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第29回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権

インタビュー

Un Moment de Triomphe(凱旋の刻)

Corbin Hosler

2023年10月5日

 

 ジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Deprazは心の中のサイドボードのメモに目を通しながら、ゆっくりとシャッフルを行った。グレッグ "柑橘類の暗殺者" オレンジの「バント・コントロール」デッキとのマッチアップは厄介なもので、最初の2ゲームを落としたドゥプラはありえないことをする必要があった。つまり、プロツアー王者および彼のお気に入りのデッキを3本連続で破るということだ。

 「その時に私が考え始めていたのは『まあ良い成績だったんだから満足かな』ということでしたね」とドゥプラは認めた。「ですが、試合が終わっていないのは明らかだったので、気を取り直さなければいけませんでした」

 そして、ドゥプラは気持ちを引き締め、オレンジを逆転で3タテし準々決勝を勝利すると、最終的にはトーナメントを制し、マジック世界王者に輝いたのだ。

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 オレンジに続くふたつの試合、つまりアンソニー・リー/Anthony Leeを3勝0敗で下した試合と小坂和音との決勝戦が目を引くだろう。実際、それらの試合はドゥプラのプレイレベルを象徴するものだ。彼は世界選手権の日曜日という舞台でゲーム数9勝2敗だったのだ。しかし、ドゥプラが見事な優勝を収めた後の数日間考えていたのは、オレンジとの戦いのあの瞬間のことだった。あの瞬間、そしてそれに先立つ数々の主要トーナメントでのトップ8の瞬間。物語の結末につながる瞬間の数々――ドゥプラの対戦相手にとっての。

 ドゥプラの台頭はよく記録に残されている。彼は2005年にマジックをはじめ、ゲームと共に成長した。やがて彼はプロツアーを追い求め、2015年には出場資格を手にした。ここから急速に動き出し、2017年にグランプリ・ワルシャワで優勝し翌年にはフランス代表としてマジック・ワールド・カップで優勝を果たした。

 2019年にプロツアーでハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezと相対する決勝進出を果たした時、彼はマジック界の頂点に立つ直前だった。しかし、ドミンゲスの歓喜に終わった壮絶な試合は、そのかわりにドゥプラの心に傷を負わせる結果となったが、これは数連なるニアミスの序章に過ぎなかった。ミシック・チャンピオンシップVで第二位。オンラインのプレイヤーズツアーで第二位。そしてキャリアにおいて最高/最低の到達点となった第27回世界選手権で高橋優太に次ぐ第二位。勝利を重ねてきたにもかかわらず、個人タイトル獲得にはまだ手が届かなかった。

 オレンジを相手にサイドボードを数えながら振り返ったのはそれらの瞬間だった。

 「ハビエルを相手にした決勝戦は他よりも少しだけ響きました」と彼は言った。「相性は良いと思っていましたが全体を通して小さなミスを犯してしまいました。なので、好機を逃してしまったように感じました」。

 トップ8とトロフィーの間の差は、時に視座の高さであることもある。ドゥプラはそれらの経験によって自信を失ったかもしれないし、また一番プレッシャーを感じるプレイヤーからもほど遠かっただろう。しかし、それらの経験は彼の感覚をマヒさせるのではなく、むしろ彼を落ち着かせた。世界選手権のトップ8でコントロールマスターを相手に0勝2敗の劣勢に陥った時でさえも。

 「数々の準優勝は私にとっていい経験でした」とドゥプラは説明した。「『2位は9位より痛い』という話を知っています。パトリック・チャピン/Patrick Chapinの歌にも出てきますが、そんな風に思ったことはありません。私は毎回大会前に驚くようなパフォーマンスを夢見るタイプなので、自分の自分の高揚と実際に起こることの間に厳しく精神的な一線を引くことを学びました。トップフィニッシュはどれも授かり物であって、あとは野となれ山となれです。決勝では他のラウンドほどできることは多くありません。世界選手権では和音は決勝のドローで不運に見舞われました。私もそうなっていたかもしれないんです」

 「1勝0敗で私がリードしていて、彼は2ゲーム目に2枚目の土地を置けませんでした。カメラには何が映っていたのかわかりませんが、私はターンを受けた時、自分を揺さぶって集中しなおし『失敗しないようにしよう』というスイッチを入れなければなりませんでした。以前にも同じような経験をしたことがあったからなのか、それともこういう瞬間の重さに気づいていただけなのかの割合についてはわかりません。決勝戦でプレイすればするだけ、勝利する側に回る可能性は高くなる、とは思います」

 これは、多くの成功を経験した人間からの謙虚な視点であり、単なる慣用句ではない。たった2年前、ドゥプラは世界選手権の夢の裏側にいた不幸なプレイヤーだったのだ。

 しかし、先週末のラスベガスはドゥプラの日だった。彼が微妙に示唆したとおり、ドゥプラはキャリア中何度も決勝進出を果たしている。今、彼は世界選手権のタイトルを獲得し業績リストに追加したのだ。

 …

 ただ、時間の問題だった。

 ドゥプラについて誰に聞いてもそう答える。「彼はいずれ一度くらいは優勝できないはずがないくらいに優秀である」というのは世界選手権の前にマジックに長く携わってきたプレイヤーたちから聞いた大方の言葉だ。勝とうが負けようが、日曜日まで長く走り切るか、あるいは金曜日に燃え尽きるか、いずれにせよ最終的にドゥプラは優勝を果たしただろう。そのような確信は予言に誇りを持っている観客が軽々しく口に出せるものではないが、グランプリ・ワルシャワで優勝を果たしたパリのプレイヤーについてプロツアーの誰に聞いても、それは同じことだった。

(トビー)おめでとう、ジャン=エマニュエル・ドゥプラ。2勝1敗で決勝戦を制した #gpwarsaw 2017チャンピオン!

