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『統率者レジェンズ』の伝説たち その2

Ari Zirulnik, Ethan Fleischer
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2020年11月6日

 

 1週間をかけて、古今東西の様々なキャラクターを描いた『統率者レジェンズ』のカードを公開しました。皆さんが知っているキャラクターも、新しいキャラクターもいることでしょう。ですがそれぞれに語るべき物語があるのです。

 以下に、公開済みの『統率者レジェンズ』の新規伝説カードの短いプロフィールを掲載します。名だたる顔ぶれをご覧ください。また先週の「その1」はこちらです。


ラノワールの異形

 ラノワールの森の中心深くには、屍術魔法によじれた暗い沼地が広がっています。長い間よどみ続けながら、それは邪悪なエネルギーのブラックホールのように内へと成長していきました。やがてそれはラノワールの斥候たちに発見されました。好奇心にかられた新兵が黒いもつれに触れた時、それは内破してエルフたちを吸い込み、融合させ、彼らを不死の怪物へと変えてしまいました。第二の斥候たちが彼らの捜索に向かい、それを発見しましたが、目前に至るまでその正体を理解できませんでした。その怪物は外見に見合わぬ速度でエルフたちへと迫り、彼らを引き寄せ、生きたまま彼らの身体を取り込んでしまいました。

 ひとりのエルフが逃げ延び、森のその区域は出入りを禁じられました。長いことその生物は目撃されていませんが、エルフの夜営においてラノワールの異形は有名な物語として残っています。

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円渦海峡の暴君、アシー

 海に覆われたとある遠方の次元では、巨大な海棲生物が海を支配しています。その中でも気性の荒さと気まぐれさで際立っているのが古の海蛇アシーであり、円渦海峡および隣接する陸地の全域を縄張りとして主張しています。移り気で予測できないアシーは、水棲であろうと陸棲であろうと侵入者に決して我慢なりません。アシーを宥める唯一の方法は供物と賛辞を捧げることですが、それも確実な解決策ではありません。アシーは気分次第ではその供物を受け取ってから襲いかかると知られているのです。

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イクシドールの理想、アクローマ

 幻影術師イクシドールには最愛の恋人ニヴィアがいました。ですが彼女はピット・ファイトにて触れられざる者フェイジに殺害されてしまいます。イクシドールの悲嘆はその力を途方もなく増大させました。彼は夢を現実へと変え、生きた生物すら作り出せるようになりました。イクシドールの最高の創造物がアクローマです。ニヴィアの姿を元に、フェイジに殺された彼女の復讐のために作り出した戦天使です。

 後にイクシドールは途方もなく巨大な死のワームに飲み込まれてしまいますが、アクローマは躊躇しませんでした。その怪物の食道へと飛び込み、胃液の中を進んで創造主を目指しました。ですがイクシドールは彼女に立ち去れと命令し、アクローマの追随者たちは傷ついた彼女の両脚に金属の槍先を取りつけました。最終的に、アクローマとフェイジ(と驢馬使いザゴルカ)はカマールの斧の一撃によって同時に死亡し、三人は合体して邪神カローナの姿となったのです。

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真面目な祭儀師、アルハール

 死者は叫び、アルハールが耳を傾けます。若い頃から、アルハールは死者の声を聞くことができました。子供のころは怖いものでした。アルハールは家に閉じこもり、霊たちの死後の嘆願を無視しようと努めました。ですが時を経てアルハールは悟ります、霊たちはただそこにいて危害を加える気はなく、安らぎを求めているだけなのと。

 それを自らの使命とみなし、アルハールは古の鎮魂術を熱心に研究しました。あらゆる儀式を入念に学び、死者と深く同調するために霊のルーンを肌に刻み、座して死者の嘆願に耳を傾けました。長く数えきれない年月を経て、アルハールは熟練の祭儀師となりました。そして今では死者の霊を探し求め、彼らに安らぎを与えています。

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尊狼の使い魔、アナーラ

 狩人が最も嫌がるのは、相棒に出し抜かれることです。それでも、アナーラと組んだならその通りになるでしょう。もしあなたがプライドを捨ててアナーラの助力を受け入れられるなら、惜しみないほどの獲物と敵の死体が目の前で見つかることでしょう。アナーラが見返りとして望むのは、巣に持って帰る取り分、戦いの時に背中を守ってくれる者、そして時々角の周りを掻いてくれることだけです。

