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プロツアー・パリ11

読み物

Round 13: Vincent Lemoine(ベルギー) vs. Mat Marr(アメリカ)

「一握り/溢れんばかりの有効牌」

by Marc Calderaro / translated by Atsushi Ito


 このMat Marrというアメリカ人と筆者とは長い付き合いがある・・・といっても、数日前から同じところに泊まっているというだけの意味だ。筆者はMarrが《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》デッキで同じくMarrが調整中の《ボーラスの工作員、テゼレット》デッキと戦うのを手伝い、それからこのスタンダード環境について語り合った。

 そしてプロツアーまでの2日間、彼が《》と《》を放り投げているのを見て、グランプリ・ロサンゼルス09で4位に入賞したこの男がその新しいプレインズウォーカーの方を破りだす羽目にならなくてよかったと、そう思ったものだ。しかし、今日10-2ラインでここに座っている彼は、何故か結局《ボーラスの工作員、テゼレット》を使うことなしに非常に調子が良さそうである。

 対してその相手、ベルギーのVincent Lemoineは、ここまで11-1と素晴らしい成績で来ているただ一人のプレイヤーである。ここのところ目立った活躍はなかったが、2004年の世界選手権で団体戦を準優勝したベルギー代表の一人であり、大舞台での経験を欠くということはない。また、彼の緻密な白赤ボロスデッキはトーナメントに参加する度に快進撃を続けてきており、その好調ぶりがここで突然終わるとは考えられない。

Game 1

 Marrの2ターン目《草茂る胸壁》がLemoineの《ステップのオオヤマネコ》を阻もうとする立ち上がり。といっても《湿地の干潟》があっという間に0/1を4/5にしてしまったため、攻撃を押しとどめることはできない。さらに戦闘後に《ゴブリンの先達》と《冒険者の装具》が追加されたのを見て、Marrは落ち着いてアンタップし、思索に耽る。そして《金屑の嵐》の打ち時と判断し、Lemoineの盤面を一掃。Marrの《草茂る胸壁》だけが残る格好となった。

 Lemoineは《石鍛冶の神秘家》で《肉体と精神の剣》をサーチしてターンを返す。


ベルギーのLemoineとポートランド(どうやらアメリカらしい)のMarr

 Marrはこのクロックが小さく比較的安全な間に《砕土》と《探検》で加速し、《草茂る胸壁》と2枚の《》を立たせた状態でターンを返す(他に2枚の《》とさらに2枚の赤マナが出る土地がタップ状態)。しかし次のターンには《水蓮のコブラ》と《進化する未開地》を出し、左手に1枚の《》を握っただけの状態でマナフラッドを嘆く羽目になってしまう。

 だがこの間Lemoineも土地が2枚で詰まっており、《石鍛冶の神秘家》の効果で《肉体と精神の剣》を場に出す程度のことしかできていない。それでも続くターンにようやく3枚目の土地を引いたLemoineは、まず《冒険者の装具》を《石鍛冶の神秘家》に纏わせ、続いて《平地》を置き、さらに《肉体と精神の剣》をも装備させ、攻撃に向かわせる。ライフは18対11でLemoine優勢。返すターンでMarrはまた土地を引き、ため息を漏らす。

 序盤土地が詰まっていたことでLemoineの手札は充実しており、加えてLemoineが4枚目の土地を置いたことで、Marrは「調子良さそうだね」と呟くばかりでライフを6まで削られてしまう。さらに戦闘後の《骨溜め》は、《肉体と精神の剣》がMarrのライブラリ20枚を削っていたことにより、いきなり8/8の細菌トークンを伴った恐るべき生体武器となる。

 ここでMarrがようやく引き当てた土地以外のカードである《ゼンディカーの報復者》は、8体のトークンを引き連れて現れ、さらに《進化する未開地》も残っていたことでトークンが強化される。一見磐石な構え・・・だがLemoineには通用しなかった。細菌トークンに《肉体と精神の剣》を移し変え、プロテクション(緑)を与えると、十分な致死ダメージがMarrに与えられるのだった。

