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The Finals 2018

観戦記事

決勝:岡井 俊樹(東京) vs. 渡邊 崇憲(新潟)

伊藤 敦

 2018年が、終わろうとしている。

 おそらく誰にとっても意義深かったであろう、激動の1年が……それも彼ら2人にとってはとりわけそうだったのだろうと、事ここに至ってはそう思う。

 岡井 俊樹は2月にスペインで開催されたプロツアー『イクサランの相克』で初の海外プロツアーを経験し、さらには世代が近く仲の良いプレイヤーである吉野 高平・宇都宮 巧とともに地域予選を抜けてマジック25周年プロツアーにも出場。最終戦であと1勝が足りず、次回の権利獲得はならずという悔しさも味わった。

 だが、それらの経験こそが岡井をまた一回り成長させた。今や岡井の実力を疑う者はいない……とりわけスタンダードというフォーマットにおいて、「神」の称号に恥じない実績を積み重ねてきたからだ。

 そしていま岡井は、「構築王」の称号とそれに付随する100万円の賞金にも手を伸ばそうとしている。2018年のしめくくりとして、これ以上の有終の美はないことだろう。

 対戦相手である渡邊 崇憲にとっても、2018年は躍進の年となった。グランプリ・静岡2017春のトップ8入賞で得た権利で出場した昨年のプロツアー『破滅の刻』は、成績は奮わなかったものの、所属するチーム「Onogames」結成の契機となった。そして今年に入ってから木原 惇希や棚橋 雅康といったチームのメンバーが次々と活躍を見せているほか、渡邊自身も初めて海外グランプリへの遠征に挑戦している。

 もはや人もまばらとなった会場では、同じ新潟勢である「Onogames」の面々が渡邊を応援するべく待っていた。棚橋いわく、渡邊はOnogamesの盛り上げ役であり、チームメンバーの勧誘なども精力的に行っているという。新潟に持って帰る土産話に優勝トロフィーが付いてくるともなれば、忘年会や今後の勧誘のネタには事欠かないだろう。

 そんな2人の決勝戦は、まさかのボロス・アグロ同型戦で行われることになった。デッキリストを交換すると、渡邊がポツリと漏らす。

渡邊「……この同型戦、どうなるかわかんないですね……どうなるんだろ」

 一口に「ボロス・アグロ」といっても、クリーチャーや呪文の構成、サイドボードに至るまで、さまざまな違いがある。そしてそういった構成の差は、当然同型における有利不利を何らかの形で規定するはずだが、おそらく渡邊の目から見て、自身が有利に見える要素と不利に見える要素とが両方あり、その大小を比べることができかねるといったニュアンスなのだろう。

 勝利と敗北とを分ける差とは何か。

 それは2018年、幾度となく問われてきた命題だ。

 ある時はトップ8進出をかけたフィーチャーマッチで。またある時はグランプリの決勝戦で。歴史の転換点となるような大事な一戦において、それはプレイヤーたちに常に突き付けられる問いとなる。

 勝つのは、1か月にわたる岡井のボロス経験の蓄積か。はたまた、さまざまな記事やデッキレシピを見比べて最適解を探し求めたという渡邊の探求心か。

 The Finals 2018。構築王決定戦。その決勝戦が、いま始まった。

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ゲーム1

 スイスラウンド上位の岡井が先攻、だが渡邊の側はダブルマリガンでのスタートとなってしまう。

 ゲームが始まると、岡井の送り出した《不屈の護衛》に対して《軍団の上陸》を合わせられるも、1拍おいて構わずアタック。これは渡邊に一瞬でブロックされるも、続けて《アダントの先兵》を送り出す。一方渡辺は《ボロスの挑戦者》で応える。

 ここで岡井は3点アタック後に《軍団の上陸》+《ボロスの挑戦者》と順調にクロックを展開。だが返すターン、渡邊は《軍勢の切先、タージク》を速攻で走らせ、《ボロスの挑戦者》を「教導」で3/4に育て上げる。

 これをブロックするか悩んだ岡井だったが、結局6点スルー。というのも、岡井の手札にはすでに解答があった。4枚目の土地を置くと、《正義の模範、オレリア》が戦場に降臨! 1→2→3→4でマナを綺麗に使いきるぶん回りを前に、さすがの渡邊からも苦笑が漏れる。

 それでも渡邊は返すターン、《聖なる鋳造所》をアンタップインしながら2枚目の《軍団の上陸》→《議事会の裁き》という動きでどうにか《正義の模範、オレリア》を追放することに成功する。

 だが。

 続く岡井のターンに繰り出されたのは、2枚目の《正義の模範、オレリア》!

