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マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2016
モダンメタゲーム概説
Frank Karsten / Tr. AOKI Chikara
2016年9月3日
24人のプレイヤーによる世界選手権2016の、スイスラウンド最後のフォーマットはモダンだった。
先週末にインディアナポリス、リール、広州でグランプリが行われ、親和、ジャンド、バント・エルドラージが良い結果を残した。(参考:筆者のツイート)
しかし、それは先週のことである。今週、一年で一番のトーナメントである世界選手権2016では全く違うメタゲームとなった。モダンのデッキリストはすべてこちらで確認できる。そして以下のとおりとなった。
アーキタイプ | 人数 | 合計成績(勝率) |
---|---|---|
アブザン | 8 | 14-17-1 (45%) |
ジャンド | 2 | 6-2 (75%) |
バント・エルドラージ | 2 | 5-2-1 (71%) |
死せる生 | 2 | 2-6 (25%) |
タイタン・シフト | 2 | 7-1 (88%) |
風景の変容 | 1 | 2-2 (50%) |
親和 | 1 | 1-3 (25%) |
感染 | 1 | 1-3 (25%) |
発掘 | 1 | 3-1 (75%) |
アブザン・カンパニー | 1 | 2-2 (50%) |
白黒トークン | 1 | 1-3 (25%) |
グリセルシュート | 1 | 2-2 (50%) |
存在昇天 | 1 | 1-3 (25%) |
アブザンとジャンド
注目すべきは「アブザン」の海である。世界ランキング2位のセス・マンフィールド/ Seth Manfield 同4位のルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargas、同11位のアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucci、同13位のマイク・シグリスト/Mike Sigrist、同13位(同率)のパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa、サム・ パーディー/Sam Pardee、マルシオ・カルヴァリョ/ Marcio Carvalho、ティアゴ・サポリート/Thiago Saporitoの8人でメタゲームの3分の1を占めた。
それに加え、世界ランキング6位のリード・ デューク/Reid Dukeと同18位のブラッド・ネルソン/Brad Nelsonは他のデッキに満足を感じない時にはいつも、知り尽くしている慣れ親しんだ純正の「ジャンド」を手にとってきた。
「リードと自分はキャラを守ったんだよ。」 ブラッド・ネルソンは陽気に話してくれた。
とある世界選手権出場者が《コジレックの審問》/《タルモゴイフ》デッキは「ソウルフード」であると言うのを聞いた。フェアで、対話的であり、主導権を得ながらにして全てのデッキに勝ちうるとあれば、世界最高峰のプレイヤーが不安なく使えるデッキスタイルなのもうなずける。
その他の要因として、彼らのメタゲーム予想がある。リード・ デュークとパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサは参加者が親和、感染、バーン、《死の影》Zooといったアンフェアなクリーチャーデッキを使用するものと予想しており、それらに対してアブザンは相性がよい。また風景の変容やトロンといった相性の悪い対戦は予想していなかった。
『異界月』からは数枚のカードがデッキに滑り込んできている。あからさまにバーンデッキ対策な《集団的蛮行》、《ぎらつかせのエルフ》・《鋼の監視者》・《闇の腹心》や《未練ある魂》のトークンをつぶせる《最後の望み、リリアナ》、そして《未練ある魂》を落とせると嬉しい《残忍な剥ぎ取り》が、ジャンドではなくアブザンを選ばせる理由の一つだ。
