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グランプリ・千葉2015

観戦記事

決勝:彌永 淳也(東京) vs. 松本 友樹(東京)

By 矢吹 哲也

 このゲームには20年の歴史がある。

 そのプレイヤーにもそれぞれの歴史がある。

 歴史は積み重なってできるもの。どんなプレイヤーの歴史にも、長さと積み重ねの量は違えど、振り返れば「はじまり」がある。

 『モダンマスターズ 2015年版』は、比較的近年のものとはいえ、様々なセットが歴史を織り成す再録セットだ。「近年」と書いたが、モダンで使用可能なセットの中で最も古い『第8版』は10年以上前のセット。この『モダンマスターズ 2015年版』にも、多くのプレイヤーの「はじまり」があることだろう。

 だが松本 友樹は、まさに「近年」のプレイヤーだった。マジックを始めたのは『ミラディンの傷跡』の頃(トップ8プレイヤープロフィールより)だという彼は、比較的短いキャリアの中でその才能を開花させ、グランプリ・名古屋2012では9位、そしてグランプリ・静岡2015でトップ8入賞を果たしている。

 そして今、松本は3,662人の頂点に手をかけている。残る壁はあと1枚。それは高く、厚くそびえ立っていた。

 彌永 淳也。世界の頂の風景を知る彼にとってもまた、『モダンマスターズ 2015年版』は思い出深いものだろう。トップ8ラウンドの試合中常に見せていた柔和な笑顔は、決して王者の余裕などではない。彼のマジックに対する純粋さとその強さは、時を経てなお研ぎ澄まされている。

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 節目を迎えたマジックの歴史は、私たちプレイヤーに等しく問いかけてくる。

「あなたにとって、マジックとは何ですか?」

 この場にいるふたりが、今それを言葉で語る必要はない。目の前には、今大会最後のドラフトで組み上げた、マジックの歴史が詰め込まれた『モダンマスターズ 2015年版』のカードの束があるのだから。

 私たちはマジック・プレイヤー。言葉より先に、ゲームで語り合おう。

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ゲーム展開

 ゲームが始まるなり、松本が《宮廷のホムンクルス》で戦端を開いた。彌永も《ツカタンのサリッド》から《巣の侵略者》と快調な滑り出し。

 しかし、松本の展開が《宮廷のホムンクルス》1体で2ターン止まり、その後も芳しくない。手札には打ち消しや《蒸気の絡みつき》、装備品とクリーチャー以外のものが溜まっていた。

 彌永は《小走りの死神》、《藻のガリアル》と展開を続け、盤面上の優位を取る。一方の松本もようやく《幽体の行列》を引き込み、ライフ・レースを追走した。

 クリーチャー同士の戦闘が起こるたびに強化されていく《藻のガリアル》。松本も《使徒の祝福》を使い局地的に戦闘を有利に進めるが、《狼茨の精霊》を盤面に加えた彌永の猛攻を抑えこむことはできなかった。


彌永の緑黒は地上戦において圧倒的な力を発揮する

 2ゲーム目、再び1ターン目にクリーチャーを展開した松本は、2ターン目に《銅の甲殻》を置き電撃戦を仕掛けた。《銅の甲殻》をまとった松本の《コーの決闘者》は、圧倒的なクロックで彌永を攻め立てる。

 あっという間にライフをひと桁まで落とした彌永は、チャンプ・ブロックでこの状況を凌ぎつつ、展開を続けた。《ガラス塵の大男》、《太陽の槍のシカール》と、松本の攻め手は決して緩まなかったが、彌永の的確な除去と展開が徐々に盤面を押し戻し、《吸血鬼ののけ者》がライフの回復も彼にもたらした。

 だが松本のデッキには、このマッチアップに対してあまりに強力過ぎる1枚があった。

燦然と輝く「清純なるミラディン」

 緑黒デッキの彌永は、これをエルドラージ・落とし子のチャンプ・ブロックで止める以外にない。《銅の甲殻》を装備した《ミラディンの十字軍》は、ついに彌永の防御を破り松本にゲームの勝利をもたらしたのだった。


どんな盾をも突き通す矛と化した松本の白青デッキ。

 最終ゲーム。歴史の分水嶺。彌永はこの大一番で、《巣の侵略者》から《血の署名》と動き出し、松本も《銅の甲殻》から《幽体の行列》と強力な動きを見せる。

 彌永の繰り出した《先駆のゴーレム》を《蒸気の絡みつき》でトークンごとバウンスし、飛行戦力で押していく松本。彌永も展開を進めるものの、地上を飛び越えて襲い来るスピリット・トークンを止められない。

 それでも再びの《先駆のゴーレム》で地上を完全に制圧する彌永。
 盤面を見るだけなら松本のライフは残るものの、何かもう1枚あれば一気に吹き飛ぶだけの攻撃力が、彌永の戦場にはある。

 そして松本は決断した。虎穴に飛び込むことを。スピリット軍団の攻撃で彌永のライフを攻め、彼の時間を残り1ターンに追い詰める。

 そして彌永の反撃――松本のライフは残り2点で留まった。

 盤面を見渡し、手札を眺め、じっとそのときを伺う彌永。大舞台での敗北を認めることもまた、戦いだ。

「負けました」

 彼の手札には、土地が並んでいた。

彌永 1-2 松本


 試合後、生放送でインタビューを受ける松本。彼が席に座るなり、あの質問が来た。

「あなたにとって、マジックとは何ですか?」

 男は、晴れ晴れとした笑顔で答える。

世界で一番楽しい趣味です!

 楽しさ――それが彼の、「はじまり」。

 松本 友樹、グランプリ・千葉2015優勝おめでとう! 新たな歴史の紡ぎ手に称賛の拍手を!

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