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カードパワーを定義する

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カードパワーを定義する

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年8月2日


 我々が内部でも外部でもカードを議論するのに使い、そしてプレイヤー視点に基づいて好んで使う言葉の1つに「強力な」という言葉があります。これは時が経つにつれてそれの持つ意味の多くを失っていった言葉の1つです。と言うか、何と比べて強力なのでしょうか? 片っ端から比べていっても《Black Lotus》より強力なカードなんてほとんどないでしょうが、クリーチャーを《灰色オーガ》はもちろん《灰色熊》と比べてさえ、ええ、それよりずっと強力そうなものは多くあるでしょう。どのカードを普通だとして扱うこともできますが、その普通にはあまり意味がありません。例えばそのカードが使われていて何かと関係している環境のような、ある程度与えられた状況を特定しない限り、その言葉が会話の中で全く役に立たないと感じる時があります。カードパワーはリミテッドと構築で同じではないので、我々が強力なカードについて話すとき、同じ土俵にいることは(少なくとも我々にとっては)重要なことです。

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 ここ数年に渡ってこのコラムが犯してきた罪の1つは、カードを議論するときに我々がどの種類のカードパワーについて話しているかを明らかにしていないことがあり、そしてそれがいくつかの混乱を長い間招いていたことです。例えばリミテッドのために我々が設定した基本的なルールの1つに、コモンは《闇への追放》と同じぐらいの強力さにはせず、そしてアンコモンは《マハモティ・ジン》と同じぐらいの強力さにはしない、というものがあります。構築では《闇への追放》や《マハモティ・ジン》のパワーレベルはとても低く、これは時々、我々がもはやコモンやアンコモンで強力なカードを印刷しないという意味に誤解されますが、それは我々が構築でどれぐらい強力かではなく、リミテッドの環境においてどれだけ強力かについてのみ話しているからです。例えば《秘密を掘り下げる者》や《炎樹族の使者》のような、去年のフォーマットを定義づけたカードは構築では《闇への追放》や《マハモティ・ジン》よりもはるかに強いのですが、リミテッド環境ならば私は《炎樹族の使者》や《秘密を掘り下げる者》を《ケンタウルスの狩猟者》のようなカードよりも優先して選ぼうとはしないでしょう。そして確実に《轟くベイロス》以下です。今回のコラムではこれを少し砕いて、そして何がカードを「強力な」ものにしているか、そしてどのようにフォーマットごとにそれが変わるかを少しお話ししようと思います。

我々が言うところのリミテッドでの「強力な」もの

 リミテッドでのカードパワーは一般的にカードの能力がそれだけでゲームに勝てるか、もしくは少なくとも場を逆転できるかによって定義されています。《増え続ける荒廃》はそれだけではゲームに勝てないかもしれませんが、3体のクリーチャーを殺すことは素晴らしい反撃の起点です。リミテッドのゲームでは、シナジーがかなり弱くなる傾向にあるので、本当に推されている事柄の限度を越えて相互作用に頼ることは困難です。またゲームがとても長くなり、デッキの構造をコントロールする方法が少ないので、マナ・コストの単純な問題は少なくなります。マナ効率の良いカードは確かに強力ですが、ゲームが長引いた場合により強力なカードに簡単に負けてしまいます。《最上位のティラナックス》のようなカードは構築級のカードからは程遠いものですが、8ターン目に出てくる《火打ち蹄の猪》よりもはるかに相手を威圧します。

 リミテッドのパワーカードは大きな数字を叩き出すカードか、少ないターンの攻撃で勝つことができ、なおかつ阻止しにくいカードのどちらかに偏りがちです。これがリミテッドで《マハモティ・ジン》が最高レベルに格付けされている理由です。これらは必要なら防御に回れるだけでなく、それ自身でゲームを決めることができます。また、それらに対処できる除去呪文がそこで開封されたパックからのものに限られるため、除去がかなり困難です。構築では《破滅の刃》を満載する選択肢を取れても、リミテッドではそれは不可能でしょう。

 クリーチャーの話に戻りますと、『オデッセイ』の初期にその転換の始まりを見ることができるでしょう。コモンの除去は突如として《苦悩》、《病的な飢え》、《容認される損失》のようなものになり始めました。これは《マグマの噴出》、《終止》、《苦悶の死》のようなインベイジョン・ブロックのコモン除去とは大きな隔たりがあります。これは《セファリッドの皇帝アボシャン》や《ピット・ファイター、カマール》のようなカードが、例えば《煽動するものリース》などよりもゲームを決める可能性が高いことを意味しています。また低マナ域では《野生の雑種犬》のようなカードを見かけたことを意味していて、これは現在のスタンダードから見ればとても強いというわけではありませんが、当時は全くもって強力なカードでした。