 ドゥプラが世界王者になったことは同輩たちにとって驚きではない。しかし、ドゥプラ自身がこの事態を予想していなかったことは驚きかもしれない。

 だが、プランは暗礁に乗り上げた。

 「ネイサン・ストイア/Nathan Steuerやサイモン・ニールセン/Simon Nielsenが全てを勝ち取るのを見て、私の心に再び火がつきました」と彼は説明した。「この2人に追いつきたい、追いつけるんだ、とより強く思うようになりました。結局、今年はマジックにあまり投資していなかったかもしれませんが、このイベントに臨むにあたって間違いなく熱は持っていましたし、トップ8の間にそれを見せられたと思います。何も逃したくはありませんでした」

 それが、「いるだけで満足」と 「優勝して満足」の違いだ。

 「タイトルを獲得したことをまだ完全に実感していないんだと思います」とドゥプラは世界選手権の後日、こう吐露した。「他の何よりも長い時間がかかっているように感じます。おそらく、より多くの意味を持っているからだと思います。主に旅からの回復とリールで行われる地域チャンピオンシップに向けて荷物をまとめたりしていました。世界選手権の後では、次の大きなトーナメントというよりは、友人たちに会う良い機会のようなものです」

 世界王者ともなればマジックは変わる。パウロ・ヴィター・ダモダ・ロサが2020年にいみじくも説明したことだが、彼はトーナメントから帰りバスの中で自身の顔が彼を見つめ返しているのを見つけたときにその教訓を学んだ。王者のニュースは瞬く間に広まり、控えめな性格であるドゥプラがその役割を担う時が来た。それはマジックのトーナメントで優勝することとはまったく異なる挑戦であり、デプラズはそれが彼にとってまさに何を意味するのか、今も理解しようと努めている。

 「説明することは難しいですね。脳内で処理をするには大きすぎる何かが自分の身に起こったようなもので、自分の人生を観客として走馬灯を見るようなものです」と彼は述べた。「このようなメジャーなイベントで優勝すると、頭に靄がかかったようになります。飛行機から降りた後に耳抜きをするように、頭をクリアにしようと試みることはできますが、すべてがはっきりと感じられるようになるまでは幾分時間がかかります。幸せで、そう信じられない程に幸せですが、その中には自分が幸せであるはずだという自覚と、それに応じた振る舞いをすることも含まれており、それがインタビューや社会的な接触、そして全てのことに少し圧倒されているような気がする理由です。少なくとも、私にとっては、ですが」

 マジックプレイヤーはキャリア全体を通じて、あるひとつの結果に過度に没頭しないことを学ぶ。そして、王者が自分のバランスを模索しているとその不協和音を感じることは頻繁にあるのだ。しかし、チームや友人はそのためにいるのだ。そして、ドゥプラはすぐに世界選手権出場者のテオ・メリー/Théau Mery、トーマス・ミシャ/Thomas Mechinそしてアレクセイ・パウロ/Alexey Paulotを含むともに準備を行ったチームの仲間たちを称賛した。

 「アレクセイのことはこれまで知りませんでしたが、彼の初めての最高レベルでのテーブルトップイベントでの信じられないようなパフォーマンスと、彼自身が作り上げた《アガサの魂の大釜》のことを称えたいですね」とドゥプラは言った。「この9位入賞が彼のことを耳にする最後の機会にはならないでしょう」

 ドゥプラのチームメイトたちが彼の勝利を祝福するために、あれほど熱狂的にステージへと駆けつけたことに、なんの驚きがあろうか。

 …

 第29回マジック世界選手権は、大規模なMagicConイベントと並んでプロツアーが復活した記念となる一年を締めくくった。そしてそれは色々な意味で、マジックのもとに再度一堂に会する最高潮の祝典となった。その祝典では世界王者が誕生し、全ての注目は2024年、シカゴで行われるその年最初のプロツアーに向けられている。

 ドゥプラにとって、一歩後退してはじまった一年は世界選手権で幕を閉じた。では、ふたつの異なる世界タイトルを持つ男が次に目指すものは一体何だろうか。

 「最初に浮かぶのは、プロツアー殿堂です」と彼は述べた。「そこまで考えすぎないようにはしています。というのももう新しい殿堂入りはありませんし、あったとしても私は候補の最上位ではないでしょう。ハビエルやサイモンは最近では私よりずっと活躍していますよね。ですが、あるなしにかかわらず、殿堂入りにふさわしい経歴を築きたいと考えていて、世界選手権はそれに向けた大きな一歩です。今後は、経済的なプレッシャーもなく好きなことに集中できるので、一安心しています。来シーズンのプロツアーと世界選手権にはすべて参加するつもりですし、運が良ければこの優勝が最後のトップフィニッシュにはならないと思いますよ!」

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