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週刊デッキ構築劇場

第3回:伊藤敦のデッキ構築劇場・『喊声と英雄』

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週刊デッキ構築劇場

2011.02.17

第3回:伊藤敦のデッキ構築劇場・『喊声と英雄』

演者紹介:伊藤 敦

 日本マジック個人ブログ界でも屈指の人気を誇り、『まつがん』のハンドルネームで知られる。
 「役割が近いカードはできるだけ種類を分散させる事によって、よりデッキの汎用性を動きの柔軟性を獲得できる」という銀弾理論をひっさげてトーナメントを駆け抜ける『銀弾の猛進者(シルバービリーバー)』。
 代表的なデッキは、銀弾理論の存在を世間に知らしめた銀弾キスキン、レガシーでも銀弾理論が有効であることを証明し、「敗北を知りたいデッキ」として連勝を重ねた銀弾マーフォーク、「3人あわせて3-9でサンキュー」で知られるプロツアー京都での使用デッキ青白GAPPOを銀弾理論でリファインした銀弾GAPPOことウルトラソリューション他多数。


 新しいエキスパンションのカードで、新しいデッキを作る。デッキビルダーにとっては最高に楽しいひとときだ。しかし同時に、そのビルダーとしての腕前が試されるタイミングでもある。

 2月に発売された新エキスパンション「ミラディン包囲戦」には、「ミラディンの傷跡」の流れを汲んで『感染』『増殖』や『金属術』といった既にお馴染みの能力を持つカードも含まれているが、やはり新しいエキスパンションで最初に注目するのは誰しも、新テーマや新サイクル、新システムだろう。

 その新システムの1つ、新しいキーワード能力である『喊声』(かんせい、と読む)は、これを持つクリーチャーの攻撃時に、他の攻撃クリーチャー全てのパワーに+1の修正を与えるというもの。クリーチャーを並べて全員で攻撃すると効果が大きいという点で、アラーラ・ブロックにあった『賛美』とは対照的な能力となっている。

赤単ゴブナイトデッキが大幅に強化されるかも・・・?

 タフネスが修正を受けないということからしても、クリーチャーによる超攻撃的なデッキタイプ・・・例えばウィニーなどで真価を発揮する能力と言えるだろう。

 さて、そこで今回デッキ構築劇場の主役となるのは、「ミラディン包囲戦」の中から、ともにその『喊声』を持つこれらの「英雄」たちだ。

 カードテキストを読めばわかるように、《刃砦の英雄》と《オキシド峠の英雄》・・・この2枚は上述の前のめりな能力である『喊声』に加え、攻撃時に誘発するまた別の強力な能力もそれぞれ持っているという、どちらも非常にアグロデッキ向きなデザインのカードである。

 しかも赤い方に至っては速攻まで持っているというのだから、前のめりすぎて前転しちゃってる感じさえする。一般に赤いのは速さが3倍らしいが、そうすると白いのに乗ってるのはアムロでこっちがシャアか・・・などと考えていては話が進まない。

 ともあれ、能力の方向性は両者一致している。そして4マナ域のダブルシンボルも一緒。さらにイラストを見ての通り、馬上の「英雄」のえも言われぬドヤ顔を右斜め45度から描いた構図という点でも符号している(注:筆者の主観による)。瑣末だがレアリティが神話レアという点もまた共通している。

 つまりこの2枚は、パワーやタフネスといったどうでもいい要素はこの際捨象するとして、端的に言えばそっくりさんなのだ。

 ということは、デッキに一緒にぶち込んでみるしかない。

 え?・・・と疑問に思ってはいけない。似たようなカードはとりあえず一緒にぶち込んでみるというのは、「夜の公園で武術家2人・・・勝負でしょう」というくらい自然な流れなのだ。

