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日本選手権2022 -Tabletop Returns-

戦略記事

日本選手権2022 予選ラウンド メタゲーム・ブレイクダウン

伊藤 敦

 

 

 

 テーブルトップが帰ってきた。テーブルトップが帰ってきた!テーブルトップが帰ってきた!!!(大事なことなので3回言いました)

 2020年2月に開催されたプレイヤーズツアー・名古屋2020から、何とおよそ2年4ヶ月ぶりの開催となるテーブルトップの国内大型競技イベントが、この日本選手権2022だ。

 全国各地の店舗予選を勝ち抜き、あるいは招待選手として集まったプレイヤーの数は総勢237名。この感慨深いと同時に武者震いせずにはいられない大舞台に、参加者たちはどのようなデッキを選択したのか。ここでは、本大会のメタゲーム・ブレイクダウンをお届けしよう。

日本選手権2022 予選ラウンド メタゲーム・ブレイクダウン

デッキタイプ 使用者数 割合
エスパー・ミッドレンジ 66 27.9%
グリクシス吸血鬼 26 11.0%
ジャンド・ミッドレンジ 23 9.7%
ティムール・コントロール 22 9.3%
ナヤ・ルーン 12 5.1%
ジェスカイ日向 11 4.6%
ジェスカイ・ストーム 8 3.4%
イゼット・ドラゴン 7 3.0%
白単アグロ 6 2.5%
ナヤ・ミッドレンジ 6 2.5%
緑単アグロ 5 2.1%
ボロス・アグロ 5 2.1%
オルゾフ・ミッドレンジ 4 1.7%
その他 36 15.2%
合計 237 100.0%

※使用者数3名以下のデッキは「その他」に計上。

※デッキ登録段階の集計のため、数字にズレがある可能性があります。ご了承ください。

 

 

 前週のニューカペナ・チャンピオンシップの結果を受け、メタゲームのトップは変わらず「エスパー・ミッドレンジ」だが、2番手以降は勢力図が大きく塗り替わる形となった。

エスパー・ミッドレンジ

Simon Nielsen - 「エスパー・ミッドレンジ」
ニューカペナ・チャンピオンシップ 準優勝 / スタンダード (2022年5月20~22日)[MO] [ARENA]
1 《平地
4 《ラフィーンの塔
3 《さびれた浜
3 《連門の小道
2 《砕かれた聖域
4 《陽光昇りの小道
2 《難破船の湿地
4 《清水の小道
1 《皇国の地、永岩城
2 《目玉の暴君の住処
-土地(26)-

4 《光輝王の野心家
4 《しつこい負け犬
4 《策謀の予見者、ラフィーン
-クリーチャー(12)-
1 《呪文貫き
4 《消失の詩句
3 《冥府の掌握
4 《婚礼の発表
1 《エメリアの呼び声
2 《食肉鉤虐殺事件
1 《漆月魁渡
4 《放浪皇
1 《不笑のソリン
1 《蜘蛛の女王、ロルス
-呪文(22)-
3 《エメリアのアルコン
1 《忘れられた大天使、リーサ
3 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント
3 《否認
2 《軽蔑的な一撃
1 《食肉鉤虐殺事件
1 《勢団の銀行破り
1 《蜘蛛の女王、ロルス
-サイドボード(15)-

 近年のスタンダードは、強力なパーマネントによる「押しつけ」と脅威となるパーマネントを対処する「捌き」を相手のアクションに応じてターンごとに柔軟に入れ替えられる、いわゆる「ミッドレンジ」が支配するフォーマットだ。

 そしてミッドレンジのデッキ構築は、「押しつけ」のマナ・カーブと「捌き」のマナ・カーブによって形成される。そのように考えたとき、現在のスタンダードにおいて最も優秀な「押しつけ」のマナ・カーブを持っているデッキが、この「エスパー・ミッドレンジ」と言えるだろう。

 何せ、2マナ域の《光輝王の野心家》→3マナ域の《策謀の予見者、ラフィーン》→4マナ域の《放浪皇》というベストムーブのすべてがいわゆる「スノーボール・エフェクト」、「ターン経過による脅威の増加」の要素を含んでいるからだ(これらのパーマネントを1ターン放置すればどうなるか、想像してみてもらいたい)。