 この分野では全体的にリミテッドで「弱い」除去を持つことが困難です。初期のマジックではコモンの除去がとても強力で、クリーチャーはとても貧弱でした。これはゲーム展開をとても遅くする傾向にあり、そしてしばしばプレイヤーが対戦相手のコントロールする優秀なクリーチャーを単純に全て除去して残った《灰色オーガ》が戦ってゲームを決める結果に導きました。マジックのリミテッドの楽しさの一面とは、ドラゴンのような大きく派手なクリーチャーをパックから出して使うことで、そしてそれは効果的な除去によってすぐに退場するべきではありません。

 これは何でも殺せるコモンの除去を必要としていないという意味ではなく、ただもう少し重く使いづらくする必要があるだけです。個人的な意見を言いますと、私は5?6マナの確定除去の大ファンです。《焦熱の落下》や《暗殺者の一撃》、《天使の布告》のようなカードを思い浮かべてください。これはあなたに対戦相手がプレイするであろうクリーチャーほとんど全てに対する回答を与えてくれますが、そのコストは除去過多にならないように、あなたのデッキにこれを余分に入れられないようにしていることを意味しています。これはそのカードがパックの中でもう少し動き回るということで(そしてその点では除去を自分のパックから出さなくても不利にならないようにもなっています。何か除去が回ってくるのですから)、あらゆる除去を取ることを強制されることなく、それら以上のカードを取ることができます。

 『アヴァシンの帰還』の作り出した過ちの1つは、コモンに有能ではあるが強力ではない除去を作ったことでした。環境が求めていた要素は使いづらいが何でも殺せる除去で、《死の風》や《骨の粉砕》はそのような除去でしたが、1色にしか存在していなかったのです。他の色のその範囲ははるか彼方へ忘れ去られてしまったのです。我々はこれから多くの教訓を得ました。

 我々がマジックで成し遂げようとしている最終的な目標は楽しい経験を作り出すことで、そしてその方法の1つがマジックのリミテッドの個々のゲームにより多様性を持たせようとすることです。つまり、それだけでゲームに勝てるドラゴン級6マナ飛行クリーチャーの数を最小限にして低いレアリティにはせず、全てのリミテッドのゲームがそうしたクリーチャー自体によって定義されてしまわないようにします。

我々が言うところの構築での「強力な」もの

 構築でのカードパワーのほとんどはシナジーと効率の良さに基づいており、あなたはデッキの中身の多くをコントロールしているので、リミテッドでの働きとはほとんど正反対です。構築で起こって欲しい事柄は可能な限り多くのカードをプレイすることで、計算が合ったとき、驚くべき事柄を行えるデッキをもたらします――4ターン目にゲームに勝ったり、ゲームを行き詰らせてアドバンテージの不足を補ったり、もしくは邪魔がなければ速やかに勝利できるような種類のコンボをプレイしたりします。

 構築フォーマットでは、メタゲームの状況こそが王様です。したがって我々が構築のカードパワーについて話しているほとんどの時間においては、我々が最もコントロール下に置いており、そして最も時間を費やしているフォーマットであるスタンダードの状況について話しています。なぜなら、スタンダードは最も行われているトーナメントだからです。さらに、我々が構築で強力な(もしくは往々にして強力すぎる)カードについて話しているとき、我々は一般的に、既存の戦略を支援するためのそれが使えるものについてか、既存の他のカードによってそれ自身の戦略を支援できるものについて話しています。つまり、そのカードはそれ自体がやりすぎになるかも知れず、そして他のカードの助けがほとんど無くてもメタゲームを歪めるかもしれませんが(《ネクロポーテンス》や《頭蓋骨絞め》、《梅澤の十手》などが過去の例として思い浮かびます)、そのようなカードは通常はデベロップのとても早い時期か、場合によってはデザインの間に叩き潰されます。それを乗り越えたほとんどのカードには「これを印刷したときどんな動きをするのか?」だけでなく、「この環境にこれと強すぎる相互作用を起こすカードが他に何かあるだろうか?」という疑問が起こります。

 《瞬唱の魔道士》は我々がここ数年で印刷した中で最も強力なカードの1枚ですが、これと一緒に使って最も効果的なのは1?2マナの呪文で、そのような呪文は今となってはスタンダードに多くないので(少なくとも《思案》、《マナ漏出》、《はらわた撃ち》、《四肢切断》とは比べ物にならないでしょう)劇的な量を現在のスタンダードでプレイされているのを見ることはありません。これら2つの事柄は多少関係があるかもしれません。似たような話をすると、《死儀礼のシャーマン》はスタンダードでは少ししかプレイされていませんが、これが真価を発揮するのはローテーションのないフォーマットで、フェッチランドとの相互作用によって最高の1マナクリーチャーの一角となりました。