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死の波のアラウミ

 マーフォークの小国の王族として、アラウミは常に更なるものを夢見ていました。ある時彼女は故郷を捨て、通行する船を呼び止めました。ひとたび乗り込むと、彼女は人間の乗組員たちに温かく迎え入れられました。彼らはアラウミへと外の世界の途方もない話を聞かせ、彼女は礼として自らの王国の輝きを語りました。

 悲惨なことに、実はその船に乗っていたのは海賊たちだったのです。素晴らしい宝物の話を聞いた彼らはただちにアラウミを昏倒させ、マーフォークの王国へと舵を取りました。アラウミが気付いた時、故郷は海賊に略奪され尽くして廃墟と化していました。その時、彼女の豊かな魔力が目覚め、海賊たちを破滅へと引きずり込み、アンデッドの下僕として蘇らせました。今アラウミは波の下で待ちながら、通過するあらゆる海賊船に同じ運命をもたらしています。

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ラグーンの神秘家、アーチェロス

 亀人間のシャーマン、アーチェロスは非常に長い年月を生きています。実際、あまりに長すぎるため、自らの年齢もとうの昔に忘れてしまいました。彼はほとんどの時間を殻にこもって瞑想して過ごし、少なからぬ魔力を家と呼ぶ沼地の隅々にまで広げ、自然のあらゆる側面を感じ取り、理解しています。

 彼の魔法力はとてつもなく、相手は気付かぬうちにアーチェロスのペースに引き寄せられてしまいます。はい・いいえで答えられる単純な質問をしても、気づかぬうちに一時間が過ぎていることでしょう――そしてまだ返答を受け取っていないのです。唯一、とある厄介な兎人だけがこの魔法に抵抗できます。アーチェロスはその兎人の邪魔を腹立たしく思っていますが、自分はその兎が生まれた時にはすでに年経た存在であり、そしてその兎が大地に還ってもまだ年経た存在のままでいると判っているのです。

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剛胆な考古学者、アーデン

 ゼンディカーのスカイクレイブが再び上昇した際、多くはすでに破壊されていました。遺跡全体が空へ昇るも、砕けた塊は必ずしもそのままついて行きませんでした。それらは平均的な冒険家には到達不能の、自由に浮遊する構造物となりました。ゼンディカーには有能な綱投げが多くいますが、そのような不安定な遺跡に命をかけて挑む者はわずかです――「行ける」スカイクレイブが宝物で満ちているうちは。

 ですが危険な未踏の廃墟こそアーデンが求めるものに他なりません。古代のコーのアーティファクトを専門とする考古学者である彼にとって、スカイクレイブは夢の実現でした。彼は踏み敷かれた道を行くことに興味はなく、自由に浮遊する破片へと綱投げの技術を用いて挑んでいます。今のところ、彼の探検は成功しています。アーデンはゼンディカーの歴史の忘れられた秘密や謎めいたアーティファクトを発見しており、それをまだ理解し始めたばかりです。

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金線の打破者、アーミクス

 「衝合」がアラーラの各断片を単一の次元へと融合させて以来、エスパーの新たな隣人たちは決して友好的ではありません。新たなエーテリウムを創造する材料なく数世紀を過ごしながら、エスパーの人々は「気高き行い」を続けるためにエーテリウムを作る手段を必死に探し求めていました。その人々の中に、ブレイヤという人間の研究者がいました。彼女はジャンドへの探索行を率いて、カルモットと呼ばれる赤色の石を持ち帰りました。エスパーでは失われていた、エーテリウムの主要な材料です。自らの仮説を試すべく、彼女はアーミクスを作り上げました。全身が新たなエーテリウムでできている、実験体のゴーレムです。

 大体において、アーミクスは大いに成功しました。ですが時間が経つと、アーミクスは暴力的かつ気まぐれな動きを見せるようになりました。エスパーのエーテリウムが年月とともに精錬され減少していった一方、新たなエーテリウムには以前のエスパーに見られなかった荒々しい力が含まれていたのです。アーミクスは今のところ忠実であり命令に従っていますが、それを荒々しく無謀な手法で遂行しています。ですがブレイヤは結果に満足しており、今こそ自らの「気高き行い」を始める時だと考えています。

