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戦略記事

週刊デッキ構築劇場

第38回:鍛冶友浩のデッキ構築劇場・《秘密を掘り下げる者》

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週刊デッキ構築劇場

2011.11.14

第38回:鍛冶友浩のデッキ構築劇場・《秘密を掘り下げる者

演者紹介:鍛冶 友浩

 『世界のKJ』。世界的な認知度の高いデッキビルダー。主な戦績は、プロツアー・チャールストン06優勝・世界選手権05トップ4を含むプロツアートップ8入賞3回、グランプリ・北九州05優勝など。
 現在はトーナメントシーンの一線を退いてはいるが、多くの練習と、レベルの高い理論により、多くのプレイヤーから信頼されている。特に、齋藤 友晴や森 勝洋との交流は有名であり、当時の彼らの成績に一役買っていた。
 スクラップ&ビルドを繰り返し、練習時に欠点を洗い出した上で、独創的な方法で克服した練度の高いデッキを構築することから、『欠点の破壊者(クラックスミス)』の二つ名がある。
 代表作は、Rage against the Machine・セプターチャント(北九州の形はモリカツ型と呼ばれるが、メインの構築者は鍛冶)・ストラクチャー&フォース他多数。
 現在、mtg-jp.comにて火曜日に『鍛冶友浩の「デジタル・マジック通信」』を週刊連載中。


☆メタゲーム

 大きなスタンダードイベントであったグランプリ・広島がMartin Juzaの「白緑ビートダウン」の優勝で幕を下ろした。
 このトーナメントの結果を反映してメタゲームも変化し、この優勝デッキを見かける機会も多くなったのではないだろうか。

Martin Juza
グランプリ・広島2011 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
8 《
4 《平地
4 《ガヴォニーの居住区
4 《剃刀境の茂み
4 《陽花弁の木立ち

-土地(24)-

4 《極楽鳥
4 《アヴァシンの巡礼者
4 《ミラディンの十字軍
4 《刃砦の英雄
2 《刃の接合者
2 《霊誉の僧兵
2 《月皇ミケウス

-クリーチャー(22)-
2 《迫撃鞘
3 《忘却の輪
3 《踏み荒らし
3 《情け知らずのガラク
3 《エルズペス・ティレル

-呪文(14)-
1 《悪鬼の狩人
2 《最後のトロール、スラーン
1 《大修道士、エリシュ・ノーン
2 《帰化
2 《天界の粛清
1 《忘却の輪
2 《饗宴と飢餓の剣
2 《戦争と平和の剣
1 《情け知らずのガラク
1 《原初の狩人、ガラク

-サイドボード(15)-


 このデッキは、今のスタンダード環境でもっともカードパワーの高いと言われているカードを上手くデッキに取り入れている。
 つまりはプレインズウォーカーを使い、サイドボードにも強力な2種類の「剣」をとっているということだ。
 前環境で《戦隊の鷹》がなぜあそこまで使われたかという理由の一つに、「対プレインズウォーカーへのダメージクロック」という要素がとても大きかったことを思い出せば、対プレインズウォーカーにも優れていることが分かる。

 そして、それ以外にこのデッキが優勝した理由はどんなものが考えられるだろうか?

 戦略記事を読む人なら知っていると思うが、メタゲームが大きく関わっているだろう。

 僕も週刊連載第9回で紹介したのだが、《ケッシグの狼の地》を使った緑系のデッキが意識されていた中にあって、

 マナ加速からの《ミラディンの十字軍》、さらに《情け知らずのガラク》というアプローチにより、《原始のタイタン》では間に合わないスピードと、マナクリーチャーを除去しながらの《原初の狩人、ガラク》対策を兼ね揃えた構築をしてきたわけだ。

 そんなデッキを相手に、「対戦相手がいつも《アヴァシンの巡礼者》からの《ミラディンの十字軍》でブン回りだ」「自分の《極楽鳥》が《情け知らずのガラク》にすぐ除去されてしまう」というのはちょっとおかしな話だとすぐに気がつくだろう。
 相手は狙いを定めてきているのなら、その矛先がどこに向いているのかを良く考えて、少しだけずらしてあげればいいだけなのだ。

 今回は、上海での成績で世界選手権へ権利をたまたま得た自分の調整の記録から1つ、構築の過程を紹介したい。


☆環境

 グランプリ・広島の試合をカヴァレージ・ライターとして間近で見た感想は、簡単に言えば2つ。

  • 2つの剣、《饗宴と飢餓の剣》と《戦争と平和の剣》がとても強いということ。
  • そして、剣同様に強いカードであるプレインズウォーカーを損せずに対処するには、クリーチャーの"戦闘ダメージ"を使わなければならないということ。

 ここでまず目をつけたのは、第23回のデッキ構築劇場「《幻影の熊》!? 」で紹介した青単色のビートダウンだった。

 この記事に書かれているリストはイニストラード以前のものだが、デッキの核になるのはM12のクリーチャー達である上に、2つの剣のプロテクションの色に唯一無関係な青であること、そしてクリーチャーベースのデッキであるため、プレインズウォーカーへの対応が簡単にできることと、最低条件は満たしていた。