 残りライフも少ない現状、渡邊に打開策はもはや見つからないのだった。

岡井 1-0 渡邊

 

渡邊「……(苦笑)」

岡井「……さすがに(笑)」

 あまりにあっさりとした、かつ事前に何となく予想された先手ぶん回り。しかもダブルマリガンの渡邊に対し、《正義の模範、オレリア》を重ねて受けを乗り越えるという完璧ぶりを前にしては、やった側の岡井もやられた側の渡邊も苦笑するしかない。

 だが仕方がない。「ボロス・アグロ」の同型戦とは、かように理不尽な要素を含むものなのだ。

 そしてそれゆえに、限られたできることの中でいかにして最善を尽くすかが重要となってくる。特に後手番の戦い方は、ただ相手を圧倒すればいい先手の場合と異なり捌くカードが限られているため、どこまで受けてどこで攻めに転じるかといったプラン予想と、それに合致した正確なサイドインアウトが求められるため、非常に難しいところとなってくる。

 1ゲーム目は先取したものの、2ゲーム目では後手番となる岡井もサイドボードにかなり時間をかけて悩んでいた。一度は覚悟を決めて15枚を脇に置くも、渡邊にデッキを渡す前に考え直して細部の入れ替えを検討する始末。

渡邊「……相当悩んでる(笑) ダメだよな、笑っちゃ……いや、いい舞台でマジックさせてもらってます」

 
ゲーム2

 《追われる証人》→《アダントの先兵》→《ベナリア史》と極めて順調に動く渡邊に対し、岡井は《短角獣の歩哨》→《ボロスの挑戦者》→《溶岩コイル》+《軍団の上陸》とこちらも捌きに向いた動きで応える。

 だが、続く渡邊の動きにはさすがの岡井も付いていくだけで精一杯だった……すなわち、先手4ターン目の英雄的援軍。13点ものダメージが、一気に岡井へと叩き込まれる。

 岡井も返すターンに《正義の模範、オレリア》を出して絆魂持ちの兵士・トークンを強化して攻撃させ、ライフ水準を保ちつつブロッカーを確保しようとするのだが、あいにく返しのターンには《ベナリア史》が第Ⅲ章に突入する。さらに渡邊は《追われる証人》×2からの《議事会の裁き》で《正義の模範、オレリア》も追放し、再びフルアタックを敢行。その結果、岡井の残りライフをあと4点というところまで追い詰める。

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 それでも、ここから岡井も粘る。盤面のクリーチャーの数で渡邊の側がギリギリ1点分削りきれないという綱渡りの膠着状態の中で《暴君への敵対者、アジャニ》を着地させ、毎ターン戦陣を強化できる状態を作り上げる。

 さらに渡邊が土地を引き込んでターンを返すしかないところで、返しに《短角獣の歩哨》を引き当ててブロッカーの数を増やして対応する。もはやクリーチャーのサイズという点では岡井の戦線は渡邊のそれを完全に一回り上回ってしまっており、渡邊の側は横並べですり抜けるダメージによって差しきるしかないという状況。

 しかし召喚酔いがある後引きのクリーチャーでは、《暴君への敵対者、アジャニ》がいる状況では1ターンのラグがあまりに重い。火力のないビートダウンでは、この1点はもはや詰めきれないか……そう思われた。

 だが続くターン、ドローを見た渡邊が勢い込んで計算を始める。……何度見直しても間違っていない。「あれを引けば勝てる」とそう思ってカードをドローし、そしてまさしくそのカードを引いたのだから!

 渡邊が叩きつけたそのカードとは、軍勢の切先、タージク》!

 速攻と「教導」という唯一無二の組み合わせが閉じかけていた突破口を力業でこじ開け、すんでのところで渡邊に勝利をもたらしたのだった。

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岡井 1-1 渡邊

 

渡邊「……引けたー! あぶねー! さすがに先手は負けらんねーからなー」

 だが興奮の波が収まると、渡邊は今日一番の難題に苦心することになる。

 最終ゲーム、「ボロス・アグロ」同型戦の後手番。この局面で、いかなるサイドボードプランをとるべきか?