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混沌の花、アヴェルナ

 大抵のエレメンタルは単一の要素だけで構成されていますが、アヴェルナは三つの要素から力を引き出しています。次元を揺るがす魔力震の余波の中で生まれたアヴェルナは、その種でも唯一の存在です。多様な親和性から自然と強く繋がり、故郷とする次元の自然秩序のわずかな揺らぎすら感知します。アヴェルナはエレメンタル類の中でも新たな存在と言ってよく、それが後に残す遺産がどのようなものかは、時だけが教えてくれるでしょう。

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幽体の兵長、ベル・ボルカ

 ベル・ボルカはアグルス・コスの相棒になりたかったわけではありません。確かに近頃、コスはラヴニカの歴史上最大の英雄の一人として称えられています。ですが当時は落ちぶれた過去の人であり、人員不足のボロス軍が引退させていなかっただけで、新人の相棒を良く扱ってはくれませんでした。ベル・ボルカは暗殺者の爆弾で吹き飛ばされたかったわけではありません。ですが犠牲者の一人となってしまいました。相棒のアグルスにとっては大いに無念でしたが、ベル・ボルカはオルゾフ組の生命保険に加入していました。幽霊となって呼び戻され、自らの死に対しての正義を求めるためです。ここまで全て、ラヴニカでは非常によくある死の形でした。特に当時、死者の魂が生者の領域から脱出できなかった頃は。ベル・ボルカは自分自身の殺人を解決する唯一のウォジェクになりたかったわけではありません。ですがそうなりました。彼の勤務成績にはそう記されています。

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憤怒船長バーガス

 憤怒船長バーガスは、鉄面連合でも最高に鉄面皮な人物かもしれません。自らの船を持つ独立独歩の海賊として、かつてバーガスは火を吐く稜堡を大胆にも襲いました。武装を固めた海賊の要塞です。彼の攻撃はリプリー・ヴァンス船長によって素早く蹴散らされ、バーガスは処刑のために彼の目前へと引き出されました。誰もが驚いたことに、ヴァンスはバーガスに新たな船と、連合での地位を提供すると言ったのです。

 稜堡を襲うほどの肝っ玉のある海賊は良い仲間になる、そうヴァンスは信じていたのです。今やバーガスはヴァンスが最も信頼する船長の一人として仕え、逆らう者たちを熱心に叩き潰しては沈めています。

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船壊し、ダーゴ

 ダーゴがとある悪名高い海賊に加わりたいと言った時、船長は即座に拒否しました。「お前はでかすぎる、船に入らねえ」と。ですがダーゴには夢があり、諦められませんでした。彼は船首像を引きはがし、その頭部を叩き切ることで熱意を示しました。巨人に踏み潰されたくはない船長は、ダーゴを乗船させました。

 船長が予想した通り、航海は散々なものになりました。船は嵐に見舞われ、ダーゴの重さに歪んだ甲板はすぐに限界に達し、船は真二つに割れてしまったのです。ダーゴは何とか近くの島に辿り着いて他の生存者を待ちましたが、誰も来ませんでした。今日に至っても、彼は救出を待ち続けています(とはいえ数隻の通過した船がすでに救出を試みたのですが、その過程で沈んでしまいました)。

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守り翼の使い魔、エシオル

 エシオルは理想の使い魔です。何処かへ行きたい? エシオルが空を飛んで連れていってくれます。呪文を唱えたい? エシオルが魔力を増幅する力になってくれます。誰かに秘密を打ち明けたい? エシオルはとても聞き上手です。実際、エシオルが隣にいたなら、どんな魔術師でも高揚しながら戦いに向かうでしょう。ですが、もしエシオルの力を借りたいと願うなら、理解しておかなければいけません。エシオルにとっては、あなたの方が使い魔なのです。

