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Savor the Flavor
教区の勇者
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Savor the Flavor
教区の勇者
by Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki / Translation-Supervised by Yohei Mori
2011年9月7日
吸血鬼、狼男、グール、幽霊の世界においてさえ、犠牲者の立場に甘んじていない者たちがいる。
反撃に転じる者がいる。怪物殺しになる者がいる。人類を獲物とする悪鬼を倒すために訓練された聖戦士になる者がいる。
それらを越えて行く者さえいる。自分達は全人類に対する責務を負うとして、その監視下においてはただ一つの悲鳴さえも、真夜中にただ一人の犠牲者さえ許さない者たちがいる。守護者という厳粛な義務に自らを捧げ、彼らの敵と共同社会との間の防壁となる者たちがいる。彼ら自身への危険は、夜の侵略の可能性に比べたら何でもないと認識しつつ。
彼らは愛する者たちが餓えた超自然的存在の食事となるのを傍観してはいない。
彼らはただ一人の子供さえも夜に攫われることを許しはしないだろう。
彼らこそ勇者。彼らは牙を砕くために存在する。
教区の勇者 アート:Svetlin Velinov |
教区......
イニストラードの4州はそれぞれが教区と呼ばれるいくつかの郡に分かれており、それぞれの教区にはアヴァシン教会へと捧げられた礼拝堂がある。礼拝堂はイニストラードの血塗られた世界における純潔の標である。ケッシグの荒野の果てにちぢこまった粗末な石造りの小屋であろうと、スレイベンの高地都市に高くそびえ立つ要塞のような傑作であろうと。礼拝堂は集会所であり、魔法的防護の中心であり、心の拠り所の中心である。だが礼拝堂の真の心はその勇者にある。
全ての教区にはアヴァシンの司祭がおり、ほとんどの教区には何人かの聖戦士(神聖なる戦士であり悪鬼を倒す者たち)がいる。勇者とは、人類へと加勢する時が来たと知っている、その共同体において十分な苦しみを目にしてきた司祭や聖戦士である。そして人類へと何か行動をすべき責任を個人的に感じた者たちである。勇者は公的な地位ではない。選抜試験や勇者になるための感動的なスローガンは存在しない。勇者とは、その心で認められた地位である。窮余の人々に必要とされ、彼らの支えによって認められた地位である。
......そしてその勇者について
今日のプレビューカードは「白ウィニー」の良パーツというだけではない。巨大になる可能性を秘めた、アグロの1ターン目に出すアタッカーというだけではない。それは、我々がかつて絶対に明白に行わなかったものをあらわしている。
《教区の勇者》はいわゆるトーナメントプレイ卿、攻撃的な1マナクリーチャーだ。《ステップのオオヤマネコ》や《密林の猿人》、《運命の大立者》、もしくは賛美メカニズムを持つクリーチャーなど、ビートダウンの専門家たちの流儀に沿ったその安価なコストを裏切る印象的なサイズを持つ。「召喚酔い」の短い発作は、人類の共同体から+1/+1カウンターを集める時間でしかない。そしてひとたび君の対戦相手へと狩りに出たなら、速攻のようにパワーが追加される。より多くの人間が現れたなら(《教区の勇者》がもっと多く出たなら、という議論のために)、共同体の支援と戦闘訓練によって、より多くの+1/+1カウンターの部隊を勇者へと加えるだけだろう。
今こそ最近のセットを振り返り、様々なクリーチャーのタイプ表記について協議する時だ。エルフやゴブリン、ゾンビといった部族には歴史的に多くの部族サポートが存在するが、実際のところ人間は、単純な数においてはそれらの部族よりも優位に立っている。ほとんどの舞台においてマジックの5色全てに人間がいる。なので人間は特定の一色においては他の種族に勝らないかもしれないが(例えば、緑の人間よりも多くの緑のエルフがいる)、全5色への人間の完全な広がりは、全体的に見て人間が最も人口の多い種族であることを意味している。
イニストラードを含む現スタンダード環境の人間を見てみよう。《純鋼の聖騎士》。《粗石の魔道士》。《先兵の精鋭》。基本セット2012の人間・魔道士のサイクル。かつてミラディンとして知られていた次元の、オーリオックとファイレクシアのあらゆる階級の人間たち。そして勿論イニストラードの人間たち。この世界のあらゆる人間たちは都合のいいことに人間というサブタイプを持っている、彼らは戦場へと出て、《教区の勇者》のもとへとすぐに駆けつける。だが彼らの何人かは月か他の状態に頼る別のものになるかもしれない(人間ロードを両面の狼男と同じデッキに入れる? 《教区の勇者》でさえ時々密告者の尻尾を見逃す。やあ、種族的寛容さは君に+1/+1カウンターをくれることもあるんだよ)。
人間同盟
イニストラードは部族の相互作用を主としてはいないにもかかわらず、《教区の勇者》は君が人間関係と呼ぶかもしれないメカニズム的テーマを特色としている。人間を中心としたデッキを君に組むよう勧めているそれは、以前から我々がためらっていた何かだ。最初のミラディン・ブロックで人間のクリーチャー・タイプが初登場して以来(その通り、人間を意味するクリーチャー・タイプは実際には2003年まで与えられていなかった)デザインスペースはマジックへと開かれていた。では何故人間たちが彼らの時を太陽のもとに手に入れるまでここまで長くかかったのだろう? そして暗黒に食い尽くされた世界において、何故彼らは「太陽のもと」だけにその時を手に入れているのだろう?
