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グランプリ・静岡2018(レガシー)

インタビュー

佐藤 レイ ―マジック・コミュニティの新たな地平―

Hiroshi Okubo

 グランプリ・静岡2018。日本で初のダブルグランプリとあって、会場に集まる人々の数も平時のグランプリよりひとしおに多く、誰もが非日常の祭典を楽しんでいた。こうして行き交う人々を眺めていると、グランプリの、もといマジックの持つ魅力に改めて驚かされる。

 普段は友人たちとカジュアルにマジックをプレイする人、ブースで欲しかったアイテムを手にする人、そして本戦に参加する競技プレイヤーたち。ここにいる数千名のプレイヤーたちは、それぞれのマジックとの関わり方は異なっていても、同じ空間でマジックで繋がっているのだ。

 さて、マジックの何に魅力を感じるかというのは人ぞれぞれかもしれないが、しかしマジックが一人で遊ぶことはできない対人ゲームであることを鑑みるに、ほとんどの人にとって他者との繋がりを持てる点――すなわち「コミュニティに属すること」というのはそのひとつに違いない。

 地元のショップにせよ、仲のいい友人にせよ、調整仲間にせよ、マジックを通じて人と繋がることは、人間の根源的な欲求と密接に繋がっているし、何よりマジックの上達を目指すうえで、仲間の存在は必要不可欠だ。

俺が勝てたのもコミュニティのおかげなんだよ

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 この日会場に姿を見せていたプラチナレベルプロ、佐藤 レイもまた、コミュニティの重要性を語った。

ノンレベルからプラチナになれた理由

「俺はすごいデッキが作れるわけでもないし、オンラインの天才プレイヤーとかでもない。そもそも、競技マジックは10年以上前からプレイしていたんだよ。それがノンレベルから急にプラチナレベルにまでなれたのは、たまたまコミュニティに恵まれて、プロレベルの仲間と情報交換や練習ができたからだよ」

 佐藤といえば、昨シーズンにはグランプリ・香港2017で見事優勝に輝き、さらにグランプリ・北京2018グランプリ・シンガポール2018でもトップ8に入賞。先日開催されたグランプリ・名古屋2018でもチームメイトの山本 賢太郎や行弘 賢とともにトロフィーを手にしたのも記憶に新しい、今最もホットなプレイヤーの一人だ。

 
左から山本 賢太郎/佐藤 レイ/行弘 賢

 その数々の戦績は、誰の目から見ても明らかに、その圧倒的な実力を裏付けている。そんな彼が今、自身の勝利の礎となったのはコミュニティの力であると語った。事実、たしかに佐藤がノンレベルだったころから佐藤の周囲にはいつも渡辺 雄也や市川 ユウキ、山本 賢太郎、行弘 賢といった名だたるプロプレイヤーが集まっていたし、佐藤の実力が彼らによって磨かれたのだというのなら、ここ最近の爆発的な活躍も単に「佐藤が天才だったから」と理由付けるよりもよほど合点がいく。

 そして佐藤は言葉を継ぐ。自らが仲間たちに支えられて勝利してきたからこそ、その体験を他のマジックプレイヤーに還元したいとも。

「俺自身がそうなんだから、きっとそういうコミュニティを必要としている人はいるよね。だからそういう人がもっと競技マジックを楽しめるような『場』を創出することが必要かもしれないな、と思うんだよ」

「場」を提供することの必要性

 楽しめる場。ここでいう場というのは、物理的な問題ではない。かつてマジックのコミュニティといえばショップが中心となるオフラインの交流が中心で、カードショップに行けばそのショップの馴染みのマジックプレイヤーがいるものだった。この記事を読んでいる方の中にも「マジックのルールやプレイングについて教えてくれたのは、そんな常連客だった」という方も少なくないだろう。