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影猫の使い魔、ファルティス

 あらゆる黒猫を凶兆の徴候と呼ぶのは大げさすぎる誇張です。そうは言っても、もし使い魔としてファルティスを召喚したなら、背中に気を付けた方がいいでしょう。この子に何も特典がないという意味ではありません。ファルティスが側にいれば、闇の魔術は何倍も増幅され、弱い敵は生きていられないでしょう。ですが腐敗の力とファルティスとの繋がりはとても大きく、この子の現在の主人の肉体にまで明白に表れる傾向があるのです。ですが少々の不気味な変異を平気でいられるなら、とても可愛らしい子猫を相棒にできるでしょう。

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秘儀の織り手、ゲン

 呪文というのはトリッキーなものです。それぞれが目に見えないマナから織り上げ、組み合わせられたパズルであり、誰の目にも見えません……ゲンを除いては。ゲンは魔法を作り上げるマナの糸が見えるだけでなく、さらに重要なことに、それを裂いて自身の創造物として織り直すことができるのです。彼の力は有名ですが、謙虚さはその中にありません。彼は他者の呪文を空中で奪い取り、その目の前で編み直すことで知られています。友人を作るためにその振る舞いは必要ではないかもしれませんが、最終的な結果がもっと優れていることは疑いありません。

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ワイアウッドの呼び手、ギランラ

 ギランラはオタリア大陸、ワイアウッドの森に生まれたエルフです。ファイレクシアの侵略がドミナリアの大半を荒廃させた際、多くのエルフが家族と故郷を失いました。次元じゅうに散らばる同胞に降りかかった災難を知り、ギランラは旅に出ました。彼は世界を巡り、ワイアウッドには多くの新たな住民が住む余裕があるという話を広めました。移民たちが到着すると、ギランラは一人一人のエルフを森へと招き入れることを自らの使命としました。ギランラが迎えてくれたことで、ワイアウッドの森は本当に故郷のように感じられた――多くのエルフがそう言っています。

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パワーストーンの技師、グレイシャン

 古代スラン帝国の時代、グレイシャンは莫大な量のエネルギーを保持するクリスタルであるパワーストーンの製造法を発見した天才として称えられていました。スラン人はパワーストーンを用いてその工匠技術の帝国を動かしていました。皮肉にも、彼は自らの創造物によって殺されてしまいます――悪しき医師ヨーグモスが二つに割れたパワーストーンをグレイシャンの体内に埋め込み、生命力を吸収し続けたのです。グレイシャンの妻レベックはこの二つの石を用いてファイレクシアへの門を閉じましたが、それらは数千年後にウルザとミシュラの兄弟によって発見され、二人はそれらを「マイトストーン」「ウィークストーン」と呼びました。グレイシャンの発明はウルザとミシュラのアーティファクトの基礎となり、二人はそれらを用いて兄弟戦争を戦いました。ファイレクシアのすべての技術もまた、グレイシャンの実験からもたらされたものです。

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岩山の声、ノストロ

 もしもテーロスの山岳地帯を彷徨っている時に、声の不協和音を聞いたなら、できるだけ急いで逃げることをおすすめします。その声はきっと、カタクトン山脈の全域を縄張りと考えている三つ頭のキマイラ、ノストロのものです。それぞれの頭が異なった獣の姿をしており、それぞれ異なる能力を持っています。

 フクロウの頭は長く反響して骨に凍みる鳴き声を発し、獲物のこの後の動きをノストロに垣間見せます。狼の頭の遠吠えとうなり声は炎をもたらし、それは最も頑丈なアクロスの鋼をも融かします。馬の頭のいななきと鼻息はあらゆる傷をも癒す力を持つと言われていますが、それを試そうと近づいた者は皆、もう二つの頭によってばらばらに引き裂かれてしまいます。

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アラシンの守護者、ハムザ

 タルキールの「再編」されていない時間軸において、アブザン家は城塞都市アラシンを本拠地としていました。この街はマー=エク砦によって守られており、そこにはアブザンのカンの宮廷が座していました。マー=エク砦は難攻不落と考えられていましたが、絶対的なものなど何もないとアブザンは心していました。もしも敵がマー=エク砦を奪ってしまったら、彼らがアラシンを手に入れるまで立ち塞がるものはありません。ハムザ以外は。

