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『テーロス』に占術が組み込まれるまで――その理由と過程

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『テーロス』に占術が組み込まれるまで――その理由と過程

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年9月6日


 既にマーク・ローズウォーター/Mark RosewaterのTumblr(リンク先は英語)を見てご存知かもしれませんが、『テーロス』のメカニズムの中で占術はデザインから引き継いだものではありません。今回は、私が手がけたことのひとつである占術、それが『テーロス』に加えられた経緯をお話しできるのでとてもワクワクしています。私はいろいろなチームに入る前、そして製品のリーダーになるよりずっと前のこと、駆け出しのインターンの日々をフューチャー・フューチャー・リーグ(FFL)とリミテッドのプレイテストに費やしていました。その時に『テーロス』のリード・デベロッパーのエリック・ラウアー/ Erik Lauerが私に伝えた、このセットのために解決しようとしている問題はこうでした――リミテッドのゲームを、英雄的クリーチャーを全部引いても誘発させる呪文を引かなかったり、オーラを全部引いてもクリーチャーを全然引かなかったりしてゲームが決まってしまうのではなく、プレイヤーにオーラを実際に使わせるようにせよ、と。我々は既に「授与」にクリーチャー呪文としてと、オーラ呪文としての二つのマナ・コストを持たせていました。それは問題解決の助けにはなりましたが、完全に解決するには至りませんでした。エリックは解決のために〈神々との融和/Commune with the Gods〉のようなカードをセットに入れたりしていましたが、少数のコモンでは不十分でした。

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 少し立ち返ってみましょう。デザインにおける『テーロス』の目標のひとつはプレイヤーが実際にオーラをクリーチャーに唱えるようにすることです。どう強くなったか分かりやすいので、クリーチャーをオーラと「合体」させることを伝統的に新人プレイヤーは好みますが、それを除去された場合すぐにピンチに陥ってしまいます。実際に競技の場で見られるオーラをデザインするまでにマジックは数年の時を必要とし、さらに、セットに入る全てのオーラを《怨恨》レベルにすることはできませんでした。英雄的と授与の2つはリミテッドでオーラをプレイするのに十分な価値を作り出すことに成功しましたが、それぞれ単体では問題を解決できませんでした。テストプレイヤーはそれらを使いたがった(そしてしばしば使った)のですが、それらが優勝するほどうまく機能するようになるとまた問題が発生しました。デベロップに必要なのは特定のセットでそのデザインの目標を単に達成するだけでなく、注目するものを決めてそのセットのリミテッド環境で強力に仕上げるだけで終わりにせず、プレイヤーを満足させる方法で達成することなのです。

 デベロップがセットに取り組む場合、デザインの目標とプレイテストだけでなく、現実世界でも通用する答えを探すことが必要です。『アヴァシンの帰還』から得た教訓のひとつは、メカニズムを除去の弱体化によって機能させようとすことは、そのセット単体の環境では機能するかもしれませんが、人々が他の環境でそれらのカードをプレイしようとすると役に立たないということです。デベロップは楽しいセットにする方法を探すと同時に、激しく矛盾するゲームプレイの形を、人々が実際にやりたいことと報われるものに組み込まなければなりません。そしてそれはオーラ呪文を唱えることの根本的な弱点を抑える方法を探すということを意味します。

 話を元に戻しましょう。この問題を2日ほど考え込んで、私はアイデアをひらめきました。「占術なんてどうでしょう?」と私はエリックに尋ねました。「占術ならプレイヤーがライブラリーを操作して欲しいカードを手に入れる助けになりますし、ギリシャ神話の神託と預言者のテーマにもピッタリだと思います。」エリックはしばらく考え、これに賛成してくれましたが、彼はマーク・ローズウォーターにこのアイデアを説明しなければなりませんでした。幸いなことにマークはそれが『テーロス』を『テーロス』たらしめている全体像の範囲内にあり、問題を解決する助けになると考え賛成してくれました。プレイテストの後、事態は既に改善され始めていました。