 加えて、墓地から繰り返し戻ってくる《しつこい負け犬》やエンチャントからトークンを横並びさせる《婚礼の発表》、プレインズウォーカーの追加となる《漆月魁渡》や《蜘蛛の女王、ロルス》など、脇を固める「押しつけ」のパーマネントはどれも多様な「捌き」のバリエーションを要求するものばかり。

 しかしその反面、あまりにわかりやすく強いため、環境内のすべてのデッキから意識される立場にある。それこそ、《浄化の野火》や《廃墟の地》による「土地ガンメタロック」を食らっても文句は言えない。

 このように最強であることが所与のものとして全プレイヤーに共有されている状況では、勝てるゲームを当たり前に勝つことはもちろん、同型戦で差をつけるサイドボーディングであったり、そのままだと負けそうなゲームをどうにかして拾う技術であったりが求められる。「エスパー・ミッドレンジ」が結果を残せるかどうかは、使い手となるプレイヤーの熟練度にかかっていそうだ。

グリクシス吸血鬼

Mike Sigrist - 「グリクシス吸血鬼」
ニューカペナ・チャンピオンシップ 4位 / スタンダード (2022年5月20~22日)[MO] [ARENA]
1 《
1 《
4 《ザンダーの居室
2 《憑依された峰
4 《荒廃踏みの小道
3 《清水の小道
3 《嵐削りの海岸
4 《河川滑りの小道
2 《目玉の暴君の住処
1 《難破船の湿地
1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼
-土地(26)-

4 《税血の収穫者
2 《血に飢えた敵対者
2 《しつこい負け犬
4 《死体鑑定士
2 《欲深き者、エヴリン
-クリーチャー(14)-
4 《電圧のうねり
1 《強迫
1 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント
1 《呪文貫き
2 《冥府の掌握
4 《鏡割りの寓話
1 《魂転移
2 《食肉鉤虐殺事件
3 《漆月魁渡
1 《不笑のソリン
-呪文(20)-
1 《欲深き者、エヴリン
1 《マインド・フレイヤー
3 《無効
3 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント
1 《強迫
1 《削剥
1 《軽蔑的な一撃
1 《否認
1 《真っ白
1 《魂転移
1 《食肉鉤虐殺事件
-サイドボード(15)-

 リード・デューク/Reid Dukeをはじめとするお馴染みアメリカのプロチーム・ChannelFireballによって開発され、ニューカペナ・チャンピオンシップで最も成功を収めたデッキがこの「グリクシス吸血鬼」だ。

 「エスパー・ミッドレンジ」と「ナヤ・ルーン」の2つを仮想敵に据えたこのデッキは、1マナのカードによる「捌き」をコンセプトに据え、デッキ全体もほとんどが3マナ以下のカードで構成されているなど、およそスタンダードらしからぬ構造をとっているにもかかわらず、意外にも長期戦にも耐えうるデッキとなっている。

 その屋台骨となっているのが、《死体鑑定士》《鏡割りの寓話》というこのカラーリングでしか同居しない2種の3マナ域。特に《死体鑑定士》は黒対決で墓地に落ちた《しつこい負け犬》を対処する「捌き」の役割もあり、「エスパー・ミッドレンジ」の「押しつけ」を片っ端から封じ込めることができる。

 ただ問題は、登場してわずか1週間ということもあってプレイヤーの練度が追いつくかという点。ChannelFireballはチャンピオンシップの前から入念な準備をして結果を残したが、チャンピオンシップの結果を見てデッキを選んだプレイヤーは、はたしてこのデッキリストに込められた意図やサイドボーディングをしっかりと読み取ることができるのか。

ジャンド・ミッドレンジ

Karl Sarap - 「ジャンド・ミッドレンジ」
ニューカペナ・チャンピオンシップ 6位 / スタンダード (2022年5月20~22日)[MO] [ARENA]
1 《
1 《
4 《ジアトラの試練場
2 《憑依された峰
4 《荒廃踏みの小道
2 《死天狗茸の林間地
4 《闇孔の小道
1 《落石の谷間
3 《岩山被りの小道
1 《目玉の暴君の住処
1 《バグベアの居住地
1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼
1 《耐え抜くもの、母聖樹
-土地(26)-