 ハムザはアブザンの有力な一家に育てられた孤児、クルーマです。彼はロクソドンの標準から考えても非常に頑丈です。彼は自らを受け入れてくれた氏族にその強さをもって報いたいと思い、成人すると街の防衛に加わりました。ハムザはただちに階級を駆け上がり、アラシンの歴史でも最も多くの勲章を授かった守衛隊長となりました。彼は防衛隊を指揮するようになり、個人としてはアラシンを安全に守り続けました――タルキールの歴史が書き換えられるまで。

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ハンス・エリクソン

 人生の楽しみというのはあらゆるところに見つかるのです、それを見つけようと意識しているだけで。大氷河期に支配されたバルデュヴィアにおいても、味わうべき美はあるのです。澄み切った青空、新雪を踏みしめる足取り、野の花の香り。感覚を完璧に同調し続けることで、最も小さな物事からも大いなる喜びを手に入れられるのです。そう、愛する姉サッフィーとの大切な散歩の時間は、この若者の心をひどくかき乱す些細な変化を完璧に爽快なものにしてくれるのです。

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回収の接合者、イチ=テキク

 イチ=テキクの名は大まかに翻訳すると「狩り入れて与える」を意味し、ヴォリンクレックス個人の接合者としての彼の誇りとなっています。ヴォリンクレックスはイチ=テキクが作り出す心のないゴーレムに大いに興味を抱いており、それらは究極の捕食者となれる可能性を持っていると、もしくは少なくとも彼自身の実験体にとって良い試験相手になると信じています。

 イチ=テキクはヴォリンクレックスの領域において、生体に付属したままのものを含めたあらゆる材料を自由に収穫する権限を与えられています。彼は自由にパーツを収穫し、それらをゴーレムや自身へと移植しています。

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報奨の祝賀者、イモーティ

 イモーティが属するナーガの氏族は、彼らに水をもたらしてくれる一本の川に頼って生きています。不幸にも、遠方にて無関係の集団の間に勃発した戦いから、その川は闇の魔術によって汚染されてしまいました。イモーティは氏族でもただひとり自然の神の祝福を所持しているため、その祝福を川へと与え、飲用に適した水へと変えられるのです。

 そのために彼女は一日のうち数時間を、川へと流れ込む滝壺の中で浄化呪文を唱えて過ごしています。氏族はイモーティを長にと勧めましたが、彼女は断りました。支配にはもっと適した他の者がいると知ってのことです。彼女は川を守ることにその生涯を捧げるつもりであり、善き目的のために川を浄化する呪文を編み出そうとしています。

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真の後継者、ジャレッド・カルサリオン

 カルサリオン家はドミナリアでも最古の家系の一つであり、その祖は伝説の時代にまで辿ることができます。祖先となった孤児はあの黒き剣のダッコンから「獅子のカルス」という名を賜りました。ジャレッド・カルサリオンは大ドルイドの証である三日月の痣を持って生まれ、大いなる魔法の力を獲得する運命にあるとされました。しかしながら、その運命はジャレッド自身の大いなる努力なしには叶わなかったでしょう。先祖代々の地コロンドールは悪しきプレインズウォーカーのラヴィデルによって簒奪されており、さらにラヴィデルは大量破壊をもたらす魔法の武器を用いて民を人質にとっていました。ジャレッドは物乞いと盗賊に身をやつして生き延びました。やがてジャレッドは父が遺した仇斬の剣と自らの内に眠るプレインズウォーカーの灯の力を振るい、コロンドール中から仲間を集めて始祖の地を取り戻しました。ジャレッドとラヴィデルの反目は後に、プレインズウォーカー戦争として知られる破壊的な出来事にて頂点を迎えます。

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一座の支配人、ジョーリ

 この数年で、ジョーリ一座は無名の新人集団から、ラヴニカの文化的中心において最も影響を持つもののひとつへと成長しました。この一座の興行は人間、小悪魔、オーガの演者が中心となっており、本物の炎、スパイク、刃、血が用いられています。興行の題目は通常、権力者の風刺に関係したものであり、時には文字通り刺します。アゾリウス評議会、ギルドパクトの体現者、そして王神ニコル・ボーラスが一座の風刺的演目に頻出する対象です。各演目は少なくとも一人の観客が殺害されて終わり、それによって生存者たちは興奮と恐怖の渦へと放り込まれるのです。