 構築のデッキはそのように支配されているので、小さなことでも問題になります。以前の記事でお話したように、スタンダードの多くのカードがもう1マナ重かったとしたらメインデッキでプレイされるとは思わず、そして実際にされないかもしれません。これは効率がいかに大事か、そしてどれだけ多くのカードが効率を重視して選ばれているかを表しています。適正な量の2マナクリーチャーは、全ての強力な3マナクリーチャーよりも重要です。

 リミテッドにおいて人間を多く持っていればいるほど強くなるカードがありますが、《シヴ山のドラゴン》のようなカードに打ち勝つのに十分な数の人間を持つ機会は稀でしょう。しかしこれは構築では現実に起こり得ます。デッキ構築での技術と楽しさの多くは、カードが可能な限り上手く協力できる方法を探すことと、他のカードと協力して予想外の勝利をもたらせるカードを探すことです。除去はとても強力なので、単にサイズが大きくて回避能力があるだけでは構築級カードの候補リストに載るには不十分で、あなたのデッキの戦略全体を押す何かが必要です。

 スタンダードで適正なパワーレベルのカードを作るための我々の目標は、単一のデッキでは全てをプレイできないように、カードの動ける十分な余地を作ることです。現在のスタンダードで例を挙げると、《スフィンクスの啓示》、《スラーグ牙》、《雷口のヘルカイト》、《変わり谷》、《ドムリ・ラーデ》、《炎樹族の使者》のすべてをプレイするデッキは困難でしょう。我々がどのようにしてそれを行うかの詳細は他の記事のテーマになります。我々はまた、全ての戦略に引き立て役があるようにし、たとえ我々がいくつかの基準を誤ったとしても、メタゲーム内の他のデッキが、最大勢力のデッキの弱点を突けるようにしています。

変化するカードパワー

 スタンダードのローテーションはこのフォーマットの成功の鍵の1つです。我々はかなり注意深くカードのパワーレベルをコントロールしており、そして単純に印刷されたカードが作り出すデッキをどんどん強くしていくことなく、セットが継続的にプレイヤーに新しい事柄を提供できるということです。もちろんいくつかのカードが我々の予想よりも強くなったり、我々の意図よりも多くのシナジーがあるデッキができたりしますが、ローテーションはスタンダードに影響を与える時間を制限する助けになります。我々は去年印刷したカードがレガシーに大きな影響を与えたことにとても満足していますが、レガシーのカードプールの大きさで有効になるように意図してカードを印刷することは難しいことです。

 もちろんリミテッドは絶えず変化し、個々のカードの多くの相対的なカードパワーはあるリミテッド環境から他の環境に移ることで劇的に変化するでしょう。クリーチャーの大きさはどの除去呪文が最も優れているかは、そして除去の大部分を回避するのにどれだけの大きさが必要かを定義する助けになるので、そのフォーマットの中で最も重要なことです。例えば《ショック》は『基本セット2014』よりもタフネス2のクリーチャーが多いオンスロート・ブロックではより強力です。

 マジックのカードを作ることは、しばしば毎年新しいものを作り出すこと、そして同時に去年の物事を何か変更することに関係しています。ご存知かもしれませんが、『テーロス』はエンチャントをテーマにしたブロックであり、したがってエンチャントとエンチャント除去の相対的なカードパワーは高くなります。上のほうで書いたようにメタゲームの状況は王様であり、そしてスタンダードでの(もしくは他のフォーマットでの)相対的なカードパワーを調節する最良の方法は、その環境の状況の基本を変えることです。来年の構築とリミテッドの両方を気にする人がいるように、ラヴニカへの回帰・ブロックのカードとスタンダードの相互作用は『イニストラード』・『ラヴニカへの回帰』環境と『ラヴニカへの回帰』・『テーロス』環境では異なります。いくつかのカードは他のカードと比べてより強力になるでしょうし、またいくつかは弱くなるでしょう。あなたが《ワームの到来》を唱えて《隔離する成長》でトークンを居住するデッキを見かけるのもありえない話ではなく、私が思いもよらないプレイが最新スタンダード環境下で起こる可能性も大いにありえます。

 今回、我々がカードパワーについて話すときにデベロップが言いたいことに対するより良い定義づけをしたので、それが来週の記事で扱うカードパワーの水準についての議論と、マジックにおいて我々が何と戦っているかについての助けになって欲しいと思っています。

 ではまた来週お会いしましょう。

サムより

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