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三田村和弥の「マジックスーパースター列伝」第5回:南米の精密機械! パウロ・ヴィター
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木曜マジック・バラエティ
2011.05.26
三田村和弥の「マジックスーパースター列伝」第5回:南米の精密機械! パウロ・ヴィター
By 三田村 和弥
本題の前に、第3回でお話しした東日本大震災義援金についてのご報告を。
筆者、三田村和弥は4月23・24日に開催されたグランプリ・神戸で獲得した賞金全額を被災地復興のための義援金として寄付することをお約束しました。グランプリ本戦はちょうどその第3回で取り上げているマーティン・ジュザ/Martin Juzaや優勝した八十岡翔太に負けるなどして24位に終わりました。
やはりスーパースター達に実力を見せ付けられてしまい残念ですが、まあそれは置いておいて、結果400ドルの賞金を獲得しましたので32600円(81.5円/ドル、5/19時点のレート)を日本赤十字社に寄付しました。微力ながら震災の影響で苦労されている方の手助けになればと思っております。それにしても、惨敗して獲得賞金0というカッコ悪い結果にならなくてホッとしております。
それでは本題の第5回スーパースター列伝を始めることにしましょう。
マジックはインターナショナルなゲームです。このフレーズ、すでにどこかで使っているような気がしますが、スーパースター列伝のテーマ自体が世界中のプロマジックプレイヤーを紹介していくというものなので仕方ないかと。
どれくらいインターナショナルなのかと言えば、マジック発祥の地かついまや最先端のテクノロジー本場を有するアメリカ。グランプリを開催すれば1000人以上、時には2000人を超えることもあるフランス。マジック界唯一無二の帝王カイ・ブッディ/Kai Buddeを生んだドイツ。その他、オランダやチェコ等ヨーロッパ各地でもマジックは好評、大人気を博しています。
スーパースター達もそれら欧米に日本を加えたプレイヤーでほぼ全てが出揃ってしまいます。これまでにルイス・スコット・バルガス/Luis Scott Vargas&ベン・スターク/Ben Starkのアメリカ編、マーティン・ジュザ&マリーン・リバート/Marijn Lybeartのヨーロッパ編をお送りしてきました。アメリカとヨーロッパのスーパースターを紹介していれば、この連載もまあ大体はOKなんでしょう。
しかし、マジックで言う世界とはアメリカとヨーロッパですべてではありません。先ほどから実はというと、「ほぼ」とか「大体は」とかとぼやかした言い方で断言を避けてきたのは、今回の登場人物がそこを断言してしまうと当てはまらない人物であるからなのです。
ここまで言ってしまえばもう誰であるかは特定できたも当然ですね。アメリカでもなくヨーロッパでもなくもちろん日本でもない、南米からのスーパースター。マジック界最長の名前を持つ男、PVことパウロ・ヴィトー・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor damo da Rosaを取り上げてスーパースター列伝南米編をお送りしようと思います。
パウロ・ヴィトー・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor damo da Rosa
主な戦績:
- 世界選手権2010 ベスト4
- プロツアー・サンファン2010 優勝
- プロツアー・オースティン2009 ベスト8
- 世界選手権2008 ベスト8
- プロツアー・ハリウッド2008 ベスト8
- 世界選手権2006 ベスト8
- プロツアー・チャールストン2006 準優勝
- ブラジル選手権2009 優勝
- ブラジル選手権2006 優勝
- 他グランプリトップ8多数
スーパースター列伝では主な戦跡欄には基本的にプロツアー(とそれと同格である世界選手権含む)でトップ8入賞以上、またはグランプリか各国選手権での優勝をクレジットしています。