 ジョーリその人が、式典のカリスマ的支配人です。トレードマークである刃の冠をかぶり、炎の鞭を振るいながら話します。彼は殺人パフォーマーたちへと熱狂的なアクションを指揮し、特別な日に何を上演するかを決定します。悪魔ラクドスすらジョーリに一目置いており、幾度かその興行を観たほどです。それによって一座の名声は瞬く間に高まりましたが、ラクドスは長いこと舞台後方に下がっているのをよしとしないのは誰もが知っています。いつの日かジョーリも、自らの演目の千秋楽を迎えることになるかもしれません。

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空の管理者、カンジー

 ドミナリア次元、ファイレクシアの侵略時のことです。エイヴンの魔術師カンジーはオタリア大陸北部オーダーの有力な指導者であり、命令に従う多くの兵士と、教えを学ぶ多くの弟子を抱えていました。カンジーの棲処はスコルテン山脈に置かれ、そこで彼は多くの鷹を飼っていました。鷹たちは彼の目となり、周囲数百マイルの出来事を知らせていました。ファイレクシアはオタリアを重点的に襲いませんでしたが(ファイレクシア人はその大陸を戦略的に重要とはみなさなかったのです)、カンジーと信奉者たちはドミナリア全土へのとてつもなく大きな脅威と戦う義務があると感じました。カンジーは軍勢と鷹の群れを率いていくつかの大戦場へ赴き、ファイレクシアの運搬船が怪物のような兵を吐き出す前にそれらを落としました。

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巡歴の干渉者、クウェイン

 兎人のクウェインには様々な才能があります。動きは俊敏、思考は素早く、口もよく回ります。彼の目に、世界は緩慢に動いて見えます。彼は、自分以外の人々は心を決めるまでに時間をかけすぎていると信じています。ただ今やればいいだけなのに。

 そのために、亀人間のアーチェロスほど彼を苛立たせる者はいません。クウェインにとって、アーチェロスは彼が苛立つすべての体現です。それでも彼は気付くとその亀に引き寄せられ、文字通りに周りを駆けまわっては何らかの反応を引き出そうと頑張っているのです。

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寛大な夜明け、ラシエル

 森のあらゆる伝説の中でも、ユニコーンのラシエルほどにとらえどころのないものはありません。物語いわく、もし適切な日に森の中にいれば、夜明けの間のごくわずかな時間に、この堂々たる獣を垣間見る機会を得るでしょう。実際にラシエルに遭遇できる幸運な者たちは力を得たと感じます――俗世的な心配は暖かな静穏の波に洗い流されてしまいます。

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林間の茨、ミアーラ

 ミアーラはローウィン次元、気品ある者の階級に属する将帥であり群れ使いです。彼女はひとつの猟団を率いており、完全者の階級のエルフと話すことを許されているという特権を尊重してきました。極めて危険な狩人として、また才能ある戦術家として彼女はエルフの指導者たちの目にとまりましたが、気品ある者の地位に昇ったのはその冷酷さと目腐りの徹底的な殺戮によるものです。この次元でも最も静かな狩人であるミアーラ、その獲物は迫りくる彼女の姿も音も察知することはできません。

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ダスキネルの工作員、ネイディア

 歴史的に言えば、エルフの国ダスキネルと近隣のウッド・エルフたちの関係は危ういものでした。ですが時代は変わり、エルフ同士の結束は些細な部族間の対立よりも遥かに重要であると近年の指導者は結論づけました。標準的なウッド・エルフにとって、ネイディアはエルフの国家間の条約に基づいてダスキネルから送り込まれた外交官に見えます。彼は親切で誠意にあふれており、速やかに街の至るところで歓迎されるようになりました。

 その条約によってネイディアが送り込まれたのは間違いないのですが、彼は外交官などではありません。ウッド・エルフたちは近隣に定住する人間たちとの間にいくつかの対立を経験してきました――探検隊が森のやや深すぎるところにまで侵入する、何世紀も立っていた木々が切り倒される、といったような。そのため、ダスキネルはネイディアを高官としてではなく、エルフの国家全体の先頭に立つ殺し屋として提供したのでした。密かにネイディアは、森から人間を追い出すためにウッド・エルフの大部隊を訓練するという任務を課されています。