 ダブルシンボル?固定観念に囚われてはいけない。対抗色?気合で出すんだ。4マナ域が過多?5マナ以上を入れなければいい。

 全く新しいデッキを考える際には、可能な限りポジティブに考えるべきだ。すなわち、一見不可能な組み合わせも「とりあえず試してみる」のが肝要ということだ。

 それに少なくとも方向性が一緒なんだから、そうそう悪い事態にはならないはず・・・多分。

 とにかくそうと決まれば、他に3マナ以下で並べるクリーチャーを選別しなければならない。

 できればここも『喊声』持ちがいいかな。たくさん誘発すると強そうだ。

 そうそう、こういうのね。殴る気満々のパワー3がグッド。ていうか、そういえば上の2枚もクリーチャー・タイプが「人間・騎士」だったな・・・

 ん?騎士・・・騎士といえば・・・

 騎士・・・(旧ミラディンと基本セット第9版からの再録。《コーの飛空士》の下位互換かと思いきや、実は騎士だった)

 騎士・・・(「ただ強」カード。しかも二段攻撃が『喊声』と相性が良い。さらに擬似回避能力をも付与する《オキシド峠の英雄》とともに攻撃すれば、大ダメージは約束されたようなものだ)

 そして騎士!!

 やはり「困ったときは基本セットに立ち帰れ」という格言は本物か。

 なにせこの《模範の騎士》の能力=「破壊されない」は、今回の主役である4マナ域の2枚の除去耐性の無さをカバーするのにふさわしい。それに《模範の騎士》自身も、『喊声』持ちと一緒に殴れば先制攻撃を活かせる。相互にシナジーあり、文句なし。

 もし《刃砦の英雄》のトークンも騎士だったら危うく神デッキが爆誕するところだったが、さすがにそこまで贅沢は言えない。

 ここまでくればデッキは出来たようなものだ。早速スタンダードにある白と赤の「クリーチャー・騎士」をリストアップし、でも実際そんなに数がいなかったので必死に大体全部をぶち込んで、新デッキが完成した。
 

「Say War!!」[MO] [ARENA]
11 《平地
4 《
4 《乾燥台地
4 《広漠なる変幻地

-土地(23)-

4 《闘争の学び手
4 《レオニンの空狩人
4 《調和者隊の聖騎士
4 《模範の騎士
4 《ミラディンの十字軍
4 《刃砦の英雄
4 《オキシド峠の英雄

-クリーチャー(28)-
4 《稲妻
2 《太陽の宝球
1 《ミミックの大桶
1 《審判の日
1 《世界大戦

-呪文(9)-
4 《白騎士
4 《レオニンの遺物囲い
4 《光輝王の昇天
3 《紅蓮地獄

-サイドボード(15)-


 見えるだろうか。鬨の声をあげながら、敵陣へ我先にと切り込んでいく騎士たちの姿が。そして、その歴史の確かなターニングポイントにおいて軍勢を率いるのは、指揮官たる「英雄」だ。

 そう、今まさにスタンダードは「英雄」の時代を迎える!!

 ・・・そんな妄想は置いといて。今回クリーチャータイプ「騎士」を大々的にフィーチャーしたが、吸血鬼やエルフ、白単《アージェンタムの鎧》といったデッキほどの馬鹿げた速度はないため、分類的には白タッチ赤の中速ビートダウン、ということになるだろうか。

 いかにもマナベースが苦しいのは重々承知だが、緑絡みでない対抗色の宿命と思って受け容れるしかない。

 クリーチャー枠はここまでで概ね紹介済みなので、残るスペル枠を一応見ておこう。

 嗜みの除去スロット。マナカーブ的に1マナのアクションが欲しいのと、《精神を刻む者、ジェイス》で《刃砦の英雄》が場と手札をビヨンビヨン行き来するだけになってしまうのを防ぐために、安定のチョイス。

 マナベースが厳しいと書いたが、「ミラディン包囲戦」のカードの中に既に1つの回答があった。この《太陽の宝球》さえあれば4マナ域のダブルシンボル2種を順に展開することも容易い。つまりソリューション・・・これが開発部の意思か。