 Lemoine 1-0 Marr

 シャッフルの途中でMarrが言う。「ゲーム終盤までそっちは多分ガス欠に陥らないだろうから、そっちが序盤多少土地が詰まっても攻めきれないもんだね。」

 28枚も土地が含まれる《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》デッキだからか、Marrは序盤から何枚も土地をドローしていたにも関わらず、結局終盤まで土地を引き続けたのだった。


人生がLemoineを与えるなら・・・?
(訳注:「人生がレモンを与えるなら、レモネードを作りなさい」ということわざにかけている)

 束の間の静寂。だが対戦相手のデッキをシャッフルしていたLemoineが驚いて言う。「ちょっと待ってよ。君は61枚のデッキ使ってるの!?」

 「そうさ。気づいてなかった?」

 「いや、変だなとは・・・でもこっちが数え間違えただけかと思ってたよ。」

Game 2

 Marrがオープンハンドをキープし、《怒り狂う山峡》を置いてゲームが始まる。その手札は《紅蓮地獄》《原始のタイタン》とあとは土地というもの。これで十分と判断したのだろう。さらにLemoineの《ステップのオオヤマネコ》に応えるように《カルニの心臓の探検》をトップデッキする。

 先ほどとは違うゲームのはずなのに、1ゲーム目と同じような展開を見せる・・・《ステップのオオヤマネコ》が4点を与え、《石鍛冶の神秘家》が神話レアの剣をサーチする。ただし、今度は《饗宴と飢餓の剣》だが。

 しかし、《探検》とフェッチランドが《カルニの心臓の探検》に素早く3個のカウンターを載せる。さらにMarrはライブラリをシャッフルする間に手際よく宣言した。「あと《紅蓮地獄》を撃ってから、君のターンだ。」苦笑しつつもクリーチャーを墓地に送るLemoine。

 それでもベルギー人の方も負けじと、続く《ゴブリンの先達》を《ぐらつく峰》で強化してMarrのライフを12まで落とし込む。ターンエンドにMarrは《カルニの心臓の探検》を起動。更に土地を伸ばすことを選択する。

 最初に手札を見たときから比べてMarrは着実に有効牌を引き入れており、土地とタイタンの他に2枚の《金屑の嵐》を擁している。ここでたった1体の《ゴブリンの先達》に1枚の《金屑の嵐》を使用するかMarrは悩むが、結局使用してターンを返す。

 Lemoineは2体目の《石鍛冶の神秘家》をキャストするが、装備品はサーチしない。するとMarrが3枚の土地をタップするのを見て「また《金屑の嵐》かい!?」

 「その通りさ」Marrが答え、再びベルギー人にターンが返ってくる。


MatはMarrだが清廉潔白(unmarred)だ

 そうして、今度こそLemoineは装備する肉体も精神もない《肉体と精神の剣》を出すだけしかできない。いよいよMarrはお待ちかねの《原始のタイタン》をキャストし、2枚の《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》をサーチする。

 Lemoineは未使用のフェッチランドを持っており、サイドボードカードである《反逆の印》を使えば(《冒険者の装具》と合わせて)ゲームを終わらせることが出来るのだが、あいにく今は持っておらず、《ゴブリンの先達》を出して、《肉体と精神の剣》の力で《原始のタイタン》を乗り越えて殴りにいく。

 ライフを削りきられこそしなかったものの、一見Marrは絶体絶命である。ライフは18対4、Lemoineの場には《ゴブリンの先達》と、《肉体と精神の剣》を移し変えられてプロテクション(緑)の狼トークンが1体。

 ・・・が、スタンダードを少し触っていればわかるように。相手のライフがおよそ何点であろうと、ターンが帰ってきて、《原始のタイタン》がいて、2枚の《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》がある=即死なのである。Lemoineもそうなったように。