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アーボーグの暴君、ネビニラル

 氷河期以前の時代、リッチのネビニラルはアーボーグの王でした。地獄のようなその都市では、強大な魔法のアーティファクトによって法が強いられていました。ネビニラルは力の渇望に突き動かされ、隣接するボガーダンへとアンデッドの軍勢を送り込みました。その火山島を統べる謎めいた存在を目障りに思ってのことです。ネビニラルの軍勢は倒され、ボガーダンは反撃に出ました。ヘルカイトが空から攻撃し、炎使いたちが都市を包囲しました。ボガーダンの炎使いたちは鋼の篭手をまとった拳で地面を叩きつけ、アーボーグ中央の火山噴火を誘発させました。ネビニラルは街が失われたと知り、ですが敵が魔法の呪文やアーティファクトを手に入れるのは許せませんでした。彼は魔力の限りを円盤型の聖句箱に注ぎ、それを爆発させて周囲十マイルの全てを蒸発させたのでした。アーボーグのリッチの君主たちは多くがネビニラルの後継者を自称していますが、その誰も、古の屍術師の力の十分の一にすら及んでいません。

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粗暴な年代学者、オベカ

 オベカはあなたを力の限りに殴り飛ばしてしまいます――来週へと。直接的な力で時間の流れを壊すオーガの魔道士、オベカは因果律のような些細な物事を気にしません。右クロスで折られたあなたの歯は乳歯になって口に叩きこまれ、アッパーカットは強烈すぎて二十年前にあなたの母親がそれを感じることでしょう。

 オベカは今ある楽しみに満ちた愉快な人生と、殴る蹴るの派手な喧嘩の他は何も求めません。善悪にさしたる興味はなく、唯一気するのは楽しいかどうかです。彼女はもっぱら今という時を生き、良くない流れになりそうであれば、存在の外へと殴り飛ばしてしまうでしょう。もし彼女の行く手を塞ぐなら、自分は生まれてこなかったならと願うべきかもしれません。

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練達の職人、レヤブ

 レヤブはカラデシュ次元出身、高い技能から珍重される鍛冶師です。彼は精密作業に必要とされる道具や装備の専門家です。彼の最高の発明だと自慢するものは、いくつもの重要な道具を繊細な自動操作とともに組み合わせた篭手です。

 自身の篭手には何か特別なものがあると知っており、彼はそれが何なのかを解明しようと奮闘しています。非常に独創的な宣伝方法として、レヤブはその篭手の設計図を一般公開しました。並外れて複雑なその設計を再現できる鍛冶師は他にいないと彼は確信しており、その通りでした。オーダーメイドの注文が殺到し、以来レヤブは仕事に困っていません。

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千の顔の逆嶋

 赤子のころに孤児となった逆嶋顕至の将来は……退屈なものに思えました。商人となり、妻を娶り、数人の子供を得て、ささやかな財産を残して死ぬ。逆嶋は人生以上のものを求めました。一人の人生以上のものを。彼は仮面、扮装、鬘の達人となりました。そして富を得るために、好奇心を満たすためにあらゆる人々に扮しては神河社会のあらゆる階層に浸透しました。彼は熟達の幻影使い鎮撰のもとで学び、自らの心を白紙の巻物に変えて、演じる役割になりきることを学びました。彼は大峨の城塞、狐の森、空民の浮遊都市にすら侵入しました。逆嶋にとってはどれも簡単極まりないことでした。残る挑戦はただひとつ、神の領域である隠り世に侵入することです。

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すべてを取り込むもの、スラーク

 本能と飢えだけに突き動かされ、スラークは生きたものが目の前にあれば何でも貪ります。この年経たウーズは無数の存在を貪り続けたため、スライムのような粘度を失い始めています。身体の上半分らしきものは、それが貪った生物の形をとるようになりました。四肢、顔、他の末端組織が固形化し、見つめれば吐き気がするような姿を成しています。

 近頃スラークは人里離れた寺院を棲処とし、その住人全員だけでなく、訪れようとした請願者全員を食らっています。信心深い者たちを沢山食らったなら、スラークはそれ自身が神聖物となるのではないかという説があります。食われる趣味などない者たちは十分な距離をとって避けています。