 占術1についてすぐに分かったのは、基本的に数字の多い占術よりも呪文や能力のオマケとしてはるかに楽しいということです。確かに強くはありませんが、2?3ターン後のことまで考える必要がないのですぐに解決できます。また基本的にライブラリーを掘るためだけに《断固》のような呪文を唱える場合よりも気楽に行えます。我々はその呪文を占術目当てで唱えるのではなく、占術以外の効果のためにプレイヤーが唱えるようにさせたいと考えました。占術1の場合はライブラリーの上だけを見てそのままにするかどうかを決め、ターンを続けます。このセットの中にいくつか数字の大きな占術を入れることは大事ですが、我々がそれの枚数を多くしないのは、プレイヤーが積極的にライブラリーを掘り進められると、爆弾レアによってリミテッドのゲームが決まることが非常に多くなるからです。我々は占術に、我々が感じた最も楽しい割合のカードの流れを作らせたいと考えました。

 我々がその時ブロックに入れる10枚の2色土地の計画をまだ練っていなかったことは、このセットに占術を加えることによるもうひとつの恩恵を受けました。我々は2色土地を10枚求めており、そしてショックランドと一緒にプレイされて3色デッキが当たり前にならないようにしたいと考えました。『ラヴニカへの回帰』のスタンダードで、24枚の2色土地によるマナ基盤を無理やり再現するためには12枚入れることはなんとかできるような2色土地、そうしたものを必要としましたが、何も天秤にかけることなく使えるようなものではなく、充分に考え抜いたうえで決定する必要があるような、大きな欠点を持つようにしました。我々はそれらの目標のかなり良いバランスを発見し、そしてこのセットの雰囲気をふんだんに盛り込んだデザインの2色土地のサイクルを作れたと思います。ご紹介しましょう......これが占術土地です

トップデッキの展望

 デベロップの内部では、占術土地が強すぎるのではないかと心配する声がありました。表面的な強さはショックランドほどではないかもしれませんが、これらに当てはまるとても重要なことがあります――それぞれが小型の《血清の幻視》なのです。見れば分かる通り、カードを引く代わりに土地であるという違いはありますが。これらは土地が2枚だけの初手をキープした場合に3枚目や4枚目の土地にたどり着く可能性を上げてマリガンを減らす性質を持っていますが、一方で時々マナ・カーブに沿った動きを諦める必要が出てきます。またこれらは初手に4枚土地があるミッドレンジやアグロデッキがマナ・フラッドを起こすのを巧く防いでくれます。ほとんどのデッキは1ターン目にプレイするものを入れすぎたりしないので、1ターン目に土地をタップ状態で出すデメリットは大してありません。加えてゲームの後半でこれらを引いても、基本的に他の基本土地やショックランドを引くよりは強いでしょう。


〈静寂の神殿〉 アート:Karl Kopinski

 タップ状態で戦場に出ることは土地として大きな欠点ですが、我々は鮮烈サイクル『アラーラの断片』の3色土地『ワールドウェイク』のミシュラランド秘匿サイクルが構築で使われ続けていたのを見てきました。とはいえ、何色のデッキを使うかを決めるのはショックランドとM10ランドのマナ基盤のあった時よりもはるかに難しいでしょう。あなたが3色デッキを使いたい場合、多くの状況で土地をタップインしたり、前年よりも多くのダメージをショックランドから受けることになるでしょう。我々は3色デッキが存在できないようにしたいのではなく、ただ去年と違った雰囲気のものを作り、そして代わりに2色デッキをプレイすることを決断させる多くの納得いく理由を作りたかったのです。

 その反面、大量の占術土地を運用することは、この手のデッキが必要な呪文を素早く掘り当てることを支援します。8枚以上の占術土地を入れた3色デッキは、恐らくマナ・カーブの問題にいつも直面するでしょうが、そのマナ基盤のおかげで余分にカードを見ることができるので、おそらくより多くの《至高の評決》を手に入れることが出来るでしょう。同時に、アグロ・デッキでの占術土地の運用(色の少ないものでさえ)はしばしばマナ・カーブに沿ったクリーチャーの展開を失敗することがあるでしょうが、占術土地を使わないアグロ・デッキよりも呪文と土地の全体的なバランスが良くなるでしょう。占術土地は強力ですが弱点もあり、私は今後のデッキ構築の決断にこれらがどのように影響を与えるかを楽しみにしています。

 ではまた来週お会いしましょう。

 サムより

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