他にも白は《石のような静寂》に代表されるヘイトカードがあり、《流刑への道》は《死の影》や《原始のタイタン》に対して《稲妻》よりも効果的だ。リールと広州でジャンドがアブザンより遥かに人気があったとしても、世界選手権参加者の多くはアブザンを使うことに賛成意見を述べた。
リスト全体を通して見ると細かい違いが現れてくる。ダモ・ダ・ロサ、スコット=ヴァーガス、パーディー、シグリストは3枚の《貴族の教主》をリストに加えている。「《乱脈な気孔》とのシナジーは素晴らしいし、《残忍な剥ぎ取り》で押し込むのにも役に立つ。練習では大活躍だったよ」と、ダモ・ダ・ロサ。「インディアナポリスでは《貴族の教主》ではなく《ウルヴェンワルド横断》を使ったんだけど全然ダメだったんだ」 4人はクリーチャーが若干小粒なのとサイドボードから墓地対策を減らすためにメインに《先頭に立つもの、アナフェンザ》を1枚入れた。
セス・マンフィールドのバージョンも《貴族の教主》を使っているが、《闇の腹心》や《残忍な剥ぎ取り》の代わりにより多くの3マナ域をとっている。「《貴族の教主》による加速がゲームプランなのです」 マナ加速から2ターン目に《最後の望み、リリアナ》や《不屈の追跡者》をプレイできうるのはよい選択である。
最後に、アンドレア・メングッチは《残忍な剥ぎ取り》のない自作のバージョンを持込み、マルシオ・カルヴァリョとティアゴ・サポリートはウィリー・エデル/Willy Edelのリストをコピーしてきた。何もわからない時にアブザンマスターが良いリストがあると話してきたら、彼を信用するといいだろう。
死せる生
昨年の世界選手権において、世界ランキング9位のヨエル・ラーション/Joel Larssonと同7位のマーティン・ミュラー/Martin Mullerは「死せる生」を披露した。今年のモダン・プロツアーで《死の影》Zooを使用したスカンジナビアのコンビは、メタゲームのために世界選手権でふたたび「死せる生」を使用した。
彼らのゲームプランは最初の2ターンをクリーチャーのサイクリングに費やし、《暴力的な突発》と《悪魔の戦慄》から続唱で《死せる生》を唱え、戦場を空にしつつ《通りの悪霊》、《意思切る者》、《死の一撃のミノタウルス》、《巨怪なオサムシ》の一群を作り出すことにある。
ラーションとミュラーも親和やバーン、感染、《死の影》Zooといった攻撃的デッキを警戒レベル1と考えたが、それを実際に使ってくるプレイヤーは多くない予想をした。かわりにそういったデッキを倒すためのレベル2に属するアブザンやジャンドを使ってくると考えたのである。そうしたメタゲームの結果、彼らはレベル1のアグロデッキにはいまいちかもしれないがレベル2に対して勝率の良いレベル3に移行した。
「死せる生はバント・エルドラージに楽勝だし、アブザンにも有利に戦えるのさ。」 ミュラーはその選択を語る。メタゲームは彼らが考えたとおりになったが、実際のゲームはそううまくいかず、二人のモダンラウンドの成績は合計で2勝6敗である。
バント・エルドラージ
《ウギンの目》が禁止になった後、《難題の予見者》と《現実を砕くもの》の最高の住処になったのが「バント・エルドラージ」である。グランプリマスターのブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duinと世界ランキング5位のスティーヴ・ルービン/Steve Rubinの両者が使ったデッキは《貴族の教主》と《エルドラージの寺院》で2ターン目の《難題の予見者》を可能にする。《古きものの活性》が安定性をもたらし、ゲームが長引いた時のマナの使い道には《変位エルドラージ》が用意されている。
「最高のデッキの一つで、自分のプレイスタイルにも合っています。全てのフェアデッキに相性が良いし、引きが良ければどんなデッキにも勝てるんです。《罠の橋》と《血染めの月》を出されると困るので《自然のままに》と《世界を壊すもの》をサイドに用意しました」とルービン。