 それはちょうど先ほど岡井が悩み、直面していた課題だった……細部の構成は違うとはいえ、1ゲーム目のようなぶん回りを再びされたら何をどうやっても勝てる道理はない。それでも勝ちうるプランがあるとすれば、それは何なのか。

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 渡邊はポケットから何度も紙を取り出しては……おそらくサイドインアウトが書かれた紙なのだろう、サイドアウトした15枚を見直していた。

 本当にこれでいいのか、やり残したことはないのか、と己に問いかけるように。

 そして渡邊は、1つの決断(・・・・・)を下す。

 
ゲーム3

 《不屈の護衛》→《アダントの先兵》という好スタートを切った岡井に対し、渡邊は後手番らしく《トカートリの儀仗兵》で受ける立ち上がり。

 すると、岡井は3枚目の土地が置けない。それでも《軍団の上陸》《短角獣の歩哨》と物量を展開していくが、続けて渡邊が半自動で攻守をこなしてくれる《ベナリア史》を設置すると、早くも先手の有利は失われつつある状況だ。

 それでも岡井は《不屈の護衛》を《トカートリの儀仗兵》に差し出しつつも《軍団の上陸》を一番砦、アダントへと変身させ、3マナ目を確保。さらに《不屈の護衛》を出し、4ターン目の爆発的展開に備える。

渡邊「いま、8個ですよね?」

 だが、今のターンに追加でもう1枚1マナのパーマネントが出なかった以上、「昇殿」達成には土地トップが必要と見切った渡邊は、意を決して暴君への敵対者、アジャニを着地させ、警戒持ちの騎士・トークンで攻撃しつつ盤面を強化する。

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 プレインズウォーカーが着地した以上、盤面を打開するチャンスはここしかない。岡井の手札には《英雄的援軍》が控えており、岡井に援軍を送るタイミングを今かと待ち構えていた。《短角獣の歩哨》は、「昇殿」の時を待ち焦がれていた。そしてそれにはどちらも、4枚目の土地がどうしても必要なのだった。

 この1枚。この1勝に、トロフィー1個分の重みがある。

 何事もないように引いてしまえと、そう念じた岡井のドロー。しかしそれは、土地ではない。

 やむなく《軍勢の切先、タージク》を出すのみでターンを返すが、それは実質最大のチャンスを逃したという宣言に等しかった。

渡邊「いまが9枚?」

 ターンが返ってきた渡邊は《ベナリア史》からの《議事会の裁き》「召集」で《軍勢の切先、タージク》を追放して「昇殿」を遠ざけ、万に一つも逆転の可能性がないようにする。

 そして次の岡井のドローは、またしても土地ではなく。

 4マナまでの1マナ。「昇殿」までの1枚。

 頂点までの1勝。

 そのたった1つの差をどうしても埋められなかった岡井は、虚空を掴んだ右手を渡邊へと差し出したのだった。

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岡井 1-2 渡邊

 

 渡邊が3ゲーム目に備えて下した決断とは、「《一斉検挙》と《暴君への敵対者、アジャニ》のサイドイン」だった。

 「練習では一度も試したことはなかった」というプラン……相手の《敬慕されるロクソドン》絡みのぶん回りパターンに対してカウンターを浴びせられるよう、またそれでなくてもサイズが上がった《短角獣の歩哨》をまとめて流せるよう、あるいは最悪自分の《暴君への敵対者、アジャニ》で相手のクリーチャーを育てることになったとしても構わないという覚悟で投入したカード。

 その意図はしかし、思わぬ形で結実した。《暴君への敵対者、アジャニ》は、岡井の足踏みを咎める時限爆弾となった。労せず膠着状態になるパターンをたどったことで、渡邊の予想しない形でゲームへと多大なる貢献を果たしたのだ。

 だが、この局面でその巡りあわせが訪れるというのもまた、強者の証なのだろう。

 勝利と敗北とを分ける差……それはいつだってプレイヤーの意思だった。

 デッキのアーキタイプを選ぶ意思。60枚目のカードを決める意思。サイドボードに入れるカードを決める意思。マリガンを選ぶ意思。クリーチャーで攻撃する意思。サイドインアウトを決める意思。

 それは人の、未来を問う意思だ。渡邊はその意思によって未来を切り拓いた。それゆえに、頂点へとたどり着いたのだ。

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 The Finals 2018、優勝は渡邊 崇憲(新潟)! おめでとう!

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