4 《税血の収穫者
1 《しつこい負け犬
1 《嘘の神、ヴァルキー
4 《茨橋の追跡者
-クリーチャー(10)-
4 《電圧のうねり
1 《強迫
2 《冥府の掌握
4 《鏡割りの寓話
3 《土建組一家の魔除け
2 《豪火を放て
4 《エシカの戦車
2 《食肉鉤虐殺事件
1 《蜘蛛の女王、ロルス
1 《レンと七番
-呪文(24)-
1 《領界喰らい、サルーフ
3 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント
1 《強迫
1 《罠を探す
1 《土建組一家の魔除け
1 《豪火を放て
1 《食肉鉤虐殺事件
2 《勢団の銀行破り
2 《未認可霊柩車
1 《蜘蛛の女王、ロルス
1 《レンと七番
-サイドボード(15)-

回転

 「エスパー・ミッドレンジ」ほどの「押しつけ」はないものの、単にスペックで見れば2ターン目の《税血の収穫者》→3ターン目の《鏡割りの寓話》→4ターン目の《エシカの戦車》というのはやはり強力な「押しつけ」と言える。それをコンセプトに据えたのが「ジャンド・ミッドレンジ」だ。

 ただ一息に「ジャンド・ミッドレンジ」とは言っても、MPLプレイヤー・八十岡翔太がニューカペナ・チャンピオンシップでトップ8に入賞した「《ジェトミアの情婦、ジニー・フェイ》型」も存在し、さまざまなアレンジが可能なのが特徴である。したがって、まとめて3番手になってはいるが、その実質は人の数だけの速度帯・フィニッシャー・サイドボード構成が存在するため、このアーキタイプ上の勢力の多寡だけで活躍する・しないを予想することは難しいと言わざるをえないだろう。

ティムール・コントロール

茂里 憲之 - 「ティムール・コントロール」
ニューカペナ・チャンピオンシップ / スタンダード (2022年5月20~22日)[MO] [ARENA]
1 《
1 《
2 《嵐削りの海岸
4 《河川滑りの小道
3 《夢根の滝
4 《樹皮路の小道
4 《落石の谷間
4 《岩山被りの小道
1 《ストーム・ジャイアントの聖堂
1 《天上都市、大田原
-土地(25)-

2 《ガラゼス・プリズマリ
3 《黄金架のドラゴン
4 《産業のタイタン
-クリーチャー(9)-
3 《ジュワー島の攪乱
2 《消えゆく希望
1 《炎恵みの稲妻
1 《棘平原の危険
4 《表現の反復
3 《ドラゴンの火
2 《否認
1 《轟く叱責
4 《鏡割りの寓話
2 《記憶の氾濫
1 《霜と火の戦い
1 《家の焼き払い
1 《勢団の銀行破り
-呪文(26)-
2 《船砕きの怪物
2 《星界の大蛇、コーマ
1 《消えゆく希望
1 《炎恵みの稲妻
3 《軽蔑的な一撃
1 《才能の試験
2 《プリズマリの命令
1 《勢団の銀行破り
2 《エシカの戦車
-サイドボード(15)-

 近年MTGアリーナでの競技大会においてめざましい活躍を見せているAkio Pros(参考記事)を中心とした調整メンバーの面々が先週末のニューカペナ・チャンピオンシップに持ち込んだ新作デッキ。ChannelFireballが持ち込んだのが「グリクシス吸血鬼」なのに対し、いわば日本のChannelFireballが持ち込んだのがこの「ティムール・コントロール」と言える。

 「たどり着けば勝ち」という明確なゴールのあるコントロールとしては前環境の「スゥルタイ・《出現の根本原理》」にも似た構成となっており、その意味で産業のタイタン》は『ニューカペナの街角』発売当時の評価に比して最も大躍進を遂げたカードと言っていいかもしれない。ただ、先週時点では明確にローグだったこのデッキも、チャンピオンシップでの活躍を受けてフィールドの10%弱を誇る一大勢力にまで成長した。戦い方が知られても勝ちきれるかどうかという意味で、今週末はこのデッキの真価が試されることになるだろう。

ナヤ・ルーン

Grzegorz Kowalski - 「ナヤ・ルーン」
ニューカペナ・チャンピオンシップ / スタンダード (2022年5月20~22日)[MO] [ARENA]
1 《
1 《平地
2 《ジェトミアの庭
2 《草茂る農地
4 《枝重なる小道
4 《岩山被りの小道
2 《日没の道
4 《針縁の小道
1 《ハイドラの巣
1 《耐え抜くもの、母聖樹
1 《皇国の地、永岩城
-土地(23)-