《精鋭の審問官》《弱者の師》 アート:Jana Schirmer & Johannes Voss |
人間は数の多い部族であり、カードバランスに答えが隠されているように見えるかもしれない。もしかしたらエルフやゴブリンは人間たちほどの数がないからこそ「ロード」を得たのかもしれない。そして人間たちがひとたび専用の部族戦略を手に入れたなら制御を失うかもしれない。だがイニストラードのデベロッパーたちは人間を制御した。《教区の勇者》デッキは多くの強力な相棒を選んで入れるだろう。だが人類の部族サポートの水準は、言うなればローウィンブロックのキスキンまでには達していないだろう。本当の答えはこれだ。我々は人間の部族メカニズムを作ってこなかった。何故なら伝統的に、人間たちは「デフォルト」の役割を果たしてきたから。
人間とは基準だ。人間はあらゆる幻想的クリーチャーとマジックの種族に比較して、安心させてくれる標準の存在だ。コーやマーフォークや巨人は全てそれぞれ自身の興味深い個性を持っているし、人間の本質の誇張やゆがみを彼らのうちに見ることによって君はそれらの個性を見分ける。メカニズム的に人間へと焦点を当てることは、デフォルトを褒めたたえ、バックグラウンドとなる要素に注意を向けられてきた感じかもしれない。
イニストラードにおける犠牲者としての人間
だがイニストラードでは、状況は異なっている。イニストラードはゴシックホラーの物語をベースにしていて、それらには人型クリーチャーに数えられるエルフもゴブリンもいない。人間がそれだ。彼らはこの地の主役であり犠牲者である。ホラーの物語においては、犠牲者は必ず人間である。それと同じ雰囲気を作り出すためだ。ピッチフォークを構えた群衆は人間だ。満月の時には不可解に姿を消す(もしくは、少なくとも姿を消すように見える)、信頼の篤い市長は人間だ。歩き回る死者が道を徘徊する中、隠れ家にじっと潜んで息さえしない、長い外套を着込んだ旅人は人間だ。階段の下に隠れ続け、そして何か怒り狂った悪魔的な、取り憑かれた怪物の類に変身する夜着の少女は人間だ(人間だった)。カードデザインはフレーバーを信頼し、イニストラードは他のセットや舞台がやってこなかったやり方で人類へと焦点を当てている。
アート:Igor Kieryluk |
だが何故そんなにも人間を犠牲者として推し続けるのか? ついでに言うと、何故ゴシックホラーの物語はそれほどまでに人間に焦点を当てているのだろう? それらの物語は、人間の視点から書かれてきてはいない。例えば、実験室生まれの怪物に脅かされる英雄は、木でできた小さなブロックであると設定することもできたがそうはしなかった。その理由はもちろん、木のブロックは共感を呼び起こさないからだ。人間の英雄は生きている我々の心を打つ。我々はそれが気になる。我々はその不幸な、包囲された丸腰の人々に自身を投影し、その恐怖を共有する。我々は仲間である人間達に共感し、同じ状況ならばどうするかを想像し、選択肢に乏しい恐慌下の状況に同情する。
それこそが、イニストラードが作り出そうとしている感覚だ。人類は数で劣り、武力で劣る。怪物たちはあらゆる面で優位に立ち、人類のかつての秘密兵器、大天使アヴァシンの力は夜ごとにその有効性を失っている。それはホラーの舞台であり、あらゆるホラーの物語は犠牲者を必要としている。ここでは、人類がそれだ。
左からクリエイティブ・デザイナーAdam Lee、Jenna Helland、Doug Beyer、 開発部シニア・アートディレクターJeremy Jarvis、社内コンセプトイラストレーターRichard Whitters、 シニア・クリエイティブ・デザイナーBrady Dommermuth、そしてシニア・ブランドマネージャーMark Purvis |
先週、我がクリエイティブ・チームの同僚達はシアトルのPAXコンベンションにおいてイニストラードと世界構築についてのパネルディスカッションを行った。ある男が人類を滅殺するエルドラージと人類を貪るファイレクシアを挙げた後に尋ねてきた。「人間に対抗するものは何ですか?」いい質問だ。答えは、我々は人間に対してあらゆる物語と同じことをしてきた。我々は苦境に陥る英雄を求めている。彼らの道程を心配し、そして彼らが(それができたなら)目的を達成した時、その報酬は何よりも甘いものとなる。その点において、イニストラードには同じものがある。あらゆるホラーの物語の犠牲者と同じものが危機に瀕している。それは弱々しい人間だ。