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恭しき霊能者、サリズ

 とある墓所の中でサリズが目覚めた時、自らが何者なのか、そしてなぜここにいるのかを全く覚えていませんでした。思い出せるのは自分の名前と、ここは安全であるということ。そして友人たちに取り囲まれていました――うねる霧のような霊たちに。それぞれの霊が物語を囁きました、彼らが生きていたころ、そのすべてを意味する瞬間を。

 自らの物語を何も持たないため、サリズはそれを聞いてほしいと願う死者の物語を広めようと決心しました。今や彼女は街から街へと旅をし、鐘を鳴らしながら、実話とはとても信じがたい物語を広めています。

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ゴブリンの武器職人、トッゴ

 ごくありふれたスカークのゴブリンが、ドミナリア史上最高の発明家になろうとは誰が予想できたでしょうか。究極の武器を作り上げるため、トッゴは長年に渡って研究してきました。槍は壊れてしまいました――どちらが先端かを判別するのが難しすぎました。試作のクロスボウを試した者たちは足の怪我に連続で見舞われました。両刃の剣に固有の設計的欠陥はよく知られています。

 一瞬の閃きに、トッゴは岩を武器として使うことを発案しました。完璧な武器です! ゴブリンの頭蓋骨より固く、振り回せて、投げることもできて、とても高いところからも落とせるのです。岩は大いに成功し、乱掘によってスカーク峠は完全に荒廃してしまいました。この素晴らしいデザインも、耐久性には欠けていたのです。

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冒涜する者、トーモッド

 暗黒時代、アルソーの街は相次ぐ墓荒しに悩まされていました。タル教会はその元凶を突き止めようと調査に乗り出しました。審問官たちは盗まれた屍の行方を追い、街の東方にある沼沢地内の地所にたどり着きました。トーモッドという名の下級貴族が所有するその地所は、アンデッドの軍勢で守られていました。審問官たちは農民の軍勢を駆り立ててその地所へ殺到し、数時間のうちにトーモッドは一本の木に吊るされました。アルソーに住む数人の遠縁がその地所を相続し、トーモッドを贅沢な墓所に埋葬しました。彼のアンデッドの下僕たちが築いていたものです。

 数か月後、不気味な墓荒らしが再発しました。教会の上層部がトーモッドの地所へ戻ると、そこは無人でした。彼らはトーモッドの棺の蓋をこじ開けるも、ただ空の墓があるだけでした。

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熊爪のトゥーヤ

 熊爪のトゥーヤ以上に、「狩猟の統率者」ことスーラクが信頼する者はいません。ただの「トゥーヤ」であったころから彼女はその狩りで全ての家族に食料をもたらし、それによってスーラクを支えてきました。ある日、アタルカの次の食料を探している時、トゥーヤと部下の戦士たちははぐれた子熊に遭遇しました。その子熊の母は飢えた一体の龍に殺されており、独力で生きていかざるを得なくなっていたのです。

 哀れみからトゥーヤは子熊の命を助け、飼い慣らしてみようと決めました。トゥーヤはその獣を相棒とすることに成功し、騎乗して戦いに赴くようになりました。熊の背に乗る彼女を止められるものはありません。「龍爪」の二つ名を抱くのは死に値する不敬であるため、トゥーヤはアタルカ氏族の全体からの尊敬と畏怖とともに「熊爪」の名を譲られました。

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鋼の魂、ワイレス

 とある謎の物体が空から自宅近くの山に墜落したことで、剣士ワイレスの人生は永遠に変わってしまいました。他の誰もが恐怖に尻込みする中、ワイレスだけがその山を登り、巨大なクレーターの中心で一本の剣を発見したのです。その剣を拾い上げると彼の両腕には燃え上がる印が現れ、それは剣の柄に刻まれた意匠と鏡映しになっていました。その時以来、剣はワイレスと結ばれ、何処からであろうと手の中に召喚することができるのです。どれほど遠く離れていようとも。

 ワイレスはずっと剣を学んでおり、新たな流儀を求め、新たな技術を身につけようとしてきました。この神秘的な武器を振るい、彼は誰も知らない剣術の秘密を発見できると信じています。学びに満ちた世界が目の前に広がっており、ワイレスは争いの中に飛び込む機会を決して逃しません。

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(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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