ご覧になってお分かりになるようにPVの戦跡はこれまでに取り上げたスパースターたちの戦跡の中でも最長です。試しに筆者の戦跡でやってみるとプロツアートップ8が3回でその他は無し、なので本当に「三行でおk」となってしまいます。そもそも筆者とPVを比較するのは例が悪かったですね。PVの戦跡欄がこのように長くなるのは、ひとえにそのプロツアートップ8の回数が以上に多いからに他なりません。
その回数、実に7回。7度のプロツアートップ8というと、ジョン・フィンケル/Jon Finkelの12回、カイ・ブッディの10回、ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifの9回、ダーウィン・キャッスル/Darwin Kastleの8回に次ぐ回数となります。PVよりプロツアーのトップ8回数で上回るのは全員がHall of Fameに選出されている、しかも伝説級のプレイヤー達だけです。
日本が誇る伝説級のプレイヤーである津村健志や大礒正嗣ですら6回であることを考えると、PVの7回のプロツアートップ8というのは正に殿堂級であるということです。日本の二人も殿堂級だとは思いますが。
そのPVが殿堂の投票にかかるのは2012年。初めてプロツアーでプレイしてから10シーズン経過していることがノミネートされる条件であることから逆算すればすぐにわかることではありますが、PVの初めてのプロツアーは2003年、世界選手権2003のことでした。そこでは55位というまあまあな、才能ある若手プレイヤーのプロツアー初参加としては上出来ともいえる成績を納めたPVではありましたが、PVが本格的なブレイクを果たすのはもう少し先のことになります。
カルロス・ロマオ |
というのも、やはりPVが住んでいるのは南米はブラジル。2002年にカルロス・ロマオ/Carlos Romaoが南米勢初のプロツアートップ8かつ世界チャンピオン戴冠を果たしてはいましたが、決してマジックが盛んな地域ではありません。欧米や日本のようにプロツアー予選がいくらでも開催されている地域とは違って、プロツアーに出場するチャンスはあまりありませんでした。レーティングで参加権利を手に入れることができるにはできますが、ここでも地理的なハンディキャップ、南米から欧米・日本への旅費は馬鹿にならないので、当時のPVのような若いプレイヤーにとっては、予選で勝利し旅券ごと参加権を手に入れることしかプロツアーへの道は開かれていなかったのでした。
そのPVがブレイクを果たし、マジック界に初めてその長い名前を轟かせたのは2006シーズンのことでした。プロツアー・ホノルル2006で20位、プロツアー・プラハ2006で30位と順調に経験をつんだPVは続くラヴニカブロック構築のチーム戦で開催されたプロツアー・チャールストン2006にも予選を突破して参加し、そのまま準優勝まで駆け抜けてしまったのです。
この頃の南米勢はまだ今のように欧米や日本との交流もあまりなく、アルゼンチンなどのほかの南米勢とデッキ調整をすることが多かったようで、その実力も懐疑的に見る者も多くいました。負けず嫌いが多いプロマジック界では「チーム戦はノーカウント(毒舌でお馴染みのマリーン・リバート談)」などと言われてしまうことが多いのも事実。しかし、そのような評判をねじ伏せるようにPVはすぐに個人戦での結果を残してしまいます。
プロツアー・神戸2006も42位と好調のまま迎えたシーズン最終戦の世界選手権2006でPVは赤白のビートダウン・ボロスを駆り、スタンダードラウンド全勝でトップ8にまで残ったのです。決勝ラウンドで待ち受けていたのはその年の世界チャンピオン、三原槙仁。
三原槙仁 |
そう、PVはあの有名なドラゴンマスター三原によるトップデッキの被害者になってしまったのです。2-2で迎えた勝負の最終ゲーム、かわいそうなPVは痛恨のダブルマリガン。それでも健気に小さなクリーチャー達で三原のライフを攻め立て、実況でも「Paulo probably can kill him next turn(パウロはおそらく次のターンに三原を倒せます)」と言われるところまで追い詰めました。
そしてそっと腕を組み待つPV。三原の手に《ドラゴンの嵐》がないことを祈るくらいしかできないPVの表情はどこか悲しげです。三原はドヤ顔で一枚目、二枚目と《炎の儀式》をプレイマットに置き、その後、何を思ったかその二枚目の《炎の儀式》を手札に戻すじゃありませんか。1マナ足りない。そう今度は三原が悲しげな表情になり、対照的にPVの目に光が戻ってきたのです。