英雄の複雑さ
しかしながら教区の勇者は、この物語に真実の英雄がいることの兆候だ。アヴァシンが人類を見捨てた後でさえも君の信念を受けるに値する英雄が。世界の隠れ潜む危険と仲間の人間たちとの間に身を置くということは、勇者のような人々にとってもたやすい道ではないだろう。未来はその影から瞳がにらみつける、荒れ果てた藪だ。だが彼らは努力しなければならないことを知っている。そしてそれは彼らに英雄性を与えてくれる。物語がどんなふうに終わろうと。
今週のお便り
最初に、この舞台のフレーバーについて適切な意見をくれた皆に対してお礼を言わせて欲しい。プレインズウォーカーのためのイニストラード案内は、序説の一区切りしか時間を割いていないことを私もよくわかっている。今はプレビューの時間なので、プレビューをしないといけない! だが我々はこの舞台を創造するために忙しく働いてきた、そして私はとても多くの君達がそれを掘り下げてくれたことに有頂天だ。全てのカードプレビューを終えたら、我々はイニストラードの世界をより詳しく探検する時間に戻るだろう。
そしてさあ、読者からのお便りだ。
こんにちは!
いくつかの質問があります、初期のマジックのセットにおける「ホラー」の扱いに関して、そしてマジックのホラーにおける善と悪の使い方についてです。
ラヴニカ世界、その次元の市民にとって霊魂と屍霊術はごくありふれたものでした。ある種の屍霊術はゴルガリによって農業のために使われてさえいました。霊魂はオルゾフとアゾリウスに、建築のためやアンデッドの警察官として使われていました。ですのでラヴニカの「ホラー」は善いものだと考えられていましたが、イニストラードでのそれは純粋な悪、そうですよね? 私は疑問に思っていました、イニストラードにおけるあらゆるホラーの生態的地位は悪になりうるのかと? (何故なら全てのホラーの生態的地位が悪ではないからです。フランケンシュタインの怪物は邪悪なゾンビのように見えるかもしれませんが、彼はただ自分がいるべきでない世界において居場所を探そうとしているだけの、誤解されているクリーチャーです。それこそが本において著者が言おうとしていた事です)
そして私は疑問に思っています、このブロックに普遍的な善玉はいるのでしょうか? イニストラードには審問官や反アンデッドの者達、そして人間たちによる支援が存在すると考えています。そして黒にはあらゆる怪異が含まれているので、標準的な悪玉になるのでしょうか? つまり白と黒が善と悪になるのでしょうか?
よろしくお願いします。
Voronより
素晴らしい質問だ、Voron、そしてイニストラードについて同様の質問をくれた多くの皆。我々はたびたび言うが、マジックの全ての色に善と悪がある。ありふれた「聖なる」色である白にも悪はあるし、典型的な「邪悪な」色である黒の用法の中にも善が存在する。もちろん、白のフレーバーには我々が通常善いと考えるものが並ぶ傾向にあるし、黒は確かに我々が悪ーーーーいと考えるようなイメージと振舞いでいっぱいのように見える。だが善と悪はどの色にも、単独で所属してはいない。
しかしながら、明言はしないが、傾向は存在しない。特に情報源となる素材にそれらの傾向が存在している時には。例えばイニストラードでは5色全てに人間クリーチャーがいるが、彼らはほとんどが共同体に所属しており、文明的な精神の白に集中している。それはゴシックホラーの物語に存在する既存のパターンを模倣する傾向にある。
だが白でない色にも情け深い軍勢は存在し、白にも身の毛のよだつような悪が間違いなく存在する。そしてもっと全体的に言うと、イニストラードはあらゆる規模で多くの影を探求している。狼男によって引き裂かれる家族の悲劇的な物語。アヴァシン教会は善意から憤るが、時には力づくの権威を振るう。自ら望んで吸血鬼に身を捧げたり、デーモンと契約する人間がいる。そして痩せ衰えた人間の旅人の必要に応えて手を差し伸べる神秘的な幽霊がいる。敵のやり方を学ぶために暗黒へと自らを沈める聖職者たち、そして真に邪悪であると思われる、だが恐らくはただ狂っていて誤解されているだけの敵対者。確かにイニストラードは人間たちが標準的な「善玉」である世界であり、怪物たちは「悪玉」だろう。だが我々は何よりも、ルールの例外を愛している。
次週:ちょっとした怪談にまつわるプレビューカードを紹介。
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