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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:黒緑巻きつき蛇~殿堂バージョン~(スタンダード)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:黒緑巻きつき蛇~殿堂バージョン~(スタンダード)

by 岩SHOW

 いまや日本のプロプレイヤーは世界的に非常に高い評価を得ている。プロツアー『霊気紛争』で途絶えてしまったが、7大会連続でプロツアーTOP8に日本人がその名を連ねていた事実からもそれを実感できる(常にTOP8に居るアメリカのことはひとまず忘れよう)。

 マジック先進国と言ってしまっても決して過言ではない日本だが、今日の安定した強さに到達するまでは決して平坦な道のりではなかった。最初に世界にその名を轟かせた日本人は......初代日本人プロツアー殿堂顕彰者・藤田剛史(以下ローリーさん)その人だ。独自の構築理論、そして持ち前のキャラクターで海外プレイヤーと仲良くなっての情報交換。これを武器に、ローリーさんは初めての出場から殿堂入りするその年まで、10年に渡ってプロツアーに継続参戦し続けた。ここしばらくは海外が苦手というのもあって、競技マジック最前線からは退いていたローリーさん。解説業を数年経て、2017年にプレイヤーとして本格復帰だ。

 僕は仕事の関係でローリーさんと日頃からお話させていただいており、今回もグランプリ・静岡2017春に参戦前に使用デッキを聞かせてもらっていた。

「『コピーキャット』と『マルドゥ機体』が多いから、黒緑かな」

 最初にこれを聞いた時は正直「えっ」と思ったものである。「コピーキャット」はプロツアーで徹底的にメタられた末に大敗を喫したものの、その後にデッキ・戦術が洗練されて環境最強の呼び声も名高いデッキとなった。「マルドゥ機体」もサイドボード後に軽いクリーチャーが抜けてプレインズウォーカーを中心としたコントロールデッキへと変形する機構を取り入れ、進化。機体デッキは黒緑に弱いという定説も、覆ってしまった感があった。

 「黒緑巻きつき蛇」は《豪華の王、ゴンティ》を採用するくらいしか伸びしろがなく、先の2つと比肩する三強と呼ばれたのも過去の話......と認識されていたデッキだった。その「黒緑巻きつき蛇」をローリーさんが使うと明かしてくれた。「黒緑ですか......理由はなんでしょう?」との問いに、元祖殿堂はこう答えてくれた。

「サヒーリも機体も強すぎるから、お互いに対策し合って、黒緑へのガードが下がってるし......黒緑がサヒーリに勝てへんっていうけど、こういう時は案外簡単に勝てるようにできるんよね。大体どっか、殴るクリーチャーか相手に触る呪文か、どっちかちょっと換えたったら相性はかなり改善される。昔からそうやねん」

 なるほどなぁ......ローリーさんが今回、《巻きつき蛇》デッキに施したチューンは《ピーマの改革派、リシュカー》をより強く使おうというもの。リシュカーは蛇とのシナジーが強烈で、そこから形成される打点はもはやコンボの域ではある。

 しかしこの2枚にはまだその先を作る力がある。リシュカーは、+1/+1カウンターが置かれているクリーチャーにマナ能力を付与させる。2ターン目蛇、3ターン目リシュカーからの4ターン目、最大6マナ。これをしっかり活かすことで、他のデッキとの相性を改善させる方向に進化しようという試みだ。これまでも《新緑の機械巨人》という爆弾を持ってはいたが、武器は多い方が良い。殿堂のチョイスを見よ!

藤本 岳大 - 「黒緑巻きつき蛇~殿堂バージョン~」
グランプリ・静岡2017春 初日全勝 / スタンダード (2017年3月18~19日)[MO] [ARENA]
9 《
7 《
4 《花盛りの湿地
4 《風切る泥沼

-土地(24)-

4 《屑鉄場のたかり屋
4 《巻きつき蛇
4 《地下墓地の選別者
4 《ピーマの改革派、リシュカー
4 《新緑の機械巨人
4 《歩行バリスタ

-クリーチャー(24)-
4 《致命的な一押し
4 《闇の掌握
1 《霊気圏の収集艇
3 《領事の旗艦、スカイソブリン

-呪文(12)-
2 《害悪の機械巨人
3 《膨らんだ意識曲げ
3 《自然廃退
3 《精神背信
2 《集団的蛮行
2 《キランの真意号

-サイドボード(15)-

 このリストはローリーさんが「はまち」こと藤本岳大に提供したもの(二人のリストはたった1枚だけが異なる)。はまちはこれで見事初日全勝だ(残念ながら2日目は調子を落としてしまった)。

 このリストの最大の特徴は、3枚投入された《領事の旗艦、スカイソブリン》。機体の中でも最強の戦闘能力を誇るこの戦艦こそ、現スタンダード環境を戦い抜く答えだ。

 スカイソブリンは尋常ならざる制圧力を誇る。ローリーさんはこのカード1枚で環境の二強と勝負ができる、と常々語っていた。「コピーキャット」相手には《守護フェリダー》以外のクリーチャーを除去しつつ、先に出しておけば対戦相手がプレインズウォーカーを展開しようとも返しで排除可能。「マルドゥ機体」を相手にしてもほぼ触れられず、クリーチャー除去をしながら《キランの真意号》を受け止める壁として立ちはだかる。パワー6の飛行持ちはゲームを速やかに終わらせる。この機体を、他のデッキよりも安定して1ターン早く戦場に出せるというアドバンテージを最大限に活かしたデッキとなっている。

 動かし方は簡単で、とりあえず蛇&リシュカーをキープ基準に。クリーチャーを展開・+1/+1カウンターで強化・殴る。デッキがたどるストーリーは概ねこれ。黒と緑が誇る優秀なクリーチャーを展開していって、とにかくガシガシ殴ろう。リシュカーか、あるいは《地下墓地の選別者》からのトークンで加速して4ターン目に《新緑の機械巨人》《領事の旗艦、スカイソブリン》を叩き付けるというのが理想のゲーム展開。

 黒緑の2色デッキが環境の他のデッキに勝る点は、クリーチャーのサイズ。肉でかける圧の強さは随一だ。除去カードは相手の攻めから耐えるために使うのではなく、こちらの攻撃を押し込むために使うのが理想である。《キランの真意号》なんかもブロックに回させて討ち取る、それぐらいの勢いで攻め込みたいものだ。

 「黒緑巻きつき蛇」は伸びしろがない、進化しないデッキだと言われていた。しかしスカイソブリンの採用で、デッキパワーは格段に跳ねあがった。世の中なんでも常識とされていることを鵜呑みにしちゃいけないね。そんな殿堂からのメッセージが込められていると思うのは僕だけだろうか。ローリーさんは初心者用にデザインされている《自然の職工、ニッサ》の採用も検討していた(使った結果、採用には至らなかった)。

「使わんと否定するん、いやなんよね」

 この言葉をしっかりと受け止め、あらゆる可能性を追求していくプレイヤーとなりたいものだ。ちなみローリーさんは《霊気圏の収集艇》ではなく《森の代言者》を用いていた。この枠は「なんでもいい」と言っていたが、試していくとベストな1枚が見つかるかも。さらには「61枚目に土地はいらないけど《耕作者の荷馬車》とっても良かったかもな」と。この男、どこまでデッキを進化させるつもりなんだ......。

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