 「アタックして、本体12点。」Marrはそう言って2枚の《》をサーチ、《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》を誘発させる。Lemoineはこれを即座に狼トークンでブロックし、数点のトランプルダメージを受けるに留まる。しかし問題はない、Marrの最後の1枚がある。

 戦闘後の第2メインフェイズに置かれた《》で、Lemoineのライフはきっちり削りきられてしまった。

 Lemoine 1-1 Marr

 両名はここでトーナメントのことをほんの少しの間忘れ、昔話に花を咲かせた。主にLemoineのサンフランシスコ(2004年の世界選手権)での活躍とか、あるいはオレゴン州の住人であるMat Marrがマジックをするために初めて旅行に行ったときの話とか。

 そんな話をしていると、ジャッジが来て数枚の狼トークンをLemoineに渡した。これにMarrが冗談交じりで噛みつく。

「おいおい、そりゃ良くないぜ! 3枚もか!? これから3体も狼が出るってのか!?」

 Lemoineはこれにただ笑顔で返した。

Game 3

 1マナ圏のキャストもなかった後の2ターン目に、2枚のフェッチランドを起動するLemoine。

 「これはもらったな!」とMarrは既に勝った気だ。

 Lemoineは持ってきた土地から《石鍛冶の神秘家》をキャストし、《骨溜め》を手札に加える。《槌のコス》がLemoineの手札の中で出番を待つが、今のところキャストできる保証はない。

 《ミラディンの十字軍》が戦列に加わるが、Marrが3枚の土地をタップすると、Lemoineは既に《金屑の嵐》を撃たれた気でクリーチャーを片付けようとする。実際はただの《砕土》で、《カルニの心臓の探検》に3つ目のカウンターが載る。だがMarrはこの爆発的マナブーストに飽き足らないのかそれだけにとどまらず、《探検》から《怒り狂う山峡》がセットされる。

 ということは、Marrの場には攻撃を妨げるものは何もない。Lemoineの《ミラディンの十字軍》がアタックしてライフは17対12(二段攻撃が痛い!)。《槌のコス》にはまだ1マナ足りない。

 ついに《原始のタイタン》が登場し、《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》と6枚目の《》でもって《ミラディンの十字軍》を焼き払う。しかしこの緑のデカブツは短い命だった。《未達への旅》されてしまったのだ。さらに《肉体と精神の剣》を纏った《石鍛冶の神秘家》が攻撃してMarrのライフは9。もっとも、タイタン同様にLemoineのクリーチャーたちも滅びる運命にあった。《紅蓮地獄》だ。

 しかし《紅蓮地獄》をプレイした後で、Marrはテーブルを叩き、うなり声を上げた。無意識のうちに2枚しかない《》のうちの1枚を《紅蓮地獄》のマナに使用してしまったのだ。これでは同じターンに《原始のタイタン》の2枚目がキャストできない。何という手痛い失敗。はたしてこれがMarrの破滅の原因になってしまうのか?

 ここでようやくLemoineは4枚目の土地を引き込み、《槌のコス》が登場する。《》がMarrに殴りかかり、Marrのライフは5。

 「これで《稲妻》2枚で負けたら、俺は自殺したい気分だよ」Marrは1ターン遅れで《原始のタイタン》をキャストし《槌のコス》を処理するしかなく、敗北する可能性が現実化しようとするのを止めることは出来なかった。Marrはひたすらメモをとっていたけれども、こうして外から見る限りで、果てしない可能性があった。なんといってもLemoineは5枚も手札を持っており、しかもこれまでの展開からして、その全部がスペルだろうからだ。

 さて、その手札の中身やいかに?

 Lemoineはゆっくりとカードを引き・・・

 そしてカードを片付けたのだった。

 Marrにとって多くの敗北の可能性があったが、かろうじて現実化しなかった。致命的なミスもあれど、Marrは運良く乗り越えたのだ。

 Lemoine 1-2 Marr

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RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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