4 《気前のいい訪問者
4 《樹海の自然主義者
4 《無常の神
4 《ルーン鍛えの勇者
1 《軍団の天使
-クリーチャー(17)-
1 《ポータブル・ホール
1 《タミヨウの保管
4 《強力のルーン
4 《持続のルーン
2 《速度のルーン
4 《鏡割りの寓話
4 《スカルドの決戦
-呪文(20)-
2 《精鋭呪文縛り
2 《ドーンハルトの殉教者、カティルダ
2 《傑士の神、レーデイン
3 《軍団の天使
1 《鎮まらぬ大地、ヤシャーン
1 《タミヨウの保管
4 《監禁の円環
-サイドボード(15)-

 「捌き」の要素を持たない純「押しつけ」のデッキ(アグロやコンボに分類されるデッキ)としては、この5番手の「ナヤ・ルーン」が最大勢力となった。見てのとおり『ニューカペナの街角』による強化はほとんどないが、前環境までのデッキパワーで十分なほどに完成されたデッキと言える。

 もともと先週末のニューカペナ・チャンピオンシップの時点では13%以上のシェアで2番手に位置していたデッキが、「グリクシス吸血鬼」の台頭とともに勢力を縮小しているという流れにあるため、現状決して風向きが良いとは言えないが、たとえば「グリクシス吸血鬼」が負け組になるなどのメタゲームの新たな流れが見えれば、もともとのデッキパワーも相まっていつでも爆発的な活躍をしてもおかしくないアーキタイプだ。

ジェスカイ日向

Jan Merkel - 「ジェスカイ日向」
ニューカペナ・チャンピオンシップ 優勝 / スタンダード (2022年5月20~22日)[MO] [ARENA]
1 《
1 《
4 《嵐削りの海岸
4 《河川滑りの小道
2 《さびれた浜
3 《連門の小道
3 《日没の道
3 《針縁の小道
1 《ストーム・ジャイアントの聖堂
-土地(22)-

4 《暁冠の日向
4 《黄金架のドラゴン
-クリーチャー(8)-
3 《炎恵みの稲妻
1 《棘平原の危険
1 《電圧のうねり
4 《表現の反復
4 《ジュワー島の撹乱
2 《かき消し
2 《否認
1 《ドラゴンの火
4 《鏡割りの寓話
4 《マグマ・オパス
3 《渦巻く霧の行進
1 《髑髏砕きの一撃
-呪文(30)-
1 《怪しげな密航者
1 《船砕きの怪物
1 《炎恵みの稲妻
1 《呪文貫き
1 《電圧のうねり
2 《軽蔑的な一撃
2 《ドラゴンの火
2 《勇敢な姿勢
1 《地震波
1 《多元宇宙の警告
1 《記憶の氾濫
1 《勢団の銀行破り
-サイドボード(15)-

 「エスパー・ミッドレンジ」の支配、それに対抗する「グリクシス吸血鬼」の開発とメタゲームが目まぐるしく動く中で、ニューカペナ・チャンピオンシップの優勝を横合いからかっさらった(先週はたったの1.3%だった!)のがこの「ジェスカイ日向」だ。

 2マナ域の「捌き」を挟んでからの3マナ域の《鏡割りの寓話》→4マナ域の《暁冠の日向》→5マナ域の《黄金架のドラゴン》という強力な「押しつけ」に加え、《マグマ・オパス》を捨ててから《暁冠の日向》や《黄金架のドラゴン》が1ターン早く着地するオプションもあり、「ナヤ・ルーン」と同様『ニューカペナの街角』からの新戦力はほとんどないものの、ミッドレンジが台頭する環境において最も実用的な(≒コンボパーツが単体で腐らない)コンボフィニッシュを兼ね備えたミッドレンジであるという点で、勢力の拡大も確かに頷ける好ポジションにつけていそうだ。


 《策謀の予見者、ラフィーン》や《死体鑑定士》のように盤面に関わる部分にばかり注目しがちではあるが、実は『ニューカペナの街角』がスタンダードに与えた最も大きな影響は友好3色のサイクリング土地である。メタゲームの上位3つは「エスパー・ミッドレンジ」「グリクシス吸血鬼」「ジャンド・ミッドレンジ」と、どれもサイクリング土地4枚からスタートする構築ばかりだ。

 安定性と継戦能力が前環境から大きく引き上げられた3色のミッドレンジたちが支配するこのスタンダード環境。日本王者の座に輝くのははたしてどのデッキとなるのか。

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