リストに言及すると、ルービンはメインに1枚だけ《永遠の証人》を用意している。「《変位エルドラージ》を4枚使っているならとても強く使えるし、ゲームが長引いたら《希望を溺れさせるもの》と《変位エルドラージ》で勝てるようになります。《永遠の証人》は5枚目の《希望を溺れさせるもの》みたいなものです」
ブラウン=デュインのリストもパンチが効いている。最初は1枚でテストされていた《太陽の勇者、エルズペス》が、対アブザンでどれだけ強かったかがわかると、すぐに2枚目を加えた。対コンボ用に《頑固な否認》ではなく《虚空の杯》を用意している。遅いゲームでマナを構えるよりも第2ターンにマナを使ってしまうことを選択したようだ。
タイタン・シフト
世界ランキング18位のオリヴァー・ ティウ/Oliver Tiuと同12位のオンドレイ・ストラスキー/Ondrej Straskyは一緒に調整をして「タイタン・シフト」デッキが最高のデッキであることを突き止めた。二人合わせて7勝1敗の成績を残し、デッキ選択はとてもうまくいった。
先週末、グランプリ・インディアナポリスに2人のトップ8入賞者を送り込んだ《裂け目の突破》バージョンと彼らのリストは違っている。彼らのデッキには《裂け目の突破》が入っていない。ティウとストラスキーは代わりに《カルニの心臓の探検》によりマナ加速を行う。「《裂け目の突破》はコストが高すぎるんです。爆発力も高いのですが、安定性に欠けています」
「僕らがこのデッキを選んだのは親和に効果的なサイドボードを取れることと、アブザンに対して有利だからなんです。アブザンはクロックが十分でなく、長引くゲームに強い構造です。もし対戦相手がこちらの脅威を《思考囲い》などで落としても、単純にそれを引き直せば勝てるし、普通に《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》でダメージを与えても勝てるんです。《死の影》Zooや感染は相性が悪いんですけれど、使用者は多くないと考えました」 参加者を見たうえでメタゲームを読むことの重要性がここでも繰り返された。
風景の変容
世界ランキング3位のルーカス ブロホン/Lukas Blohonも《風景の変容》デッキだが、よりコントロール的で青に寄せており、4枚ずつの《謎めいた命令》と《白日の下に》を使う。これはメインの《滅び》やサイドボードの《殺戮遊戯》といったシルバーバレットを可能にする。
デッキチョイスの理由はティウと同じである。「ジャンドとアブザンに強いデッキを使いたくて、スケープシフトには手応えを感じていた。自分よりも上手いプレイヤーと一日中アブザンのミラーマッチはやりたくなかったし。感染や《死の影》Zoo、親和といった速いデッキと相性はそんなに良くないけれど、倒せないってほどでもないしね」
ブロホンのリストは《白日の下に》バージョンの典型的なものである。《イゼットの魔除け》を《撤廃》にしているのが目についた。「撤廃は《死の影》Zooに強くて有効で、時間を稼いでくれるしカードも引けるからね」
親和と感染
アグロデッキを登録したプレイヤーはたった2人だ。世界ランキング1位のオーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwaldはきわめて理解の深い感染を選んだ。Magic Online Championのニールス・ノーランダー/Niels Noorlanderはこのイベントのためにいろいろなデッキをテストしたが、結局親和を最高のデッキと位置づけた。2人のリストはともに典型的で特に驚く部分もないが、十分に手堅いものである。3ターン目の《墨蛾の生息地》による毒殺に疑問の余地はないだろう。
バーンと《死の影》Zooを選んだものは誰もいなかった。もちろん赤緑トロンもいないし、ジェスカイも《むかつき》もエルフもマーフォークもいない。これは先週末に行われた3つのグランプリとは全く異なったメタゲームであることを意味する。レベル3プレイヤー(リビングエンド・感染)はこれに満足しただろうし、レベル2プレイヤーたちは捕食対象がほとんどいないことに失望しただろう。それもまたメタゲームである。
