりも上のランクに該当するため、こうしたフィールドで各プレイヤーがどういった判断を下すのかは非常に興味深いポイントだと思います。これらのプレイヤー間でメタゲーム認識が共通化されていく場合、本命「ティムール再生」に弱いデッキは選択することが難しくなるため、その点を信頼したデッキ選択・構築も十分考えられます。
今回取り上げた大会では「緑単アグロ」も「スゥルタイ・ランプ」も、「ティムール再生」や「バント・ランプ」に引けを取らないシェアを示していました。
アーキタイプ | 人数 | 割合 |
---|---|---|
バント・ランプ | 205 | 15.6% |
ティムール再生 | 178 | 13.6% |
緑単アグロ | 151 | 11.5% |
スゥルタイ・ランプ | 121 | 9% |
(参加総数) | 1303 |
「ティムール再生」が有利としているデッキを選択するプレイヤーが減少するのであれば、当日の上位卓の様相はまた違ったものとなってくる可能性は十分にあります。当日のメタゲームブレイクダウンがとても楽しみですね。
また、プレイヤーズツアーファイナルの開催は来週末となりますが、今週末にもまだ注目イベントがあります。
- 7月18日 「Red Bull Untapped International Qualifier III」
- 7月18日 「SCG Tour Championship Qualifier #4」
- 7月19日 「SCG Tour Championship」
『基本セット2021』リリース以後トーナメントシーンを動かすような新しいデッキは出てきていないという話をしましたが、あくまで現状に限った話ですので、このタイミングで環境を打破するような全く別の選択肢が浮上した場合は台風の目となる可能性もあります。これらのイベントも要チェックです。
今回はここで終わりです。プレイヤーズツアーファイナルには僕自身も参加しますので、応援よろしくお願いします!
それではまた次回。
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