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グランプリ・静岡2017春
第9回戦:唐津 祥史(愛知) vs. 加藤 健介(東京)
by 宮川 貴浩
日本が誇る富士の山が見守る静岡の地で行われている、日本の最高峰を目指す戦い。ここに、その長き戦いをノーbye(不戦勝なし)で麓から駆け登ってきた男がいる。その名は唐津 祥史。ここまですべての試合に真っ向から挑み、8勝0敗とエンジンは温まり切っている。
立ちはだかるは加藤 健介。グランプリ・東京2016でのトップ8入賞や、The Last Sun 2016でのトップ4入賞が記憶に新しい強豪だ。
唐津は勢いそのままに加藤という巨大な山を越えることができるだろうか。
ゲーム1
先手の唐津が《導路の召使い》を2ターン目に置くわかりやすい立ち上がりを見せるの対して、加藤は土地を置くのみ。この段階では、加藤のデッキが何かはまだわからない。唐津の《ならず者の精製屋》には、加藤も《予期》からの《ならず者の精製屋》で応える。
《つむじ風の巨匠》を送り出して唐津が一気に戦線強化を図ると、加藤が唱えたのは――《織木師の組細工》。一見地味なこのカードだが、今のスタンダードでこのカードが入っているデッキといえば、《霊気池の驚異》デッキ以外はまずありえない。この宣告に、唐津は「あー、そっちかー」と嬉しそうではない反応。
加藤がこのデッキの主役《霊気池の驚異》を速やかに設置すると、エネルギーはすでに十分溜まっており、あとはその時を待つだけ。この状況に加藤は、「ドキドキさせてすみません。でもこっちもドキドキです」と緊張感を感じさせつつも楽しそうに語った。
そう、実はこの時、唐津の戦場にはすでに《守護フェリダー》がいた。そして、タップアウトした加藤には、唐津に干渉する方法は《霊気池の驚異》の起動しかない。つまり、唐津には《サヒーリ・ライ》と《守護フェリダー》のコンボを決めるチャンスが十分にあるということだ。
しかし、唐津の口から力強い「《サヒーリ・ライ》」の宣言は聞こえない。一方の加藤は《霊気池の驚異》で大当たりの《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を引き当て、《つむじ風の巨匠》、《守護フェリダー》を追放。唐津にため息をつかせることに成功する。
唐津は2枚目の《つむじ風の巨匠》に望みを託し、加藤のライフを1桁まで落とし込むものの、加藤の戦場にはまだ起動されていない《織木師の組細工》があり、削り切るまでにはあと一歩足りない。
そして、加藤の《絶え間ない飢餓、ウラモグ》が悠々とアタックを始めると唐津はチャンプブロックをするしかなくなり、ライブラリーも残り数枚に。ここで、唐津の投了となった。
唐津 0-1 加藤
唐津「ウラモグはだめですよー!」
加藤「これがあるんですよね~。この問答無用の感じが」
と《絶え間ない飢餓、ウラモグ》のインパクトについて談笑しながらサイドボーディングを行う両者。お互い手の内がわかった状態で臨む第2戦は、どちらの必殺技が火を噴くのか。
ゲーム2
後手の加藤は《島》《植物の聖域》、《霊気池の驚異》2枚、《鈍化する脈動》《コジレックの帰還》《ならず者の精製屋》という手札を、やや悩んだ末にキープ。
加藤のお膳立てが整う前に攻め立てたい唐津は、今回も2ターン目の《導路の召使い》から、3ターン目に「お願いします! 通ってください!」と《反逆の先導者、チャンドラ》を思い切りよくキャストした。加藤は唐津のお願いを聞くしかなく、唐津の戦場に圧倒的な存在感を放つ《反逆の先導者、チャンドラ》が着地する。
《蓄霊稲妻》、《予期》とドローしていた加藤は《予期》で3枚目の土地を引き込むが、未だ赤マナは確保できず、手札に赤いカードがたまっていく。
《ならず者の精製屋》を送り出すのがやっとの加藤を尻目に、唐津は《ならず者の精製屋》、《反逆の先導者、チャンドラ》のマナ加速を絡めて《つむじ風の巨匠》、《導路の召使い》と怒濤の展開。これには1ゲーム目とは逆に加藤が思わず「やばい」ともらした。
最後まで赤マナの引けない加藤に、唐津は《反逆の先導者、チャンドラ》で火力を飛ばし始め、そこに《サヒーリ・ライ》までをも加える。こうなると、加藤にカラデシュガールズが毎ターン打ち上げる花火への解決策はなく、「ありがとうございました」と次が初日全勝をかけた大一番になることを告げた。
唐津 1-1 加藤
お互いが理想的な勝ちパターンを見せた第1、第2ゲーム。両者のデッキの性質からしても、このマッチがどのような結末を迎えるのかまったく予想ができない。そして事実、運命の第3ゲームは誰も想定しえないとんでもないゲームになった。
ゲーム3
今度は色マナが十分に確保できている加藤。《予期》が初手にあることで、ゲームプランも立てやすい。唐津は、ここにきて痛恨のマリガンを喫する。
しかし、《霊気との調和》、《導路の召使い》という唐津のロケットスタートは、マリガンのハンデを感じさせない。加藤は《ショック》で《導路の召使い》を焼き、先ほどと同じ必勝パターン開こそ許さないものの、唐津の《ならず者の精製屋》は3ターン目のアクションとしては上々だ。
《織木師の組細工》、2枚目の《ならず者の精製屋》とお互いに展開した後、加藤がこのマッチアップにおけるキーカードをお披露目する。《鈍化する脈動》だ。