 その反面で、SNSの発達やテクノロジーの進歩、そしてMagic OnlineやMTG Arenaの普及に伴って新たな世代も生まれてきている。つまり、母体となるコミュニティを持たず、個人という単位でマジックに打ち込んでいる層だ。たとえば最近頭角を現してきているHareruya Hopes所属プレイヤーの岡井 俊樹なども、今でこそ強豪の仲間入りを果たしさまざまなプレイヤーたちと活発に意見を交わす姿が見られるが、かつては「チームやコミュニティといったものには属しておらず、意見交換ができる相手は決して多くない」と語っていた。

 時代の流れとともに、仲間とマジックを学び、一緒に遊ぶような場は、ただ漫然とそこにあるというものではなくなりつつあるのかもしれない。

「実際のところ、マジックは記事の文化が発達しているから、個人でもけっこう頑張れるんだよ。でも、たとえばそこで得た知見をシェアしたり、あるいは書いてある内容を掘り下げていったり、あるいは大会に足を運んだりするには仲間がいた方が楽しいし、得られるフィードバックも増える。だから、俺はそれができる場を――オンラインサロンを開きたいと思ってる」

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 オンラインサロン。あまり聞き慣れない単語ではあるが、佐藤曰く「塾とサークルの間くらい」のものらしい。つまり、佐藤がサロンメンバーのコーチングを行うなど塾のような側面もありながら、サロンメンバー同士で情報共有を行って腕を磨き合うサークルのような場所でもあるということだ。すでにe-Sportsをはじめとしたゲーム業界では有名プレイヤーによるオンラインサロンが開設され、コミュニティが形成されている例も増えてきているそうだ。

 プラチナレベルプロに教えを請いながら、デッキの調整やプレイングの考察などについて議論し、同じ志を持つ仲間と仲良くなって一緒に大会に出たり、切磋琢磨して腕を磨く。想像するだけでワクワクするが、少し敷居が高いように思わなくもない。しかし、佐藤はそれは違うと断じた。

本気で競技マジックを楽しみたいなら、絶対に損はさせない

「全然そんなことないし、入るのも出るのも自由なコミュニティにするつもりだよ。試しに入ってみるだけでも大歓迎だし、加入にプレイヤーのレベルは問わない――というか、むしろいろんな層が集まった方がおもしろいと思ってるよ」

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「グランプリに参加したり昔プロツアーに出ていたような人がいてもいいし、逆にプロツアーをまったく意識していない人たち――たとえば、競技マジックに興味はあるけど敷居の高さを感じて尻込みしているような人や、身内でモダン専門で遊んでる、なんてプレイヤーがいてもいい。いろんな人にとって役に立つものにして、一緒に競技マジックを楽しみたいね」

 なんなら自分もどう? と、佐藤は気さくに、しかし真剣に誘ってくれた。筆者のマジックの腕前は相当に悲惨であり、佐藤もそのことは知っているので、それでもこうして声をかけてくれるということは本当にマジックの技術は問わないのだろう。そして「競技マジックを楽しみたいという思いがあるなら、絶対に損はさせないよ」と続けた。

 佐藤と初めて会った日のことはよく覚えているが、そのとき佐藤に対して抱いた印象は「コミュニケーション能力が高い人」という程度のものだった。しかし今になって、その認識は佐藤の人柄を表すにはあまりにも粗雑だったように思う。改めて佐藤という人物をより正しく評するするなら、彼は「ホスピタリティが高い」のだ。目の前にいる人物をよく観察し、その欲するところを察知してラポールを築く。だから彼が作ろうとしているコミュニティは、きっと誰もが楽しめて、そして上達を目指せるものになるのだろう。

「もう企画自体はけっこう具体的に動き出しているから、近いうちに全容を発表できると思う。いろんな人に興味を持ってもらえたら嬉しいね。あくまで個人的な目標だけど、いつかサロンメンバーからプロツアー参加者が出たらいいな」

 佐藤の築く新たなコミュニティの形、オンラインサロン。我々がその詳細を知る日は、どうやらそう遠くないらしい。

 そのビジョンが実現するときが今から楽しみだ。

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