アブザン・カンパニー
世界ランキング8位の八十岡翔太が選んだのはアブザン・カンパニー。《臓物の予見者》、《シルヴォクののけ者、メリーラ》、《台所の嫌がらせ屋》の組み合わせで1グーゴルプレックス点のライフと無限占術を狙い、ライブラリートップに積み込んだ《残忍なレッドキャップ》で無制限ダメージを狙う。
彼のサイドボードには新たに2枚の《膨らんだ意識曲げ》が加わっており、1ターン目《極楽鳥》、2ターン目《台所の嫌がらせ屋》、3ターン目《膨らんだ意識曲げ》がどんなコンボデッキも打ち砕く。メインデッキには独特な2枚の《先頭に立つもの、アナフェンザ》が加わっており、同郷人のうち2人に対する墓地対策として機能するだろう。
発掘
モダンでただ1人発掘を選んだ勇者は瀧村和幸だ。1ターン目に《傲慢な新生子》を生け贄に捧げ、《ゴルガリの墓トロール》を捨ててライブラリーを削り、《秘蔵の縫合体》、《ナルコメーバ》、そして《恐血鬼》のクロックを作成する。《燃焼》で最後の数ライフを削るのが容易である。
デッキは強力であるものの、墓地対策に影響されやすい。《先頭に立つもの、アナフェンザ》をメインに入れているプレイヤーもおり、《安らかなる眠り》と《墓掘りの檻》はサイドボードに顕著である。しかし瀧村は恐れない。「大好きなデッキだから大丈夫!」そう言いながら笑う彼はこのゲームをとても楽しんでいるのだ。
グリセルシュート
世界ランキング22位の渡辺雄也はグリクシスカラーの、《裂け目の突破》か《御霊の復讐》で《グリセルブランド》と《引き裂かれし永劫、エムラクール》を戦場に送り込むデッキを登録した。先週末に行われたグランプリ・広州でトップ8入りした山本賢太郎のリストとほぼ同じものであり、山本はその構築と経験を渡辺に共有した。
『異界月』からの追加の鍵は《集団的蛮行》で、《信仰無き物あさり》と《イゼットの魔除け》に次ぐ《御霊の復讐》用のディスカード手段である。他に見るべきはサイドボードで、2枚の《流転の護符》と4枚の《神聖の力線》は墓地対策と手札破壊をそれぞれ無効化する。「対アブザンなら初手の力線と4ターン目の《流転の護符》だけで勝てちゃいますね」
白黒トークン
ジャアチェン・タオ/Jiachen Taoはこのイベントの中で最も予想外のデッキ選択をしたひとりだ。「親和と感染がもっと多いと思ったのですが、アブザンにも有利ですし、トークンがどの程度意識されているかによりますね」
珍しいことに、タオのリストはメインデッキの《幽体の行列》の代わりに《ヴェールのリリアナ》を使っている。「攻撃的なプランより妨害するほうが好みのプレイなんです。正直3ターン目の《幽体の行列》はモダンだとそれほど有効なものではありません。」さらなるサプライズは《精神病棟の訪問者》をサイドボードに4枚取っていることだ。「リソースの削り合いをするマッチでは《闇の腹心》よりも強いんです。パワーが3あって、高いコストの呪文を引いてもライフを多く払わないで済むし、相手のアップキープにもカードを引けるんです。《ヴェールのリリアナ》があればもっと強くなりますね。」
存在昇天
24人のうち、最後に紹介するのはカラデシュ次元の《発明博覧会》にあっても場違いではなさそうな玉田遼一の存在昇天デッキだ。ちょうど1週間前、グランプリ・広州でトップ8入りしており、その時からサイドボードのカードを1枚だけ入れ替えて世界選手権に臨んでいる。彼は岡田尚也をデッキ製作者としてクレジットしている。
基本的に低マナコストのカードと4枚の《紅蓮術士の昇天》、4枚の《氷の中の存在》で構成されている。「《氷の中の存在》めっちゃ強いんですよ!」
アブザンとの対戦は、彼の2マナのキーカードをインスタントタイミングで破壊できる《突然の衰微》次第であると教えてくれた。「アブザンに《突然の衰微》が4枚入ってると勝つのが難しくなるんですけれど、2枚に減ってるのはありがたいです」
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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