 そしてまず、このデッキをイニストラード入りにリメイクしたのがこちら。

幻影ビートダウン イニストラード版[MO] [ARENA]
22 《

-土地(22)-

4 《幻影の熊
4 《幻影の像
4 《非実在の王
4 《瞬唱の魔道士
4 《秘密を掘り下げる者

-クリーチャー(20)-
4 《思案
3 《蒸気の絡みつき
3 《はらわた撃ち
4 《マナ漏出
4 《ギタクシア派の調査

-呪文(18)-

 特に調整したわけでもなく、ただの思いつきで作ったリストながら悪くない動きで、2マナ以下の呪文で構成されているが故に、《刃砦の英雄》を使うような重たいデッキには簡単に《蒸気の絡みつき》などを使ってテンポで翻弄することが可能だった。

 しかし、こういったコンセプトでデッキを組もうという人が同時多発的にMagicOnline上で現れて、すぐに自分の作ったものの上位互換なアーキタイプが流行り始めた。

「幻影」タッチ白 Sample List[MO] [ARENA]
10 《
4 《金属海の沿岸
3 《氷河の城砦
3 《ムーアランドの憑依地

-土地(20)-

4 《秘密を掘り下げる者
4 《幻影の熊
4 《非実在の王
4 《幻影の像
4 《瞬唱の魔道士
1 《縫い合わせのドレイク

-クリーチャー(21)-
4 《ギタクシア派の調査
2 《はらわた撃ち
4 《思案
3 《蒸気の絡みつき
4 《マナ漏出
2 《四肢切断

-呪文(19)-
2 《縫い合わせのドレイク
2 《精神的つまづき
1 《はらわた撃ち
2 《瞬間凍結
1 《否認
1 《四肢切断
2 《雲散霧消
2 《機を見た援軍
1 《迫撃鞘
1 《ムーアランドの憑依地

-サイドボード(15)-

 確かに青単色である理由もマナ拘束が厳しい以外に見当たらず、《ムーアランドの憑依地》をタッチするという構築は、自分の作ったものよりも優れていると感じさせられた。

 だがその分、このデッキの構築の余地はなくなっているわけで、このイリュージョンへの対策を織り込んだ構築を目指す方向へと転換しようと考えたのだった。

 このデッキの鍵はリストを見ただけでは伝わりにくいかもしれないが、《非実在の王》でも《瞬唱の魔道士》でもなく、《秘密を掘り下げる者》だ。

 1ターン目に現れる3/2飛行のダメージクロックは驚異的で、インスタントとソーサリーの枚数をある程度必要となってくることから、赤の火力と組み合わせるのがセオリーだろうと思い、構築したのがこちら。

青赤《秘密を掘り下げる者[MO] [ARENA]
9 《
9 《
4 《硫黄の滝

-土地(22)-

4 《秘密を掘り下げる者
4 《流城の貴族
3 《渋面の溶岩使い
4 《瞬唱の魔道士
4 《嵐血の狂戦士

-クリーチャー(19)-
3 《はらわた撃ち
4 《蒸気の絡みつき
4 《思案
4 《火葬
4 《マナ漏出

-呪文(19)-
4 《感電破
3 《鋼の妨害
4 《電弧の痕跡
4 《燃え上がる憤怒の祭殿

-サイドボード(15)-

 都合よく動けば《秘密を掘り下げる者》→《昆虫の逸脱者》から狂喜の《嵐血の狂戦士》と、環境最高速のダメージクロックで圧倒できるうえ、《マナ漏出》というカウンター呪文に守られては全体除去では絶対に間に合わない。

 さらにプレイヤーを狙う火力の《火葬》に、ライフを減らすバウンスの《蒸気の絡みつき》。

 そしてそれらをフラッシュバックしながらクロックになる《瞬唱の魔道士》は、《神秘の蛇》どころではない。

 対抗色であるのでマナには若干不安定さを感じられる構成になってはいるが、2色にしたことでデッキに使っているカードパワーは上昇しているし、土地22枚で、各色13のマナソースしかないのだが、ギリギリ機能する枚数を維持していると考えている。

 タッチ白のイリュージョンにとっては、《はらわた撃ち》がないと即ゲーム終了レベルな1ターン目のクリーチャー、《渋面の溶岩使い》もあり、サイドボードの《電弧の痕跡》も、苦手な"対象を2つ"とれるカードだ。
 さらに、《アヴァシンの巡礼者》からの《ミラディンの十字軍》も1枚で対処できる上にアドバンテージのおまけ付きだが、そもそも「白緑ビートダウン」の狙っているデッキとは全く違った構成になっているので、メインボードからでもかなり有利に戦えるだろう。

 非常にテクニカルなデッキなので、初手の7枚のキープを間違えただけでゲームにすぐ負けてしまうこともあるだろうが、メインボードではかなりの勝率を上げるのではないだろうか。

 ただ、《肉体のねじ切り》《破滅の刃》といった単体除去の連打に弱いので、《嵐血の狂戦士》との入れ替え用の《燃え上がる憤怒の祭殿》、《ワームとぐろエンジン》や《殴打頭蓋》、《漸増爆弾》というカードに対しての《鋼の妨害》を取っている。


 これはあくまでも調整記録の途中経過なので、最終的に僕がどんなデッキでトーナメントに出るかはまだわからないけれど、週末には文字通り世界最高のデッキが何か分かるだろう。

 それではまた週刊連載で!

worlds11_mainimage01

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