このカードが出てしまうと、いくら無数の《守護フェリダー》を並べようとも、彼ら(彼女たち?)のパワーは0。アタックしたところで柔らかい肉球で優しく撫でるだけになり、むしろ相手を喜ばせてしまう。唐津は「そのカードね~」と本日何度目かの苦笑を見せた。
唐津が《ニッサの誓い》から3枚目の《ならず者の精製屋》をめくると、今度は加藤が苦笑い。唐津はこれを意気揚々と唱えるが、待っていたのは予想していなかったであろう加藤の《コジレックの帰還》だった。唐津から飛び出す「わーお!」の一声。
《不屈の追跡者》を《蓄霊稲妻》で、《サヒーリ・ライ》を《否認》で対処した加藤の手札には、《絶え間ない飢餓、ウラモグ》の1枚が残るのみ。《鈍化する脈動》を2枚貼ってあるとはいえ、ガス欠の感は否めない。
対照的に、唐津はコンボを封じられた《守護フェリダー》が《ニッサの誓い》をブリンクするという副業で、《不屈の追跡者》をスカウトする値千金の働き。唐津は土地を確保しており、この《不屈の追跡者》がみるみるうちにサイズアップし、さらに唐津にカードをもたらす。
タイムリミットを突きつけられた加藤だったが、この試合の彼は神がかっていた。ここで引いてきたのは《霊気池の驚異》。これが打ち消されずに戦場に出ると、加藤は「通ったぞー。通ってしまったぞー」と居住まいを正し、今一度気合を入れ直した。
唐津は《霊気池の驚異》を対象に、これでもかというほど手札に集まっていた《グレムリン解放》を唱えるが、加藤は対応して《霊気池の驚異》を起動。2枚目の《霊気池の驚異》をめくり、レジェンド・ルールをうまく利用してトークンの生成を防いだ。
続く2度目の運命のルーレットで《霊気池の驚異》が加藤にもたらしたのは、この場面で頼れるブロッカーとなる《逆毛ハイドラ》。しかし、この瞬間加藤のエネルギーは0になり、《逆毛ハイドラ》は自らの能力でエネルギーを生み出す前に、唐津が手札に余らせていた《蓄霊稲妻》の餌食となってしまう。
文字通りの驚異の連打をなんとかしのぎ切った唐津は、《サヒーリ・ライ》、《反逆の先導者、チャンドラ》と2ゲーム目を彷彿とさせるラインナップを揃え、加藤のライフはいよいよ3に。綱渡りで耐えてきた加藤も、ついにここまでか。そう思われたとき、彼は悲壮感をまったく感じさせない口ぶりで呟いた。
「1枚だけ入ってるんですよー。この状況をなんとかできるカード」
この加藤の衝撃発言に、唐津は「え、そうなんですか」とドキリとした表情を浮かべた。
筆者も考えた。次に土地を引いても、《絶え間ない飢餓、ウラモグ》はマナがなくて唱えられない。万が一全体除去がデッキに入っているとしても、プレインズウォーカーは残ってしまう。本当にこの状況をどうにかできるカードなんて存在するのだろうか。試合が終わったら何だったのか聞いてみよう、と。
しかし、その必要はなかった。
「あ、引いた」
次のターン加藤が軽快にセットしたのは、《見捨てられた神々の神殿》。加藤の場には都合ちょうど10マナ。手札にはずっとこちらを見ていた《絶え間ない飢餓、ウラモグ》。そして墓地には、一足先に軽く仕事をこなして待っていた《コジレックの帰還》。
《絶え間ない飢餓、ウラモグ》が《コジレックの帰還》の豪快なBGMとともに登場すると、唐津の場には《不屈の追跡者》が残るのみに。2人が唐津のライブラリー枚数を数え始め、ギャラリーもにわかに騒がしくなってくる。
「それはダメですよー! よし、僕もチャンドラ引く!」
と力強くドローした唐津だったが、そこに恋い焦がれる彼女の姿はない。だが、孤軍奮闘する《不屈の追跡者》がここぞの場面でドロー能力によりパートナーに選んだのは、唐津の秘蔵っ子《放浪する森林》だった(ここまですべての対機体デッキ戦で大活躍を見せた、と唐津は語ってくれた)。
唐津の戦場には、ゴロゴロと+1/+1カウンターの乗った《不屈の追跡者》と、一撃で加藤をマットに沈められるパワーを持った《放浪する森林》がいる。いくら《絶え間ない飢餓、ウラモグ》といえども、ブロックできるのは片方だけ。
「とうとう年貢の納め時という気配がしますね」と死期を悟った加藤のラストドローは――またしても《霊気池の驚異》!
「もうやめましょうよー!」 唐津の悲鳴が響く。
「面白い。この試合は面白い!」 加藤が息を吹き返す。
勝たせてくれ、と唐津は天に祈った。最初からずっと祈り続けていた、と加藤は返した。
そのままターンを返す加藤、唱えられる《グレムリン解放》、起動される《霊気池の驚異》。このマッチで何度も見た光景もいよいよ最後だ。試合を終わらせたくないとデッキが語るかのように、加藤の《霊気池の驚異》は《天才の片鱗》を公開する。2枚の土地がライブラリーに送られたあと加藤が見たのは――《コジレックの帰還》と《織木師の組細工》。
加藤は満足げに右手を差し出した。
唐津 2-1 加藤
この試合で、一体どれだけの祈りが捧げられたのか。両者のプレイは互いの友人に見守られていたが、きっと彼らも祈っていたことだろう。
息もつかせぬシーソーゲーム、試合後に互いを称える姿、支え合う友人たちとのやりとり。マジックの魅力がこの上なく詰まった試合を見せてくれた2人に感謝したい。
唐津、ノーbyeから9連勝で全勝のまま2日目へ!
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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