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EVENT COVERAGE
マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2014
準決勝:山本 賢太郎(日本) vs. パトリック・チャピン(アメリカ)
By 梅咲 直瑛
「決勝ラウンドに残った他の3人を見ると、ナベ(渡辺雄也)とシャハール・シェンハーは世界選手権チャンピオン。そして、パトリック・チャピンもプロツアー・チャンピオン。僕だけチャンピオンではなく、チャレンジャーの立場です。日曜日に向けて、Magic Onlineでしっかり練習して頑張りたいと思います」
山本がこう語っていたのが、決勝ラウンド進出を決めたばかりの水曜日夜。
練習の結果、どういった事前分析になっているのだろうか。
試合前の山本に話を聞いた。
―― 「試合前の感触はどうでしょうか」
山本 「練習した印象だと、メイン戦は6:4くらいで有利だと思います。ただ、サイドボーディング後の試合は4:6くらいで厳しいですね」
―― 「詳しく教えて頂いてもいいでしょうか」
山本 「相手がサイドインしてくる《対立の終結》や《胆汁病》で、こちらの《女王スズメバチ》があまり活躍できなくなりますし、墓地対策の《先頭に立つもの、アナフェンザ》も厳しい。他にも、相手はドローカードの《骨読み》を増やしてアドバンテージ戦にも強くなっています。相当厳しいですね」
―― 「なるほど、サイドボードが重要なポイントだと。ちなみに、山本さんはサイドボードでどんなプランを取る予定ですか?」
山本 「自分のデッキはもっさりとしているのですが、少しでも自分から動いていけるように《荒野の収穫者》4枚、《軽蔑的な一撃》4枚、《時を越えた探索》1枚をサイドインする予定です」
山本の口から語れたのは、厳しいデッキ相性差。
どうやら、厳しい戦いになりそうだ。
ゲーム1
先攻のチャピンが《思考囲い》で山本の手札から《残忍な切断》を落とし、山本はチャピンの《クルフィックスの狩猟者》を《スゥルタイの魔除け》で除去する序盤戦。
先に主導権を握ったのは、チャピン。
《包囲サイ》の2連打で強力なプレッシャーをかける。
対する山本は《クルフィックスの狩猟者》《エレボスの鞭》と後続を展開するのだが、これではチャピンの攻めを止められていない。
何とか耐えないといけない山本だが、チャピンは《残忍な切断》で山本の《クルフィックスの狩猟者》を破壊して、《真面目な訪問者、ソリン》で一気に畳み掛ける。
あっと言う間に一方的な盤面となり、チャピンが《包囲サイ》2体での攻撃を宣言すると、山本は静かにカードを片付けた。
山本 0-1 チャピン
ゲームが終了すると、チャピンは表情こそ変えていないが内心は少し興奮した様子で、慌ただしく盤面のカードを片付け、すぐにデッキケースを開けてサイドボーディングを始めた。
一方、山本は静かな動作でサイドボーディングに移り、チャピンが第1ゲームに《残忍な切断》で追放したカードをテーブル脇に置いたまま忘れてることを冷静に指摘する。
「ありがとう」と言いながら慌ただしくカードを回収してデッキをシャッフルするチャピンと、冷静にうなずくだけの山本。
対照的な両者の落ち着きぶり、印象的な一幕だった。
■山本選手のサイドボーディング
【Out】
【In】
ゲーム2
先攻の山本は、
...といった内容の初手をキープ。
チャピンは2ターン目に《思考囲い》で山本の手札を確認して、この中から《荒野の収穫者》を捨てさせると、サイドインした墓地対策カード《先頭に立つもの、アナフェンザ》を展開。
山本は自分から積極的に動いていけるカードが無い手札となり嫌な雰囲気が漂うのだが、返しのターンに《クルフィックスの狩猟者》をドロー。続くドローも、欲しかった《荒野の収穫者》と良い流れを引き寄せる。
チャピンが唱えた《クルフィックスの狩猟者》も、チャピンが見ていない《英雄の破滅》で破壊して山本が優勢に立ったのかと思われたのだが、チャピンがサイドインした《骨読み》で《完全なる終わり》と《対立の終結》を手に入れて戦力補充すると流れが変わり始める。
ここで重要だった要素が、山本がコントロールしている土地が5枚ということ。
まず山本は《荒野の収穫者》を唱えるが、「{1}{G}:呪禁を得る」が使えるよう用意するには1マナが足りず、《完全なる終わり》で即座に除去されてしまう。
そして、続くターンに山本は《エレボスの鞭》を唱えるのだが、その返しにチャピンが唱えた《太陽の勇者、エルズペス》が通ってしまう。
もし、あと1マナがあれば手札にある《軽蔑的な一撃》を使ってカウンターできるのだが......。
こうして、あっと言う間に形勢はチャピン優勢に。
山本は逆転の布石となりえる《女王スズメバチ》を引いてくるも、すぐにチャピンの《思考囲い》で捨てさせられてしまい、あとは《太陽の勇者、エルズペス》のショータイム。