その後、三原がプレイした《撤廃》で三枚目の《炎の儀式》を引いてしまいメデタク《ドラゴンの嵐》を打つことに成功するというのがこの話のオチなのはご存知のことでしょう。この時の二人の表情の変化はプロツアーのプレイ動画の中でも秀逸なものです。未見の方はぜひ見てもらいたいものです。(編注:世界選手権2006のカバレージページの「MULTIMEDIA>Video>Quarterfinals」からダウンロードすることができます。当該のシーンは50分前後から始まります。)
三原の武勇伝に脱線しかかっているので、元に戻りましょう。ここで負けてしまいましたが、PVは当時の最高ステータスであるレベル6の座を射止め、彼にとっては素晴らしいシーズンとなりました。しかし、PVの次の目標はプロツアー制覇。それには少し時間がかかりました。次のチャンスであったプロツアー・ハリウッド2008でも準々決勝敗退。その次のチャンス世界選手権2008でも準々決勝敗退。さらにプロツアー・オースティン2009でも。4回連続の1没です。三原にしでかされたからなのかどうかは定かではありませんが、どうもトップ8にまでは残れるものの、そこからがどうもうまくいかなくなってしまったようです。
結局、PVが1没の壁を打ち破り、プロツアーで優勝を飾ったのはプロツアー決勝ラウンド6回目の挑戦、南国カリブ海の街・サンファンでのことになりました。もうその頃には南米勢というだけでPVの実力を疑う者もいなくなる、どころかむしろアメリカ勢とみなされるようになっていたのです。躍進著しいアメリカ勢と情報交換をし、またアメリカのサイトで連載を持つPVにとってアメリカはもはやホームにまでなっていたのです。
確かにアメリカ勢と一緒に行動し、英語を勉強していたPVのそういった行動力や環境の変化は、三原の呪いもとい1没を繰り返す呪縛から解き放たれる大きな要因になったのかも知れません。その後も世界選手権2010でのベスト4とプロツアー2勝目はお預けになってしまいましたが、まだまだ全盛期を迎えているのかこれから迎えるのか、PVの戦跡欄にはその栄光がどんどん追加されていくことでしょう。
しかし、PVの連載での文章を見ると非常に英語がうまい。我々日本人プロプレイヤー、特に筆者・中村・渡辺がいつまでも幼稚園イングリッシュでプロツアーを戦っているのとは大違いです。
筆者自身の名誉はともかく、他の二人の名誉のために少し言い訳をさせてもらいましょう。日本人プロとPVの英語力の差というのはもちろんPV自身の努力というのもあるでしょうが、やはり言語体系の違いというものがとても大きいのです。
PVの母国語はポルトガル語。ヨーロッパ系の言語が母国語であると英語を学ぶ際に文法が非常によく似ているため、それほど苦労しなくても身に付いてしまうようです。そういえば、以前日本で会った他のブラジル人も「日本に来てから英語を勉強した。NHK教育の番組で。」と言ってたっけな。"ポルトガル語→日本語→英語"なんでPVの例と比較するのは微妙なんですが、まあ要はブラジル人の方が英語を覚えるのはそりゃ早いよね、ということが言いたかったのです。
サッカーやカーニバルが有名なブラジル。かつては裕福な国ではないと思われていましたが、現在ではロシア、インド、中国と共に「BRICs」と呼ばれる新興経済国にまで発展しました。しかし、そうは言ってもブラジルでマジックをやるに苦労があるようです。ブラジルではマジックのカードを手に入れるのが日本やアメリカなどに比べ難しいようで、PVをはじめとするブラジル勢がプロツアーなどの際に大量にカードやスリーブを買い込んでいる姿を目にしたことがあります。どうやらブラジルではアメリカからの輸入品に対する関税が高く、その関係でパックも高くなってしまっているそうです。よりよい練習環境を求めるのも楽ではないということですね。
スーパースター列伝南米編もここまで。次回までにはグランプリが数回、さらにプロツアーが名古屋で開催されます。次回はそこで活躍したスーパースター、を取り上げる方向で人選をしてお送りしようと思います。願わくばプロツアーの優勝が自分でありますように。
それではまた来月。
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