 ただ、《永遠溢れの杯》やラヴニカの印鑑シリーズなどと違ってタップインであることがネックとなり、3ターン目に2マナ+2マナと展開できないことから、結局フル搭載は見送った。『喊声』の効果を最大限高めるために《巡礼者の目》とも悩んだスロットだが、一応こちらの方が3ターン目《刃砦の英雄》のぶん回りができるという点で魅力的だ。あとなるべく新しいカード使いたかった。


 ここまではまあ良い。だがここから、4+4+4・・・と綺麗に並んだデッキリストに異端の数字「1」が突如出現する(しかも3回も)。この無秩序は何か。手抜きなのか。

 違う。単純に引いた端からクリーチャーを並べるだけでは味気ないので、いわゆる「必殺技」を3種類、銀弾(シルバーバレット)スロットとして搭載したというわけだ。当然サーチカードなどあるはずもないので、都合の良いタイミングに気合でトップデッキして欲しい。

 なんとかして速攻を与えたいとみんなが思うであろう《刃砦の英雄》。そんな彼女をこれに刻印できれば、ターン終了ステップに起動、第1メインに起動で攻撃時には合わせて4体の兵士トークンと『喊声』が2回も誘発する。要するに大体勝つ。そんな都合のいい展開にはそうそうならないかもしれないが、それでなくともとりあえず《審判の日》などの全体除去が入ったデッキには有効だろう。

 その《審判の日》を自分も入れてみた。おいおいクリーチャー並べるデッキに全体除去入れてどうするよ、というツッコミが聞こえてきそうだが、《模範の騎士》さえ出ていればこちらの被害は最小限で済む。このデッキは4マナ域が主戦力といささかもっさり気味なので、相手が速いデッキの場合にはこういったカードでコントロール側にまわることも必要となる。

 Finals09王者である山本 明聖(和歌山)が09年のプロツアー京都でトップ4に入賞した際、彼が使用していた赤白GAPPOにも《神の怒り》がメインから入っていたことを考えれば、それほど奇抜な戦略というわけでもないだろう。もっとも、このデッキには《包囲攻撃の司令官》も《目覚ましヒバリ》も入っていないのだが・・・

 『喊声』や《刃砦の英雄》の兵士トークン生産能力は攻撃時に誘発する・・・ということで、いっそのこと戦闘フェイズを増やしてしまえば対戦相手のダメージレースのプランを一気に崩壊させることができるはず!!という狂気の発想である。さらに反復してしまうともうわけがわからない。軽く想像しただけでもわかる、恐ろしいほどオーバーキル感漂う挙動だが、デッキ名を見ればわかるとおり、実はこの記事の本当のスタート地点はこのカードだったので、何とかねじ込んでみた。

 いわゆるカスレアが新エキスパンション発売によって突然脚光を浴びるというパターンは、ゼンディカーで《吸血鬼の呪詛術士》が出たときの《暗黒の深部》を例に出すまでもなく、決して珍しいことではない。『賛美』と《最高の時》で「最高の時バント」が出来たように、『喊声』と《世界大戦》も、もしかしたらスタンダードで定番の組み合わせとなるかもしれない。

 最後に、超適当に作ったサイドボードのうち、包囲戦のカードであるこれについてだけ触れておく。たった2マナの生物でありながらアーティファクトとエンチャントとの両面をケアしており、したがって例えば《聖なる秘宝の探索》はもちろん、後引きしても《アージェンタムの鎧》に合わせられる(上に2/2がついてくる)という馬鹿げた性能だ。

 もっとも、残念ながらクリーチャータイプは騎士ではなく猫・クレリックである。そういえば新カード《白の太陽の頂点》のトークンも猫だった。これは次に来るのは猫か。猫単なのか。つまり星弥生ファン歓喜。いや、わからなければ別にいい。


 そろそろお別れの時間が来たようだ。

 これを読んだ貴方が、「ミラディン包囲戦」のカードで新しい試みに挑戦してくれることを期待している。

 だがもしそれだけでなく、ここで読んだコンセプトが気に入ったなら。

 「ミラディン包囲戦」入りのスタンダードは、『喊声』騎士デッキで駆け抜ける!!

 ・・・のも、一興かもしれない。

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