チャピンのフルアタックに対して、山本は諦めた様子で1/1兵士トークン1体を《クルフィックスの狩猟者》でブロックするが、チャピンの手札から飛んでくる《胆汁病》を確認すると速やかに場のカードを片付けた。
山本 0-2 チャピン
■山本選手のサイドボード
【Out】
- 1 《エレボスの鞭》
【In】
- 1 《破滅喚起の巨人》
ゲーム3
山本が《思考囲い》でチャピンの手札を確認する立ち上がり。
...とった中から《思考囲い》を落とし、《森の女人像》と続ける。
良い立ち上がりだが、チャピンもここで先ほど捨てさせられた《思考囲い》をトップデッキ。
山本の手札を確認すると、
......といった手札の中から《軽蔑的な一撃》を捨てさせる。
残った山本の手札を見ると、相当にもっさりした印象だ。
そんな中、なんと不運にも山本の土地が2枚止まってしまう。
対するチャピンは順調にマナを伸ばし、《包囲サイ》を2連打。
1枚目の《包囲サイ》は持っていた《英雄の破滅》で対処するが、2枚目の《包囲サイ》が山本に重くのしかかる。
山本はようやく3枚目の土地を引いて《血の暴君、シディシ》を出すのだが、返しにチャピンの手札から出てきたのは先ほどのゲームを決めた《太陽の勇者、エルズペス》。
山本の手札に対処する手段はなく、《太陽の勇者、エルズペス》が生きている状態でターンが帰ってくると、チャピンは《対立の終結》で戦場を一掃。
山本がマナに困っている状況だったので、《森の女人像》を流して山本に思うような動きをさせないという冷静なプレイだ。
これで何もできなくなった山本に対して、《太陽の勇者、エルズペス》のトークン製造が続く。
2ターン後、ドローを確認してもう逆転の目がないことを確認すると、山本はチャピンに手を差し伸べて投了を告げた。
山本 0-3 チャピン
パトリック・チャピンが準決勝に進出!
握手をしながら山本が英語で「ありがとうございました。決勝戦も頑張って下さい」と声をかけると、チャピンが山本が聞き取れるようにゆっくりとした英語で「この世界選手権で君とは4回の対戦があったけど、どれも素晴らしい内容のゲームだった。ありがとう」と返す。
最高峰の舞台で戦った両者、互いにリスペクトが感じられる1シーンだった。
そして、山本はステージを離れると静かに振り返り始めてくれた。
山本 「デッキが弱かったから、仕方がないですね。予選ラウンドも、スタンダードは1勝2敗1分と良くない成績でしたし。他の3人と比較しても、デッキは一番弱ったと思います」
―― 「もう1度大会をやり直せるとしたら、デッキのどこを修正しますか?」
山本 「そもそも、このデッキを使いませんね。弱すぎました(笑)『シディシ・ウィップ』は相手に干渉できて、《女王スズメバチ》《エレボスの鞭》といった強力カードを使えるのが魅力という触れ込みだったのですが、丸すぎて中途半端なデッキでしたね」
―― 「丸すぎ、だったとは?」
山本 「色々なデッキに勝とうとした結果、メインのカードパワーが足りていませんでした。サイドボード後《女王スズメバチ》が機能しないのは分かっていたのだから、メインは尖った構成にして、サイド後に勝ち手段を丸々変更するといった方が良かったのかなと」
―― 「では、変えられるとしたらどんなデッキを選択しますか?」
山本 「ナベ(渡辺雄也選手)の『ジェスカイ・トークン』がいいと思います。大会前にレシピを教えてもらっていたのですが、軽く回してみた時はあまり勝てなかったんですよね。おそらく、デッキの使い方をあまり分かっていなかったのだと思います。もっと試したり、聞くべきだったと反省しています」
―― 「ありがとうございました。」
山本 「いま、プロポイントは20点。プラチナが遠のいた......。また三合目からやり直します」
既に、2015年シーズンの戦いを見据えている山本。
悔しそうにそう締めると、試合を終えた渡辺と一緒にすぐ会場を後にした。
思えば、決勝ラウンド進出を決めた時のインタビューで、山本はこう語っていた。
「もう10年以上マジックを遊んでいますが、ここ2年はMagic Onlineを中心に時間をかけて練習をつんでいます。双頭巨人戦で行われたプロツアー・サンディエゴ2007で準優勝という結果を残しましたが、それ以来は大きな舞台であまり勝つことが出来ていませんでした。どうせやるならしっかりやろうと、ここ2年は力を入れていました」
悔しさを原動力に練習を重ね、今回の世界選手権でのトップ4入賞。
優勝という結果こそ残せなかったが、堂々の成績だ。
ここで満足してもおかしくないものだが、当日の打ち上げで山本は2月に開催されるプロツアー『運命再編』のフォーマットになっているモダン構築の話を渡辺選手として、早くも次の大舞台に向けて走り始めていた。
今回の悔しさをバネに、2015年の山本はどんな活躍を見せてくれるだろうか。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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